陰キャのヒーロー 3

 ドンケツ 槇原


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 ガチで殺し合ったら最強の人。誰も言わないだけでロケマサもチャカシンもこいつには勝てない。コイツを戦争の表舞台には出さずにあくまで裏方に置いておくというのがヤクザのケンカの美学なのでしょうが。

 外伝では人の気持ちがわからないアスペルガーの描き方が本当にうまい。渡瀬の親分に絶対の忠誠を誓うという自分のルールはけして曲げないというのもアスペ。日本一カッコイイアスペ。

 しかし半グレ集団とのタイマンをあっさり終わらせてしまったのは良かったんでしょうか。ヤクザとの差を見せつけたいってのはわかるんですが。あとは麻生、小田切のところまでどうやって辿り着くかですが、バトル的にはもうやること残ってないような。抗争自体は野江谷がおいしいところ持ってって終わりそうですし。今後が楽しみであり不安な作品。


 ナポレオン ナポレオン・ボナパルト
 

ナポレオン



 世界史の英雄を陰キャ扱いも失礼な話ですが、この人は兵学校でコルシカ訛りが原因でいじめられていたガチの陰キャ。なんなら妻に手紙を笑いものにされていた時代まで陰キャかもしれない。

 「エジプト遠征の動機はアレクサンダー大王に憧れたナポレオンの誇大妄想だった」「アクル攻防戦に拘ったのはフェリポー(学生時代のいじめっ子)をぶっ殺したかったから」という解釈が陰キャっぽくて大好き。

 ナポ以外で好きなキャラはジュノー、ビクトル、ネルソン提督。仲間割れを仲裁するシーンとルウルウちゃんとの結婚話は何度見ても笑う。「神よ。義務を果たせたことを感謝します。最高だ」トラファルガー海戦の死に様はかっこよすぎ。歴史ものにおいて作者のオリキャラというのは邪魔になることが多いのですがビクトルは好き。ナポや元帥視点に対して、一兵卒から見た大陸軍という対比が実に面白い。店燃えたり、たまにシャレにならないくらい悲惨なシーンがあるので、結婚くらいはして幸せになって欲しい。


 相棒  北一幸


北和幸


 魅力的な悪役の多い相棒ですが、今回は陰キャ特集ということでこの人物をチョイス。「ただそこにいるだけで人を不快にさせる」キモさがうまく描けていていい。「誰かのために人を殺す喜びに目覚めた」という独特の視点は、息子を過失致死で失ったお母さんが、復讐という目的のために行動を始めた瞬間、リアルの生活でも輝き出すという視点以来に興味深かった。

 現在の冠城くん編における、亀山くん時代以来のサイコ路線の復活を、私は全面的に支持したいです。神戸くん、カイトくんのときに足りなかったのはこれだった。社会派路線もいいですが、やはり閣下、朝倉禄郎、ウィンパティオのようなわかりやすい悪役との対決というのも、刑事ドラマとして必要だと思います。八嶋智人演じる和合の再登場にも期待します。

 ちなみに、相棒の陰キャといえば鑑識の米沢守を真っ先に想像する方もいると思いますが、この人はドラマ史上「冬彦さん」に肩を並べる人気陰キャでしょう。特に降板させなければいけない理由が見当たりませんし、戻ってきて欲しいものです。あと、伊丹はともかく陣川くんはいい加減彼女みつけて結婚してほしい。「できないキャラ」もいいけど、あまりに潤いがなすぎるのは痛々しい。
 

 ヴァルキリープロファイル レザード・ヴァレス

レザード


 おそらく本人は自分を陰キャとは思っていないのでしょうが、やっていることは完全に陰キャ。エルフを触媒にして作り出したラブドール(ロリ)に女神様の魂を吹き込もうとするド変態。ただ愛しい女神を呼び出したいがために、かつての恩師の夫をグール化させて恩師を殺すという悪行を働く、ぐうの音も出ない鬼畜でありながら、ある意味純粋な男。

 非常にインパクトの強い魅力的なキャラだけに、続編での扱いが残念だった。あの「本編にそこまで関わらない強キャラ」「非力な人間が魔力と知恵で神に肩を並べている」立ち位置が良かったのに、なぜ本編にガッツリ関わらせたうえにラスボスにまで昇格させてしまったのか。人気キャラを優遇しようというのはいいのですが、それは二作目でやるべきことではなかった。二作目で優遇すべき存在は別にいたと思う。

 なぜ、タイトルが「シルメリア」なのにシルメリアがほとんど出てこないのか。公式的にはアーリィが不遇という扱いのようですが、前半の大ボスとして絶好の見せ場を与えられているアーリィよりも、魅力もない女に主役を乗っ取られたシルメリアの方がどう考えても不遇です。

 あの素晴らしいムービー、音楽、部位破壊システムのセンスを、なぜシナリオに生かせなかったのか。発売から十年経っても、私の中で「残念」「反面教師」な記憶として残っています。

陰キャのヒーロー 2


闇金ウシジマくん ヤミ金くん編

三蔵


 闇金ウシジマくんのバトル回。うだつの上がらない半グレのガクト兄弟が、借金を抱えたタコ部屋労働者たちを恐怖で縛り付け、ウシジマからの現金強奪を目論むという展開。

 陰キャの定義も色々あると思いますが、タコ部屋労働者の甲本のような見るからにというタイプだけでなく、過去にトラウマを抱え(自業自得なんですが)、交友範囲は狭く、自分の境遇に不満を感じているガクト兄弟も十分、陰キャといえるのではないかと思います。

 ただ、個人的には、ガクト兄弟がウシジマの犬にすぎない柄崎にあそこまで卑屈になる理由はわからないです。ケツもちのヤクザくらいはいるんでしょうが、基本的には誰にも使われることなく、自分のシノギで食って若い女も抱いてるガクト兄弟は十分すごいと思う(というかウシジマの地元は有能だらけ。それこそボンクラは愛沢さんくらいしかいない)。

 甲本が自分の鬱屈した不満を強いガクトへの反撃や逃亡に向けるのではなく、弱いリンゴ農家の老人にぶつけるシーンはこれぞ陰キャといったところ。それでも根は悪人ではなく、竹本の思いにほだされて涙ぐむシーンもいい(無能聖人君子だから良かった竹本をなぜ元成功者の設定にしちゃったんだろう)。それ以外にも変人の榊原室長、狂気の塊のようなガクト三蔵などまさに多士済々で、非常に見ごたえがある回です。

 ちなみに、物語の主人公はウシジマですが、私はウシジマとカウカウファイナンスの面々(マサル以外)が大嫌いです。一番のクズはこいつらの癖に、度々キレイゴトを抜かしたり、スジモンにもなれないくせに妙に絆感を出しているからです。

 なので加納が殺されたときはスカッとしました。どうせならガイジ化した熊倉さんじゃなくてハブの兄貴か肉蝮に殺ってほしかったですが。

 現在最終章に入っていますが、滑川の兄貴にはぜひともカウカウの面々を無残にぶち殺してほしいです。

 軍鶏 成嶋リョウ


軍鶏


 私が青春を捧げた作品です。

 東大合格確実と言われながら、両親を殺害した成島リョウが、少年院で出会った空手を使って「生き延びるため」の戦いを繰り広げていくストーリー(↑の画像では陰キャというよりキチDQNと思うかもしれませんが、少年院に入った当初のリョウはガチ陰キャ。それが空手を身に着けることで獣のような男に変貌していく)。

 物語は少年院編、リーサルファイト編、中国編、グランドクロス編、どぶ組編の五つに分けられますが、私はリョウ単体でみればグランドクロス編が一番好きです。

 リーサルファイト編のリョウは、黒川や望月、神尾といった大人の思惑に踊らされている面が強くて痛々しいのですが、グランドクロス編のリョウははっきりと自分の意志で戦っているのがいい。ゴサクとのトレーニングで自信を取り戻し、最後、以前怖気づいてしまったDQNをぶちのめすシーンは思い出すと筋トレがしたくなります。

 この章では、弱体化して露頭に迷い、黒川に泣きつこうとしたときのリョウ→グランドクロスの入場時、トーマサイドのセコンドについている黒川をみつけ「どいつもこいつも・・うっとーしい」、グランドクロスでの試合中「やめたいのはやまやまだが・・・周りが許してはくれねえよ」→「勝手に限界決めてんじゃねえよ」など、リョウの心境の変化を追っていくのが面白い。

 また、この作品は菅原戦で手足の自由を失ったリョウが菅原の膝に餓鬼のように縋りついているシーン、中国編で本気を出した斉天大聖が天井に張り付いているシーンなど、恐怖と絶望感を煽る描写が凄まじいのですが、グランドクロス編が特異なのは、それを敵である(黒川、夏美でさえ癒した)トーマが、リョウの闇に飲まれるという形で描いたところ。反対のリョウの方は、トーマを通じてリョウの思念に入り込んできた黒川の「許し」「癒し」が、リョウにとっての絶望を表す描写になっているのが面白かった。

 さらに私が好きなのは、この章の女関係のシーン。
 
 「明日のジョー」の矢吹丈はヒロインであり敵役の白木葉子と最後に和解しましたが、この作品にはそんなものは通用しません。

 リーサル・ファイト編でレイプし、芸能界引退にまで追い込んだタレントの船戸萌美が突然、控室を訪れた場面。

「久しぶりだなぁ萌美ちゃん。だいぶ様子が変わったが何の用だ?」

 ざまあみろと言わんばかりにニヤけるシーンがたまらない。そして、萌美に腹部を刺されたあとには、パイプ椅子をぶん投げて、

「ふざけんなっ、クソ女ーっ!(注:自分がレイプして人生を台無しにさせた女に対する行為です)」

 私も佐々木希あたりにこれぐらいできたら人生に思い残すことはないです。

 そして試合中には、「やめてーっ、ケダモノ」と女どもの罵声を浴びながら、イケメントーマの顔面をぼっこぼこ。何から何まで、女に苦い思いをさせられてきた陰キャにとってはたまらないシーンです。

 大抵、こうした暗黒系の作品といえば、アンダーグラウンドの人間がゴミ溜めの中で争うものを描くのが多いのですが、この作品は、アンダーグラウンドの人間が表舞台に姿を現し、世の中すべての人間からの悪意を受けながら戦いを繰り広げるというのが珍しいところです。

 ゴミ溜めの中で戦うのが少年院編と中国編でこれも大好きですが。斉天大聖の「そのまま静かに暮らしていればよかったものを、こともあろうにリーサルファイトとやらに出場して世間に顔を晒した(リョウを裏社会で自分の右腕にしたがっている山崎や斉天大聖の誘いを振り切って光ある表世界に行きたがっている)」というセリフに、リョウの業の深さが凝縮されている。

 「公開処刑」だったリーサル・ファイトはキツイですが、グランドクロスのリョウの暴れっぷりは痛快で、私もあれだけやれればもう死んでもいいかなと思います。私の心に永遠に残り続けるまさにバイブル。

陰キャのヒーロー 1


 他作品のレビューについては苦い思い出があるのですが、(まだこちらでUPできるかはわかりませんが)来月から新しい小説を書いていくうえで、ここで初心に帰る意味を込めて、私が憧れた「陰キャのヒーロー」について書いていきたいと思います。

 私の二十代前半のことについて書いた記事の方を読んでもらえればわかる通り、私はどちらかといえば暗い青春を過ごしてきた方ですが、「リア充」、もっと新しい言葉でいえば「陽キャ」へのコンプレックスというものは、微塵もありません。ここもまた、自分の彼女や、友達の多さ(震災のときに友達7人泊めたとかいう明らかに嘘とわかる写真をUPしていた)を自慢の種にしていたチンフェくんとの差異でした。

 そもそも、リア充という立場に固執するのなら、私は神山のいた専門学校を途中でリタイヤし、内定を辞退などしておりません。あの時代、私は神山以外の人間からは好かれていましたし、プライベートで遊ぶ友人もおりました。

 あのとき、神山と金澤が付き合うのをヘラヘラと眺めながら、私自身を心配しているのではなく、ただ単に、私に自分たちの和を乱されるのを心配していただけの連中に迎合し、「かこのいきさつをわすれて、おともだちのしあわせをすなおにしゅくふくする、さやわかなこころをもったおとこのこ」になったフリをし、「かれもかれで、じぶんのしあわせをみつけ、みらいへむかってあゆんでいく」というラストを受け入れなかったのは、「ピエロのような笑いものになり、神山と金澤のサンドバッグにされた憎しみに燃え、嫉妬に凝り固まり、神山と金澤を嬲り殺しにしたいと思っている」本当の自分でいたかったからです。

 痛みを我慢して得られたのは、私の本音を聞いてくれることもしてくれないともだち( )と、たかだか専門学校を卒業して入れる程度の会社の正社員の地位のみ。だったら、失うもののない身軽な立場となり、いつでも神山を殺せるという気構えでいつつ、自分にとってより大事な目標を見据えながら、ネットで好き放題自分の考えを書き散らす生活を選ぶという選択肢があってもいい。

 ・・・というのは、ずいぶん後になってから考えたことで、当時の私には、ただ今の苦しみから逃れたいという思いだけしかありませんでした。ただひたすらに救いを求め、そしてたどり着いた答えが、あの学校で得た成果をすべて否定し、あの学校で出会った人間をすべて恨みの対象とすることでした。

 苦しみの中で、私を導いてくれた光・・・それは、「陰キャのヒーロー」でした。世の中の「陽キャ」よりもカッコイイ、「陰キャのヒーロー」に憧れ、これから陽キャを目指すのではなく、「陰キャのヒーロー」になりたい、また、自身が作家となり、「陰キャのヒーローを描きたい」と思ったからこそ、私はいまの自由を手に入れられたのではないかと思っています。
 
 私が憧れた陰キャのヒーローには実在の犯罪者もいましたが、フィクションの登場人物もいました。彼らのおかげで、私は救われた。その感謝の気持ちも込めて、今回、漫画、映画、アニメ、ゲームの中から、それぞれ「陰キャのヒーロー」を紹介していきたいと思います。

 ちなみに、カテゴリの中から「小説」を除外したのは、私自身がそのジャンルで成功しなければいけないので、「ファン」という目線で見てはいけないと思ったから・・・ぶっちゃけ嫉妬です。たとえ先輩作家でも、今の状況で、小説という分野で成功している人を称えるのは苦しいです。

 まずはアニメ編から行きます。

 魔法少女まどか&マギカ


美樹さやか


 アニメでは美少女に描かれていますが、この子たちは実際にいたら絶対に可愛くない陰キャだろうな、と思います。

 回想ほむらや壮絶な生い立ちを抱えた杏子はわかりやすいですが、作中で唯一魔女化したさやかちゃんも、思考回路的にはなかなかの陰キャです。

 ・好きな相手と嫌いな相手で態度が変わりすぎ
 ・洞察力に優れたフリして、好きな相手(きゅうべぇ)だとコロッと騙される
 ・見守ってるだけで意中の相手が振り向いてくれると思っちゃう
 ・恋敵の子が筋を通して断りに来てるのに、この期に及んで自分が好きになったら男を不幸にするとか変に思い込んで何も言わない
 ・そもそも、そんな消極的な女なのに、わざわざモテ属性の男に恋をする
 ・老婆心で忠告してくれた杏子にキレイごとをぶつけて自己正当化
 ・完全に自業自得なのに拗らせまくってソウルジェム真っ黒


 自分を雁字搦めに縛っていくタイプで、辛い生い立ちもある意味割り切って逞しく生きている杏子とは水と油のような関係ですが、その対照的な二人が最期に運命を共にしたシーンは私が一番好きなシーンです。 

 考え方も違うし、性格も違うし、生い立ちも違うし、これまで散々いがみ合ってたけど、一緒に行ってやるよ。一人は寂しいもんな。

 これまで対立していたのが最後の最後で和解、といえば「明日のジョー」のジョーと葉子を思い出しますが、そもそもこういうパターンに私が弱いのかもしれません。(葉子の愛を受け入れ、それでも力石やカーロスとの友情に殉じにリングに向かうジョーが最高にカッコイイ)。


 新世紀エヴァンゲリオン 碇シンジ

シンジ



 「範馬刃牙」と並び、見ていて不快になる主人公の二大巨頭でしょう。

 バキが不快なのは「主人公なのに一番魅力がない」「のくせにやけに偉そう」なのに対し、シンジくんが不快なのは、

 ・親への反発心にかたまっているが親への劣等感と承認欲求も人一倍
 ・言いたいことをはっきり言わずにグズグズグズグズ
 ・ちょっと煽てられると調子に乗ってポカをやらかす
 ・身勝手な女どもにいいように言われたい放題
 ・結局、女を性処理の玩具に使ったり、ぶん殴る(エヴァ越しに)ことでしか反撃できない
 ・僕がやらなきゃと思って頑張るけど最後はやっぱり何にもできない


 ようするに、男の弱いところの集合体みたいなヤツで、自分の中にもあるそれを言い当てられているような気がするからではないかと思っています。

 正直、カッコよさという要素はゼロですが、こういう人物が社会現象になり、ある意味世間に受け入れられたという面では「ヒーロー」であり、悩んでいた当時の私を救った面もあったのではないかと思っています。
 

私が求めているのは読者だけ

チンフェ




 前回述べたように、このサイトを開設した初期において、私はまだ小説で世の中に認められたいという思いも確固たるものではなく、承認欲求だけで動くチンフェくんとほとんど変わらない状態にありました。

 そういう、まだ自分が固まっておらず、迷いのあったころの私にシンパシーを感じ、コメント欄ではなく、私とメールをして、個人的なやり取りを望まれるという方が、当初は何人かおられました。また、個人的なやり取りこそしないまでも、コメントの中で、私のことを「友達だと思っている」「同士だと思っている」ということを言ってくる方もおられました。

 しかし、彼らとの関係はすべて、消化不良の形で終わってしまいました。

 私という人間を、「自分に似てる」という理由で私と接してこられたのに、なぜ、彼らとの間柄はうまくいかなかったのか。それは、彼らが全員「自分のことしか話さない」からでした。

 本当に、自分のことしか話さない方が多かった。自分がどれだけ苦しい思いをしているか、自分がどれだけ可哀想かを伝えるのが第一で、私のやることにはあまり関心を持ってもらえないし、友達という形でやり取りを望んでいる割には、私と趣味を合わせようということもせず、自分が何が好きかを伝えることばかりに必死である。

 中には私のブログの方に、感想コメントを書きこんでくれた方もおられたのですが、比率としては明らかに自分語りの成分の方が多く、発信する側と受け取る側の関係性がまるで逆転してしまっていました。

 私のことを、「友達」「同士」「自分と似てるな」だと思っていただく、このこと自体については、私は大変結構なことだと思います。私自身、これは面白いなと思った作品に出会ったとき、その作家の経歴が自分に近ければ近いほど共感しますし、その作家の作品をこれからも追いかけていこうと思います。

 ですが、その作家に人生相談をしたりはしませんし、自分がどれだけ辛いかをわかってもらおうとは思いません。なぜなら、それはその作家が望んでいることではないからです。作家が望んでいるのは、自分の作品を、できれば新書で買ってくれる、ただそれだけだからです。

 現在もそうですが、当時の私は、そこまで極端には考えていませんでした。私を友達と思って、友達としてやり取りを望まれるのも結構。ただ、それならもっと私という人間に興味を持ってもらいたい。そして、ウジウジウジウジ辛いことばかり語って、傷をなめ合っているばかりが能ではなく、これから会って遊ぶとか、前向きな方向に話を進めていきたい。

 結局のところ、相手が何を望んでいるのか、相手のやりたいことは何なのかを考えてもらえるか、 ということだと思います。それをはっきり言ってこなかった私も悪かったのかな、と思います。

 なので、開設3年目くらいからの私は、ブログ上で、ただ単に思いついただけのような記事を書いたり、趣味や他の作品のレビューを書いたりするのは避け、こちらの方は自分の作品や、犯罪者の考察を発表するだけの場にして、読者さんとの「慣れ合い」の成分を薄めてきました。

 その結果、このサイトには、私は友達探しをしているわけでもなく、心のキレイな人間になりたいのでもなく、ただ、小説で世の中に認められたいのだと知っている方だけが、コメントをくださるようになりました。

 私は「作者」と「読者」という関係を、非常に気に入っています。

 作者が書いたものを読みたいと思ってくれる方が、読んだ後に、何かを返そうと思ってくれる。それに答えて、作者はまた面白いものを書こうと努力する。私はこれ以上の関係はないと思っていますし、だからこそ、チンフェくんのように、掲示板のようなところで自分の情報をばら撒くのではなく、ちゃんと自分の場所を作って、そこを拠点に、創作発表ということを軸に活動を行っています。

 当初において、私の思いはまだ中途半端でしたが、活動開始から五年を経て、決意のほどは徐々に、徐々に固まってきました。それに呼応するように、ろくにコメントもしないのに「俺は読者だ神様だ!」という態度を取られる方は減り、マナーを守って書き込んでくださる方の割合が増えてきました。

 しかし、固くなるというのは、一面、危険なことでもあります。柔らかいゴムボールを下に落とせば弾んできますが、硬い石を落とせば割れてしまうこともあるように、「固い」というのは、「傷つきにくい」とはいえますが、一歩間違えば、跡形もないほど粉々に砕けてしまうこともあるからです。

 ちょっとやそっとのことでは動じなくなったと感じる反面、大爆発して人生そのものを終わりにしてしまう危険は増幅してきたような気はしています。これについては、また詳しく書きます。
 
 ちなみに、私と個人的なやり取りを望まれる方も、みんながみんなうまくいかなかったわけではありません。私とメールアドレスやスカイプアカを交換してうまく行ったのは、全員20代の女性でした。

 男にとって、若い女というのは、ただそれだけで希望になります。若い女というだけでこちらが興味を持つ要件を満たしているため、趣味が合うかとか、向こうが自分に興味を持ってくれているかということが、さして気になりません。自分のことばかり語られていても、黙って聞き役に徹しようと思えます。

 キレイゴト抜きに、これが男という生き物の本質だと思うのですが、不思議なことに、(私と個人的なやり取りを望まれる方の中で)私に興味を持って色々聞いてきてくれる割合も、若い女性の方が多かったです。

 なぜか、相手に受け入れてもらうためのハードルの高い男性や、高齢の女性の方が、自分のことばかり語られて、若い女性の方が、自分語りをこちらが尋ねてくる範囲に留め、私を思いやったり、趣味を合わせてくれたり、私の望むもの(顔写真を見せてくれたり)してくれた。

  思うにそれは、私に接触してこられた動機が、「この人に自分を知って欲しい」ではなく、「この人のために何かしてあげたい」だったからでしょう。当時の私がこのように思ってもらえたことは本当に幸せでしたし、チンフェくんのようにイキがるのではなく、自分の弱さを前面に出したのはやはり正解だったと思います。

 妻を含め、当時、私に優しく接してくれた女性たちには大変感謝をしておりますが、現在の私は、サイトから「慣れ合い」の成分を薄め、私と個人的なやり取りを望まれるようなコメントには応じないようにしております(その要望も特に来ませんが)。

 私が今、こちらで求めているのは「読者」のみです。

 「読者」には男も女も、老いも若いもありません。社会的地位も関係ありません。ニートだろうが前科者だろうがウェルカムです。強いて言うなら、「返してもらったものの量」が、作者である私が感謝する量に比例します。

 「読者」とは、「ただ眺めている人」のことではありません。

 「読者」とは、私の書いたものを読みたいと思ってくださり、読んだ後に、何かを返そうと思ってくれる人のことです。

 プロであれば新書を買うことが一番のリアクションになりますが、今現在の私は、コメントという形でしかみなさんに何かを返してもらうことができません。

 ちゃんとした感想コメントをくださった方のご意見であれば、「俺は読者だ神様だ!コイツに何を言ってもいい」と、説教をされる方のご意見でも、読まずに消したりはしません(そういうことは、無垢な女子学生相手にやるから楽しいのであり、こんな足の短い三十路男を「自分色に染め上げちゃう♡」という発想は、ただ気持ち悪いだけだということには気付いてほしいですが・・・)。

 君のことはどーでもいいから、僕の(わたしの)話をきーて。

 本当にそれだけであれば、それは自分でブログを始めるか、お金を払って、キレイなお姉さんやカッコイイお兄さんのいるお店に行ってしてください。

 このサイトを、私の書いた文章を読みたいと思ってくれる「読者」の方とお話をする場としたい。

 それをできれば、来年も続けていきたい。

 それが私の願いです。

第六章 ~20××年 12月 プリンセス・プリンセス・プリンセス



 好き――。ただそれだけで良かったはずなのに、余計な言葉を身に着けてしまったばかりに、すべてが壊れてしまった。



 何も変わらない日々が、一番の幸せだと思っていた。

 平均より少し上の家庭で、平均よりも少し大事に育てられたと思う。

 平均より少し上の学校で、平均より少し上の成績をキープしていたと思う。

 平均より少し強い陸上部で、平均より少し上のタイムを出していたと思う。

 平均より少し上の大学を出て、平均より少し上の会社に就職したと思う。

 それからも、ずっと同じだと思っていた。大きく躓くこともなく、平均より少し上の人生を送るものだと思っていた。

 でもそれは、違ってしまった。何も変わらない日々に彼が割り込んできたせいで、すべてが変わってしまった。

 寺井と出会ったのは、希美が二十歳のとき。大学の友人と、災害支援のボランティアに出かけたときのこと。希美より早く到着したボランティアたちの間で、住処を失って途方にくれる被災者には目もくれず、瓦礫の上を縦横無尽に歩き回ってカメラを回している集団の存在が問題になっていたから、抗議するつもりで行ってみたら、逆にナンパされた。

――君、可愛いじゃん。大学生?これ、僕のアドレス。今晩、僕らが泊まってるテントで上映会やるから、君もおいでよ。

 最初は、腹が立っただけだった。被災地に差し入れの一つもせず、ただ、己の野心のための映画を撮って回る不謹慎な連中に誘われて、のこのこ付いていくなんてありえない。

 それに・・こんな一重瞼で、眉毛の手入れもしてなくて、歯もガチャガチャの自分が可愛いなんて、あるはずもない。どうせ、いいように遊んで、ゴミみたいに捨てる気に決まっている。

 無視してその場を去ったのだが、映画製作班とはその後も頻繁に顔を合わせ、その度にしつこく誘われるので、仕方ないから、一度足を運んでやることにした。あんたなんか何とも思ってないとキッパリ言って、なんなら作品もボロクソに貶して、これ以上付き纏われないようにするつもりだった。

 寺井が脚本を担当したという四十五分ものの映画を観て、そんな気持ちはどこかへ吹き飛んでいった。

 主人公は普通の高校三年生。見かけはパッとしないけど、勉強にも部活にも手を抜かないと評判の頑張り屋で、クラスメイトの女の子に仄かな恋心を寄せている。

 しかし、本番で気負ってしまったのか、彼は志望大学に落ちてしまった。救いを求めるように、片思いしていた女の子に告白するもフラれ、失意のどん底にいるときに、イケメンと評判のクラスの男子が、彼の志望していた大学に見事合格し、彼の好きだった女の子とも付き合い始めたという知らせが入った。

 受験に失敗して、好きだった女の子を持っていかれたことだけなら、まだ耐えられた。彼が本当にキツかったのは、クラスのみんなから、幸せそうな笑顔を見せているカップルに、祝福の拍手を送ることを強要されたことだった。

 クラスメイトたちに恨みを抱いた彼は、クラスメイトを皆殺しにするために爆弾を製造しようとするも、実験に失敗し、顔面に二目とみられないほどの大やけどを負って自殺した――。
 
 頑張らなくても幸せになった人、頑張ってようやく報われた人、頑張ったけど報われなかった人、頑張らなかったから不幸になった人。人生の幸福と、幸福を得るために費やした労力がまるで違う人々が、一つの塊になって集団を形成していることの矛盾と欺瞞。

 成果主義の世の中で、能力、あるいはやる気の足りない人を引き上げるため、初めはあの手この手が尽くされるが、やがてどうしようもないとわかる。最後に求められるのは、「幸福になった人に嫉妬をせず、素直に褒めたたえる」という態度である。敗者に美徳とされるパフォーマンスさえやってのけられれば、集団の中でギリギリ居場所が確保される。

 やる気がなかったせいで幸せになれなかった人は仕方がない。だが、十分なやる気があっても幸せになれなかった人に、それを強要するのは?自分と同じかそれ以上に頑張っていた人になら拍手を送れても、さほどの労力も割かずに、自分が欲しくて仕方なかったものを手に入れた人に対し、素直に拍手を送れるものか?

 「和」の精神――社会を維持するための原則への不満を真正面から描いた寺井の作品は、希美の胸に強く響いた。

――面白かった。いい映画を観せてくれてありがとう。寺井さん、才能あるよ。

 味噌糞にけなすつもりが、気づけば、賞賛を口にしていた。暗い内容の作品だったが、心はスカッとしていた。これまで、誰にも言えなかった希美の思いを、寺井が代弁してくれた気がしたから。

――自分が特別だなんて思ったことはない。まともな頭があれば、誰だって今の世の中や自分の境遇に、何らかの不満を抱えるのが当たり前なんだから。それを架空のお話を鑑賞することで消化して、何とかレールの上を走っていくのが正しいんだろうけど、どうも興味が持てないんだよ。ただ単に生きる、てことにさ。それでドロップアウトして、自分が架空のお話を作る側に回ったってわけ。

 話を聞くほどに、希美はついさっきまで軽蔑していた男に引き込まれていくのを感じていた。

 我慢して、自分を殺して、好きでもない友人と付き合って、尊敬もしていない人を褒めたたえて、無理やり集団に溶け込んで。それは自分にとって、そこまでして手に入れたいものなんだろうか。

 会社という集団にこれから入っていくため、本気で困っている人のことを思っているわけでもないのに、ボランティアなどに来てしまったことに内心疑問を感じていた希美の目には、安定した道を捨てても、映画仲間に囲まれて、夢を追う日々を送っている寺井の姿は、眩しく映った。
 
 すぐに消すつもりだったアドレスが、どうしても消せなかった。

 希美は東京に帰ってからも、寺井と頻繁に連絡を取るようになった。男女の関係になるのに、それほど時間はかからなかった。

               
                             ☆


 映画監督を夢見るフリーターと、ごく普通の女子大生のカップル。まだ、結婚を意識する年頃でもないが、目指す路線の違う二人に、中には横槍を入れてくる人もいた。

 希美も将来に不安を感じて、寺井に別れ話を切り出すと、俺にはお前しかいないから、と膝に縋りつかれ、オイオイと泣き喚かれた。すかした顔で己の知識をひけらかすいつもの姿とのギャップに母性を刺激され、これで希美も寺井から離れられなくなった。
 
 希美は無事に大学を卒業し、社会人となったのを機に、誠也さんと一つ屋根の下で暮らし始めた。

 社会を維持するための、強大な欺瞞――「和」から抜け出し、レールの外を走って生きていく。二人の宿願を果たすための、長い長い苦闘の始まりだった。

 希美が仕事と家事をし、誠也さんがバイトと創作活動をする。いつか、誠也さんが有名になり、クリエイター方面の仕事だけで生活できるようになるのが、二人の最終的な目標。

 一年が過ぎ、二年が過ぎた。たまに、映画祭に出品した作品がそこそこに評価されたり、応募した脚本が一次、二次選考を通過することもあったが、誠也さんに「仕事」が舞い込むことはなかった。

 映画製作チームはメンバーが抜け続ける一方で、誠也さんが三十の坂が見えてきたころには事実上の解散状態になり、誠也さんは収入源をアルバイトから、フルタイムで働ける派遣に切り替えた。

 最初に派遣されたのは、奇しくも、希美の勤める会社だった。誠也さんが働く姿を見たのは初めてだったけど、変な波風も立てず、よくやっていたと思う。そのまま、真面目に勤めてくれればいいと思ったが、一年ほどが経ったころ、トラブルが起きてしまった。

 希美の直属の上司に、「なんだ、彼女の方がしっかりしてるじゃないか。君も派遣なんかじゃなくて、どこかの会社に就職しろよ」などと言われて激昂した誠也さんが、上司を殴ってしまったのだ。

 誠也さんは口にはしなかったが、内心、正社員の彼女に縋っているということに、引け目を感じていたのかもしれない。ちょうど、激務で体調を崩しかけていたときだったのもあり、希美も誠也さんの起こした事件をいい口実にして会社を辞め、派遣で働くようになった。

 それまで、派遣へのイメージはけしていいものではなかったが、やってみると、同じ非正規でも、学生のころにやっていたアルバイトよりは、派遣の方が、あらゆる面で恵まれているところは大きいと感じた。
 
 中間搾取というと聞こえは悪いが、中抜きされるかされないかの違いがあるだけで、派遣もバイトも、手元に渡る賃金は大差はない。下手に直接雇用にすると、雇用者側が、労働者に滅私奉公を強いてもいいという錯覚に陥りやすく、社会保険に入れてもらえなかったり、しばしばサービス残業や、理不尽な独自ルールを押し付けられる場合もある。

 よくあるのは、「休むときは、シフトの交代要員を自分で探す」あるいは、「売上のノルマが達成できなかったときは、アルバイトが自分で商品を買い取る」というルール。これに法的根拠はなにもなく、違反したからといってペナルティが課せられたり、労働者が不利な状況に追い込まれるというのは許されないのだが、特に無知な学生などには、使用者に言われることを真に受けて、不当な圧力に屈してしまっている人が多い。

 派遣ならば、使用者と労働者の間に第三者の目が入ることで、労働者の無知や押しの弱さから起こるトラブルを未然に防げる。無論、その第三者の目が腐っている場合もなきにしもあらずではあるが、特に大手の派遣会社は、スタッフ側に寄り添ってくれることが多いというのが、希美の実感である。

 派遣は自分のことだけ考えていればよく、変な同調圧力に抑え付けられることもない。雇用形態の違いは、偉さの違いではなく、歩く路線の違い。正社員と派遣、双方がそれをよく理解していれば、波風が起こることなく職場は回る。

 誠也さんが「和」からの脱出を目指すだけならば、派遣で働いているだけで、半ば達成されているようなものだった。しかし、それは永久ではない。この道がきっと未来に繋がっていると信じられなければ、いつまでも続けられるものではない。 

 目標はあくまで、創作の世界で成功することのみ。実際には、クリエイターの世界とて「和」から逃れることはできないし、「和」の中で力を発揮できる人間が上に行く世界ではあるのだろうが、それでも、人の本音や個性を売り物にしている分、いわゆるサラリーマン社会よりは、まだ生きる目があるのではないか。誠也さんはそこに希望を託していた。

 ギリギリの賃金で生活を維持しながら、空いた時間で創作活動を行う。努力が辛いのは最初だけで、毎日繰り返していれば、入浴や歯を磨くのと同じで、やらない方が苦痛になる。八時間労働、八時間休息、八時間創作活動+日常生活のサイクルを、忠実に守って日々を過ごす。

 何も変わらない日々の繰り返しが、延々と続いていく。
 

                            ☆


 誠也さんの創作活動は、まだ日も昇らない早朝から始まる。夕方はぐったりしてしまって頭が働かないから、しっかり休んでさっさと寝る。誠也さんが休んでいる間に、希美が家事をこなす。

 休日に出かける予定がないときは、過去の名作映画のDVDを一緒に鑑賞する。

 優れた評論家が必ずしも名作を生み出せるわけではないが、評論がある程度できなければ、創作はできない。誠也さんは、映画を希美と一緒に見るたび、映画と同じくらいの時間をかけて、希美と作品の内容について語り合った。

 誠也さんと映画談義にふけっている内に、希美はふと、頭の中で、堪えがたくムズムズとしたものが蠢き出しているのを感じていた。

 面白かったはずの誠也さんの作品に物足りなさを感じるようになり、自分だったらこうするのに、あんなシーンはいらないのに、と考えてしまう。ふと気づくと、スマホで文章を打ち出しており、それが案外、出来のいいものに見えてしまう。

 正社員の仕事を辞めるとき、多くの人から反対の声が上がった。中でも、誠也さんが殴ってしまった上司は、直接希美と誠也さんの家まで訪れて詫び、希美を熱心に慰留してくれた。

 創作活動を行うのは誠也さんだけなのに、どうして希美までもが、安定した道を捨てなければいけないのか、みんなが疑問をぶつけてきた。

 その時は体調面のことを強調して押し切ったが、本当はあのときから、自分の中で答えは出ていた。

 希美も、シナリオが書いてみたい。そのための時間を確保したかった。

 自分の衝動が、けして許されないものであるのはわかっていた。でも、どうしようもなかった。頭の中のマグマのようなものを、吐き出したくて吐き出したくて、どうしようもなくなっていた。

 同棲から五年が経ったころ、希美は貯金をはたいて、自分のノートパソコンを買った。誠也さんの目を盗んでコツコツと執筆に励み、半年の期間で、二百字詰め原稿用紙五百枚のシナリオを書き上げた。

 出来上がった原稿を、誠也さんの原稿と一緒に、テレビ局のコンクールに送付した。誠也さんの作品があっさりと選外に終わるのを尻目に、希美の作品は一次、二次と順調に選考を通過し、とうとう最終選考にまで残った。

 テレビ局に電話を入れて、選考の辞退を申し入れた。担当者から、選考の委員長が大のお気に入りで、受賞は八割がた既定路線に入っていると言われ、心は揺れたが、希美の決意は変わらなかった。断腸の思いだったが、仕方なかった。

 半年の期間、自分の背中を押していたのは、神様ではなく悪魔だったのだ。希美は、けして許されないことをしてしまった自分を深く恥じた。もう二度と、誠也さんを裏切るようなことがあってはならない。どんなに魅惑的に思えたとしても、それが二人の生活を――何も変わらない日々を破壊する結果を招く行為だとすれば、けして行ってはならない。

以後、希美は、自分でシナリオを書いてみたいという思いを封印し、残業にも積極的に協力し、家事の負担も増やして、誠也さんのサポートに全力を注ぐようになった。


                              ☆


 さらに一年が過ぎ、二年が過ぎた。もう、誠也さんが映画仲間と頻繁に会うことはないと判断して、家賃の安い地方に拠点を移し、二人して食品加工工場で働くようになった。

 これまでは、職場のことは滅多に家では言わなかった誠也さんが、このころから、よく愚痴をこぼすようになった。

「マジ死ねよな、あの説教ジジイ。今日、僕がはんぺんラインの岡本ちゃんから仕事を教わってたらさ、あの説教ジジイが顔を真っ赤にして飛んできて、お前の師匠は俺なんだから、俺を頼れとか怒鳴ってくんの。こんな誰でもできるライン作業で、師匠もクソもねえっつうの。こっちが弟子にしてくださいと頭を下げたならともかく、師匠の押し売りなんて、聞いたこともねえよ」

 人に綽名をつけるのが得意な誠也さんが、ひときわ毒の強いネーミングで呼ぶ真崎という男から、毎日のように食らう説教が、誠也さんのストレスの原因のようだった。

 他人に説教をするということは、その人間に対してなんらかの優越感を抱いているということだが、では、真崎が何を根拠にして誠也さんに優越感を抱いているかといえば、それは職場の人間関係、「和」を大切にしているということらしかった。

 一度、会社の休憩室で、若いスタッフを前に、真崎が自論を雄弁に語っているのを、希美も聞いたことがある。

「世の中には濡れ手で粟を掴むように金を稼いでいる人間もいるが、苦労することを知らない人生なんて哀れだよ。そういう奴らは、人に感謝する素晴らしさも知らないんだ。これまでの人生でも色々な人に世話になったが、俺はこの大丸食品で出会った人たちには、特に良くしてもらったと思っている。ここで出会った人たちとの絆は、俺の一生の財産だ。この工場で、尊敬できる凄い人たちに教わった大切なことを、俺がお前たちに伝えていってやるからな」

 四十四歳の真崎が後生大事にしているものは、誠也さんが希美と出会った二十二歳のときにはすでに、自分にとっては価値がないと判断して捨てていたものと、まったく同じだった。
 
 たかがライン工でも、交友関係にさえ恵まれていれば、金持ちにだって負けていないと信じ込む真崎は気狂いじみているとしても、現実問題として、自分の立場の、客観的な優位性というものを見出していかなければやっていけないのは、誠也さんとて同じである。

「貧困と社畜は、セットじゃなければそこまで大した問題じゃない。派遣は自分の都合だけで物事を考えていればいいし、余計なしがらみも一切ない。一生このままじゃいけないけど、将来、自分のシノギで食っていく夢のある人間が、世を忍ぶ仮の姿を演じるにはもってこいだよ」

 労働者の非正規化が急速に推し進められるようになった九十年代初頭、フリーターは会社に縛られない新しい働き方だと持て囃され、若者を中心に一定の支持を受ける向きもあった。コストを抑えたい経営者側の詭弁が多分に含まれているにせよ、一億総中流と言われる時代の中で、従来の滅私奉公的な働き方に息苦しさを感じていた層は、かなりの数いたのだ。

 貧乏人から自由、気楽を奪ったら、いったい何が残るというのか。徹底した個人主義を貫けるという理由で、非正規の派遣である自分の立場を納得しようとしている誠也さんからみれば、派遣という立場はそのままで、正社員並みのしがらみに自ら縛られに行き、休みの日にまで会社の心配などをしている真崎は、派遣の「強み」を、自らドブに捨てているのと同然だった。

 誠也さんと真崎では、人生の価値観、目標設定があまりに違いすぎる。他人の人生の価値観、目標設定を変えるということを、真崎は甘く見過ぎている。

 水と油のような誠也さんと真崎が大きなトラブルを起こすのは、時間の問題だった。

「説教獣フンバカが、またバカなこと始めたよ。この前新しく入った、塚田って若い子の面倒を見てるフリしてさ、何か言うたびに、こっちの方ちらちらと見てくんの。あれ、僕が焼き餅を焼いてないかって、確認してるんだぜ。バカの上に、気持ち悪いよな」

 説教獣フンバカ。毎月のように変わっていく真崎のあだ名は、最終的にそれに落ち着いた。とあるRPGに登場する、幻獣キャラクターの名前をもじったものである。

 説教獣フンバカ。希美はこの綽名が大好きだった。

 RPGの幻獣をもじった綽名は、そのRPGをプレイした人にしか伝わらない綽名。だから誠也さんは、その綽名を希美の前でしか口にしない。説教獣フンバカという綽名を、誠也さんとだけ共有できるのが嬉しかった。

 あの女の人の前では、けして口にしない綽名。

 ストーカー同然の真崎に付き纏われる誠也さんに同情する一方で、そんなに辛いのに、誠也さんはなぜ、大丸食品の工場を辞めようとしないのか、不思議に思っていた。

 特に時給が高いわけでもないし、仕事はキツイ方。年末が近づくにつれて残業が増えて、創作活動に支障を及ぼす。友達は多いようだが、誠也さんは、単に慣れ合い目的の人付き合いには重きを置かない性格のはず。

 誰か、気になる女でもいるのだろうか。

 予感は、当たっていた。

 長い同棲生活で、身なりに気を使わなくなっていたのは事実である。誠也さんとは籍を入れてはいない内縁の夫婦という関係だが、いつの間にか、夫婦というより、兄妹のような感覚になってしまって、夜の回数は年々減っていた。

 そういうことがあっても、おかしくないとは思っていた。

 だけど、その相手がまさか、自分より一回りも年上の女だとは思わなかった。

 子供のころから、おっとりした性格だと言われてきたが、女の勘というものは、希美にも生来備わっていたらしい。会社で二人が話している様子、誠也さんのプライベートでの行動パターンの変化を見れば、誠也さんとあの女の人が特別な関係にあることはすぐにわかった。

 入社したばかりのころ、親し気に話しかけてきてくれたあの女の人に、無視するような素っ気ない対応を取ってしまって以来、あの女の人が自分のことを快く思っていないのは知っていた。あの女の人が自分への当てつけのために、誠也さんに積極的に絡んだり、誠也さんの作品を観たがっていたのも知っていた。それでも、あの女の人だけはないとタカを括っていた。

 色黒で、化粧がケばく、香水の匂いもキツイ。典型的田舎のホステスみたいなルックスで、グラマー好きな誠也さんの好みとは相反するぺったんこな身体つき。

 男としての欲求だけで、あの女の人を抱いたとは思えない。誠也さんの心に吹きすさぶ風の冷たさを、どこかで軽くみていた。

 自分が至らないせいで、あの女の人のお腹の中に、取返しのつかないものができてしまった。
 
 誠也さんは希美との間に、子供は望んでいなかった。強大なもの――「和」からいつまでたっても抜け出せず、さりとて「和」に溶け込むこともできない、苦悩しかないこんな人生を、子供にまで押し付けてどうするというのか。たとえこの先、経済的に余裕ができたとしても、子供だけは作るまいと、誠也さんは決心していた。

 誠也さんが子供を作るとしたら、それは人生を投げたとき。宿願である「和」からの脱出を諦め、破滅へと向かって歩み始めたときだけ。

 希美がけして許されない裏切りをしてしまったときから、二人の会話は少なくなっていたが、あの女の人のお腹が大きくなり始めたころから、誠也さんは希美とまったく口を聞いてくれなくなった。生涯最後と決めた映画を撮ることに没頭する誠也さんには、希美の姿は見えていないようだった。

 何が起こっても耐え、そして見届けなければならない。これは咎人への罰なのだ。誠也さんを裏切ってしまった自分に、誠也さんのしていることを邪魔する資格はない。誠也さんが人生の最後に仇花を咲かせ、散り行く様を、黙ってサポートするしかない。

 誠也さんが、お腹の大きくなってきたあの女の人を抱きに行くときも、黙って見送らなければいけない。


                            ☆


 だけど、心の隙間はどうしようもなく開いていく。何かで埋めなければ、まともではいられない。希美は誠也さんが家を空けている間――あの女の人のところに行っている間、パチンコ店に足を運ぶようになった。

 大学のころ、ゲームセンターのメダルコーナーに、好きなドラマをモチーフにした台が置いてあったから試しに打ってみたら、すぐに確変を引いた。メダルがじゃんじゃん出てきて、大当たりの演出が流れて、興奮した。試しに実機で遊んでみると、一気にハマった。

 都会のように、店が林立しているわけではない。ホールに足を運べば大抵は、工場で見かける顔が並んでいる。

「やあ、希美ちゃん。また会ったね。今日は何打つの?俺がアドバイスしてあげよっか?」

 一番よく顔を合わせたのは、誠也さんが真崎に次いでよく悪口を言っている、伊達巻のライン作業者、牛尾。

 原資の限られた者ほど、なぜか遊興費の配分が多いという例は珍しくないが、給料が振り込まれた端から使っていれば、生活に余裕ができないのは当然である。

 貯金がまったくないから、正社員で働く意志はあるのに、休みを取って就職活動に励むこともできない。いつまでも蟻地獄から抜け出せず、仕方なく、今やっている派遣の仕事を、さも崇高なもののように思い込んで自分を誤魔化している。

 人から与えられる安易な労働で自己実現を目指し、それを人にも強要しようとする、誠也さんがもっとも嫌うタイプの底辺労働者。

 低賃金の中から違法賭博屋への寄付代を捻出するため、真っ先に削られるのは身体のメンテナンス費用。虫歯ができれば釣り糸で引っこ抜いて、差し歯は入れない。髪がぼさぼさに伸びれば自分でカットして、襟足に変な段々がついた不思議なキノコ頭の出来上がり。異様に糖分に偏った食事メニューで、腹回りにはどっさり肉がついている。

 言っては悪いが、こんな見た目で、プライベートの場面で女に平気で話しかけられる神経が知れなかった。

「はい、牛尾です。え?今から出勤しろって?そんなぁ、勘弁してくださいよ。いくら俺がタフだからって、休息がなきゃやっていけませんよ~」

 パチンコ店に女がいることが嬉しくてたまらないのか、牛尾はよく希美の近くの台に座っては、スマホを相手に、妙な一人芝居を繰り返していた。

「希美ちゃん、この間、俺、社員さんたちの飲み会に出たんだけど、そのときめっちゃ話盛り上がっちゃってさぁ。一日でアドレスの数、三つも増えちゃった。それからというもの、休日にも駆り出されることが増えてさぁ。必要とされるのは嬉しいけど、頼りにされすぎるのも困っちゃうよね」

 真崎や牛尾は、大丸食品の社員に媚びを売ることで、自分を職場内で優位な立場に持って行こうとしているようだが、希美は派遣を長年やっていて、派遣が正社員に媚びたことで良い結果を生んだ場面を、まったくと言っていいほど見たことがない。ほとんどの場合、ただ足元を見られるだけで、条件は据え置かれたまま、ただいいように利用されるだけなのである。

 たとえ空回りに終わっていたとしても、その人なりに頑張っているのを、頭ごなしに否定したり、馬鹿にしたように言うのが愚かなことであるのはわかっている。

 だが、まず先に、向こうが自分の考えをこっちに無理やり押し付けてきたり、注ぎ込むエネルギーの配分が違うだけのことを、能力の差だと勘違いして、金を稼ぐための手段と割り切って働いているこっちを貶めてきたりしているのだから、それに対しては反撃しなければならない。

 派遣、バイトの仕事に異常に入れ込む「ガチ勢」は、誠也さんの長年の宿敵。だから、希美も「ガチ勢」とは、けして親しくしないと決めていた。

「あ、あの・・。希美ちゃん。俺、これから夕飯なんだけど、一緒にどうかな。今日はガッポリ買ったから、俺がおごるよ」

 たまたま同じタイミングで店を出た日、牛尾は希美をデートに誘ってきた。

 誠也さんとは、会社の食堂で一緒のテーブルに座っても、お互いスマホを眺めているだけで、会話はまったくなくなっていた。会社の中で、あらぬ噂が立っていても、おかしくはないと思っていた。

 しかし――いくら、同棲中の恋人とうまくいっていないのを知っていたとしても、どうして、考え方も価値観も、何もかもが違う女に、チャンスがあると思うのだろう。人間の男女がセックスするのを、動物の交尾と同じに考えてはいまいか。希美は牛尾の誘いに、何も答えずその場を去った。

 翌日、牛尾は興奮したゴリラのような顔をして、希美の働く粉物の倉庫に怒鳴りこんできた。

「おい!砂糖の袋に穴が開いてるじゃねえか!誰の仕業だ!今、俺らが時間ないのをわかっての嫌がらせか?」

 時間がないと言いながら、倉庫の作業者一人ひとりの眼前に袋をつきつけ、犯人捜しを始める牛尾。わざわざ見え透いたパフォーマンスなどしなくとも、いつも、リーダーの真崎と二人、他のラインのあら捜しで躍起になっている牛尾は、伊達巻のラインで使う粉を、誰が用意しているかは最初からわかっている。

 怒りの矛先である希美の前に、確信を持って歩み寄る牛尾の前に立ちはだかったのが、端本――はんぺんのラインの塚田たちに、常日頃、オカマンなどとバカにされている嫌われ者だった。

「あなた何なんですか希美さんがやったという証拠でもあるんですかあなたおかしいんじゃないですかあなた担当者に言いますよあなた首にしてもらいますよ僕は怒りますよ」

 青白い顔をした端本に、ゾンビのような迫力で逼られて血の気が失せたらしく、牛尾は最後に、これからは気を付けろ、とだけ吐き捨てて、倉庫を出ていってしまった。

 結果的に、端本に救われた形になってしまったのは、希美にとっては非常に都合が悪かった。

 嫌われ者ツートップの相方――おそらく、知能指数的にボーダーにあると思われる及川と違い、端本は能力には問題なく、仕事は並以上にこなすが、他人とのコミュニケーション面に重大な難を抱える、発達障碍者のキャリアではないかと推察された。

 文字通り、他人との距離感が測れない。

 通常、恋愛関係にない男女のパーソナルスペースは一・五メートルと言われているが、端本はいつも、何の躊躇もなく希美の心のフィールドを突破し、鼻の頭がくっつきそうなほど距離を詰めて、目をじっとをそらさずに話しかけてくる。

 人の気持ちが、まったく理解できない。周りの空気が読めない。

「希美さん、今日の定食のごはん、硬くなかったですか。ちらっと厨房見ましたけど、ごはん炊く人変わってますよね。あれ、クレーム入れた方がいいですよね」

 確かに、ご飯が硬かったとは希美も思ったが、端本がそれを言っているのは、粉もの倉庫の仕事の忙しさがピークとなる時間帯だというのが問題である。

「村上さん、この前貸した詰め将棋の本、そろそろ返してくれませんか。僕はいま将棋のレート対戦で、ランキング入りを狙っているんです。勝率を上げるために、勉強をしなければならないんです」

 手のひらを突き出して、厳しく本の返却を迫っているが、その本は村上が頼んで借りたものではなく、将棋に興味もない村上に、端本が自分の好みを押し付けようとして、勝手に貸したものなのである。

「希美さん、僕は家では将棋を嗜み、外では美術館によく出かけるんです。好きな食べ物は、見かけによらないとよく言われますが、ソースカツどんです。それから・・・」

 好意を持った相手のことを知ろうとするのではなく、話すのはいつも、自分のことばかり。自分が相手をどれだけ好きかだけが大切で、相手が自分をどう思っているかは気にもしない。

 彼がそうなってしまうのは、彼が悪いからではなく、彼の脳の構造の問題なのだとわかっていても、不快感と嫌悪感は拭えなかった。

 同じ工場で働く女性、六人に告白をした端本は、つい最近まで、はんぺんラインの向井凜に思いを寄せていたはずだった。しかし、その凜が、突然、何の前触れもなく工場からいなくなった途端、希美にターゲットを移すようになっていた。

「希美さん、あなたは寺井さんに騙されているんです。寺井さんに、あなたを幸せにする気などないんです。希美さんを幸せにするつもりがあるのは、僕だけなんです」

 他人の気持ちがわからない上に、他人の気持ちを自分に都合の良いように解釈する悪癖のある端本は、牛尾と同様に、工場での様子から、希美と寺井がうまくいっていないのを察し、自分が希美を奪えると確信しているようだった。

「僕は寺井さんから希美さんを救い出します。僕にはわかるんです。今の寺井さんは、敵に落とされて燃え盛るお城のようなものです。僕はお姫様を助け出すんです」

 どこまでも独りよがりな端本を、張り倒してやりたかった。
 
 自分をお姫様になぞらえるつもりはない。しかし、仮にそうだとして、お姫様が燃え盛る城から逃げ出したがっていると、どうして決めつけるのだろう。
 
 誠也さんと離れるくらいなら死んだ方がいいという希美の気持ちを全然理解してもらえないから、両親とも縁を切ったくらいなのに、ほかの男から声をかけられて、ほいほい付いていくはずもない。

 しかし、ちゃんと断らなかったのがいけなかったのだろう。フラれたことを根に持った牛尾と、脈があると思い込んでいる端本からの「迷惑行為」は、毎日のように続いた。

「あの女、せっかく俺が声かけてやったのに、無視しやがって。あんなだらしのない、チャランポランな寺井なんかの、どこがいいのかね」

「希美さんは幸せになるべき人なんです。そして、希美さんを幸せにできるのは、一生涯、希美さんへの純愛を貫きとおすことができる、僕だけなんです」

 英雄気取りの迷惑男たちの存在はストレスだったが、それが致命的でなかったのは、それ以上に希美の心を蝕む材料があったから。

「寺井くん、私を助けて。あいつ、毎日ぶつぶつ独り言いったり、急に叫びだしたりして怖い・・・。このままじゃ私、お腹の子と一緒に殺されちゃう。怖い、助けて」

 口では夫からの解放を望んでいるようなことを言いながら、離婚もせず、正常な思考を保てなくなった真崎と、いつまでも一つ屋根の下に一緒に住み続けているあの女の人。

 プリンセス・プリンセス・プリンセス。

 女はいくつになっても、お姫様でいたい。

 燃え盛る城から、王子様が救い出してくれるのを待ちわびる日々が、あの女の人にとっての人生の絶頂。逃れたいと口では言いながら、内心、ずっとその日々が続くのを望んでいるのだ。

 人のことは言えない。安定した結婚生活を捨てて、リスク承知の生き方をする男を選んだ自分に酔っている希美もプリンセス。

 大学を出て、安定した会社に就職して、真面目な男の人と結婚して、子供を産み育てて・・・。

 それが幸せだって、誰が決めたの?

 誠也さんと出会ってから、正社員の職についている人からデートに誘われることは何度かあったけど、それを断るとき、希美はいつも痛快だった。

 今も、燃え盛る城に敢えて留まり、愛した男と運命を共にしようとしているプリンセス。焔にすっかり取り囲まれた今が一番のエクスタシー。

 だけど、心の隙間は、どうしようもなく開いていく。

 シャワーを浴びた後、ボサボサにしている髪をジェルで整え、無言で家を出ていくときが、あの女の人のところに行く合図。誠也さんが家を出たすぐ後に、希美も家を出て、パチンコ屋へと向かう。

 たまに勝つこともあったが、月単位では負けが込んでいた。いつか、「誠也さんに「仕事」の話が舞い込んで来たら、すぐに派遣をやめて創作活動に専念させられるようにと、爪に火を点すようにして貯めたお金は、ものの三か月ほどで吹き飛んでいった。

 それでも、違法賭博屋への寄付はやめられなかった。寄付代を捻出するために、とうとう、愛してもいない男に抱かれるようになった。


                           ☆


 妻でもないのに人妻デリヘル。人付き合いが苦手で、うまく接客のできない希美は、いつまで経ってもリピーターがつかず、お茶を引いてばかり。出勤を増やさないことにはどうしようもなく、心と身体は擦り減っていった。

 誠也さんは、希美の帰りが遅くなったり、休日に黙って外出する理由を、まったく尋ねてこなかった。その無関心がなにより辛かった。

 希美が風俗で働いていることを、誠也さんよりも先に突き止めたのは、伊達巻ラインの牛尾。一度、パチンコ屋を出たその足で、デリヘルの待機所に向かってしまったのが運の尽きだった。牛尾が何とかして希美の弱みを握ろうと、常々目を光らせていたことは知っていたが、まさか、尾行までされるとは思わなかった。

 客として現れたときはさすがにNGにしたが、その翌日に脅された。派遣の仕事を失ったところで、痛くも痒くもない。誠也さんに知られたところで、誠也さんはもう、「エキストラ」の一人と化した希美のやることには、興味も関心もない。言いふらすなら勝手にどうぞとやり過ごした翌日に、あの人が客として、希美を指名してきた。

 真崎信一。誠也さんが破滅へと向かう、直接のキッカケを作った男。

 わかってる。この人がいなくても、誠也さんが暴走を始めるのは、時間の問題だった。誠也さんは、すでに導火線に火がついている状態だった。

 「一生懸命頑張ったけど報われなかった」自分が、「頑張らなかったから恵まれないだけ」の人間と一緒くたに扱われ、「頑張らなくても恵まれている」人間への拍手を強要されているのが我慢できない。それが理由でレールを外れたはずが、いつの間にか、「頑張らなかったから恵まれないだけ」の集団にすっかり埋没し、そこから身動きが取れなくなっていた。

 ただ生きるだけということに、どうしても興味が持てない。我慢して、自分を殺して、好きでもない友人と付き合って、尊敬もしていない人を褒めたたえて、無理やり集団に溶け込んで。その先に自分の幸せがあると、どうしても思えない。

 人から言われるまでもなく、報われない創作活動など、やめたいのは山々なのに、その理由が見つからないから困っている。こちらが何年も前からずっと考えていて実行しなかっただけのことを、さもこちらがまったく気づいていないことを指摘してやったかのように、得意げに言うな。

 この人が、すべて悪いわけじゃない。それでも、この人さえいなければ、慎ましくも穏やかな暮らしが、まだ続いていたかもしれない。

 自分の女房を寝取った男へのささやかな復讐のつもりか、希美を指名してきた真崎を、初めは牛尾同様、店に連絡してNGにしてやろうと思ったが、憎しみと罪悪感がない混ぜになったような真崎の瞳を見つめているうち、にべもなく追い返すのも躊躇われてきた。

 落ち窪んだ眼窩、淀んだ瞳、げっそりこけた頬、弛んだ顎。誠也さんに、自分の大切にしてきたささやかな幸せを粉みじんに破壊されたこの人は、自分と同じではないのか。

 共通の「敵」を抱えているのだと思うと、動機はどうあれ、真崎が自分と肌を重ね合わせたいと思っているのを拒むことができなくなった。やっぱり、どこかで誠也さんが悪いと思っている自分に気づくと、このまま、堕ちるとこまで堕ちていきたくなった。

 希美が無言のままでいると、真崎が勝手に服を脱ぎだした。逃げ出すわけにもいかない状況になった。 
 
 希美は目の前の男を真崎ではなく、誠也さんが考えた幻獣、説教獣フンバカだと思うことにした。

 説教獣フンバカは、心は純粋だけど、ちょっぴり寂しがり屋で、自分を人に認めてほしくて、ついつい、自分が下だと思った人に対し、偉そうにしちゃう幻獣。自分と考えの違う人を見かけると、ついつい、真っ直ぐな男になれーっ、強い男になれーっ、彼女を幸せにしろーっ(本当はもっと中身のあることを言っていたと思うのだが、あまりに馬鹿らしいため、すべては思い出せない)、て、鳴き出しちゃう幻獣。

 重いバケツや一斗缶を持ち上げて鍛えられた腕は丸太のようで、胸板も分厚いけど、お腹はたるんたるん。乳首に一本、長い縮れ毛が生えている。

 目の前の中年肉体労働者の身体は、ワイルドさと気色悪さを兼ね備えて、確かにちょっと、幻獣っぽいなと思った。

 だけど、これからプレイで使うもの―――下腹部にぶら下がっているふにゃふにゃしたものは、幻獣というより、なんだか蟲に似ているような気がした。

 これは何の虫? 

 オオマダラハゲキレイゴトクソムシ。

 誠也さんが、あの女の人の前で言う真崎の呼び名。
 
 オオマダラハゲキレイゴトクソムシ。希美はこの綽名が大嫌いだった。なんだか語呂が悪いし、可愛さがまったくない。あの女の人が、こんなセンスのない綽名を誠也さんと言い合って、説教獣フンバカに対して溜飲を下げているのだと思うと、惨めでおかしかった。

 オオマダラハゲキレイゴトクソムシを触ったり、咥えたりするのは気が引けたけど、それが仕事なのだから仕方がない。希美は、仰臥して天井を見つめたまま微動だにしない説教獣フンバカの股間に顔を埋めた。

 オオマダラハゲキレイゴトクソムシは、手で扱いても、口でしてみても、ふにゃふにゃしたままで、なかなか大きくならなかった。説教獣フンバカが、希美のおっぱいを触りたそうにしてたから、今度は希美が受け身になって、好きなように身体を弄らせてあげたけど、やっぱりオオマダラハゲキレイゴトクソムシは、ピクリとも反応しなかった。

「これじゃない・・・こんなんじゃないんだ・・・」

 なんとか、時間内に射精させてやろうと、希美がふにゃふにゃしたままのオオマダラハゲキレイゴトクソムシを潰れるほど強く握りしめ、ハイピッチで皮を扱いていると、説教獣フンバカは、突然、声を上げて泣き始めた。

 どうしていいのかわからず、ただ、全裸でベッドに座ったまま、途方にくれていることしかできなった。時間が終わると、説教獣フンバカは、希美がバスルームに導こうとするのを振り切り、幽霊のような足取りで、レンタルルームを出て行ってしまった。


                           ☆


 翌朝、早出の仕事を終えて休憩室にやってきた真崎に、端本が絡んだ。

「真崎さん。とある情報筋から仕入れた話ですが、あなたは、風俗に行ってるんですか。あなたは悪い人です。女性の身体をお金で買う人は、心が汚れています。そういうことは、愛し合う人同士でするものなんです。あなたは志保さんという人がありながら、なぜ風俗に行くのですか。僕はあなたを許せません。あなたは、ゲス不倫です」

 誠也さんの始めた「ゲーム」は一人歩きを始め、多くの人を巻き込み、災厄のように広がっていく。

 虚実を織り交ぜた話がどこからともなく伝わり、互いの足を引っ張ることで日常の憂さを晴らそうとする人々を狂気へと駆り立てていく。去年の同じ時期には、歪ながらも纏まっていた工場の派遣社員たちの絆は崩壊していた。

「何を言ってる。気持ち悪いんだよ、お前は。ほら、もう始業の時間だぞ。寺井も、さっさと支度をしろ。志保。もし身体の具合が悪かったら、無理しなくていいからな。俺でも、岡本さんでもいいから、すぐに言うんだぞ」

 プライベートでは、不貞を働く妻と、家の中を我が物顔で闊歩するに誠也さんに何一つ言えない真崎だったが、あくまで職場では強気なリーダーの貌だった。

 どうも、真崎はあの女の人に、どんなに心は冷めていても自分と離婚せず、会社のみんなの前では、これまで通りに自分と接して欲しいと頼み込んでいたらしい。

 世間体――真崎がそれにこだわるのは、プライド以外にもう一つ。誠也さんがあの女の人に仕込んだ子供のお陰で、大丸食品が、真崎を正社員として採用するという話が持ち上がったからである。

「やっぱり、正しい道で頑張っていれば、世間は認めてくれるんだよ。見てる人は見てるんだよな」

 限界ギリギリの状態で突破口を見つけた真崎には、中学生でもおかしいと思うような、単純な物の道理も見えなくなっていた。我慢して、理不尽も受け入れて、托卵された子を自分の子のように育てて、それをそこまでして手に入れたい気持ちは、希美にもまったくわからなかった。 

「希美ちゃん。いっちゃ悪いが、自分の女房を、あんな店で働かせるような男は、クズの中のクズだ。俺がいくら言ってもまともな職に就こうとしないし、俺にはアイツが君を幸せにできるとは思えない。あんなヤツのことは見捨てて、うちのエースの、牛尾と住んでみるってのはどうだ?ああ見えて、一途なヤツなんだぞ」

 その、あんな店で自分を指名してきたのは、どこのどいつだ――。風俗嬢に説教をする客は珍しくはないが、このときほど腹が立ったことはなかった。

 新年会――あの女の人のお腹の中で、取返しの付かないものが作られた日も、真崎は誠也さんに、就職をして希美を幸せにしろと、しつこく迫っていた。

 ただ生きているだけで丸儲けという人生にまったく興味のない誠也さんに、一般企業への就職を勧めたところで、素直に耳を傾けるはずもない。まだ、名の知れた大手に口を利いてやるというような夢のある話ならともかく、真崎の勧める就職とは、学歴も職歴もない誠也さんが、三十歳になった今から就けるような仕事のことを言っているのだからどうしようもない。

 なぜ、就職をすることが、彼女を幸せにすることだと、勝手に決めつけるのか?あんたはただ、誠也さんに自分の人生を後追いさせて、自分がコイツの導き手になってやったという優越感に浸りたいだけでしょ。

 働かずに周りを不幸にしているならともかく、自分の食い扶持を自分で稼ぎながら、空いた時間で夢を追っているのに、どうして文句を言われなきゃいけないの。 

 真崎に反論したいのに、声が出てこなかった。誠也さんを庇ってあげなきゃいけないのに、あろうことか、真崎の押しに負けて、誠也さんを責める側に回ってしまった。
  
 だから、取返しのつかないものが出来てしまった。誠也さんが夢を終わりにしなければいけなくなったのも、自分が苦しい思いをしているのも、なにもかもすべて、自分のせい、自分のせい、自分のせい・・・。

 母乳事件――誠也さんの自滅に、多くの罪のない人が巻き込まれなければいけなくなったのも、自分のせい、自分のせい、自分のせい・・・。


                            ☆


 炎上する城、四方八方から責めかかる敵、自分を責める日々。

 心身の強いストレスで、睡眠時間が不規則になっていった。昼間にどうしようもなく眠くなったり、夜目が覚めて、朝まで眠れなくなってしまうことが増えた。

 早朝に起きて作業を始める誠也さんの邪魔にならないよう、意識がはっきりしていても、寝たふりをして、布団に包まっている。黙っていても、誠也さんが編集に使っているPCの画面はどうしても目に入ってきてしまうし、誠也さんの呟くモノローグも耳に入ってくる。

 取返しのつかないもの――あの女の人に産ませた子に向けた、聞いているこっちが鬱になりそうな言葉の数々。あの女の人が、製品に母乳を混入させている映像を含む、複数の違法行為を撮影した映像とともに、それをインターネットの海に流して「炎上」することにより、世間の反感を集め、自分の思い描いていた輝かしい未来を粉々に打ち砕く。

 どうやらそれが、誠也さんが最後に、自分のこれまで行ってきた創作活動――「和」から抜け出すための戦いの日々にケジメをつける計画の全容らしかった。

 好きなように、やらせてあげなければいけない。けして許されない裏切りを二度も働いた自分に、誠也さんを止める資格はないのだ。

 毎日のパチンコ屋通いをやめられない。サラ金からの借金が、もう百万円を超えていることを隠している。生活を支えてあげるどころか、足を引っ張っている自分にできるのは、せめて最後を迎えるそのときまで、誠也さんの歩む後ろ姿を、邪魔にならないように見守ることだけ。

 口のなかがもにゅもにゅし始めると、歯を磨く。二十分くらい経つと、また口の中がもにゅもにゅとし始める。

 仕事とはいえ、あれを口に含んでしまったのは最悪だった。ほかの客のときは平気だったけど、説教獣フンバカのときだけは、本当にキツかった。こんなんじゃない・・・こんなんじゃないんだって、子供みたいに泣く声が染み着いて・・。

 苦しい思いを人に伝えられれば、少しは楽になるのかもしれないが、言葉が出てこない。

 失声症――。

 けして許されない裏切りをしてしまったときから、希美は言葉をうまく発することができなくなっていた。

 人の考えていることが手に取るようにわかる誠也さん。その誠也さんの考えていることが手に取るようにわかるようになってしまったとき、希美は自らの言葉に恐怖を覚えるようになっていった。

 宿願――「頑張っても報われなかった」のに、「頑張らなかったから幸せになれなかった」人間と一緒くたに扱われ、「頑張らなくても幸せになった」人間への拍手を強制される世界「和」からの脱出を目指す。

 希美の中で開花した能力を使えば、あるいはそれを成し遂げることはできたのかもしれない。でも、誠也さんは、きっとそれを受け入れない。

 希美が誠也さんの半分以下の努力で、誠也さんを上回る能力を手に入れてしまったことがバレたら、何も変わらない日々が終わってしまうのは、目に見えていた。

 何も変わらない日々が、一番の幸せである――親や友人たちから、そう教え込まされてきたのに反発する気持ちで、誠也さんとの同棲を始めたはずだった。

 何も変わらない日々が、一番の幸せだと、気づいてしまった。明日にはきっといい知らせがある、来年はきっと今よりマシになっていると、そう信じていられる日々が、一番の幸せ。

 自分が感じたこと、頭に思い浮かんだことを言葉にしようとすれば、この何も変わらない日々が、終わりを迎えてしまう。誠也さんの撮った映画を観て感じたことがあっても、なにも口にしないようにした。そのせいで、誠也さんの気持ちが自分から離れていっているのがわかったけど、また裏切るよりはマシだと思った。

 説教獣フンバカが現れて、あの女の人が現れた。説教獣フンバカから誠也さんを守るための言葉も、あの女の人から誠也さんを取り戻すための言葉も、希美の口からは出てこなかった。

 あの女の人の顔を思い出して、口の中のもにゅもにゅ感が強まった。カワイイ説教獣フンバカの股間にぶら下がっているオオマダラキレイゴトクソムシが、希美の口の中で、本格的な大暴れを始めた。

 オオマダラキレイゴトクソムシは一匹だけじゃなく五匹も六匹もいて、口の中でうにゃうにゃうにゃうにゃ動き回る。気持ち悪いなんてものじゃない。

 感じたこと、考えたことを吐き出す手段がないと、イメージがどんどん膨らんでいって、頭の中に納まりきらなくなる。反抗期の小学生や中学生みたいなもので、だから泣きわめいたり、大騒ぎしたりしなければならなくなる。

 泣きながら歯を磨き、うがいをして、意識を空にし、布団に包まる。段々とその間隔は短くなっていって、誠也さんも、希美の方を気にし始める。

 誠也さんの邪魔だけは、してはいけない。歯がなくなってしまえば、オオマダラハゲキレイゴトクソムシが、いなくなるかもしれない。

 希美はペンチを持ち出して、奥歯を引っこ抜こうとした。そんなことをすれば、口から血が溢れ出してきて、余計に誠也さんに心配をかけてしまうと、わかっているのにやってしまう。身体を傷つけて注目を浴びようとするメンヘラの少女程度の問題解決能力しか、今の希美は持ち合わせていなかった。

 芝居だけでは、今の、自分以外のすべてを道具としか見なくなった誠也さんは見向きもしてくれない。希美は意を決して、ペンチで奥歯を挟む手に、ありったけの力を込めた。思い切りそれを、百八十度横に捻った。

 沢山のネジを食べているように、口の中がジャリジャリして、鉄の味がいっぱいに広がった。希美は立て続けに、二本、三本と、ペンチで歯を引き抜いていった。洗面台がどす黒い血で溢れていった。

「ごめん」

 誠也さんが、希美の手からペンチを奪い、希美をかたく抱きしめた。シャツが汚れてしまうから、そんなんしないで・・。
 
「君はずっと変わらなかったんだな。変わったのは、僕だけだったんだよな」

 変わったのは、誠也さんだけじゃない。

 初めは、嫌悪感しか持っていなかった。

 淡泊で、適当で、飄々としてて、世渡りの上手そうな人が、自分がいないと何もできない、とんでもなく不器用な人だったと知って、放っておけなくなった。

 気づけば、希美の方が、どっぷりと依存していた。この人のいない人生を、自分の人生だと考えられなくなった。

「もうずっと、君の声を聞いてなかった。君と話していなかった」

 声を失ったのは、希美が誠也さんを裏切ったから。誠也さんは、何も悪くない。

「ごめん。君が何も話さなくなって、正直、僕はホッとしていた。君の口から、言葉が出てくるのが怖かった。君がずっと話さなければいいなって、思ってた」

 謝らないで。悪いのは全部、希美だから。 

「ごめん。自分のことばっかりで、君のことが見えていなかった」

 希美なんかに構わなくていい。希美はどうなってもいいから、誠也さんは、自分のやりたいことを、やりたいようにやって。最後まで、見届けるから。

「ごめん」






プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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