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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第182話

 中目黒のキャバクラ、「クラッシュ」で勤務を終えたT・Nは、客から貰った貢物の整理に追われていた。

「時計、財布、バッグ・・・。すごいですね。今まで貰ったもの全部質に流せば、百万くらいにはなるんじゃないですか」

 整理を手伝ってもらっているのは、「クラッシュ」ではマネージャーを勤める、「青春の殺人者」佐々木哲也くんである。

「そんなことできないわよ。お客さんの中には、プレゼントされたものを身に着けていないと気分を悪くする人もいるんだから・・。全部ロッカーに置いて、お客さんによって付け替えないと・・」

 そうして溜まってしまった貢物が、前の店から合わせて、もう35点である。ロッカーの中だけではスペースが足らず、いずれ専用のレンタルルームを借りなければいけなくなるのは、時間の問題だった。

「先輩、お先に失礼します」

 帰路につく後輩のキャストたちが、Nに頭を下げる。

「うん、お疲れ様。また明日ね」

 後輩のキャストたちは、皆キャバクラは未経験。私より年上の者が多いが、皆、他店で実績のある私を敬ってくれる。初日にいた経験者で、私に妙な対抗意識を燃やしていた女は、オーナーの八木に頼んで早々に追い出した。売上も当然、私がナンバー1。オープンから一週間を過ぎた段階で、ナンバー2にトリプルスコアを付けての独走状態である。

 ここは私の王国。逆らう者は、誰一人としていない。何もかもが思い通りにいく。八木の店に移るにあたって、私が狙っていた通りの展開になっていた。

「うらぁ、八木はおるか、八木は!」

 私以外のキャストがいなくなった店舗に、突如として粗暴な怒鳴り声が響き渡る。

「なに?なんなの」

「Nさんはここで待っていて。いざとなれば、裏口から逃げてください」
 
 同盟者である私を残して佐々木くんが出ていったホールの様子を、私は廊下から影に隠れて見る。そこには巨漢の男たちが三名・・。大会参加者の、北村一家であった。

「お前ら・・!」

 佐々木くんは、ナイフを構えて威嚇する。しかし北村一家は、何か不敵な笑いを、肉厚の顔に張り付けているだけである。

「あほが。今日俺たちが来よるんは、そげなんじゃなか。にしゃらのごたる雑魚は、俺らがやらんでも、いずれ他の誰かにやられよる。俺たちが今日きよったんは、きさんらから金を頂くためバイ」

「なんだと・・・」

 八木と佐々木くんは、北村一家からは敵ではなく、ただの財布としか思われていない。殺そうと思えばいつでも殺せるが、あえて生かして金を奪う。吸い尽くされるだけ吸い尽くされて、いずれ死ぬだけの存在。そうした彼らに対する認識は、おそらく麻原や松永ら他の参加者も一緒・・。残酷であるが、それが今の八木、佐々木コンビの現状であった。

「逆らえばこの場で殺すだけやが・・・。もし大人しく金ば出すなら、ちょこっとは寿命が延びるぞ。さあ、どげんするね」

 小学生の子供を相手にするような、舐め腐った北村一家の態度。実際に、彼我の戦力に大人と子供ほどの開きがあるのは間違いないが・・・。

「ふざけんな、お前らっ!」
 
「ちょっと待って」

 激昂して北村一家に切りかかろうとした佐々木くんを、私は制止した。そして、北村一家に、今持っている財布を投げつける。

「それに四十万は入ってるわ。お金だけ抜いて、財布は返して。お客さんからもらった、大切なものだから」

 北村一家は財布の中身を抜き、福沢諭吉の数を確認すると、私に空になった財布を投げて返した。

「ふん、今回んところは、こんくらいで勘弁してやるバイ。次くるときは、こん金を倍にして寄越せ。なんなら、そこにいる姉ちゃんが、ワシの息子らに一発ずつやらしてくれるってんでもよかぞ」

 下卑た笑いを浮かべる三人の巨漢男に、私も鳥肌を禁じ得ない。しかし、けして視線は逸らさない。

「また来るバイ」

 襲撃者は去っていった。三日分の給料を失ってしまった私は、オーナーである八木の部屋へと向かう。八木はあろうことか、デスクの下に隠れ、頭を押さえて、小動物のようにガタガタと震えていた。

「ずっとそうしていたの」

「・・敵は・・・敵は帰ったのか?」

 冷たく見下ろす私に、八木は怯えた声音で問う。

 何もかもが、変わり果てている。松永との戦いで、八木は財産だけでなく、男のプライドまでも砕かれてしまっていた。

 頼りがいの欠片もない中年男。その姿はダメオヤジそのもの。しかし私は、この哀れな八木を見捨てることができない。

「敵はいなくなったわ。今日はもう安心だと思う。念のため、あなたが帰るまで、うちの男二人に護衛を頼んでみるから」

 自分の財布から出した金で襲撃者を追い払ったことは、八木には言わなかった。私のための「王国」への投資だと思えば、あのくらいは安いもの。そう自分に言い聞かせた。

 やがて迎えに来たA・Sとともに、私たちは揃って帰路へとつく。「王国」を維持するために、私は八木を捨てるわけにはいかない。それよりも――何よりも私は、哀れな八木を捨てないことこそが、かつて道を踏み外し、今もなお醜い犯罪者と血みどろの戦いを繰り広げている自分が唯一、「人」である証なのだと、固く思い始めていた。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第181話


 保育士マキとのデートから、十日余り。「毒魔羅」が完治した宮崎勤は、かつてない煩悶に苦しめられていた。

「僕は木島香苗が好き。僕は木島香苗が好きじゃない。僕は木島香苗が好き。僕は木島香苗が好きじゃない。僕は木島香苗が・・・」

 花占いは、また恐ろしい結果が出てしまった。これでもう、五回連続である。

「あっあっあっ。こんなのは、嘘なんだっ、ああっ、ああっ」

 錯乱した僕は、先ほど、四、五歳の女児が口をつけて飲んだ公園の水を、自らもまた口をつけて飲んだ。次にやったのは、僕の恋のキューピッド、松永への電話だった。

「宮崎さんですか。どうしたんですか?」

「あっあっあっ。さっき、五歳の女の子の虫歯菌が、僕の口の中に入ったんだっっっ。これで明日僕の歯はボロボロになり、入れ歯を入れなくちゃいけなくなって、口がうんこの臭いになって、木島に嫌われるかもしれないんだっ」

「そうですか。では、ポリデントをお届けすればよろしいですか?」

「あっあっあっ。またかけなおすんだっ」

 僕は電話を切り、今度は公衆トイレに入って、昨日から取り組んでいる、ある実験に入った。

「となりのトットロ、トットーロ」

 iPodから流れるのは、僕のリスペクトする、宮崎駿監督の名作アニメ、となりのトトロである。これを聞きながら、かつて愛した女、マキをおかずにオナニーをした場合、射精までに要する時間は、4分21秒である。

「こ~い~しちゃった」

 続いては、YUIなる歌手の代表曲、「こ~い~しちゃった」である。これを聞きながら、木島の痴態を思い浮かべてオナニーをした場合、射精までに要する時間は、4分11秒・・・。先ほどのタイムを、10秒上回っている。

「あっあっあっ」

 いったい、どういうことなんだ。二発目なのに、あんな木島をおかずにしたのに、こんな、本当のタイトルもわからないような「こ~い~しちゃった」なんて曲を流しているのに、どうしてさっきよりも早いタイムが出るんだ。しかも、こ~い~しちゃった、のリズムに合わせて魔羅を摩擦すると、すさまじい快感が走るのは、なんでなんだっ!

 納得のいかない僕は、再び松永に電話をかけた。

「どうしました、宮崎さん。今度は、8歳の女児の淡を飲んだとか、そういうことですか」

「あっあっあっ。こーいーしちゃったを流したら、トトロのときより出るのが早くて、僕はいったい、どうしたらいいんだっ」

 松永が適当なことを言いやがったのには若干腹が立ったが、僕は怒りたいのを我慢し、さっき起こったことを的確に述べた。

「そうですか。宮崎さんの意中の女性こそトトロみたいなのに、変な話ですね」

「あっあっあっ」

 松永が木島の体型を揶揄したとき、僕の心の底に溢れるのは、怒りである。つまり、僕は木島に恋をしている・・・?

「ちなみに、宮崎さんが先ほどおっしゃった曲のタイトルは、CHE・R・RYです。宮崎さんはもうチェリーボーイではないのだから、そんなに慌てる必要はないのではないですか」

「あっあっあっ」

「では、また何かあったら、お電話ください」

 松永が適当にまとめやがったのには腹が立ったが、ともかく、僕はトイレの床にぶちまけた精液をそのままにしてトイレを出、そのトイレにさっきの五歳の女児が入ったのを見届けた後、家へと帰った。

 木島香苗の姿は見えない。どうやら、何処かへ出かけているようである。さきほど、立て続けに二発精を放ったばかりであり、木島のパンツを漁る気にもならない。落ち着いた僕は、尊敬する夜原なおき先生への手紙を書くことにした。

――夜原せんせい、こんにちは。私は今、恋をしています。その相手は、ふくよかな体型をしていて、人の心を操るのがとっても上手い人です。もう、苦しくて、胸が張り裂けそうで・・。どうすればいいのか、困っています。 今田夕子

 こんな悩みなど打ち明けたら、夜原先生の創作の妨げになってしまうかもしれない。しかし、僕のために約束を守り、何だか知らないが、何か大事な戦いに勝ってくれたという夜原先生なら、何か力になってくれるのではないか。ずうずうしいと思いながらも、期待を込めて、手紙を書いた。

「勤さん」

「わっ」

 手紙を書き終えた僕の後ろから、でかい顔をぬっと突き出し、いきなり木島香苗が声をかけてきた。書くのに夢中になりすぎ、象が歩くようなでかい足音に気が付かなった。

「お、おかえり・・・なんだい」

「あのね。さっき、お世話になっているある人から、久々に殺人の依頼を受けたのよ」

 この声を聴くだけで、ドギマギする。なんでこんなことになってしまったんだ。

「そ、そう・・・で、今度は、誰なんだい」

「麻原彰晃の命を、取ってきてほしいの」

「え!」

 麻原彰晃といえば、大会最大の大物・・・。戦いにはまったく興味がない僕でも、あいつを殺すことは、他の奴らを殺すこととはわけが違うことくらいはわかる。簡単には頷くわけにはいかない。

「お願い・・・」

 しかし、木島に上目づかいをされると・・・。僕は、僕は、参ってしまう。

「う、うん・・・。わかったよ・・・。いつか、ね・・・」

 本当に、なんでこんなことになってしまったのか・・。煩悶に苦しめられつつ、僕は今日も、「小学五年 国語」の教科書を開き、「赤い実弾けた」を読んだ。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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