凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十六話

「うおおおおおっ!こええええっ!」

「うわあああああっ」

 時刻は22時30分。パソコンで動画観賞をしていた菊池正と関光彦が、阿鼻叫喚の悲鳴をあげた。彼らが視聴しているのは、ユーチューブに転がっていた「べティの誕生日」である。麻原彰晃率いるバドラでは、8月に肝試しを予定しており、そのときにために恐怖に慣れておこうと、心霊動画を視聴することになったのだ。

「これは作り物ですね。構成が説明的すぎます。それに、作りが甘いです。エミリーたちがテーブルを囲んでいる場面ですが、ケーキ以外に何も料理が載っていない。飲み物すら載っていないのは、明らかに不自然です」

 恐怖に震える他のバドラメンバーをよそに、正田昭が、冷静な推理を述べた。

「そ、そうだったのか。よかった~」

 単純な菊池正が、安堵の溜息をもらす。

「ってか、尊師、何してんのさ。一緒に動画観ようよ」

 パソコンから離れ、一人「イブニング」を読むふりをしていた自分に、関光彦が声をかけた。自分は、オバケの類は大の苦手なのだ。

「う・・い・・いや、俺は、遠慮しておく。ちょっとこれから、ヨーガをしなくてはならんのでな」

「何いってんの。午後のヨーガは、もう済んだでしょ。ほら、早く一緒に観ようよ」

 関光彦が、逃げようとする自分の腕を掴み、強引にパソコンの前に連れていった。

「なあ、心霊動画はいいから、プロ野球中継でも観ないか?ブランコのホームランが、見れるかもしれないぞ」

「尊師、野球はもう終わりましたよ。さあ、一緒に観ましょう」

 勝田清孝が、往生際の悪い態度を見せる自分に、ニヤニヤと笑って言った。尾田信夫が、パソコンを操作し、心霊動画を物色する。尾田が次に選んだのは、「奇跡体験!アンビリバボー!」の、心霊映像特集だった。

「鏡の中に写る・・少女の霊が・・恨めしそうに・・こちらを見ている・・」

 麻原は、歯を食いしばった。信徒たちは、動画を見ながら、自分の様子にも注目している。ここで目を背けるようなことがあれば、自分の威厳も崩壊してしまう。耐えるしかないのだ。

 そしてついに、カメラの中に、霊の姿が映し出された。

「ううっ・・・・くっ・・・!」

 慣れが生まれてきたのか、今度の映像では、関光彦も菊池正も悲鳴をあげたりはしない。だが、自分にとっては、身も凍るような恐怖だった。

「もう一度・・・・」

 ふ・・ふざけるなっ。なぜ、もう一度やるのだ。あの恐怖を、二度も味わえというのか。しかし、バドラの信徒たちは、なぜこうも冷静でいられるのか。スタジオの所ジョージたちも、怖がっているではないか。ナレーションの声は、昨日、関光彦が観ていた、オバンゲリオンだかエバラゲリオンだかのアニメに出てきた髭面の男の声だ。あのアニメの中の男は、なかなか見どころがある男だと思っていたが、その声の主のことは、嫌いになることを決めた。

「ぬおおっ・・・くっ・・」

 麻原は恐怖に震えながら、縋るように、正田昭の方を見た。薄い唇は微動だにしない。さっきの動画のように、彼が作り物と言ってくれるのを期待していたのだが、それは叶えられなかった。

 地獄の時間は、就寝時間の23時30分まで続いた。信徒たちは、明日は「仄暗い水の底から」を観てみようという。憂鬱な気分を引きずりながら、麻原は床に就いた。


 翌朝。麻原たちは、朝食を摂りに「松屋」に足を運んでいた。麻原たちが揃って注文したのは、牛丼の大盛りである。

「こらあっ。袋の中の紅ショウガは、用具を使って一つ残らず使えって言ってるだろ!なんでわかんねえんだ!」

 七三頭の、やや古風ではあるがそこそこ整った顔立ちをした20代半ばくらいの店員が、若い店員に叱責した。若い店員は、紅ショウガの補充を行っており、その際、業務用紅ショウガの袋の中に、大量の紅ショウガが付着した状態で袋を捨てたことを咎められているようだ。

 たしかに食べ物を粗末にするのは褒められたことではないのかもしれないが、時と場合によるだろう。暇な時間帯ならいいが、通勤前のサラリーマンで賑わっている今の時間帯にそんな細かいことをいちいち言うのはどうなのか。「食べ物を粗末にするのはお金を粗末にするのと同じこと」など、しみったれ根性を変な言葉で美化するのは結構だが、そのために一番大切な客をないがしろにしていては仕方ないと思うわけである。

「お客さん、ちょっといいですか?」

 七三頭の店員が、今度は麻原たちの前にやってきた。

「うちの店では、持ち込みは禁止されているんです。その牛丼、返してもらえますか」

 どうやら七三頭の店員は、麻原達が、自宅から持ち込んだ卵を牛丼にかけたことを咎めているようだった。

「なぜ、返さなくてはならないのだ。昨日の店員は、見逃してくれたぞ」

「そいつはそいつ。俺は俺です。今、店を任されているのは俺ですから、俺の権限で決めさせてもらいます」

 麻原が抗議すると、七三頭の店員は、巨悪に立ち向かう青年弁護士のような眼差しでもって自分を見据えて言った。時給は弁護士の十分の一にも満たないのに、正義感だけは負けていないつもりらしい。バイト店員のくせに、くそまじめに仕事しおって。こういう奴がいるから、職場が息苦しくなるのだ。バイトはバイトらしく、いかにサボりながら立ち回るかだけを考えて仕事をしていればいいだろうが。

「ふざけるな。俺たちはちゃんと金を払って、飯を食っているのだ。それをいくら持ち込みした食品をトッピングしたからといって、なぜ返さなければならないのだ。そんな法律があるのか!」

「屁理屈をこねないでください。どうしてもというなら、俺のポケットマネーから金を返します。それで帰ってください」

 麻原はゴネたが、七三店員は聞く耳を持たない。なんと頑固な男であろうか。

「ちょっと待ってください。私たちから牛丼を取り上げたとして、残った牛丼はどうするつもりですか?」

 麻原がさすがに観念して引き上げようとしたところで、正田昭が口を開いた。

「食べ掛けは捨てる。それがどうかしたか?」

「先ほどあなたは、紅ショウガを無駄にした件で、後輩を叱責していましたよね?器に半分以上も残った牛丼を、私たちが食べたいと言っているにも関わらず捨てるというのは、それと矛盾していると思うのですが、どうでしょうか」

 正田昭が理路整然と矛盾を解くと、七三頭の店員は眉間にしわを寄せ、何かを考え始めた。

「・・いや、参りました。確かに、あなたの言う通りだ。どうぞ、食事を続けてください」

 さしも頑固な七三頭の店員も、ぐうの音も出ない正論である正田昭の抗議ばかりは受け入れざるをえないようだった。

「・・うむ、さすがは昭だな。俺の言いたいことを、全て言ってくれた。俺もまったく同じことを思っていたのだが、信徒の成長のために、あえて、クレーマーみたいな駄々を捏ねたのだが、さすがは昭、見事に期待に応えてくれたな」

 自分がそう取り繕うと、菊池正が「くそう、そう抗議すればよかったのか」と悔しそうな顔を見せ、勝田清孝が、羨ましそうに正田昭を眺めた。

「お褒めの言葉に預かり、光栄です。ちなみに尊師。あの男は、連続企業爆破事件の大道寺将司です。バドラに誘ってみてはいかがでしょう」

 そうだったのか。大道寺将司といえば、東アジア反日武装戦線の中核メンバーである。元思想犯ならば、あの頑固さも納得である。ああした、頭はいいが頭の固いタイプの男を洗脳して染め上げれば、強力な戦士となるのは、オウム時代に実証済みである。今、フリーの立場ならば、誘わない手はない。

 麻原は退店時、大道寺に声をかけ、バドラに誘った。その晩のうちに大道寺から連絡があり、翌日の面接を経て、大道寺は正式なバドラの信徒となった。

 大久保清の死を乗り越え、バドラは新たなステージへと向かっていく――。
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お前よくしつこいって言われない?


長いだけでつまらない文章載せなくていいよ。

No title


>>夜桜さん

すいません、シャブ食ってるのにいりこ食べてたり牛乳飲んでた話にはちょっと笑ってしまいましたw
その行為をやめるのが一番の問題解決法なのにやめられず、
なんか違った方向の努力をし始める。
覚せい剤中毒じゃなくても似たような話はある気がしますね。
ブラック企業が法律違反を隠すために社員を必死になって洗脳教育したりとか・・ちょっと違うかな?

今は取り調べでタバコ吸えないんですね。
取り調べの刑事さんは本当に当たりはずれがでかいらしいですね。
「己が法律だ!」と言わんばかりの居丈高な刑事もいれば、
仏のような刑事もいるとか。
ただ共通しているのは粘着質なところらしいですね。
警官というと、竹を割ったように小ざっぱりした体育会系の集団というイメージもないではないですが、
実際はネチネチと水あめみたいな性格をした刑事ほど優秀らしいですね。

拘置所編、期待してます!

No title

>>2番コメ

えっ???
何がしつこいねんw

俺が俺のブログに長文駄文を載せようが自由だろw
批判もロクにできない日本語不自由な君に「つまらない」
なんて言葉を使う資格はありませんw
まずは君の種族語である猿語をマスターしてから、
日本語を勉強しよう!
脳みその膿を掻き出してから、こどもちゃれんじからやり直そう!
頑張れ、応援してるw

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No title

>>フムフム草さん

そうそう、わけわかんない誹謗中傷されても本当どうしようもないんですよ。

批判意見でも内容のある意見に対してはしっかり対応するし、むしろありがたいんですけどね。

最近、2日おきくらいでまた細々と宣伝始めたんで、しつこいってそのこと言ってたんですかね?だとしたら僕にも問題あるし言われてもしょうがないけど、それについては言及してないんでわかりません。意味不明な日本語としか言えません。

最近、僕の昔の知り合いが書き込んできたりしたんで、こういう誹謗中傷の類にはそれなりの対応させてもらうことにしました。

お褒めの言葉は励みになりますし、内容ある批判意見は勉強になります。そうしたコメントに関しては、遠慮なくじゃんじゃん打っていただきたいです!
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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