凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十五話

 

 宅間守と金川真大は、角田美代子の配下、上部康明が運転するワゴンRで、角田のアジトへと向かっていた。助手席には、角田の右腕的存在である、福岡看護師保険金殺人事件の主犯、吉田純子も乗っている。

「あんたら、いい食いっぷりね~。育ちざかりの子供みたいで、可愛いっ」

 吉田がからかうのを聞き流し、宅間はコンビニ弁当を貪り食った。味も栄養バランスも関係ない。これが実はドッグフードだと言われても、自分は箸を止めないだろう。ただひたすら、胃袋を満たすことのみに専心し、貪り食った。

 腹が膨れてきた頃に、ワゴンは世田谷に建つ四階建てマンションの前に停まった。この時点ですでに、飯を食うという宅間の目的は達成されてはいたのだが、他に予定があるわけでもなし、とりあえず、角田には会ってみることにした。エネルギーも補充されたのだし、もし襲われたなら、返り討ちにして資金を強奪すればいい。

 エレベーターで最上階へと昇り、宅間達は部屋へと案内される。

「姐さん、連れてきたよ。宅間守と、金川真大」

「おう。よく来たね。まあ、くつろいどくれよ」

 宅間と金川を迎えたのは、妖怪のような風貌をした老女だった。宅間はソファに腰を降ろすと、角田の配下たちに視線をやる。角田が座る、玉座のような一人掛けソファの左右に立っている男が、藤井政安、松本健次の二人だそうだが、どっちがどっちだかはわからない。角田の後ろに控えめな面持ちで立っている女が、石川恵子か。この女は、なかなかの美人だ。違う立場で出会っていたなら、口説くか犯すかしていたところだ。

「んで、話ってなんや」

「まあ、そう急くな。関西出身の大物二人が顔を合わせたんや。まずは、郷土の昔ばなしにでも花を咲かせようやないか。そや、酒でもやるか。純子ちゃん、魔王だしたって」

 角田に命じられて、吉田が酒棚から、焼酎「魔王」の瓶を取り出した。すでに開封済みである。グラスに注がれた「魔王」がテーブルに置かれるが、宅間はそれには目もくれず、タバコに火をつける。

「せっかくやが、これは片づけてくれ。何が仕込まれてるか、わからんからな。出すんなら、缶ビールか何かにしてくれや」

 宅間が言うと、角田は嬉しそうに皺だらけの頬をくちゃくちゃにし、目を細めた。

「やはり、あんたは私が見込んだ通りの男だ。気に入ったよ。それじゃ、頼み事をさせてもらおうかね。あたしと、同盟を結んどくれよ」

 思っていたのとは違う誘いに、宅間は首を捻る。

「同盟?ワシを下に付けたいんやないのか?」

「あんたを意のままに出来ると思うほど、あたしは自惚れちゃいないよ。普段は行動を別にし、いざってときにだけ手を携える。あたしは金を、あんたは武力を提供する。あくまで対等な立場で、お互いを支援しあうのさ」

「ちょっと都合よく考えすぎなんちゃうか?そんな約束、ワシはいつ反故にするかわからんぞ?」

「それは、あんたを配下に据えたとて同じことやろ?あんたほど仁義や信義って言葉から遠いところで生きてきた人間はいないからね。それを承知しているからこそ、配下ではなく同盟者になってくれと申し込んでるんだよ。対等な立場なら、返ってくるものは小さいかもしれないが、恩を仇で返されるってことにもならないからね」

 宅間は考え込んだ。この角田という女がどんな罪を犯したのか、詳しくは知らないが、この女が確かな戦略眼の持ち主であり、また類まれなる人心掌握術の持ち主であることは、生前の評判からわかる。軍団の規模も大きく、同盟を組めば、頼もしい協力者となってくれることは確実だろう。それよりなにより、当面の資金のことがある。とにかく金が必要なのは確かであり、それがないと生きていけないのだから、角田の申し出は渡りに船ではないか。

「ええやろ。オバハンと組んだるわ」

 それ以外に、選択肢は考えられなかった。バトルロイヤルに、どこのどいつが参加しており、誰が誰と組んでいるのか知る由もないが、麻原のオッサンは敵に回してしまったし、この先、角田以上の勢力と同盟を組むチャンスが訪れるとも思えない。大局的見地で物を見るということがまったく苦手な自分であるが、この選択には間違いはないはずである。

 同盟が締結されると、宅間と角田は、それぞれ、お互いの情報を交換し合った。宅間が自分の戦歴を紹介すると、角田は満足そうに頷く。宅間が話し終えると、今度は角田が、参加者名鑑を開きながら、何人かの有力犯罪者をピックアップし、自分に紹介して聞かせた。

「組織の頭目クラスから紹介していこうか。まずは、あんたが戦った麻原彰晃。この男に関しては、説明するまでもないやろう。次に、重信房子の軍団を陰で仕切っとる、松永太。あたしが一番警戒しているのがコイツだね。何を仕掛けてくるかわからん、参加者いちの策士だよ。それから、スナック保険金殺人の八木茂。こいつも厄介な相手だね。連合赤軍の永田洋子、永田との死闘を生き残った小林正、一家全員で参加しとる北村ファミリーなんかも、最近伸びてきているみたいだね」

 誰が誰やらさっぱりわからんし、極めてどうでもいいのだが、重信房子とかいう女は美人だと思った。目が神がかっているというか、あまりにイノセントに過ぎるというか、自分や角田のような欲に満ちた獣とはまた違った狂気性を放っているのが印象的である。インテリというのも好みの要素である。しかし、この女とヤルことはないだろう。賢いオスは、交尾が終わった後に食われる可能性のあるメスには手を出さないのだ。

「次は、戦闘の面であんたの相手になりそうな奴を挙げていくか。まずは、加藤智大。2008年、あんたが池田小で暴れたちょうど同じ日に、秋葉原で7人を殺った男だ。戦闘力だけならあんたにも匹敵する、参加者屈指の豪傑だよ」

 宅間は怪訝な面持ちを見せる。こんな虚弱そうなガキが、2tトラックのアタックでかなりの数を稼いだとはいえ、成人7人を殺ったなど、信じられる話ではなかった。もっとも、隣に座っている男も、学ランでも着て歩いていたら学生と見分けがつかない坊ちゃん面のくせに、ミニ宅間などと言われるほどの事件と法廷での暴れっぷりを披露したのだから、見た目では判断できないが。まあ、このガキが本当にそれほどの戦果を挙げたのなら、いずれあいまみえる日も来るだろう。そのときには教えてやる。本当の悪魔と、ただ悪魔になろうとしただけの男の、器の違いというものを。

「そこにいる金川は味方だからいいとして、短時間での大量殺人の日本記録を持つ、都井睦雄。あんたが戦った、造田博。深川通り魔事件の川俣軍司。この辺りが目ぼしいところかね。あ、そうそう。ここにいる上部康明も、あんたらの同類だよ」

 自分と金川を、アジトまで運んだ男か。この男もまた、どうにも冴えない、印象の薄い男である。ここまで来ると、通り魔殺人とは、むしろ自分のような、見るからにデンジャラスな男が起こす方が異端なのではないかという気もしてくる。

「ふむ。そうだ、この上部はあんたにやるよ。似たような犯罪を起こした同士、そっちの方が居心地がいいだろう。どうせ戦闘のときには力を借りるんだから、あたしの戦力ダウンにはならないしね。あたしらとのパイプ役として、可愛がってやってくれ」

 別に一人で行動したって構わない自分からすれば、正直、有難迷惑な話ではあったが、角田から人質を取るという考え方なら、使ってやるのも悪くないのかもしれない。麻原軍との戦いでパシリがいなくなってしまったことでもあるし、連れていってやるとしようか。

「その他で、あたしが個人的に警戒しているのは、映画のモデルにもなった連続強殺犯の、西口彰だね。詐欺や強盗、殺人、あらゆる悪事を働きながら全国を行脚した逃亡犯。あたしの頭脳に、あんたの戦闘力、福田和子の逃亡術。それらを足して3で割ったような、個人の総合力では最高の男だろうね」

「別にビビることはないやろ。ようは、どれをとっても中途半端な器用貧乏ってことやないか。その道のオーソリティのワシとオバハンが組めば、何も怖くないやろ」

「頼もしいことを言ってくれるじゃないか。おっと、もう夕食の時間だね。あんたらも今日はここで食ってお行きよ。なんなら、泊まっていってもいいよ」

「お断りや。毒でも盛られたら敵わんわ。オバハンとワシは、戦略的に手を携えただけ。仲良しになったわけでもなんでもないんやからな」

 宅間が警戒しているようなことを言うと、角田はまた、嬉しそうに笑う。

「そうだったね。じゃあ、今日は、当面の金を持って帰りな。携帯は、いつでも繋がるようにしておくんだよ」

「24時間365日。来年の3月1日まで繋がるようにしておくわ」

 再び、二人の笑みがシンクロする。頭脳の角田と、戦闘の自分。この二人が組めば、どんな参加者も怖くはない。そして、この女も、けして怖くはない。
 
 言葉より刃。これだけ思想や化学が発達した世の中でも、最後に物を言うのは腕力なのである。小賢しい策など、力で捻じ伏せる。相変わらず生に執着はないワシやが、人の意思で命を奪われるのは我慢ならない。ワシを殺せるのは、ワシだけや。ワシを殺そうとする奴は、必ず殺す。たとえ、恩人であってもや。

「ほなな、オバハン。おいお前ら、行くで」

 宅間は、角田から受け取った50万円をポケットにねじ入れ、席を立った。
 
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No title

顔写真UPして身バレしませんかね
成宮寛貴似のイケメンじゃないですか
羨ましい

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>>ジョン・ドゥさん

身バレしても大丈夫でしょうw
関慎吾とかもあんだけ住所さらされて、特に大きな実害出てないしw

嬉しいっす。ここ数年、フーゾク行ったときくらいしか容姿を褒められたことがなかったので・・。

褒められるって重要ですね。
ここ数日で、醜形恐怖が一気に和らいできました。
泥酔して写真晒しちゃってどうなるかと思ったけど、
晒してよかったですw

No title

>>夜桜さん

うおー、楽しみです。
塀の中の話は、コンビニにその手の本が置いてあったら
迷わず買うくらい大好きなんですよ。

ふむふむ、稼業の方が掃除をみっちり仕込まれるのには、
そういう事情があったんですね。目から鱗です。

部屋住み修行は、理不尽を散々言われて大変みたいですね。
日本社会というのは、「理不尽に耐える」を
「厳しい」と履き違えている人が、どうも多いです。
これは渡世でも堅気の世界でも一緒ですね。

いつも若い者が痛い目をみて、それに適応できた者だけが生き残り、また若い者に理不尽を強いる。同じことが延々と繰り返され進歩がない。そして、血反吐を吐いて組織の方を変えた者の功績は忘れ去られる。そんなもんなんですよね・・。

ただ裏稼業というのは、ある意味、理不尽で飯を食っているともいえますから、そういう意味では、非常に質の高い実地研修なのかもしれませんね。理不尽なようで、理にかなった教育なのかもしれませんw

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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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