凶悪犯罪者バトルロイヤル 第179話


 金川真大を突破した永山は、麻原目がけて一気に距離を詰めていく。

「ムカついた!ぶっ殺す!」

 教祖の危機に動いたのは、バドラ最強の男、造田博であった。対峙していたイチヌの肩口をナイフで切り付けると、とどめは刺さず、麻原へと向かう永山の進路へと立ちふさがった。

 互いに実績のある、今大会トップクラスの実力者同士の戦いが始まる。間違いなく、今回の「あやめ橋交差点の戦い」において、もっともレベルの高い一騎打ちだ。

 麻原が見る限り、今までの戦いにおいては、集団心理の一種なのか、「俺がやらなくても、誰かが決めてくれるだろう」と、殺し合いながら、どこかに「のんびりとした」部分があった。戦場をよく見ると、敵味方双方ともに、体には無数の傷が刻まれ、アスファルトには鮮血が垂れ落ちているのだが、これは殺し合いを無傷では乗り切れないという当たり前の話であると同時に、人に致命傷を与えるのがいかに難しいかという証明でもある。

 相手を死に追いやるだけの傷を与えられないのは、自分が死ぬ覚悟ができていないからである――昔なにかで読んだ本の受け売りだが、ようするに、皆、踏み込みが甘いのだ。だから深くナイフの刃を入れられない。

 しかし、永山だけは違う。自分の命も危険になるレッドゾーンにいとも簡単に踏み込み、必殺の一撃を放っている。何が何でもここで決めようとする永山の勢いに造田博も応え、二人の戦いは、今までにない激しい打ち合いとなっている。

 神の化身としてではなく、人としての直観でもわかった。この一騎打ち、どちらかが必ず死ぬ――。

「尊師!もういい加減、車に戻ってなよ!」

「お、おう・・・」

 関光彦の言葉に甘え、麻原はワゴンへと退避する。熾烈な格闘の末、どうにか、尿意は去っていった。今田夕子ちゃんとの約束は果たした。もう、逃げてもいいだろう。

 ワゴンへとたどり着き、ロックをかけた麻原は、フロントガラス越しに戦場の様子を見守る。冷静に全体を見渡すと、永山や造田博といった強豪を含めても、戦場にいる者はみな、肩で息をしているのがわかった。命を奪い合う極限のプレッシャーは、人の体力を十倍、二十倍の早さで奪っていく。加えて、この八月の暑さ。すでに敵味方双方ともに、限界が見えてきているようだった。

 厭戦気分が漂っている。誰もが、この戦いに何か「落としどころ」がつけられることを望んでいる。麻原にはそう感じられる。

 「麻原包囲網」を代表して来ている以上、敵方は手ぶらでは帰れない。誰かひとりでも、こちら方の首を持ち帰れなければ、他の勢力に示しが付かなくなる。こちらとしても、その願いは同じだ。これだけの戦力を結集して戦いの舞台に訪れた以上、誰か一人でも敵の首を取り、今後の負担を減らせなければ報われない。金川真大が1の島への援軍に訪れたことから、もしかしたら敵の誰かを討ち取ったのではないかとも推察されるが、誰もがそれに気づいているわけではないのだ。

 皆の思いが、二人の男の戦いに集約されている。永山則夫と造田博。この一騎打ちが終われば、おそらく、「あやめ橋交差点の戦い」は終わる。

「アーマンダラムンダラ、ハーサルンダメッタラッダ、ダマサッタラダッサラダッタラ」

 こんなとき麻原には、ただ祈りを捧げることしかできない。偉大なるシヴァ大神の加護を持って、造田博に勝利の栄光をあたえたまえ――。

「ぐふっ」

 麻原の願いは、脆くも打ち砕かれた。疲れで動作が緩慢になった造田博の腹部に、永山のナイフが深々と突き刺さる。造田博はそれでも諦めず、横からナイフを薙ぐが、永山は冷静にバックステップで躱し、スペアのナイフを抜いて、造田博の腹部にとどめの一撃を入れた。

 ホットプレートのようなアスファルトに崩れ落ちる造田博。同時に、宅間守が、配下の上部康明に
肩を担がれて、1の島に姿を見せる。闇サイトトリオは壊滅したようだった。

 両軍に落としどころがつけられたのがわかり、参加者たちは戦うのをやめた。敵方は順次撤退していく。体力も気力もつきたバドラ、宅間軍に追うものはいない。真夏の惨劇の幕は下りたのである。

「尊師・・・わしは、マハーニルヴァーナにいけるかのう・・・」

 虫の息の造田博が、ワゴンを降りた麻原の顔を見つめて、悲痛な声音で問う。

「ああ。行けるぞ、博。お前は、マハーニルヴァーナへと行ける」

 勇敢に戦った戦士の魂が、一切の煩悩から解き放たれた涅槃へと旅立っていく。その顔は鮮血で真っ赤に染まっているが、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。貧困と挫折、自暴自棄の半生を送り、通り魔殺人へと至った男とは信じられないほど、穏やかな表情だった。

 ともに濃密な時を過ごした信徒たちが涙にくれる。麻原の目にも、熱いものが滲んでいた。

 戦闘が激化するこの時期に、痛すぎる最強の男の死。哀しみと絶望に包まれながら、バドラは委員会指定の病院へと向かって、ワゴンを走らせていく――。
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No title

バドラ最大の弱点が露呈してしまいましたなあ・・・。
人員数と資金力ではほぼ最強ながらも、ここ一番での決定打に欠ける。
信徒一人一人は決して弱くはないが、宅間、加藤、永山のような
「一人でも戦い抜けるレベルの猛者」はいない・・・。
かたや、松永連合にとってみれば被害はせいぜい闇サイトトリオ、
元から戦力にも数えられないレベルで痛くも痒くもない。
ここから麻原尊師とバドラがどう巻き返すか!?
そして謎の四人目の男とは!?川俣グンゼの今後は!?

バドラ最強の男がやられてしまいましたか…今のままでは、このまま尊師率いるバドラ軍が生き残るのは厳しい展開ですね…。麻原包囲網が機能して松永氏はウハウハでしょうね(´-ω-`)

No title

>>NEOさん

 的確な分析ですね~。確かにバドラには戦闘面における絶対的な大黒柱が欠けていたようです。宅間らに比べると一枚格の落ちるものの、今までエースとして皆を引っ張っていた造田博も亡き者となり、これから厳しい展開となりそうです。

>>枇杷さん

 角田軍とバドラをかち合わせて両方の戦力を削っていこうという松永さんの作戦がずばりと当たった形になったね。しかし角田軍が一定の戦果を挙げた以上、松永さんもこれから動かなければならなくなるだろうね。バドラは言ってもまだ9人の最大勢力だけど、大きな痛手を受けたのは確かだね・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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