凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十四話



 宅間守と金川真大が食を断ってから、三日目に突入しようとしていた。
 
 宅間と金川が麻原軍から奪った金は、8万2千円。その全てを、スーツ代と、ねるとんパーティーでひっかけた女との遊興費に使ってしまった宅間たちは、深刻な金欠病に侵されていた。
 
 「ファミリーマート」の前で座り込む宅間の鼻孔に、新商品「チーズナゲット」の臭いが侵入してくる。丸一日洗っていない女の陰部に非常によく似た臭いであり、体調万全ならこの上なく性欲をそそられる淫靡な香りなのだが、飢餓状態に陥った今の自分には、腹が鳴るだけだった。人間の欲求は性よりも食が上位にあることを、つくづく思い知らされる。

 昨日までは、腹が減った、腹が減ったと、300回くらい喚き、余計に自分を苛立たせていた金川も、今日は口数が少ない。生の本能が、無駄なエネルギーを消費しないよう、不平不満の多い性格までを変えてしまったようだった。

 目の前では、部活帰りの厨房が、うまそうにフライドチキンを齧ってけつかる。食の欧米化が、子供の非行や適応障害に繋がっているのではないかとの説を唱える学者は少なくないが、そういえば自分もガキの時分はよく、家事嫌いのおふくろが買ってくるファーストフードを食っていたものだ。

 奴らの食い物を強奪したいところだが、委員会からの警告メールが、自分を躊躇わせている。自分は万引きも得意なのだが、Gメン一人雇う金のない、自分から見ればどうぞご自由にお盗りくださいと言っているとしか思えない個人商店を見ても、ただ指をくわえているしかない。こんなことでは、なんのために娑婆に出てきたのかわからない。不自由なものである。

 厨房は、食い終わったフライドチキンをゴミ箱に捨てもせずに去っていった。フライドチキンには、まだ食える肉がたっぷりと付いている。まったく近頃のガキは、もったいない食い方をしおって。粗末に扱ってええのは、女だけやろうが。

「おい、小僧。今、コンビニん中に、ドラクエⅧのゼシカちゃん似の、プリプリした身体の女が入っていったで。追ってったほうがええんちゃうか」

 宅間は嘘をついて、金川をこの場から遠ざけようとした。職場で自慰行為を働いていたところを見られた際、腹いせに精神安定剤をお茶に混入したほどプライドが高い自分には、人前で拾い食いをするなどは、考えられなかった。

「嘘つかねーでくださいよ。さっきから入口見てましたけど、誰も出入りしてませんでしたよ。それに、今腹減りすぎて、ゼシカとか興味ないっすよ」

 言うことに従わない金川に腹はたったが、気持ちはよくわかった。自分とて、今この状況で、篠原涼子のような自分好みの美熟女が通ったとしても、まったく興味もわかないだろう。

 この上は羞恥を押し殺して、人に見られてでも拾い食いをするしかないのか。決断を迫られていたところで、携帯電話が鳴った。娑婆に出てからこれまで遊んだ女どもからは、ちょっと乱暴をし過ぎたせいで全員から着信拒否を食らっていたはずだったのだが、向こうからかけてくるとは。やはり、自分の味が忘れられなかったのだろう。可愛い奴め。まずはしゃぶしゃぶを奢らせ、精力を回復させた暁には、たっぷりとブチ込んでやるとしようか。

「宅間守だね。今、どこにいるんだい?」

 受話口から漏れてきたのは、年上でも生理があがったかあがらないかくらいまでイケる自分でも、さすがにお断りの年齢の女の濁声だった。

「どこって、大田区のファミリーマートの前や。というか、誰やねんお前。お前の声なんぞ、ワシは知らんぞ」

「角田美代子。バトルロイヤルの参加者さ。知ってるだろう?」

「角田美代子・・?ああ。そういや、尼崎にいたころ、あんたの噂を聞いたわ。ゴットマザーみたいなオバハンがおるっての。なんや、あんた、捕まっとったんか」

「あんた・・知らなかったのかい?呆れたね、参加者名鑑を見てなかったのか。まあいい。ちょっとあんたに用があるんだ。なに、あんたにとっても悪い話やない。これから人をやるから、詳しい番地を教えとくれよ」

「ちょ、ちょう待てや。なんでオバハン、ワシの番号を知ってるんや」

「アホ。あんたが出会い系サイトに登録して、自分で番号を載せとったんやろ」

「・・そやったか?まあええわ。ワシ、一昨日から何も食ってないねん。飯ごちそうしてくれたら、話の一つでも聞いたるわ」

「わかったわかった。待っとき」

 宅間は角田に、付近の電柱に書いてある番地を伝えた。角田の配下が、三十分くらいで到着するという。

 今の自分は衰弱している。数日前に戦った、造田博とかいう小僧のような強者でなくとも、並程度の腕力がある男なら、簡単に命を取れるだろう。本来なら、角田美代子の話は信用するべきではないが、「腹に背は代えられない」。忌み嫌うホームレスのような振る舞いをするくらいならば、首を取られたほうがマシだった。
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No title

>>夜桜さん

面白いです。
稼業の方のお話は大好きなんですよ。
裏の裏まで聞きたいです。

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この話を読んでからチーズナゲットがずっと食べたくて販売が始まったと知った時はファミマへ飛んでいったものだよ
あの匂いといえば細菌じゃなかった一時期リピしまくったハーベストこんがりチーズもなかなか
最近見かけなくなったと思いぐぐったらマジで終売してて悲しいお(´;ω;`)
ttp://tohato.jp/news/news.php?data_number=1189

>>ちゃんむくさん

ハーベストの臭いは強烈だね
初体験のときを思い出します。もっともあの娘のはなっ○う臭だったけれども・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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