凶悪犯罪者バトルロイヤル 第178話

 悲鳴をあげる膀胱――。麻原にとって、宅間守との決戦以来の試練が迫っていた。

 思考が硬直し、一歩も動くことができない。これが、蛇に睨まれた蛙というやつか。もはや、成行きに身を任せるしかない状態。そんな中でも、麻原は括約筋を弛めることはない。

 神への道への挑戦――。それは麻原にとって、目先の命を拾うよりも大事なことである。ここで自分との戦いに負け、小便を漏らしてしまえば、救済者としての麻原の救済者としての生涯は終わってしまう。俗物としてただ生きながらえるだけの人生は、死んだも同じ。断じて、この作務衣の股間を濡らすようなことがあってはならない。

 永山が元いた4の島では、角田軍、及び乱入してきた芸能人コンビを相手に、大道寺将司、小平義男、丸山博文の3名が奮闘している。しかし、人数の増えた敵を相手に、かなり手間取っているようだ。永山はその隙をついて、2の島へとやってきたのである。当然、1の島への援軍は期待できそうもない。

 信号が切り替わる。いよいよ、永山則夫が1の島へとやってくる。絶体絶命。人としての生涯より神への道への挑戦などといっても、やはり死は怖い。足がすくみ、立っていることもままならなくなった麻原は、その場に腰を落とす。括約筋を締める作業も限界に近づき、絶望感が立ち込め始めた、そのときだった。

「下がってろっ、オッサン!」

 救世主の登場――。宅間軍の金川真大が蒲田駅側から登場し、麻原の前に立ちふさがった。これにより、永山と直接戦わなくてはならない事態は避けられた。永山が横断歩道を渡ってくるのと同時に、麻原は後方へと退いていく。

 永山と金川の、激しい打ち合いが始まった。金川は弓の名手という触れ込みであったが、白兵戦もかなりのもので、参加者最強候補である永山に、付け入る隙を与えない。永山が止められている間に、3の島から、B班の勝田清孝、菊池正の二人が駆け付ける。数的有利の発生――。形勢は一気に我が軍有利となった。

「なあ、光彦。俺も手伝おうか」

 心に余裕が生まれた麻原は、自分が大事な信徒ばかりを危険に晒しているわけではなく、自らも前線で命を投げ出す覚悟があることをアピールした。もちろん、自らの無力を悟った今、本気で戦闘に参加しようとしているわけではない。信徒たちが止めてくれるのを見越してのことである。

「いいよ!尊師は弱いんだから、そこで見てなよ!」

「そうです!尊師は役に立たないんだから、余計なことをしないでください!」

 関光彦と小田島鐡男から、加勢を退けられた麻原は憤る。確かに狙い通りの展開ではあるのだが、信徒たちの言い方が気に入らない。仮にも教祖たるこの自分が、助太刀を買って出たのである。「お気持ちはありがたいのですが」の一言くらいはあってもいいではないか。

「いや、お前たちだけでは不安だ。俺も加勢するぞ」

 ムキになった麻原が三人の元へと足を踏み出しかけたそのとき、脇腹を冷たい何かが走る。後方から疾風の速さで駆けてきた男――ヒロポン・ウォリアー、川俣軍司の乱入であった。

 川俣は特定の集団には属していないものの、個人として麻原包囲網に参加している。重信一派と八木茂軍が激突した際にも、傭兵として戦闘に参加し、八木軍の庄子幸一を討ち取った。今回は角田軍の要請により、後詰として待機し、いつでも戦闘に参加できる態勢をとっていたらしい。

 麻原のぶよついた脇腹に、鋭い痛みが走る。危なかった。もし、三人の方へと足を踏み出していなければ、川俣のナイフは、分厚い脂肪を切り裂き、内臓へと達していたであろう。まさに神のご加護といえる。

 戦場に乱入した川俣は、援軍に駆け付けたB班と打ち合いを始める。二人を相手にしながら華麗な立ち回りを見せる川俣。戦闘力は、この戦いに参加している者の中でも上位に位置するだろう。

 がっぷり四つ、互角の展開となった戦いの様子を眺めながら、麻原は妙な不安に襲われる。

 気になるのは、後詰として待機していた川俣軍司が、このタイミングになって戦闘に参加してきたことである。ここまで待たなくても、大将首を取るチャンスはいくらでもあったはず。川俣は、C班のところに乱入してきた芸能人コンビのような素人ではない。戦の心得がある彼が、今の今まで様子見に徹していたのは、何か必ず理由があるはずである。

 罠を警戒していたのか。あるいは――自分を脅かす絶対的強者のリタイヤを確認したからか?

 気になることがある。金川真大が援軍に訪れているにもかからわず、宅間守の姿が、この1の島に見えない。先ほど大きな声が聞こえたことから、生きていることはわかるが、何らかの理由で、戦うことができない状態にあるのではないか。

 2の島の戦闘は互角か、ややC班が不利の状況である。宅間たちが動けないのならば、我がA班には、これ以上戦力の上乗せはない。一方、敵軍には、まだ隠し玉があるかもしれないのである。

 我がA班が、ここから相手の一人でも倒せればいい。しかし、逆に、A班の戦力が一人でも欠けてしまったら・・?

「ぐあっ」

 予感が、現実に変わる――。金川真大が永山則夫の攻撃を腕に受け、蹲ってしまった。
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うあああああ

なんか久しぶりに菊池さんを見たような…推しキャラなんでもっと出してくれると嬉しいです!信徒2人に役立たず呼ばわりされる尊師に笑いましたw

No title

>>枇杷さん

 菊池さん推しキャラだったかw無類の親孝行者の彼は死刑囚の中ではけっこう異色の存在だよね。初期から登場しており、僕も思い入れがあるんでもっと出していきたいね。

 尊師はガチ戦闘に絡まそうとしても、どうしてもお笑い方面に行ってしまうw
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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