凶悪犯罪者バトルロイヤル 第176話

 意気揚々とワゴンから降りてきた麻原彰晃は、早くも後悔し始めていた。

 横断歩道を渡り、自分の方へと迫ってくる、コリアントリオの三人。手に刃物を携え、修羅の形相をしている。

 怖い。怖すぎる。出発前、トイレにおいて、誤って後ろの穴から招かれざる客が頭を覗かせてしまうほど強く踏ん張って小便を絞り出し、クソ熱い時期だというのに、大好きな濃い~いカルピスを飲むのを我慢してきたというのに、麻原の膀胱は、はやくも悲鳴を上げ始めていた。

 交差点という特殊な戦場。横断歩道に隔てられた四つのブロック。宅間守が配下を率いて、3の島から、麻原のいる1の島へと移ろうとしている。しかし、その進軍は、ある人工物によって阻まれる。

 信号である。交通量の多いこの交差点では、信号が赤になってしまえば、横断歩道を渡るのは至難である。1の島~3の島を結ぶ信号が赤になったのに対し、1の島~2の島を結ぶ信号は青になったが、現在、2の島には敵軍はいないから、これでコリアントリオと、A班がいる1の島は孤立した形となった。

「おぅああああああっ」

 雄叫びとともに迫りくるコリアントリオを、バドラの造田博、小田島鐡男、関光彦が迎え撃つ。3対3の白兵戦が始まった。

 麻原は、ワゴンに帰るべきか、踏みとどまるか迷う。ワゴンに帰り、ロックをかけてしまえば、とりあえず身の安全は保障される。しかし、夜原なおきを応援してくれる今田夕子ちゃんとの約束が守れなくなる。それに、もしA班が全滅し、コリアントリオに取り囲まれてしまったら、自分は逃げ場のない袋のネズミとなってしまう。

 どうする?どうする?どうする?迷いに迷い、決断が下せない。この状況であってはならない、優柔不断。かつて、まだ信徒が少なかったころのオウム時代には、自ら前線に赴いて指揮をとったこともある麻原だったが、後半からはほとんど信徒任せにし、自らは実戦から離れていたのが裏目となった。

 その麻原の目の前に、ふと、最強の男、造田博との打ち合いにかかりきりで、周囲の警戒をおろそかにしている、イチヌの姿が映る。ひょっとして、今なら、自分でも殺れるのではないだろうか。もし、本来ならば高みの見物を決め込める立場にある教祖の自分が、実戦においても手柄を立てたとなれば、全軍の士気は大いに上がるだろう。そして、自分のカリスマ性も向上し、たとえ信徒が取っておいたプリンを盗み食いしたとしても、許してくれるかもしれない。

 麻原が一日2時間は閲覧している「なんJ」においては、体重=パワーという記述が頻繁になされている。確かに、近代野球のホームランバッターには、体重が90キロを超えるような選手が珍しくない。ならば、体重が100キロを超える自分も、かなりのパワーを秘めているのではないか。

 いける。確信した麻原は、金属バットを振り上げて、イチヌに殴り掛かった。

「ポアするぞ」

 掛け声とともに振り下ろした金属バットが、イチヌの背中を直撃する。しかし、イの強靭な体はビクともしない。

 しまった。野球においては、デッドボールは背面で受けるのが鉄則であるように、背面の耐久力は前面の比ではないのだ。それにしたって、もうちょっとダメージがあってもいいようにも思うが、自分は、思っていた以上に非力であったらしい。デブにパワーがなかったら、それはもう、フィジカル的に何の取りえもない、どうしようもない役立たずということである。

 しかし、しょげかえっている暇はない。まずは距離を取り、危険を回避しなければならない。麻原は後方に飛びのいた。巨大な尻がクッションとなり、麻原の全体重を受け止める。衝撃をすべては吸収しきれないが、痛がっている場合ではない。麻原はアクション映画のヒーローがそうするように、アスファルト上をを転がって退避した。

「ははは、こんな熱い道路を豚が転がって、丸焼きにでもなるつもりか」

 この状況で、コリアントリオの孫斗八が、麻原を挑発する。殺し合いの最中に、よく回る口だ。やられたら、やり返すといきたいところだが、己の無力さを理解した今となっては、もはや信徒たちに委ねるしかない。

「永山が横断歩道を渡ったぞーーーっ。止めえーーーーーっ!」

 宅間守が大きな声を出す。何かと思ってみてみると、信号が変わり、開通した4の島~2の島間の横断歩道を、永山則夫が渡っていくのが見えた。これでまた信号が変わり、2の島~1の島間の横断歩道が開通すれば、敵軍のエース、永山則夫が、麻原のいる1の島に移ってくるということになる。

 写真ではトロンとして覇気がなかった永山の目が吊り上がり、麻原を睨んでいる。殺る気満々であった。今、1の島では、造田博がイチヌ、関光彦が金嬉老、小田島鐡男が孫斗八と、対応する相手との戦っている。もし永山が信号を渡ってきたなら、手の空いている自分が相手をせねばならない。冗談ではない。勝てるはずがない。

 麻原の膀胱を、史上最大級の尿意が襲った。
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No title

キタ━━━━━━━━━━!!!!
オランジーナ!オランジーナ!
アッスァッヒィィッスゥゥッパァァドゥラァァイ!
ミラクルポンドで永山もポアだポア!

日に日に暑くなっていきますが、ここのバトルもますます盛り上がって熱くなってきましたね!次回は尊師VS永山くんの昭和犯罪者エース対決ですか?楽しみです!三└(┐卍^o^)卍

No title

>>NEOさん、枇杷さん

 でかいだけで役立たずの尊師と殺しのプロである永山がガチでやり合うことが期待されていて笑ったw
 バトル展開はほぼノリで書いているので自分でもこの後どうなるかわからない部分があるので楽しみです。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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