凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十三話

 松永太が、加藤智大から松本美佐雄殺害の連絡を受けたのは、指定暴力団、山崎組の応接室だった。

「ほっほう。いい手際でんなあ。さすがは秋葉事件で名を馳せた加藤智大や。要領ばっかり良くて肝心なときに役に立たない、最近の若い衆に見習わせたいくらいですわ」

 殺害の様子を伝えた山崎組幹部が、手を叩いて感心する。自分も、近頃の加藤の成長ぶりには、感動すら覚えていた。

 松永は、殺害現場を直接見たわけではないが、加藤の説明を受けて、その様子は手に取るようにわかった。そこが重要なのだ。殺害の状況を、微に入り細を穿つように説明できるほどよく記憶している、その冷静さ。その精神的成長こそが、もっとも大きな収穫なのである。

 数日前、杉並区のグラウンドで、バドラ麻原軍と、宅間守軍の抗争が起きたと、正田昭から報告が入った。その際に、あの男、宅間守が見せた鬼神のごとき立ち回りの凄まじさを聞いて、自分は、体中を走る戦慄を抑えることができなかった。宅間守。やはり現時点では、あの男が最強である事実は、疑いようもなくなった。加藤智大の成長も目覚ましいが、宅間の域には達していない。

 自分が思うに、加藤智大が宅間守にもっとも及ばないのは、精神的な未熟さだ。幕末の動乱期、名門道場の剣士が田舎道場の剣士に不覚を取ることが珍しくなかったことからもわかるように、殺し合いでもっとも重要なのは、技術ではなく胆力である。法廷で開き直り、ロシア最悪の殺人者、アンドレイ・チカチーロも真っ青の暴言を吐いた宅間の悪は、極まっている。対して加藤智大は、法廷では、事件の際に見せた暴れっぷりが嘘のような大人しい姿を見せている。動機に関しても、当初の報道内容とはまったく異なる、どうにも要領を得ない供述をしていた。

 こういう言い方はどうかとは思うが、加藤は「日和った」のである。幼いころから反社会的な行動を頻発させていた、先天性の人格障害者である宅間と、母親の教育や、格差社会に性格を歪められた要素の大きい加藤の違いということもあるだろうが、宅間に比べて加藤の態度が、卑怯未練とまで言っては言い過ぎかもしれないが、潔くはないものだったことは否定できない。

 しかし、自分は悲観していない。加藤が宅間に及ばないのは、あくまで現時点の話なのである。年齢的にもおそらくこれ以上の伸びしろはない宅間に比べ、加藤にはまだ成長という上積みの可能性が残されている分、宅間を超えることだってあり得るのだ。幸いにもまだ時間はある。教育係である重信房子には、頑張ってもらわなくてはならない。あの女は加藤に持てる全てを伝え、自分に殺されていくのだ。

「ごくろうやったな、松永はん。ほいで、次の頼みやが・・今度は殺害の依頼やのうて、保護の依頼なんや。実子殺害事件の畠山鈴香を、来月の二十日以内に殺されんように、匿ってほしいんや」

 幹部の依頼に、松永は心の中で手を叩いた。資金援助とともに、戦力の充実が図れる。一石二鳥の依頼である。

「了解しました。他には、何かありませんか?」

「え?他にはって、一つだけでも大変やろ」

 見くびってもらっては困る。畠山鈴香の居場所など、自分はもうとっくに掴んでいる。例によって、前上博の嗅覚による成果だ。民間の調査会社を利用することで、生活パターンも把握済みだ。説得して戦力に加えるなり、無理やり拉致するなり、依頼の内容を現実のものとすることなど、今すぐにでも出来る。

「ご安心ください。畠山鈴香の保護などは、すぐにでも叶えて差し上げますよ。二兎を追う者は三兎をも得る。それが私の信条ですから」

「ほ、ほうでっか・・。そりゃ、頼もしい限りやな。そんなら、顧客から依頼が入り次第、報告しますわ」

 顧客―――。「ブラック・ナイトゲーム」の会員。

 「ブラック・ナイトゲーム」は、ユーロマフィアが主催する秘密結社で、政治、紛争、スポーツ、果ては自然現象に至るまで、地球上で起こるありとあらゆる事象を対象に、賭け事を催している。会員は世界の富豪、裏社会の実力者など500人を超え、一度イベントが開催されれば、国が一つ傾くくらいの金が動く。

 そのイベントに、どこから情報が漏れたのか、今回のバトルロイヤルが選ばれたのだという。最後に生き残るのは誰かという話はもとより、いつ、誰が、どこで、誰に殺されるのかなど、かなり細かい項目までが、オッズの対象になっているという。

 賭け事には出来レースが付き物だ。会員たちは、それぞれが日本のヤクザとコンタクトをとり、自分が支持する参加者を生き残らせるよう、また、自分が消したいと思っている参加者を殺すように依頼し始めた。ヤクザは自分たちの手で参加者を殺すこともできたが、そこは手を打つのが早いグランドマスターが、日本中のヤクザの有力者、および「ブラック・ナイトゲーム」の会員にお触れを出し、参加者に手だしをすれば、委員会がただちに始末に向かうと警告した。ただ、バトルロイヤルを賭け事の対象とすることそのものは、容認したのだという。


 自分たちで手を下せなくなったヤクザは、各々で参加者を囲って、自分たちの手駒として動かす方針に切り替えた。ヤクザの方から、参加者にコンタクトを取り始めたのだ。

 ならば自分からヤクザに接触した自分は無駄骨を折ったのかといえば、そうでもない。関東に最大勢力を持つ佐野会の系列と手を結んだということは、裏社会の住人全てを味方につけたことと同義だからだ。

 ちなみにグランドマスターは、ヤクザが参加者を支援するのは認めたが、特定の参加者を殺した報酬として、参加者に金銭を与えることは禁止した。それではまるで殺し屋になってしまい、参加者の意思がまるでなくなってしまうからだ。また、あの男は、どうしても、参加者がアルバイトなどをして自分の力で生計を立てるところが見たいらしい。ただこれに関してはいくらでも抜け道はあるだろうし、全ての参加者、ヤクザが守るかどうかは、疑わしいものだが。

 今はまだ水面下で動いている状況であり、大勢に影響はないが、時間が経つにつれ、その影響は無視できなくなっていくだろう。「ブラック・ナイトゲーム」の動きを押さえておくこと、それが、終盤の戦いを制する一因になるのは間違いない。

「わかりました。それでは私は、店の方に顔を出さなければならないので、失礼します」

 松永は幹部に挨拶をし、組事務所を辞していった。

 死の恐怖に満ちた町で、暗い陰謀が、静かに動き始めていた。
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すでに加藤とマモマモのイチャイチャシーンを妄想しまくってます


加藤はマモマモに触角で頭をつつかれてすごい怖がるんですけど和解してマモフェロモンに吸い寄せられていく

No title

>>フムフム草さん

宅間と加藤の対決は早く書きたいですね~。

ゲーム

「はじめの一歩ボクサーズロード」
「三国志」

では散々実現したんですけどねw

鷹村をボコボコにする宅間
リカルドを1Rで倒す加藤

呂布の黄門に宝刀を突っ込む宅間
左手で関羽を右手で張飛を攻める加藤

酒池肉林の宴やんな

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Re: コメントありがとうございます。

>>夜桜さん

すげえっす。
違った意味での修羅場なら何度も潜ってきましたが、
リアル修羅場の経験はまったくない僕には
大いに参考になります。


大阪でのこと、後学のためにぜひ聞きたいです。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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