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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第173話

 最後の攻防に備えて、全神経を集中させる。頼りない視覚を、聴覚を、限界まで研ぎ澄まし、永山の動きをうかがう。気配が変わったのを察知したのだろうか。永山は攻めてくるのをやめ、様子見に入ったようだった。

 1分・・・2分・・・こう着状態が続く。両者とも、相手の実力を十分に知っているからこそ、迂闊に動けない状況。ギャラリーは一言も発さず、固唾をのんで戦いの行方を見守っている。彼らに騒がれ、音の情報を寸断されていたら厄介であったが、その心配はなかった。ギャラリーの賑やかしも許さない緊張感。実際に戦っている俺が感じているそれは彼らの比ではなく、喉がひりついて仕方がなかった。

 が――。時間が経過するにつれて、状況が変わってくる。ようやく俺の目も暗さに慣れ、闇に紛れていた永山の姿が見えるようになったのである。俺が隠れる電子オルガンから三メートル前方のタンスの裏。暗闇から獲物を狙うヒョウのような永山の姿が、はっきりと確認できた。

 これで条件は五分と五分。ならば、停電前同様に、こちらから攻めるまで。俺はオルガンの裏から飛び出し、永山に向かってダッシュした。

「待て、降参だ」

 警棒を捨て、両手を上げる永山。大将戦は、ギブアップという形で幕を閉じた。

 これで全試合が終了。結果は5戦5勝で、永田チームの完全勝利となった。

「おかげ様で、今日はええ訓練ができたよ。また機会があれば、よろしく頼むよ」

 照明が復旧した倉庫内。角田の婆さんが、口惜しさも見せないサバサバした表情で礼を述べる。もともと盟主の立場ではない婆さんには、負けたからといって失うものはない。

「今は・・・21時か。まだ、夜は長いね。折角足を運んでくれたんや。場所を変えて、もてなさせとくれよ」

 婆さんの策謀は、まだ続いていた。酒を飲ませて油断させ、重要な情報を引き出させる・・。松永さんもよく使った、サイコパス殺人者の常套手段である。

「申し訳ないが、それは・・・」

「ええやないか。客人に馳走もせず帰したんじゃ、私の顔も立たないよ」

 永田のおばさんが固辞するのを引き留めようとする婆さん。負けて失うものはないといっても、婆さんの方もリスクを冒して「敵」を懐に呼び込んだのに、何も得るものもないままでは終われないということだろう。

「じゃあ、こうしませんか」

 妥協案を持ち込んだのは、松村恭造くんであった。一緒に酒を飲むのはいいが、人数を絞ろうというのである。

「俺らからは、俺と加藤くん。そっちからは・・・永山くんと、イくんをお借りできれば」

 復帰年齢10代、20代の若い面子での飲み会ということだ。角田の婆さんはこれに一瞬、渋い表情を見せたが、自分から言い出した手前もあり、結局は承諾してくれた。

「そいじゃ、私は先にアジトへ戻ってるからね」

 意を含んだ視線で永山を見て、婆さんは倉庫を出ていった。

「さて・・・場所だけど、どうする?うちの店まで来てもらうか?」

「いや・・・わざわざ足を運ばせるのも悪いよ。やめとこう」

 松村くんの提案に、俺は異を唱えた。理由は距離の問題だけではなく、もし歌舞伎町まで永山とイを連れていってしまえば、間違いなく松永さんが絡んできてしまうことを考えたからだ。せっかく婆さんが大人しく帰ってくれたのに、こっちが松永さんを出してしまったのでは、さすがに婆さんに申し訳ない。

「じゃあ、どうするよ」

「ここで飲もう。たまには店じゃなくて、床にあぐらをかいて飲むのも悪くないだろ。一応、未成年だっていることだしな」

 俺の提案は皆に受け入れられ、飲み会の場所は倉庫と決まった。近所のスーパーで買い込んだ酒、つまみ類を四人で囲み、ボーイズトークに花を咲かせる。

「永山、たけしと同じ店で働いてたってマジなの?」

「ああ。当時は、あれほどの有名人になるなんて思いもしなかったから、あまり印象には残ってないけどね」

「でも、すごいですよね。小学校低学年レベルの学力しかない状態から獄中で勉強して、文学賞を受賞するレベルの作品を書き上げたんだから。読書好きの僕も永山さんの作品を拝見しましたが、中々に読ませる文章でした」

「そんな大げさなもんじゃないよ・・・。死刑囚ってことで、話題性も込みの受賞だったには違いないし。まあ、でも、これでバドラの正田昭との一騎打ちが実現すれば、作家対決ってことになるな」

 永山と松村くん、イの会話であるが、これを聞いて、合同トレーニングに赴く以前に永山則夫の資料を熟読していた俺は驚きを覚える。網走番外地の出身だったことをネタに、同僚から網走刑務所で生まれたとからかわれたのを真に受けて仕事を辞めてしまうほど柔軟性がなく、愛情に恵まれない幼少期を送ったことから自己愛性人格障害に陥ってしまった永山が、冗談を飛ばし、謙遜を覚えている。これは、類まれなコミュニケーション能力で、数多の人を洗脳の毒牙にかけてきた、角田の婆さんと出会ったことが大きいのだろうか。

「しかし、永山もよくあの妖怪婆について行ってるよなあ。あれで実年齢ではうちの大将より若いんだから、もう何がなんだか」

「あの人を悪く言うなよ・・。あの人は、寂しい人なんだ」

 角田の婆さんを揶揄する松村くんを咎める永山の口調からは、婆さんに対する深い敬愛がうかがえる。実年齢では、永山も婆さんと同世代。あまり想像したくはないが、「そういうこと」もあるのだろうか。

「しかし、野郎ばっかの飲みってのもあれだな・・。Nでも呼んでみるか?」

 松村くんが、俺の方を向く。襲いくる動揺を悟られないようにする。

「いいよ・・。仕事でいつも女を扱ってるんだ。自分が飲むときくらい、視界から色は排除したい」

 自分でも苦笑してしまう逃げ口上。本当は、Nへの未練を断ち切りたかっただけ。

 俺とNは、もう敵同士なのである。お互いに命を狙いあう関係。個人的な思い入れを持ち込んだら、俺が殺されてしまう。

 Nは俺に恩義は感じていたとしても、好意はもっていない。もしかしたら、艶福家として名高い八木と・・・なんてこともあるかもしれない。

 今、俺がNに関して望んでいるのは、彼女が他の誰かに殺されてしまうこと。単純な話で、Nがこの世から消えてしまえば、すべての悩みわずらいから解放されるのだ。自分が好意をもった相手だからといって、その人の幸せを無条件に望むなど、偽善的な感情は持ち合わせていない。俺が関わらない幸せなどは、むしろ呪わしく、ぶち壊したいものだ。好きだけど、手に入らない。そんなものは、消え去ってくれたほうがいい。

「もう日付が変わってしまったか・・。夜更かしはコンディションに響く。ここらでお開きにしようか」

 俺たちは後片付けをし、それぞれ帰路につく準備を始める。角田の婆さんが望む情報を提供できたかわからないが、久方ぶりに同世代と楽しい話ができて、俺としては有意義な時間だった。

「永山。宅間守は手ごわいぞ」

「知っているよ。今度こそはケリをつける」

 死地に赴く「戦友」と握手を交わし、俺は松村くんとタクシーに乗り込んだ。
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永山氏で画像検索したら某芸人が頭から離れなくなって復帰年齢でのいでたちが定まらないよ…
合同トレーニングとはいえ永山氏が降参を選んできたのが意外で何か思惑でもあるのか勘ぐってしまうw

>網走番外地の出身
今なら漫画ばんがいちの由来と逆にネタにできただろうにね

No title

>>OKBさん

ごめんね
今返す清気力ないから明日返します

No title

>>OKBさん

 永山則夫は中年になってから撮られた写真がすごいいい笑顔なんだよなあ。某芸人とはだれかわからない💦

 網走番外地は高倉健の映画が有名だけど、そんな雑誌もあったんだねえ。

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No title

>>OKBさん

僕はむしろ若いころの永山則夫が日ハムの大谷選手に似てると思うなあ。同じ北海道に関わりがあり、同じ19歳で注目された二人でも歩んだ人生は対照的なのが悲しいね・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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