凶悪犯罪者バトルロイヤル 第172話

 迎えた5×5対抗試合、大将戦。ともにラインいっぱいに開始線を定めた俺と永山は、タンス、ソファ、デスクなど、無数の障害物を隔てて対峙する。

 永山は、こちらに銃口を向けたまま微動だにしない。エアガンに込められた24個の弾を、無駄には消費しない考えのようだ。膠着状態が一分、二分と続き、立ち上がりは静かな展開となった。

「おいおい、どうしたどうした。お見合いやってちゃ、勝負にならんぞ!」

「大将戦が引き分け決着じゃ、恰好つかねえぞ!」

 無責任なギャラリーたちが、口々に野次を飛ばす。気にしてはならない。これはプロ格闘技の試合ではない。生き残るための戦いである。他人に言われて生きるわけではなく、俺は自分の意志で生き、この戦いに臨んでいるのである。俺の命などどうでもいいと思っている奴らの野次などに、心を惑わされてはならない。

 間合いを詰めるタイミングを伺う。気をつけなくてはいけないのは、エアガン連打で怯ませてからの突撃。それを防ぐため一番有効な戦術は、自分から攻めていくことである。間合いをゼロにさえしてしまえば、所詮は牽制にしか使えないエアガンは無力化する。打ち合いにさえ巻き込んでしまえば、あとは五分の勝負である――。

 試合開始から4分が過ぎたところで、永山のエアガンから一発の銃弾が放たれた。弾が掠めた首筋を、暖かい液体が流れる。改造し、規定の数値いっぱいまで破壊力を引き上げた18禁エアガンは、片面ならアルミ缶を貫く威力を発揮する。

 しかし、牽制専用の殺傷能力に欠ける武器という俺の認識は変わらない。永山は、膠着状態のプレッシャーに負けた。精神的に疲弊した状態である。そう判断した俺は、障害物を縫うようにして、一気に間合いを詰めた。走りながら何度となく被弾したが、気にしない。厚手の戦闘服の上からであれば、ダメージは抑えられる。この痛みは、一度味わったことのある痛み。予想できる痛みは、歯を食いしばれば耐えられる。

俺の勢いが止まらないのを見て、永山も前に出てくる。ルールでは、場外エスケープはその時点で失格負けである。端っこに引っ込んだままでは分が悪いと判断したのだろう。

 お互いが手の届く間合いに入った。一発で勝負を決める。渾身の力で打ち込んだ一撃は、わずかに永山の肩を掠めたのみ。永山は打ち終わりを狙って攻撃を仕掛けてくる。ゲームのようにターン制ならば、ここで俺が取るべき行動は防御になるのだろう。しかし、俺はお構いなしに、二発目を繰り出した。後出しで放った俺の警棒は、永山の警棒よりも早く、相手に到達した。

「・・・!!」

 脇腹を打たれて怯む永山は、たまらずエスケープを図る。逃してなるものか。俺は三発目の攻撃である、ボディへの突きを繰り出す。これは失敗であった。警棒は一応ヒットしたが、逃げようとしている相手と同じ方向に出した打撃は、衝撃がかなり逃げてしまい、大したダメージにはならない。永山は悠々と距離を取り、仕切り直しとなった。

 永山を仕留めることはできなかった――が、俺は今の攻防に、確かな手ごたえを感じていた。どうやら、純粋な白兵戦においては、俺に分があるようである。このまま前に出て、プレッシャーをかけ続ける。それで間違いない。あとは単純ミスにさえ気を付ければ、勝利は確実である――。

 自信を持った矢先の出来事だった。突然、倉庫の証明が落ち、景色が暗転した。

「なんだっ、停電か?」

「おいおいおい~、どうなってんだ?」

 偶然のアクシデントか、だれかが仕組んだ罠なのか。大騒ぎするもの、外へと逃げ出そうとするもの・・・倉庫内は大パニックに陥り、収拾がつかなくなってしまった。

「お前ら、黙らんかい!まだ試合は途中やで!!!」

 倉庫内の騒ぎを収めたのは、角田の婆さんが落とした雷のような一喝だった。凄みのあるその声音の迫力で、一同は一瞬で落ち着きを取り戻したのである。有無を言わさぬカリスマ性。傘下の軍を合わせれば、11名からの人間を従えるだけのことはある。

「政。ブレーカーを見てきな」

 角田の婆さんが、藤井政安に照明を復旧させるよう命じる。それまで試合は中断ということになりそうだったが、俺には別の考えがあった。

「いや、このまま続けさせてください。永山、お前も同じ考えだよな?」

 明るい場所で戦えば、俺の勝利は九分九厘間違いないのである。ならば、あれ以上続ける意味は薄い。せっかくの合同トレーニングの機会なのだから、色々なシチュエーションを試したかった。

「・・・戦場では、あらゆるアクシデントを想定しなければならない。続行でお願いします」

 選手双方、合致した意見を受けて、試合は残り11分から再開される。暗転した倉庫内、攻めるにも守るにも、まずは暗さに目を慣らさなくてはいけない。俺はしばらく動かず、じっとタンスの裏に身を潜めていたのだが・・。

 警棒が木材を打つ音――。足音ひとつ立てずに近寄ってきた永山が、攻撃を仕掛けてきたのである。目の前に立たれるまで、まったく気が付かなった。

 俺はまた、今度はデスクの裏に身を隠したのだが、そこでも同じことが繰り返された。まさか、幼いころ電気もない極貧の家庭で育ったことが原因ではないだろうが、永山は俺よりも早く、この暗さに目が慣れてしまったようだった。

 停電前とは打って変わって、今度は俺が劣勢を強いられる展開となった。どれだけ警棒を振るのが上手かろうとも、的が見えていないのではどうしようもない。どうする?どうする?どうする?頭を振り絞り、積み重ねた経験から、最善の手段を導き出す。

 結論――。この状況を乗り切る唯一の手段は、カウンターの一撃。永山を敢えて懐へと呼び込み、攻撃をかわして、こちらの攻撃を叩き込む。1メートル先の光景も定かではないこの状況で永山に勝つには、それしかない。

 大将戦もいよいよ大詰め――。最後の攻防が、始まろうとしていた。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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