凶悪犯罪者バトルロイヤル 第170話

 第一試合。まずは、現在、重信軍で俺と松村くんのトレーニングコーチを務める、元プロ野球選手の小川博さんの登場である。相手は、川岸健治。闇サイトトリオの中では、犯行に使われたワゴン車の持ち主で、運転手を務めた。裁判では、犯行後に自首し、グループの逮捕に一役買った功績が評価され、三人の中でいち早く無期懲役を勝ち取った男である。

「ちょ、マジで僕が行くんすか~?もう一回ジャンケンやり直しましょうよ~」

 6m×6mの枠には入ったものの、なかなか開始線には立とうとしない川岸が、皆のテンションを下げる情けない声を出した。

「勝負にやり直しはないっしょ。早く行くっしょ」

 ヘラヘラと笑いながら川岸を送り出すのは、犯行ではもっとも主導的役割を担ったとされ、事件後には交際相手の女性に被害者を冒涜する内容の手紙を送った、神田司である。

「うわ~、神田さん鬼っすわ~。自分はこの間の合コンで、川岸さんが優先的にアタックするってみんなで決めてた女を、約束破って持ってっちゃったのに」

 堀慶末。闇サイトで最初にメンバーを募集する書き込みをした男である。

「それはそれ、これはこれっしょ。ほら、みんな待ってるんだから、早く行けって」

「そうそう。大丈夫、ちょっと痛いかもしれないけど、死ぬわけじゃないんだから。川岸さん勝ったら、ソープ一発奢りますから」

 二人に送り出され、川岸が、しぶしぶ開始線へと立つ。

 なんだろう、この緩い感じは。他の勢力でいえば、バドラがこれに近いだろうか。裁判ではお互いに罪を擦り付け合い、醜い争いを演じながら、委員会の実験的試みからその記憶を消された三人。そして、案の定大会でも出会い、互いに手を結んだ、運命の三人。チームワークは、今のところ良好のようだ。

「小川さん、盛り上げてください」

「任せとけ。普段、お前らに偉そうにしているからには、いいところを見せないとな」

 松村くんからの激励を受け、小川さんが開始線へと向かう。

「準備できたようだね。それじゃあ、始めるよ」

 角田の婆さんの右腕、吉田のオバサンにより、試合開始のゴングが鳴らされる。

 はじめ、小川さんは遠い間合いを保ち、警棒を構え、相手の出方を伺う態勢をとった。俺はこれに首を傾げる。相手の川岸は明らかに戦意が十分ではない。ここは、ゴングと同時に距離をつめて、一気に勝負を決めるべき場面ではなかったか。

 俺の予想通り、川岸は腹を括ってしまったようで、小川さんに積極的にうちかかってきた。しかし、元々の地力には大差がある。反撃に移った小川さんにあっという間に打ちのめされ、川岸はギブアップ。先鋒戦は、我が軍の勝利となった。

「何やってんすか~、川岸さん。初戦からチームの士気を下げないでくださいよ~」

「情けないっしょ。逆にソープ奢れ」

 闇サイトの二人のところに戻った川岸が、踏んだり蹴ったりの出迎えを受けている。確かに、結果だけみれば小川さんの圧勝であったが、それは相手が弱かったからに過ぎないと、俺は見る。

 小川さんは元プロ野球選手であり、肉体は頑健、フィジカルトレーニングの知識も豊富だが、実戦の経験が少ない。戦術に関しては、大会中幾度も修羅場を潜り抜けてきた俺の方が上であることを、今の戦いを見て確信した。トレーニングにおいてはコーチとして仰がなくてはいけないが、いざ実戦になったら、小川さんには俺の指示、命令に徹底的に従ってもらうことを納得してもらわなくてはならないだろう。

 続いて、第二戦。「おせんころがし」の栗田源蔵と、若干18歳、コリアントリオの戦闘エース、イチヌの戦いである。

「てめえクソガキ、なに笑ってやがる。気に入らねえな」

「なにを怒っているんです。これは殺し合いでもない、ただの試合ですよ」

 不敵な薄ら笑いを浮かべるイ――。劇場型犯罪を展開した目立ちたがりやは、この舞台を楽しんでいるようである。

 ゴングが鳴り、勝負が始まった。栗田は警棒を構えないまま、イに突進していく。そのまま肩からぶちかまそうとしているらしい。

 誰もが、イが背中から床に倒される光景を想像した。が――、イは90キロはある栗田の巨体を受け止め、がっぷり四つに組み合った。半島系の人は日本人よりも大柄な人が多いが、イもかなりの巨漢である。
 
 組み合ったまま、両者動かず――力比べの展開が、二分ほども続いた。先に動いたのは、栗田の方である。隙を見て体勢を変え、イの力をいなしたのである。

「――っと」

 体勢を崩されたイの背中に、すかさず栗田の警棒が飛ぶ。鈍い音が響き渡る。クッション付きとはいえ、栗田の強力から放たれる打撃は相当な威力である。

「栗田、タオルだ!攻撃をやめろ!」

 相手陣営が投入したタオルに気づいた永田のオバサンが、声で栗田を制止する――が、栗田は攻撃をやめようとしない。俺や松村くん、永田チームの面々が総がかりになって取り押さえ、ようやく場は収まった。

「おいおいおいおい!どういうことだこれは!」

「マナー違反だ!貴様、いったい何を考えている!」

 角田チームの面々が、口々に非難の声を上げる。どう考えてもこちらが悪いのだが、永田チームの面々は、それで頭を下げてしまうようなタマではない。

「熱くなった上での失敗にすぎない。怪我はなかったのだから、ごちゃごちゃごちゃ言うな!」

「負けた上に、スポーツマンシップがどうのこうのと文句をつけやがって。そういうのをなんていうか知ってるか?恥の上塗りっつうんだよ」

 失礼をした張本人の栗田源蔵と、チームのキャプテンである永田のオバサンがこれなのだから、相手が納得するはずがない。場は紛糾し、一触即発の事態となってしまった。このまま殺し合いになってしまうならそれでもいいのだが、一番いけないのは、揉め事が中途半端な形で終わってしまい、角田の婆さんに、恰好の落とし前ネタを提供してしまうことだ。

 とにかく松永さんに報告、連絡、相談をしようと、携帯に手を伸ばした、そのときだった。

 音を立てて割れる窓ガラス――。誰かが、パイプ椅子を投げつけたのだ。場にいた全ての人間が、圧倒的なオーラを感じ、一人の男の方を向く。

「うるさい。集中が乱れる」

 永山則夫である。彼の力を知る角田チームの面々は、これですっかり大人しくなったのだった。

 エキサイトした場を一瞬で鎮める、永山則夫の底知れない実力――。腹の底に、冷たいものを感じる。都井睦夫と戦ったとき以来の感覚だった。
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No title

闇サイトトリオ、コリアントリオ共にいい感じにムカつきますね。
永山の存在感も不気味に光ってます。
栗田源蔵、やはり永田の手には余るかも知れませんね。
宅間共々、最後まで生き残るよりは戦って戦って戦いの中で死ぬイメージです。

No title

>>NEOさん

闇サイト事件はかなり好きな事件なんですね。
ネットを通じてであった3人が虚勢を張り合った結果引くに引けなくなり、凶行に走るという、心理学的に見てもかなり興味深い事件だと思います。この3人がもし違った形で出会い、十分に友情をはぐくむ時間があったら・・・?ということを考えて書いていきたいですね。

栗田源蔵が永田洋子に飼いならされている光景は違和感かもしれませんが、永田も永田でかなり破天荒な人物です。不良を従えられるのは一番どうしようもない不良だ、なんて考えもあるみたいですがそういうことかもしれません。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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