凶悪犯罪者バトルロイヤル 第168話


 都内ホテルの一室――。松永太は、名目上の大将である重信房子と二人、余人を立ち入らせぬ戦略会議を開いていた。

「季節は八月に入りました。この月を乗り切れば、大会開始から半年が経つということになりますね。現在、我が軍の人員は、設立当初とほぼ同じ6名。新宿歌舞伎町を掌握し、経済的基盤も完全に確立。同盟軍も健在で、我が軍の他勢力に対する優位性は、揺るぎないものとなっています」
 
 小林正、八木茂・・強敵たちとの戦いを、自らの指揮によって勝ってきた重信房子の声は、感慨深げである。ここに至る道は、けして平坦ではなかった。この女のキャリアを、謀略面で支えてきた自分も、胸を張っていいだろう。
 
「・・・が。問題は、それ以上に巨大な勢力が存在すること」

 松永が言うと、重信の表情が険しくなる。

 我が軍のやり方は、けして間違っていない・・。大きなミスも犯さず、戦いに常に勝ち抜いてここまで来た。しかし、麻原彰晃のバドラとの差は開く一方である。

 つまり、努力では埋められない、圧倒的な地力の差があるということ。麻原が、松永と重信の能力を足しても届かない実力者だったということは、もう認めなくてはならない。

 悔しくもなんともない。我々は能力を競っているわけではなく、命を奪い合っているのである。法に守られた人間社会では味わえない、本当の弱肉強食。自然界の掟はただ一つ。強い者が勝つのではなく、勝った者が強いのである。

「巨大な勢力、バドラに対抗するために、私たちは麻原包囲網を作り上げました。しかし、皆と一致団結して麻原を倒すつもりは毛頭ありません。極力、自らの手は汚さない。狙うは、包囲網の参加勢力とバドラの共倒れです」

「その通り。そしてその目論みは、今のところうまくいっている。現在、角田美代子とその傘下のグループが、バドラの同盟軍、宅間軍に攻勢をかけています。バドラ本軍とかち合うのも、時間の問題でしょう。いい知らせが聞けるかどうか、あとは天運に身を任せるのみです」

 噂をすれば、「同盟者」角田美代子からの電話である。

「どうしました?」

「ああ、松永さん。今度、またうちの方で、宅間を攻めようと思ってるんだけどさ。次こそは確実に敵を仕留めたいと思ってるんで、本格的に訓練をしようと思っているんだよ。そこで、お宅んとこの加藤の坊やを、練習相手に寄越してほしいんだ」

「うーむ・・・」

 何とも大胆な提案をしてくるものだ。さすがの松永も即答できず、考えこんでしまう。

「いけませんよ。罠に違いありません」


 松永も重信と同感なのだが、外交的には、ここでにべもなく断ってしまうと角が立ってしまうのではないか。また、加藤智大の成長のためにも、常に適度な緊張感の中に身を置いていた方がいいとも考えられる。

「いいでしょう。日時が確定したら、再度連絡をください」

 松永がそう答えてしまうと、重信もそれ以上は意見しない。政治向きの決断は、完全に松永に委任しているのである。

「この間、T・Nを引き込んで再起した八木茂のことですが・・。大丈夫でしょうか」

 その話題か。包囲網に参加する連中や、提携するヤクザなどから再三再四問われるのだが、皆、あの男を過大評価しすぎているのではないかと思う。

「問題ありません。Nと、その主であるAを引き込んだところで、恐れることはない。都井睦夫を失った八木など、爪と牙を剥がれた狼のようなものです」

 一連の八木との戦いで、松永は、八木の知力が自分の下にあることを確信した。戦略、コミュニケーション能力、シノギのうまさ・・。どれも、自分が完全に上回っている。八木のすべてに勝る存在、つまり自分がいる限り、八木の能力は、加藤智大の好きなゲームでいうところの、死にステータスである。あの男のことは、顔の周りを飛び回るハエのようなものと考えておけばいいだろう。

「ま、いずれケリをつける必要はあるでしょうけどね。おいしいステーキにして、宮崎さんにでも食べさせてあげましょう」

 ちょうど、その宮崎から電話がかかってきたことから出てきたコメントである。

「あっあっあっ。僕は木嶋に、赤い実はじけちゃったんだっ。なんであんなのに赤い実がはじけないといけないんだっ」

 なにを言っているのか、まったく理解できない。

「宮崎さん、今度は何にお困りなのですか。赤い実がはじけたとは、どういうことですか」

 話しを聞いてみると、「赤い実はじけた」とは、小学生の国語の教科書にもよく採用される小説のことで、ようするに宮崎は、木嶋香苗に恋をしてしまったかもしれないということらしい。

「うーむ・・・男女のことに立ち入るのは野暮な話ですが、私でよければ、恋のアドバイザーになりましょう。ご相談があれば、いつでも承りますよ」

「あっあっあっ。これから、あいつが捨てた生理用ナプキンを吸わないといけないから、とりあえず今回はこれで切るんだっ」

 宮崎勤・・・今までも何かと役に立ったが、あの男は、いつか必ず大仕事をしてくれると、松永は確信している。松永は、八木のような下位互換ではなく、ほとんどの能力で自分に劣っても、何か一つでも自分に無い特性を有している者を高く評価するのである。

 激しさを増す戦い。松永の頭脳に、休む暇は与えられない。
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No title

加藤がどうなるか見ものですね。
対小泉戦の復活劇で持ち直すかと思われましたが
Nの離脱は確実に大ダメージとなるでしょう。
そこを策士松永がどうフォローするか?
角田の思惑は一体?この先も楽しみです。

No title

>>NEOさん

Nとの決別の影響はどうでしょうね
直接対決はまだ当分先のことですから、あまり影響はないかも・・?次回はその加藤パートです。

No title

返信ありがとうございます。

個人的には川俣軍司にもう少しスポットを当てて欲しいです。
「再現ドラマが作られる犯罪者」もそうはいないはずなので。

http://d.hatena.ne.jp/iteki/20081210/p1

https://www.youtube.com/watch?v=G_DtyIbORgI

https://www.youtube.com/watch?v=VnzFp8vEUh4

https://www.youtube.com/watch?v=AMIwUno8-24

https://www.youtube.com/watch?v=dD1ziUu5XRc

No title

>>NEOさん

ヒロポン・ウォリアー川俣軍治は興味深い犯罪者ですよね。彼が殺害した女性の祖父が、川俣の祖父を殺害していたという話は、因果応報という言葉について深く考えさせられます。

現在どこの勢力にも属していないため書く機会が少ないのですが、戦闘タイプとして宅間守や加藤智大と関わらせて行こうとは考えています!
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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