凶悪犯罪者バトルロイヤル 第167話

  さる日本有数の避暑地にて真夏の日差しに照らされながら、グランドマスターは、ここ十日間の参加者の戦いぶりを振り返っていた。

 なんといっても大きな動きは、謀略王松永太の手によって、ついに麻原包囲網が成立したことである。人員10名を抱える最大勢力を、総勢26名の参加者によって総攻撃する、という形だ。

「この状況をいかに見る。アヤメくん」

「麻原包囲網の人員は確かに脅威ですが、結成からまだ日が浅く、統制、連携が十分とはいえません。盟主は重信房子軍ということになっていますが、その権限は絶対的なものではなく、もう一方の雄である角田美代子は、隙あらば重信軍に取って代わろうと、機を窺っています。バドラ、宅間軍が付け込むとしたら、その部分でしょう」

 例えば、短い棒を繋げて作った一本の長い棒と、短いが太く丈夫な棒があるとする。長い棒はリーチがある分打ち合いで有利だが、継ぎ目が多い分強度がもろく、短い棒に力いっぱい打ち込まれれば、あっさりと折れてしまうかもしれない。

 麻原包囲網は人数こそ多いが、重信房子軍と角田美代子軍の間には埋められない溝が存在し、結束力には不安がある。対して、固い絆で結ばれたバドラと宅間軍。人数だけでは、両陣営の戦力差を測ることはできない。

 しかし、この二大連合軍のぶつかり合いこそが、今大会最大の山場となるのは間違いないであろう。戦いの推移を見守っていきたい。

「うっ・・・すみません、私は・・・」

 アヤメがたまらず目を背けたのは、宮崎勤と、保育士マキのデートが収められたフィルムである。己のペニスに汚水を塗り付けるという愚挙を犯した彼は、あろうことか一般人である保育士マキに、それを挿入しようとした。己の糞に塗れた部屋の中で・・・。幸い未遂に終わったが、あの男の監視には、さらに万全の体制をもって臨まねばならない。

「その宮崎勤は、親友のように仲がよかった山地由紀夫と、対立関係となったようだな。あの二人がいかなる戦いを見せてくれるのか・・・楽しみだな」

 ちっとも、楽しみではないといった顔をしているアヤメ。大会どころか、地球上で起こるあらゆる事象を眼中に入れず、ただ己の世界に没頭する彼らの戦いは、女性にはちと、刺激が強すぎるか。

「しかし、ここにきて、参加者同士の人間関係に大きな変化が生まれてきているのは確かなようですね。私が気になるのは、T・Nの方です」

「ふむ。私も予想だにしなかった展開だ。それだけに興味深い」

 かつて松永太と争った大物、八木茂が再起し、T・Nとコンタクトを取った。そして、松永太の店の中で、T・Nが人間関係に苦慮していることに漬け込み、見事協力関係へと持ち込むことに成功したのである。

「あの環七通りの戦いによって、金も力も失った八木ですが、ここからの巻き返しはあるのでしょうか」

「うむ・・一見すると、八木が執念を燃やす松永太との戦力差は絶望的だが、彼のバックには、あの大物参加者が付いている。バドラなどとも連携すれば、もしかすると息を吹き返すかもしれん」

 生命線であった都井睦夫と店を失い、無力と化したと思われた八木茂――しかし彼は復活した。転んでただ起きたわけではない。さる大物参加者を味方につけ、さらにT・Nを引き込むことで、恨み連なる松永太に泡を食わせる体制を整えた。一度地獄を見た者の逆転はあるのかどうか、見ものである。

「現在、麻原包囲網は、数の少ない同盟軍の宅間軍に攻撃の的を絞っています。大久保のコリアンタウンで行われた戦闘では、一般人が絡み、あわやの事態となりました」

「一般人を戦闘に巻き込んではならない・・・。厳格に定められたルールだが、そのグレーゾーンをうまく突いた者が、大会を有利な展開で進めることができる。ルールの穴を見つけるのは、彼ら犯罪者の十八番。あまり厳しく規制しすぎても面白味がなくなってしまうが、ともかく最悪の事態だけは防がなくてはならない。注意をしながら、見守っていく必要があるな」

 あのコリアンタウンの戦いで、一般人の犠牲者が出なかったのは幸いであった。

 大会によって一般人に被害が及ぶのは、グランドマスターの本意ではないが、しかし、だからといって、運営に躊躇することはまったくない。誰が死んでも・・たとえ自分の親が殺されようとも、考えは変わらない。この世の何も、自分の無上の楽しみに変えられるものはないのである。
 
「市橋達也は、日雇い仕事を紹介する派遣会社で働き始めたようですね。現代社会、最底辺の実情を見て、彼は何を思うのでしょうか」

「飯場労働をしていた彼にはあまり抵抗がないのかもしれないがね・・。憂うべきは、飯場労働のような劣悪な条件での仕事が、今や普通に、人に後ろ指をさされるような事情のない真っ当な人にまで利用されている、という事実だろうな」

 好きな時間に、すぐ金を調達できる、お手軽な仕事という建前で生まれたはずの、日雇い派遣。しかし、実際には、建前通り「気軽に利用してあげてる」感覚で働いているスタッフよりも、生活のため「頭を下げて雇ってもらっている」感覚で働いている、切羽詰ったスタッフの方が多数派なのが現状である。彼らの中から、宅間守や加藤智大に匹敵する、あるいはそれ以上の犯罪を犯すものが出てくるのは、時間の問題だ。強者を優遇し、弱者から徹底的に絞り上げる社会を目指す政府は、「その時」が来るまでわからないのだろう。

「バドラ、宅間連合軍と、麻原包囲網の争いを軸に、近々大会の流れが大きく動きそうな予感がするな。忙しくなってきそうだ」

 暑い暑い夏――戦いの季節。八月――死者の還る月。

 激化する戦いを生き残らんとする犯罪者たちを思いながら、グランドマスターは、こんがりと焼き色のついたトウモロコシを頬ばるのであった。
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マスターとアヤメさんのまとめキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!!
自分、イカ焼きいいすか(聞いてない)
宮崎さんとマキ先生のデートは実に神回だったなぁ…!山地くんとの関係は修復されなかったのかw
八木氏のバックも大会参加者なんだね!誰なのか全く見当が付かないからNちゃんの動向ともに気になるよ!

No title

八木の後ろにいるのが誰なのか気になりますね。
アカギ一派の出番もそろそろ欲しいです。
大会のルール上、参加者とは絡ませ辛いでしょうけど・・・。

宮崎は・・・きんもー!!ですね、少なくとも私は無理です。
宮崎とA・Sは「氏ね!早く氏んでしまえ!」ですね。
A・Sは最後の最後で当てが外れて凄惨な最後になって欲しいです。
まあそう思う時点で作者の術中に嵌っているのでしょうけど・・・。

No title

>>OKBさん

やはり定期的にまとめを入れないと僕自身整理がつかなくなる・・w
勤を書くときは僕もノリノリだなあ。先の展開が一番思い描けているのが彼のパートなのです・・。
八木ちゃんやNちゃんを麻原と包囲網の戦いにどう関わらせていくかも楽しみに考えています。
最近人も死んでいないし、ここらで一つ大きな戦いを入れたい!

>>NEOさん

お、アカギ一派!
あの話を書いていた時期は0コメが続いていたので、不評だったのかな?と思っていたのですが、楽しみにしていてくれた方もいたのですね・・!当然、今後何らかの形で再登場を予定しています!

勤パートは賛否両論分かれて語り合ってほしいと思っています・・WA・Sは、読んだ人の誰も共感できない畜生中の畜生に描いていきたいですねえ。現実の彼はもう立派な社会人であって幸せになる権利もあるんだが、複雑なところですね。無責任な第三者の立場から言わせてもらえば、最後まで悪を貫いて、更生不能な純粋な悪のままでしんでほしいですね。

No title

返信ありがとうございます。

久々に見たいもの、と言えば
バドラの純粋な戦闘+麻原の失禁が見たいですね。
今でもオランジーナを見る度に麻原を思い浮かべます。

A・Sは最後まであのままであって欲しいですね。
よくありがちな死に際にいい人なんかじゃなくて
最後の最後まで外道であって欲しいです。

No title

>>NEOさん

オランジーナw覚えてくれて光栄です。バドラの戦いは僕も描きたいですね~。もうすぐかな。

そうそう。あんなん反省したって許されるものじゃないんだから、最後まで悪であることこそ潔い態度と思います。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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