凶悪犯罪者バトルロイヤル 162話

 

 表向きは目が見えないということになっている麻原の目の前で、信じられないことが起こっていた。 

 勝田清孝が、「プロ野球スピリッツ」のシーズンモードを、勝手にプレイし始めたのである。

 現在、麻原がシーズンモードで使用している、我が栄光の巨人軍は三年目を迎え、現在までに122試合を消化している。不動の四番打者に成長したエディット選手の麻原照光は、ここまで打率421.45本、132打点を数え、史上初のシーズン打率四割達成に望みをかけていた。

 対戦相手は、東京ヤクルトスワローズである。近頃、リアルのプロ野球において、驚異的なペースで本塁打を量産し、偉大なる王さんの記録に挑もうとしている、不届きな外人が所属するチームだ。

 こともあろうに勝田清孝は、操作するジャイアンツの攻撃の回は、麻原照光も含めて三振ばかりを繰り返し、守備の回では、1番~3番、5番~9番までのバッターはちゃんと抑えるものの、4番に座るあの外人のときだけは、ど真ん中にストレートを放るということをやり始めたのである。どうやら勝田は、麻原の盲目が芝居であることに、信徒の中でただ一人気づいているらしい。勝田は麻原の嘘を、白日の下に暴こうとしているのだ。

 ガタ落ちする麻原照光の打率は4割を切る目前にまでなり、不届きな外人は、3本、4本と連続本塁打を重ねていく。麻原が、偉大なる王さんに申し訳ないと、ゲームの中でも抜かせなかった記録が抜かれてしまう・・。

 このまま試合数を重ねられ、勝田がセーブをしてしまったならば、栄光の「V9」を再現するという麻原の夢は打ち砕かれてしまう・・。一刻も早く止めに入らなくてはならないが、問題なのは、勝田は音声をミュートにしてプレイしている、ということである。今の状態で麻原が止めに入れば、盲目の設定は完全に瓦解してしまうのだ。

「清孝。清孝は何をやっている」

 考えた末に麻原がとったのは、他の信徒の口から、勝田清孝の行動についての情報を得るという手段であった。しかし・・。

「勝田さんなら、今はさんまのスーパーからくりTVを見ていますよ」

 勝田清孝は、麻原が問いかけたときだけ、チャンネルを変えてしまうのである。これでは、皆の口から、勝田清孝が行っている暴挙を言わせることはできない。

 麻原が手をこまねいている間にも、勝田清孝はペナントモードを進めていく。ついに、麻原照光の打率は4割を切り、逆に、肌の色も違い、血液型もわからないような不届きな外人風情は、ついに偉大なる王さんの記録に、肩を並べてしまった。

「打ちました。バレンティン、56号。日本記録達成です」

 とうとう破られた、偉大なる王さんの記録――。それも、サヨナラ本塁打での達成である。勝田は試合を終えると、いち早く、セーブボタンを押そうと指を動かした。麻原に、悪魔の笑みを向けて――。

「くっ。小便がしたくなってしまった。これは、トイレに行くしかないな」

 言うや否や、麻原は素早く立ち上がり、リビングの入り口とはまったく逆の、PS3がある方向へと歩き始めた。

「くっ。見えん。前が見えんから、うまく歩けんぞ。あっ。あーーーーーーっ」

 大げさによろけた麻原は、PS3のコードに躓き、転んでみせたのである。

「尊師、大丈夫ですか!」

「尊師、しっかりしてください」

 信徒たちが血相を変えて、盲目という設定になっている麻原のもとへと駆けよってきた。

「いやあ、すまん。何しろ、目が見えないものでな。目が見えないばかりに、こうしたミスもしてしまう。目が見えないとは、実に難儀なものだな」

 この危機を利用して、逆に目が見えないことの信ぴょう性を深めてしまった――。麻原の勝利である。当てが外れた勝田清孝は、悔しそうに舌うちをして、チャンネルを変えた。さんまのスーパーからくりTVである。

 画面に映し出されていたのは、ご長寿早押しクイズ――。同番組の名物コーナーである。勝負は、三人の老人が1ポイントで並んでおり、最終局面に入っていた。

 すでに問題は、本人も解答者と変わらぬ老境に差し掛かった司会者により、読み上げられた後である。字幕を見ると、「90年代後半、地下鉄サリン事件を起こした某教団の教祖が使っていたシャンプーは、○○○シャンプー?」と書かれている。

 ボタンが押された。82歳の女性、高山ひばりさんである。

「毛じらみ」

 いきなりカオスな解答である。

 続いてボタンを押したのは、91歳の男性、大塚大二郎さん。

「大便」

 今回の下ネタ担当は、この爺さんらしい。

 続いてボタンを押したのは、88歳の女性、間宮花さん。

「なおきさんのシャンプーは・・・・寝小便の・・」

 先ほどの爺さんに、心を惑わされたか。

「なぜこの程度の問題が答えられんのだ。ベビーシャンプーに決まっているではないか」

 麻原がついうっかりそう口にした瞬間、室内の視線が、すべて麻原に集中した。

 先ほどの問題はすでに読み上げられたばかりであり、内容を知るには、画面の字幕が見えてないといけない。正確な解答をすることができたということは、麻原が日常生活に支障はない程度の視力を有している証拠である。

 慌てて口を噤んだが、もう遅い。麻原の嘘はあっさりと瓦解し、囂々たる非難が降り注いだ。

「なんだよ尊師、やっぱり見えてんじゃねえかよ」

「みんなを騙してたのか!」

「う・・いや・・実は、三日前から視力が回復・・いや・・もともと視力がよくないのは本当なのだが・・」

 毎度毎度の、自業自得――。結局、麻原は場を収拾するため、これまでに描いた絵画亜二十点の破棄と、これまで誕生日会が開かれた信徒全員分のプレゼント買い直しを約束させられてしまった。

 一同はそれで気を取り直し、お誕生日会は相変わらずの盛り上がりを見せたのだが、ただ一人、その輪の中に加わらず、黙々と作業を進める信徒が。バドラの頭脳、正田昭である。

「そうか・・・わかった」

 世田谷の市民からかかってきた電話を置いた正田昭が、パーティー会場にはおよそ似つかわしくない、真面目くさった顔を、麻原に向けた。

「尊師・・。敵がなぜ、宅間軍の動向を逐一知ることができたのか、その理由がわかりました」
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No title

>>空回りさん

ニュース見たよ。
またこの手の事件が福岡で起きたとはなあ
九州人の金への執着はガチだね。

麻原はもうあんなになって10年以上だからね・・。あれが演技だとするなら凄すぎるという意見が、最近では強いらしい。近頃ではアーレフで麻原の再評価が始まっているみたいだね。まあサリン事件全部の裁判が終わるまで死刑はないと思うがどうなんだろうね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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