凶悪犯罪者バトルロイヤル 第160話


 屋台から立ち上るキムチの香り。そこここの店から流れるコリアンソング。韓国系特有の極度な興奮状態で、それぞれ刃物や鈍器を構えながら追ってくる大久保の住人――。地獄の街で、宅間達の相手は、大会参加者ではなく、一般人であった。

「&%%$’$)’)(’)!」

 住人の投げた包丁が、宅間の左肩を掠める。お気に入りの白いカッターシャツに、赤いシミが出来てしまった。

「くそガキャ・・・」

「宅間さん、抑えてください。アイツらに手を出したら、私たちが委員会に処罰されてしまいます」

 上部の鳥の巣頭が、分かりきったことを抜かしくさる。しかし、その分かりきったことを言われないと爆発してしまうのが、今の宅間の頭の状態であった。

「おい、武器を捨てるで」

 こちらから奴らに手を出せないのならば、武器を持っていても邪魔なだけ。心理的には手放し憎いのだが、合理的に考えるならば、それが正しい判断のはずである。

 身軽になったことでスピードアップした宅間たちは、大久保の住人たちとの距離を広げていったのだが、ここで思わぬ邪魔が入る。

「やっぱり、東方神起は最高よね~」

「私は今でも、ヨン様一筋だわ~」

 常人の二倍は横幅がある婆が二人並んで狭い路地を歩き、道を塞いでいるのである。そしてこういう婆は、歩く速度も、常人の半分程度に遅い。

「どっ・・ババア、どかんかい~!」

「なっ、なんなのよアンタは!アンタが道を変えればいいでしょうが!」

 殴りたい。蹴り飛ばしたい。殺してやりたい。自分でなくとも抱くであろう衝動を、宅間は必死に堪えた。

 しかし、堪えている間に、とうとう路地の向こう側からも住人がやってきて、宅間たちは挟み撃ちにされてしまった。

 包丁、金属バット、ナイフ、鉄パイプ――次々に飛んでくる攻撃を躱す。ひたすらの防戦一方。攻撃は最大の防御というように、こちらから手を出さないのは、むしろ防御力を損なう。何人もの男がかさにかかって攻めてくるのをすべて躱すのは困難で、三人の身体に、無数の生傷が刻まれていった。

「な、なによこれは。私たちは関係ないでしょう」

「な、なによ、なんなの」

 婆たちが大声で騒ぎそうな雰囲気となったので、大久保の住人達が一時攻撃の手を止め、道を空けた。千載一遇のチャンス。婆たちよりも先に、宅間達がその道を通って、包囲から脱出した。

 大久保から百人町に差し掛かり、屋台などは減って道幅が広くなり、身動きは取りやすくなった。街並みからもコリアン色は幾らか薄れたが、まだ危機が去ったわけではない。むしろこの界隈の方が、凶悪なコリアンマフィアの生息数は多いという。けして気は抜けない。
 
「しかし、どこまで追ってくるんや、アイツらは。毎日辛いもんばっか食っとるから、無駄にスタミナだけは持っておる」

 反対に、ヘビースモーカーの宅間は、持久力には不安がある。追手が電話で仲間に呼びかけることによって、無限に湧いてくる住人達を振り切れるだろうか。

「ははは、三人そろってマラソンとは、楽しそうじゃないか」

 声のする方を向くと、コリアントリオの孫斗八が、走行する原付バイクから、宅間たちに向かって、腹の、立つことこの上ない笑みを浮かべていた。

「こんガキャ・・」

「それにしても、ずいぶん人気者じゃないか。二十人近くに追い掛け回されて、韓流スターなみだな」

「クソチョンコロが、なめくさりよってからにっ!」

 怒声によって、貴重なスタミナがまた失われている。しかし、叫ばずにはいられなかった。

「そこから動くな!頭かちわって、薄汚い脳みそを引きずり出しちゃる」

「動くなと言われて、本当に動かんアホがいるか。そういえば、お前の親父さんのインタビュー記事を読んだが、お前の死後、お前の脳みそは本当に大学病院に検体されたのか?お前のようなクズをこの世に生み出さないための研究に、役立つことはできたのかな?」

 宅間を苛立たせる挑発を繰り返す、孫斗八――。宅間も収監された大阪拘置所で、厚さ五センチにもなる大冊の訴状を書き上げた勤勉さを発揮し、宅間のことを調べ上げたのであろう。

 相手にしてはいけない。奴らの狙いは、宅間の自滅である。これ以上、怒りを増幅させてしまえば、自分はあの住人達に手を出してしまう。奴らの狙い通りになってはいけない。

 乏しい忍耐力を振り絞って、孫の挑発を無視しながら走り続け、そろそろ新宿の駅にたどり着こうかというところまで逃げた。大久保の住人も諦めたのか、追手の数は数人にまで減っている。ようやく一安心か――と思った、そのときだった。

「よう、お疲れさん」

 コリアントリオの孫斗八であった。さらに、金嬉老、イチヌの姿も見える。宅間たちをずっと追いかけてきたコリアントリオは、宅間達のスタミナが切れたところを見計らい、襲い掛かってきたのだ。

 三対三。万全の状態なら、まず負けはしない。しかし、宅間軍は三人とも息が上がり、立っているのも辛いほど疲労している。それに加え、今の宅間達は、丸腰である。身を軽くするために武器を捨てたのが、ここで仇になってしまったのだ。

「安心しろ、すぐに楽にしてやる」

 絶対絶命。あのバドラと戦っても生き残った宅間軍が、いよいよ皆殺しにされるそのときがやってきたかと思われた、そのとき――救いの神。空車のタクシーが、運転手がタバコを買うため、近くに路駐したのである。

「宅間さん、乗り込みましょう」

 金川と上部が、我先にと、タクシーの後部座席に乗り込み、驚く運転手に行先の指示をする。だが、宅間は、すぐには乗ろうとはしない。散々にコケにしてくれたコリアントリオを、どうしてもこの場で始末しないと気が済まない。

「逃がすかあっ!」

 武器を構えたコリアントリオが迫ってくる。宅間は決断した。タクシーの助手席へと飛び込んだ。扉がしまると同時に、運転手が思い切りアクセルを踏みこみ、タクシーが急発進した。

 寸前で大魚を逃し、悔しがるコリアントリオの姿が、徐々に小さくなっていく。宅間たちは生き残ったのである。

 しかし、気分が悪い。最高潮に、怒りと不快感がこみ上げている。今までの人生でも味わったことがないくらいである。

「覚えておれ・・絶対に、この落とし前はつけたる」

 今一度言う。何度でも言う。

 負けることが恥なのではない。負けたままでいることが、恥なのや。

 九十九回負けてもいい。百回目で相手の命を取れば、それでワシの勝ちなのや。

 復讐を心に誓い、宅間たちは本拠地の大田区へと帰っていった。
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非公開コメント

書き初めより文章が洗練されてきたように感じます
確実に成長してる

今後も楽しみにしてます

No title

ありがとう。
そうしたコメントを頂けるとやはりモチベーションが上がります。
頑張ります。

先が楽しみです

No title

>>隠れファンさん

ありがとう。一行くらいでも読んでくれているのわかると嬉しいな。

やはり閲覧数、拍手数、コメント数で一番重いのはコメントという気がしてきました。拍手はわからないけど、閲覧数は一人で何回もカウンター回す方法はあるっちゃあるんで・・。コメント、拍手が多い方が、読んでくれている人がいるのがわかります。閲覧数も、500とか1000とか行けばそれだけで嬉しいんでしょうがね・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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