凶悪犯罪者バトルロイヤル 第155話

 午後七時。T・Nは、スカーフ・キッス控室にて、毎日行われる開店前ミーティングに参加していた。室内の空気は、いつになく緊迫している。

「では、今月度の売り上げランキング、ベスト5を発表する。5位、ミナミ。871万円。4位、ユウコ。913万円。3位、リノ。1073万円」

「おかしい!インチキしたに決まってる!」

 ミーティングを仕切る加藤店長のランキング発表に割り込み、前月までの売上女王、リノが、大きな声を上げる。加藤店長は、リノを一瞥することもない。淡々と、書類に印刷されたエクセルのデータを読み上げるだけである。

「2位、ホミカ。1356万円。1位、N。2073万円。以上。名前を読み上げられた者には、金一封を授与する。前に出てくれ」

 加藤店長の言葉に従ったのは、私とホミカだけだった。賞金は一番少ない5位が5万円で、1位まで5万円ずつ上がっていくのだが、お歴々の皆さまは、私やホミカより少ない賞金をもらうのが耐えられないのだろう。なんとも勿体ないことである。キャバクラ嬢でいられるのなんて、若い今のうちだけ。稼げるときに1円でも多く稼いでおかないと、後で絶対後悔することになるのに。

 入店から3か月。目標としていたナンバー1、キャストの座に君臨することができた。それも、親友、ホミカとの1,2フィニッシュというおまけつきである。終盤、麻原彰晃が書いた詩の効果で、主に世田谷区からやってきた客が増えたことが大きかったのは間違いないが、この数字なら、何もなくても順位に変動はなかったかもしれない。

 いずれにせよ、松永社長が全国のキャバクラから選りすぐったエリートを抑え、未経験組の二人がトップに躍り出たのは事実。その期間は、わずか3か月。これからの伸びしろを考えたら、少なくとも今ここにいる先輩方に、政権を覆されることはないであろう。ホミカと一緒に店の看板を背負って立つという夢が、実現したのである。

「ありえない。絶対ありえない!あんた、枕してるでしょ!正直に言いなさいよ!」

 枕営業――客に身体を許すことであるが、勿論そんなことはしていない。枕をすれば、一時的には成績が上がるのは間違いないが、長期的に考えれば逆効果である。キャバクラ嬢と寝るのは、客の究極の目的。それを叶えてやった瞬間、客の情熱は冷めてしまう。切り札は滅多なことでは抜いてはいけないのである。

「なんとか答えなさいよ!」

「変な言いがかりはよせ。Nに敗れて悔しいのなら、接客で対抗しろよ」

 リノが私に掴みかかってきたところで、加藤店長が助けに入ってくれた。

「どいて!邪魔!」

 リノが控室を出る際、八つ当たりで新人の男性従業員を突き飛ばしていった。私はその従業員に近づき、優しく声をかける。

「大丈夫ですか?」

「は、はい・・。あの、一位、おめでとうございます」

「ありがとう。男性従業員の皆さんの、頑張りのお蔭です。これからも、よろしくお願いしますね」

 リップサービスではない。加藤店長はじめ、裏方の助力のお蔭で、ここまで来れたと思っている。かつて、「たかが野球選手が」という発言で大バッシングを受けた人物がいたが、実際、華やかに見える地位にいても、駒は永遠に駒なのである。一方、裏方で駒を支える側は、着実に力をつけ、いずれ駒を操る側に立つ。彼らを敵に回していいことは何もない。ただ女王様気分を味わいたいために、ボーイを奴隷のように扱っているリノのようなキャストもいるが、彼らが出世して店長クラスになれば、締め出されるのは自分なのである。リノのような浅はかな態度は、いつか自分に返ってくる。

 そして営業時間となったが、私とホミカへの対抗心が空回りするリノたちに対し、私とホミカは自然体の接客で、テーブルを弾けさせた。スタートダッシュに成功したのである。長きに渡る伝説への滑り出しは、順調であった。

 アフターは常連客のオザワと、ゴールデン街に繰り出す。昔ながらの、木造建築の飲み屋が多く連なる一帯である。

「N、こんな小汚い店でいいのか?渋谷にオープンした、懐石料理の店などどうだ?」

「いいの。私、こういうレトロな雰囲気が好きなんだから。その世代を知らないからむしろ魅力を感じるというのもあると思うけど、古き良きものを大事にするって、素敵だと思うな」

 私の発言に、バーの店主が目を細める。この街の住人にも、私の顔は段々と通ってきた。

「ちょっと、トイレに行ってくる」

 オザワが席を立ち、店の外にある共用トイレへと向かっていった。残された私は、一人ドライフルーツを撮みながら、ハイボールのグラスを傾ける。

「マスター、ジャック・ダニエルをロックで」

 オザワが座っていた席に、やつれた中間管理職風の中年男性が腰を下ろした。

「あ、そこは・・・」

 出そうとした声が引っ込んだ。軽く回っていた酔いが、一気に冷めていく。

 二着9000円のスーツ、くたびれたネクタイ、バッタ者の腕時計。乱れた頭髪、まばらに生えた無精ひげ、やつれた頬――。その姿は、かつて威勢を誇っていたあの頃とは180度違う。

 しかし、その顔は紛れもなく、大会参加者にして、池袋のキャバクラ「IKB48」の元オーナー、八木茂に間違いなかった。

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毒を吐きつつも小説更新してくれるTSM兄貴すき
ようやくNちゃんとホミカちゃんがスカーフキッスのトップに君臨か!やったねNちゃん!
そして八木氏生きてタ━━━━(゜∀゜)━━━━ !!!!!
これまでどうやって生き延びてたんだろう…!

No title

>>OKBさん

コメントがないのは本当に不安になるので、一作品につき2コメ以上は確実に欲しいところだよ・・。コメントがもらえないとその悲しみは全部、この地球から消え去るべき生物、クソブスSに向けられるんだ。

八木ちゃんはあの死闘から一か月、ボロボロになりながらも生きていたよ!ついにトップに立ったNちゃんと絡んで、これから先も大会を盛り上げていくからね。

NちゃんNo.1おめでとう!毎日の地道な努力が実を結んだんだねヽ(*´∀`)ノそして八木さん再登場キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!カウ姐さんや睦くんがいなくなった後どうやって生き延びてたんでしょう?

No title

>>枇杷さん

八木さんを忘れていたわけじゃないよ!wまた活躍させるつもりだったんや。
Nちゃん3か月で首位奪取は早いようにも見えるけど、水商売の世界の人材サイクルは昼の世界の比じゃないらしいからねえ。Nちゃんもうかうかしていられないね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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