凶悪犯罪者バトルロイヤル 第二十三話

 宮崎勤が、青山にある木嶋佳苗のマンションでヒモ生活を始めてから、一週間が経った。

 木嶋佳苗から同棲を持ちかけられたときは戸惑ったが、今はこの天国のような環境以外で生きていくのは考えられなくなっていた。あの女は料理もうまく、几帳面な生活で家事全般できる。ヒモ生活というと、従来女の役割とされてきたことを男が負う、男女逆転の関係であるというイメージだったが、僕の場合は何もしなくてよかった。ただ一日中、食って寝て、ゴロゴロしているだけでいいのである。「夜のお勤め」を強いられることもない。さすがの僕も、アレに「やさしいこと」をするのは無理だ。これではヒモというより、ニートである。

 木嶋佳苗は仕事はしていないようだが、昼間は家を空けている。その間は、鬱陶しい会話に付き合わされることもなく、マンガ読みに没頭することができる。最近ハマっているのは、木嶋佳苗が揃えていた「スラムダンク」だ。インドア派に思われている僕だが、少年期には、通信教育で空手を習っていたこともある。スポーツに対しても造詣があるのだ。

 同作はジャンプ黄金期の看板作品の一つで、一般的には不朽の名作と称えられている。だが、僕的には、ちょっと首を捻らざるをえない場面が多かった。いや、シナリオは満点なのである。テンポが速く、読者に息をつく暇も与えない。練習描写が少ない気がするが、余計な日常描写に時間を裂き過ぎるよりはマシである。心理描写も巧みである。これを描いた当時、作者は二十代前半の若者であったのが、まったく信じられない。さすがに天才と評されるだけのことはある。

 ただ、若さゆえの限界なのか、ハードな週刊連載特有のアラなのか、やはりツッコミどころは多い。一つ一つあげつらっていく。

 まず、キャラのことである。ちょっと人格的に問題がある人間が多過ぎるように思うのだ。それも、とくに主人公の湘北高校に集中している。

 まずは、キャプテンの赤木。頑固一徹、初志貫徹、漢の鑑みたいに描かれているが、あんなの、ただの自己中ではないか。自分に厳しいのはいい。だが、自分の勝手な考えを人にまで押し付けるのはいかがなものか。彼は競技を間違えているのではないか。格闘技とかそっちに行った方がいいだろう。百歩譲って、一選手ならまだいい。だが、あれを指導者にしてはいけない。ああいう人間が、不祥事を起こすのである。桜木との出会いで少しはマシになったようだが、卒業して彼から離れたらどうなることか。

 続いて、シューターの三井。こいつは、本当のクズである。まず、あの暴力事件がおかしい。なんか美談みたいになっているが、絶対におかしい。あれだけ他校生を巻き込んで大騒ぎを起こせば、普通は一発退学である。しかし、それはフィクションだからまあいいとする。問題はその後である。あんな大事件を起こした自分を受け入れてくれたバスケ部の仲間に対して、奴はなんといったか?

「だからウチは選手層が薄いと言われるんだ。悔しくねーのか?」

 夜道で刺されても文句はいえないレベルである。これに関しては、黙っている補欠部員たちにも問題があるのかもしれない。彼らの将来が不安になる。だが、それにしても三井のクズっぷりは許せない。体育会系の悪しき風潮は根絶すべきと考えている僕だが、こんな奴だったら、「かわいがり」も止む無しかなと思える。なんでこんな奴が作中屈指の人気者なのか、僕にはまったくわからない。こいつを称えている人は、いっぺん脳みそ洗ってみた方がいいと思う。

 しかし、諸悪の根源は他にいる。監督の安西である。赤木を野放しにして部員を次々に辞めさせたのも、三井の精神のケアを怠ってグレさせたのも、全部コイツの責任である。コイツはおそらく教員ではないだろうから、バスケだけを教えていればいいというスタンスだったのかもしれないが、そんなところばっかりアメリカのマネをするのはどうかと思うわけである。そのバスケに関しても、コイツはしっかり教えていたのか?早い話が、赤木。フリースローはうまいのだからシュートセンスは悪くないだろうに、彼はミドルシュートが打てない。桜木に二万本シュートを指導したように、赤木にちゃんとミドルシュートを教えていたら、山王戦で河田にあんなにやられることはなかったのではないか。なんでこんな奴が名将と称えられているのか、僕にはまったくわからない。

 他にもいろいろある。たとえば、山王トリオの中で、深津だけどうみてもショボイということ。これに関しては、井上武彦に「PG的凄さ」を描く力量がなかっただけなのかもしれない。PGとして一目で凄さがわかるキャラとしては牧がいるが、牧の凄さは「FW的凄さ」である。ゲームメイクや視野の広さなどの凄さではない。まあ、リアルに考えたら高校生くらいならそんなもので、高度な頭脳戦はプロレベルでなければ見られないものなのかもしれない。ただ、高校生がNBA級のプレイを連発しているあの世界なら、出来て然るべきではないかとも思うのだが。

 神奈川ベスト4の武里高校の、毛沢東似の監督も酷い。仮にもベスト4の強豪校が「海南戦は捨てる」と言い放つのはどうなのか。学生の指導者としても、勝負至上主義的なあのセリフは問題であると思う。

  逆に、ツッコミどころとされているところで論破できるものもある。まず、強豪校の翔陽になぜ監督がいないのかということ。これに関しては、不祥事でクビになったの一言で済む。あとは、山王戦で、山王はなぜ一回突破されただけでゾーンプレスを解いたのかということ。あれはご都合主義などではない。ゾーンプレスは体力消耗が大きいプレイである。点差も離れていたし、単に潮時だったというだけだ。

 などといったことを考えていると、木嶋佳苗が帰ってきた。

「ただいま、勤さん。お昼はお召し上がりになった?」

「ああ、お帰り。うん、美味しかったよ」

「そう、よかった。お夕飯は勤さんの大好きなシチューだから、楽しみに待っててね」

 そう言うと、木嶋佳苗はキングサイズのエプロンをつけ、台所で調理を始めた。シチューか。一か月くらい前、赤羽のファミレスで食べた以来の「カレー仲間」だ。そういえば、あの日は、他の参加者に出会ったんだっけ。あのとき、メンバーの中にいた女・・名前はわからないが・・あいつはなかなか美人だったな。あいつにだったら「やさしいこと」をしてやってもいい。松永とかいう奴の電話番号にかけてみようかな。

「ねえ、勤さん。ちょっとお願いがあるの」

 木嶋佳苗が、甘えた声音で言った。ついに、僕にギブ&テイクを要求しようということらしい。なんだ、何を言いつけるってんだ。便所掃除くらいならお安い御用だが、それ以上の仕事はしないぞ。

「今日ね、ある参加者を見つけたの。結構お金を持っていそうな感じだった。それでね、勤さんに、そいつを殺して、お金を奪ってきてほしいの」

 そういうこと、か。残念ながら、聞けない相談である。人殺しをするのはやぶさかではない。だが、今はそんな気分ではない。典型的快楽殺人者の僕は、営利目的で手を汚すことはないのだ。

「悪いけど、その頼みは・・」

「やってくれるわね?」

 ドン、と、もの凄い音がした。木嶋佳苗が、包丁の切っ先を俎板に突き立てた音だ。

「もう一度聞くわ。や・っ・て・く・れ・る・わ・ね?」

 腹の底から響いてくるような恐ろしい声に合わせて、ドン、ドン、と、包丁が俎板に突き立てられる。ジャガイモやニンジンの欠片が、あちこちに飛び散る。

「は・・はい・・」

 大魔神のような、あまりの迫力に、僕は頷くしかなかった。
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No title

v(´・ω・`)vギャッギャッ

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!


ハエェェーー!!!???

No title

流石はキジカナ。勤くんを見事に手玉に取りましたね。
きっと勤くんを利用するだけ利用して怪我をするなりして
利用価値が無くなったら消すのでしょう。勉くんが気の毒です。

No title

>>3番コメさんコメントありがとうございます!

どっこい、勤くんもただのネズミではありません・・!

二人の共生関係の行き着く先には、なにが待っているのでしょうね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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