凶悪犯罪者バトルロイヤル 第148話

 宮崎勤は、保育士マキとのデートの地、秋葉原へと向かっていた。

 近頃僕には、密かなマイブームがある。それは、満員電車の中で、うんこを漏らすことだ。

 電車の中で便意を催したとき・・・。それは、冗談ではなく死の恐怖を感じる瞬間である。東京の電車は駅間の距離が短いため、トイレを設置していない電車が多いが、すぐ降りることができるからトイレがなくても平気、などというのは、あまりに乗客に配慮が足りない考えである。余裕を持って家を出ればいいじゃないか、といってしまえばそれまでだが、世の中そうそう、出来る人間ばかりではない。出来る人間だってギリギリに家を出ることはあるだろうし、よりによってそういうときに限って襲ってくるのが、便意というものだ。

 そこで僕は思った。電車の中で、今まさに便意に襲われ苦しんでいる者の目の前でうんこをすれば、どれだけ気持ちいいかと。うんこを漏らしてしまったその瞬間、人は「もう、どうでもいいや」と、あたかも強姦された女性のような感情となり、諦めの気持ちから、いつもの排便にはない、えもいえぬ快感を味わうことができるが、それに加え、あたかも童貞男の前で、美女の乳を揉んで魅せるような、勝利の快感を味わうこともできるのである。

 無論、ブツを外に出してしまったら問題になってしまうから、すべての出来事は、おむつの中で引き起こされる。最近のおむつは密閉性に優れ、中で排泄をしても、臭いが外に漏れることは一切ない。もちろんそれでは、相手に見せ付けることはできないが、僕の中での達成感は満たされる。今の僕の最大の望みは、さっさとこのくだらない殺し合いの大会が終了し、どうどうと電車内でうんこを出せるようになることだった。

 しかし、この日はあいにく、便意を催している者は見つからなかった。まあ、そうそう毎日、額から脂汗を流し、修羅の如く顔を歪めている者が、見つかるわけではない。仕方がないので、適当に、そこらにいた子連れの女に目をつけ、傍によって、うんこを漏らすことにした。

 近頃、野菜中心の食事をし、さらに「コ―ラック」を、通常の用量の倍飲んで、便の通じをよくした結果――。現在、僕の腸は、抱えた物を吐き出したくて、しきりに痛みを発している。僕はその訴えに耳を傾け、ふっ、と、黄門様の力を緩めた。

 くさくない。嘘みたいに、まったく、臭いがない。大量のうんこが放出され、僕のズボンの後ろには、こぶし大ほどのふくらみが出来ているにも関わらず、である。

 しかし、子供の鼻は敏感だった。ベビーカーに乗った、1,2歳くらいの男の子は、車内に漂うかすかな臭いを確実に感じとり、大きな泣き声を上げ始めた。

「す、すみません・・。ほら、詩理臼ちゃん、泣き止んで。ね」

 母親は、周囲の乗客に頭を下げて謝っているが、子供はそんな母親の奮闘を無視し、あろうことか、僕同様に、うんこを漏らしてしまった。子供のおむつは、僕が履いているおむつとはかなり性能に差があるようで、辺りには香ばしい臭いが、ぷ~んと漂ってしまった。

 ははは、ざまあみろ。僕はお前より、何倍もいいおむつを履いているんだぞ。どうだ、羨ましいか。僕は心の中で、泣きじゃくる子供を嘲った。催している人の前で漏らす快感は味わえなかったが、思わぬ形で、勝利の快感を得ることができた形である。

「ちょっと、子供うるさいんですけど。小さな子供を連れているなら、公共の交通機関じゃなく、車を使用してくださいよ」

 なにやら、肥満して冴えない顔立ちをした、サラリーマン風の男が、僕の方を向きながら、文句をつけてきた。どうやらこの男、僕のことを、詩理臼なる子供の父親と勘違いしているようである。

「まったく、近頃の親は常識がないというか・・・。子供に変な名前をつけるような親は、やっぱりロクでもないですね。どうせ仕事もロクでもないんでしょう。だから車も買えないんですね」 

 僕のことを言っているのだろうが、勘違いされているだけなのだから、別に腹も立たない。しかし、母親は歯噛みして悔しがっているようである。

 おそらくこの男は、街中で人の弱みを見つけるたびに、それにつけこんで、己の醜く歪んだプライドを満たしているのだろう。本当はコンプレックスの塊で、いつも何かに追い詰められている、悲しい人間に違いない。

 いつもはうまくいっているのだろうが、しかし今回は相手が悪かった。

「豚が電車に乗っているのも、十分人の迷惑だと思うが、違うのだろうか」

「なっ・・・!!!人の、人の、人の身体的欠陥をつくのは、人の、人の」

 豚が可愛そうなくらいに、取り乱してしまっている。こういう、常識云々を言ってくる奴に限って、ネット掲示板の書き込みレベルの反撃をされると、もろいものである。電車内からは、パラパラと、拍手のような音も聞こえてくる。結局、居づらくなった男は、次の駅で降りて行った。

 そして電車は、秋葉原駅へと到着した。

「どうも・・ありがとう、ございました」

 母親が、涙ながらに僕に頭を下げた。子供はといえば、何があったのか、まるでわかっていないといった風に、キャキャと笑っている。

「・・・・」

 どうでもよかった。なんだか、僕はいいことをしてしまったらしいが、極めてどうでもよかった。興味がなくなっていた。今、僕の頭にあるのは、股間で眠る、完成したこの「毒魔羅」を、美しき女、マキに突き刺すことだけである。

 僕は、地下闘技場の戦いに挑む闘士の気持ちで、秋葉原へと降りていった。もりもりのうんちの温もりを、おしりに感じながら――。

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久しぶりに来てみたら宮崎が新たなセイヘキに…ww流石に何人かは気づきそうな気もしますが彼にはその危うさも快感なんでしょうね(^_^;)

No title

>>枇杷さん

ズバリそれやと思うよw
けど最近のおむつは本当にすごいらしいからね~。
僕がお世話になるのはまだまだ先の話だが、そんときはもっとすごくなってるんだろうなあ。

先日の横浜市の路線バスでのこれに近い心温まる話を知りこの回を思い出して※しにきたよ
日本のサニタリー用品は世界一だと思ってるけど消臭パンツ然りトイレ以外での消音機能は流石にまだ実装されていないのが惜しいね
毒魔羅編ほんとすこ

No title

OKBさん

 懐かしい記事にコメントをありがとうございます。宮崎パートではしょうもない閃きを自由に文章に表現できたのが良かったですね。おそらく実像ともっともかけ離れてしまっている人物ですが、自分の味が一番存分に出せるパートでもあります。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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