凶悪犯罪者バトルロイヤル 第二十一話

 極彩色のネオンの下――。加藤智大は、忙しく立ち働いていた。

 四日前、僕たちのチームは、歌舞伎町にキャバクラ「スカーフキッス」をオープンした。暴力団、山崎組の後押しで、全国のキャバクラから実力派キャストを集めたことにより、店は連日の大盛況を極めている。しかし、そのキャストに多額の準備金を支払わねばならなかった関係で、人件費節約のため、僕がこうしてボーイとして働かなければならなくなったわけだ。

「三番テーブル、おしぼりお願いしまーす!」

「六番テーブル、ロゼ入りましたー!」

 ケバいビッチどもに顎で使われる毎日。まだ戦闘が激化していない今の時期だけの辛抱とはいえ、どうにも気が滅入る。だが、松永さんは、バトルロイヤルの戦略を考えながら、寝る間も惜しんで、店の経営にも全力投球しているのだ。あの人に比べたら、僕の苦労など大したことはない。僕は訓練もあるから、同じくボーイとして働いている松村恭造くんや、尾形英紀さんの半分の時間で早退できる。僕だけが弱音を吐くのは、許されない。

「おい、兄ちゃん。リノはまだこねえのかよ!テーブルについてから、もう45分も経つぞ!高い指名料払ったのに、これじゃぼったくりじゃねえか!」

 30歳くらいの、土木作業員風の男が、僕を怒鳴りつけてきた。そんなこといったって、リノは売上トップ3に名を連ねる人気キャストだ。会社経営者やタレントなど、多額の金を落としてくれる太客に優先してつけておかなければならない。あんたみたいなしみったれた客は、ヘルプで我慢しろよ・・・と言えたら、どんなにいいことか。

「すみません、お客様。もう少し、お待ちいただいてよろしいでしょうか」

 僕は丁重に頭を下げ、客の勘気を和らげようと試みた。慣れない接客業。だが、向いていないわけではない。誤解されているが、僕は人とのコミュニケーションが苦手なわけじゃない。嫌いなだけだ。気配りも、同年代の若者並にはできる。思いやりがないわけでもない。他人のことを考えられるほど、心に余裕がないだけだ。

「うるせえ!こんなブス女をつけやがって、いい加減にしやがれ!暴れっぞ、こらあ!」

 暴れる、と、口で言う奴に限って、本当に暴れる奴はいない。僕は心の中でせせら笑ったが、それはすぐに、自嘲の笑いに変わった。人を殺す、とネットで宣言して、本当に大量殺人を起こした奴もいたことを忘れていた。

「・・・うるさい」

 男にヘルプでついていたNが、ボソリと呟いた。Nは松永さんが全国のキャバクラから選りすぐったキャストではなく、求人広告を見て応募してきた、未経験の女の子だ。男は、ブス、などといったが、ルックスはけして悪くない。むしろ相当に可愛い部類に入ると思う。ただ致命的に愛想が悪い。笑顔が少なくても声が小さくても、目の前のお客に真心を込められるならまだ、影がある、というキャラで売ることもできるが、Nの場合はそれもなく、ただ仕事だからと、嫌々やっている感じなのである。オープンしたてで頭数が足りないから仕方なく雇っているが、クビになるのは時間の問題だった。

「こっのっ・・ブス女があっ!」

 男が水割りのグラスの中身を、Nの顔面にぶちまけた。ずぶ濡れになったNが、夜叉のような眼で男を睨んでいる。手には、水割りの瓶を握っている。まずい。

「松村君、お客様を頼む!」

 僕は、騒ぎを聞いて駆けつけてきた松村君にトラブルの処理を引き継ぎ、Nの腕を引っ張って、控室に連行した。

「なにをやってるんだ、Nちゃん!」

 僕はテーブルを叩き、Nを、履歴書に書いてあった本名で呼んだ。Nは俯いたまま、反応を見せない。

「お客様にあんなことして・・タダで済むとは、思ってないよね?」

 Nは無言の構えを崩さない。

「・・あのさあ。Nちゃん、どうしてキャバ嬢になったの?どう考えても向いてるとは思えないんだけど・・。昼の仕事に移ったらどうかな?」

 偽らざる本心である。あの光景を見たら、十人中十人がそう思うだろう。

「・・・・・お金が」

「え?」

「・・・・お金が、必要なんです。お金を稼いで、あいつらを見返さなきゃ・・」

 その怨念に満ちた眼光を見て、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。目の前に、僕がいる。この世でもっとも遠い存在だと思っていた若い女の子に、僕と同じ波長を持った子がいる。なんとかしてあげたい。力になってあげたい。そう思った。

 同じ夜の仕事なら、風俗の方がまだ向いているようにも思える。キャバクラと違って風俗なら、特別な能力がなくても、若くて可愛いという物理的な要素を満たしているだけで需要がある。大金を稼げて、みんなにチヤホヤされる。

 男の目線からいえば、風俗がキャバクラの下位というのは偏見である。お高くとまったキャバクラ嬢よりも、素朴で普通の女の子らしい風俗嬢の方が好きだという男性は沢山いるはずだ。

 だが僕は、Nに風俗嬢になれと薦めようとは思わなかった。

 男と女の捉え方はまた違う。この子のプライドは、風俗では満たされないのだろう。己に向いていようがいまいが、キャバクラ嬢になるしかないのだ。この子が、いったい何に突き動かされているのかはわからないが、才能があるとか無いとか、そんなことで諦めているわけにはいかないのだ。それしか生きる道がないのだから。

「わかったよ。今日のことは、社長には内密にしておく。その代わり、見逃すのは今回だけだ。次に同じような事件を起こしたら、もう面倒は見きれない。その代わり、君が真面目に働いて、一生懸命に勉強して、№1キャストを目指すというのなら、僕が全力で守ってやる。やれるね?」

「・・・・やります」
 
 Nが、力強く頷いた。その双眸には、揺るぎない決意が宿っている。

「よし。なら、まずは君が迷惑をかけたキャストとボーイのみんなと、お客様に謝ってくるんだ。真剣にな」

「はい」

 Nが立ち上がり、ホールに歩いていった。僕が付いてやる必要はない。安心して見送れた。

 急に、凄まじい気恥ずかしさに襲われた。Nにあんな偉そうなことを言っておいて、僕の方はなんなんだ?プライドを満たすために、なにかに挑戦することもせず、事件を起こしたではないか!他人に説教する資格なんて、僕には無いじゃないか!

 何かに挑戦しようにも、何に情熱を持てばいいのかもわからなかった。いつも何かに邪魔された。社会がチャンスを与えてくれなかった。それは事実だ。自分だけが悪いわけではないとは思う。だけれども・・・。

 僕は厨房に行き、冷蔵庫からビールを取り出して飲んだ。酒でも飲まなきゃ、やってられなかった。松村くんに見つかってしまったが、何かを察したのか、彼は気づかないふりをして出ていった。

 僕には、Nが羨ましかった。
 
 僕にはもう、自分のプライドを満たすために、なにかに挑戦することは、永遠に叶わないのだから・・。
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No title

心優しい加藤にホレました。彼は顔立ちも整ってますしね。
しかし↓みたいにカッコよくしキメた加藤の画像を見ると彼は
髪型とメガネで大きく損をしているのだなあとつくづく思います。
https://blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_4db/gatagata-todo/kato20ikemen20700.jpg

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

加藤智大の容姿は全然努力で救えるレベルですよね。
ブサメンではなくフツメンの範疇に十分入っていると思います。
あれだけの暴力性を発揮したぐらいですから、キリッと引き締まった身体をしていたのでしょうし。

有名なあの写真は、オシャレのセンスが磨かれていない学生時代のときですね。社会人になってからの写真は全然ダサくないです。あの画像をあえて出回らせたマスコミの悪意を感じますね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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