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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第145話

 加藤智大と小泉毅の間合いが、徐々に、徐々に縮まっていく。

 日本刀とナイフのリーチの差は、およそ50センチ。手を出せば、こちらの方が確実に先に届く。ゆっくりでいい。ゆっくり、歩を進めていればいい。やがて焦れた小泉が、イチかバチかの特攻を仕掛けてきたところを迎撃する。それが俺の作戦だった。

「・・・・わかった。もういい」

 小泉が、突然、殺気を消して、ナイフを下げた。いったい、どういうつもりなのか?俺たちは動揺を隠せない。

「降伏する。これからは、あんたらのために働く。だから、命を助けてくれないか」

 戦力の差を見て取った小泉は、降伏を申し入れてきた。想定内の展開ではある。殺し合いをしなくて済んだ。俺は刀を握る手の力を緩めた。

「ならば、武器を捨てなさい!得物を持ったままの降伏などは、認められません!」

「・・・チッ!」

 重信さんに心根を見透かされた小泉が舌打ちし、松村くんの方へと突進していった。

「待て!小泉、俺と戦え!俺と戦っているうちは、みんなは手出しをしない。俺とだけ戦え!」
 
 俺が叫ぶと、小泉は足を止め、俺の方へと向き直った。挟み撃ちにされ、この場にいる最大戦力である俺に背後から切り付けられるリスクを負うよりも、俺を消してから、意気消沈する重信軍の面々をいなしつつ、揚々と戦線離脱した方が得策と判断したのだろう。

 危なかった。小泉が降伏を申し出てきた時点で、俺は完全に安堵してしまっていた。重信さんに目論見を看破された小泉が、もし俺に向かって切りかかってきていたら、恐らく殺られていただろう。

 どうしようもなく甘ったれた精神性――。やはり、俺はまだ、宅間守や都井には及ばない。

 再び、間合いを詰める作業が始まった。焦る必要はない。わかってはいる。しかし、どうしても気が逸る。甘さを露呈したさっきの自分を掻き消したい思いが高まって、どうしようもなくなる。

 昔から俺は、一つのこと、特に、不快な思いや不安感を抱くと、頭の中がそれで一杯になって、何がなんでもそれを解消しなければならなくなってしまうところがあった。気持ちの切り替えが下手なだけだ、などと簡単に切り捨てられるレベルではない。それは殺人にまで発展するほど、病的かつ強烈な性質なのである。

 不快な思いから逃れるため、俺は自分から小泉の間合いに飛び込んだ。ほぼ同時に、小泉も大きくステップインし、俺の懐に潜り込んだ。先ほどまでは、千里にも万里にも思えた間合いは、これでほぼゼロに近くなった。偶然だったのか、狙っていたのか。これでリーチの利はなくなり、逆に小回りが利かず、不利な戦いを強いられる展開となってしまった。

「くっ・・・」

 小泉のナイフが、腹を割く。傷は浅い。しかし、焼けるような痛みが表皮を襲う。本能的に、傷口に左手をやってしまった。宮本武蔵でもあるまいし、重い日本刀を片手で扱えるはずもない。たかが2,3秒のことではあるが、俺は実質的に戦闘力を失ってしまった。

 あの都井睦雄と戦って生き残った小泉が、その隙を逃すはずもない。小泉のナイフの切っ先は、俺の喉笛を確実に捉えて迫ってきた。

 ・・・・迫ってきた?喉笛めがけて迫ってくるナイフが、見えている。見えているということは、避けられる。小川さんに勧められた、動体視力を鍛えるアイ・トレーニングの成果だろうか。考えるのは後だ。今は身体を動かせ。

 文字通りの、首の皮一枚。小泉の攻撃を躱した俺は、バックステップして距離を取る。今の一撃でトドメを刺したと確信していた小泉は、追撃ができない。俺はまんまと、間合いを回復することに成功した。

 落ち着いていく。今度は大丈夫だ。自分に言い聞かせ、一歩一歩、間合いを詰めていく。

 小泉は、もう肩で息をしている。運動量的には、ラジオ体操をした程度。しかし、込めていた気迫と、感じていたプレッシャーが違った。小泉のスタミナは、もう底を尽きかけているようである。

 今が決め時――。窮鼠猫を噛むのことわざ通り、追い詰められた生物は、ときに肉体や精神の限界を超えた力を発揮することがある。ここを逃せば、思わぬ逆転を食らうかもしれない。

「参った・・・降参だ」

 小泉がまた、降伏を申し入れてきた。今度は本当に、我々の軍門に降る決意をしたのかもしれない。しかし、もう遅い。そもそもこいつは、バドラに加入しようとしていた男である。一度降ったと見せて、隙を見て逃げ出し、我が軍の情報を土産にバドラに走ろうとしているのかもしれない。

 速やかに決断を下した。力強く一歩を踏み込み、全体重を乗せた日本刀を振り下ろした。真っ赤な鮮血が、道路の端から端までを汚す。糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた小泉は、数分の間、丘に打ち上げられた魚のようにピク、ピクと動き、やがて屍となった。

「見事な戦いでした。次もこの調子で頼みますよ」

「すげえじゃんか。完全復活だな」

「トレーニングの成果は、順調に出ているようだな」

 殺し合いを制した俺に、重信さん、松村くん、小川さんが、口々に労いの言葉をかける。俺は三人に軽く頭を下げ、近くにあった自販機でコーラを買って、車に乗り込んだ。

 小泉毅――。紛れもない強敵との戦いを制し、どうにか生き残ることはできた。しかし、浮かれてはいられない。必勝の態勢を整えたうえで臨んだ今度の戦で、結果は紙一重の辛勝。このままでは、宅間守や造田博など、真の強敵との戦いを制することなど、到底できはしない。

 休んでなどいられない。帰って、トレーニングに明け暮れなければ――。

 腹の傷を畠山さんに治療してもらいながら、俺は戦闘後の異常な興奮状態を鎮めるため、冷たいコーラを一気に飲んだ。


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Re: タイトルなし

>>鈴香ファンさん

 冤罪説にはそれなりの信ぴょう性がありますね。ただ、毒カレー事件ほど怪しくはなく、殺意の有無はともかく、おそらく手を下したのは間違いないのではないかと僕は判断しました。結局、明確な物的証拠もなしに自白や状況証拠だけで人を殺人者と決めつける無能な警察、検察、裁判官がいるからこういうことが起きるのだと思います。動機も確かに不可解ではあります。まあ、小泉氏のような謀略説はないとは思いますが・・。

 小泉氏のキャラについては、ちょっと鵜呑みにはできないですね・・。職を転々としていることからも、一種の偏屈者、社会不適応者であったのは確かでしょうが、作中にも書いた通り、彼は犯行に当たって、用意周到な計画を練る知性を持っています。あのエキセントリックな発言の数々にも、彼なりの思慮があるのではないか(事件をうやむやにし教唆犯を隠ぺいする)・・と、考えます。

プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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