凶悪犯罪者バトルロイヤル 第144話

 張り詰める車内の空気の中で、松永太は、大物参加者、角田美代子からの電話を取った。

「松永です」

「ああ。アタシだけどさ。今、あんたの言う通りの場所に着いたよ。奴は今起きたようだね。部屋の明かりが点いた」

 角田の言う「奴」とは、参加者の丸山博文のことである。麻原包囲網参加者の一人、角田には、この日、小泉毅とともにバドラの面接を受ける丸山の襲撃を依頼していたのだ。

「丸山が面接を受けるのは、小泉より三十分前の九時三十分ですよ。今到着とは、いささか悠長すぎませんか?」

「間に合ったんだからいいじゃないか。それより、あの約束は覚えているだろうね?」

 角田には、丸山を討ち取った場合、1000万円の謝礼金を渡すことを約束している。

「もちろんです。ターゲットを殺害できれば・・の話ですがね」

「なあに、心配いらないさ。こちらは8人、あっちは1人。これでどうやって負けるっていうんだい」

 角田美代子は、傘下団体のうち、どちらかを置いてきているようだ。確かにそれでも十分な戦力差であるが、その油断が命取りになることを、あの女はわかっていない。

 自分と何かと比較され、活動期間の長さから、一部では自分以上とも言われる角田美代子。隙あらば己が連合の主導権を握ろうと企んでいるであろうあの女には、どちらの知力が上であるか、早い段階ではっきりさせてやる必要がある。

「何かあったら、逐一報告してください。一旦切ります」

 松永は電話を切り、後部座席に座る指揮官、重信房子に頷いてみせた。

「突入です。車を出ますよ」

 重信の命令で、加藤智大、松村恭造、小川博が、一斉に車を降りた。当初の指令では、小泉が車を降りるまで待機、という作戦であったが、突然の変更に疑問を呈する者はいない。上官の命令には絶対服従。彼らはよく調教されている。

 敵を欺くには、まず味方から。必要性に迫られない限りは、たとえ味方であっても、極力、考えを漏らさないほうがいい。

 謀略家に、疑いすぎるという言葉はない。たとえ親兄弟であっても信頼しないくらいが、丁度いいのである。

       ☆    ☆    ☆    ☆     ☆     ☆     ☆

 重信房子の命令を受け、加藤智大は、仲間とともハイエースを飛び出していった。

 
 突然の作戦変更。理由はわからないが、一々疑問を差し挟んでも仕方がない。今まで、重信さん、松永さん、両トップの作戦で勝ってきたのだ。よほど理不尽な命令でなければ、俺は黙って従うだけだ。

 アパートの二階にある小泉の家には、ピッキングを使って侵入する。あの忌々しいAが用いた、ピッキング用の溶解液を使うのである。委員会が定めたルールでは、化学製品の使用はご法度だったはずだが、爆弾やら毒物ならともかく、こうした、人の生き死にに直結しないようなものであれば、基本的にはお咎めなし、という方針らしい。

 ドアが開き、松村くんと小川さんが突入していった。襲撃を受けた小泉はベランダに出て、そのまま、下の植え込みへと飛び降りる。そこで待ち構えていたのが、俺と重信さんである。

「チッ・・・」

 ランニングシャツにステテコ姿の小泉が、地肌にベルトを巻き、それに着けていたホルスターから、ナイフを抜く。常に不意の敵襲に備えて、そのための準備をしている。確信――。この男は、手強い。

「できる限り、一人で頑張ってみなさい。厳しいと判断したら、援護に行きます」

 重信さんが、そう言って俺を送り出した。

 都井睦雄に手も足も出ず敗れた俺の、自信回復――。それが、今回の戦における、我が軍のテーマの一つだった。ただ小泉を討ち取るだけならば、夜襲をかけた方がもっと効果的である。相手は一人なのだから。それをせず、あえて小泉が起きてくるのを待ったのは、俺と一対一のシチュエーションで戦わせるためだ。

 宅間守――。「麻原包囲網」が続くなら、俺とあの男が刃を交える機会は、必ず訪れる。それまでに、いかに良質な実戦経験を積むか、というのは、俺に課せられた重要なテーマだった。
 
 やがて、階段から降りてきた松村くんと小川さんも合流し、重信さんと三人で、小泉を取り囲んだ。これでお膳立てはすべて整った。あとは俺と小泉の一騎打ちである。

「ぬおっ!」

 日本刀を抜いた俺に、小泉は臆せず立ち向かってくる。四方八方を敵に囲まれた、絶体絶命の状況。確かに前に出るしか道はないのだが、それにしても、刃渡り70センチメートルの抜き身の怖さにたじろがないのは、相当に肝が据わっている証拠である。

 小泉の突進をいなした俺は、バックステップして距離を取り、ゴルフボールを投げつけた。元プロ野球選手の小川さんから教わった、肩肘の力よりも、手首のスナップをうまくつかったクイックスローである。

 硬い物体が肉を打つ、鈍い音が聞こえる。ボールは、素早く反転した小泉の背中を打ったのみで、ダメージを与えるには至らなかった。

 二人とも正面を向き合い、立ち合いが仕切りなおされた。住宅街のど真ん中――。照り付ける日光、電信柱に止まったアブラゼミの鳴き声。焦れる空気に焼かれながら、俺と小泉は、ミリ単位で「間」を縮めていく――。

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セミ兄貴オッスオッス!
新年最初の凶バトだね!小泉氏は謎の部分が多く早くも死亡フラグが垣間見えてる気がするけどw、興味ある人物の一人だよ!
今年も宜しくね!

No title

>>OKBさん

今年もよろしく~!

小泉氏はヒットマン説が一番筋が通ってると思うんだけど、いまどき日本人の、しかも素人をヒットマンに雇うこと自体は不自然ではあるんだよね。

ヒットマンを雇うとしたら、大体中国人か韓国人だよね。彼らは軍事訓練を受けているし、安い金で確実な仕事をしてくれる。本国に帰ってしまえば手がかりはなくなってしまうしね。世田谷の一家ざんさつ事件なんかはそういう外国人の仕事とされているね。

ただ外国人は信用できない(金持ってバックレる率が高い)から、日本人のヒットマンもないではないんだけどね・・。

謎は謎だけど、冤罪ではなく実行犯であるのはおそらく確かなんで、登場させました~。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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