凶悪犯罪者バトルロイヤル 第142話

 
 松永太は、東京タワーの展望台から、街並みを見下ろしていた。
 
 誰もが口を揃えて言う――最強は、麻原彰晃であると。

 誰もが口を揃えて言う――麻原彰晃は、すでに一抜けを決めた、と。

  現在、生き残り参加者68名中、合計9人を抱える最大勢力。外交では、都井睦雄亡き今、参加者最強を誇る宅間守率いる軍団との同盟。内政では、地域密着政策によるモチベーションアップ、近隣住民の協力、そして多額の資金獲得。総合力において、バドラに対抗できる勢力はひとつもない。

 統率力。バランス感覚。人を惹きつける魅力。人を総べるにあたって必要なすべての能力を、麻原は身に着けている。さらに、あの強運。あんな内容の詩集がブームとなり、爆発的に売れてしまうなど、普通では考えられないことである。

 その信じられないような奇跡を起こす者を、人は英雄と呼ぶ。源頼朝、織田信長、豊臣秀吉、劉邦、アドルフ・ヒトラー・・。歴史の神に選ばれた英雄たちは、皆、信じられないような幸運に恵まれてきた。今大会においては、歴史の神は、麻原彰晃を選んだということだ。 

 認めよう。自分の器量が、麻原に及ばなかったことを。

 認めよう。自分が今大会における主役ではなく、その他大勢の有象無象に過ぎなかったことを。

 敗北など、いくらでも認めてやる。敗けたからといって、ただちに死ぬわけではない。劣等感など、いちいち感じている暇はない。落胆に費やす思考があるなら、他の方法で勝つ手段を探すべきである。だから自分は人間味がないなどと言われてしまうのかもしれないが、そうでないと、一年の期間などあっという間に過ぎてしまう。

 確かに、一個の人間としての能力では、自分は麻原には敵わない。バドラと重信軍の戦力も、今や大差がついてしまっている。しかし、だからなんだというのか。強烈な個が、いつも最終的な勝利を手にするとは限らない。ナポレオンもヒトラーも、最後は結託した有象無象の力によって叩き潰されたのだ。

 麻原包囲網――。この一か月半の間、地道な準備を重ねて作り上げてきた体制が、ようやく完成にこぎつけた。一人勝ちを決めようとする麻原を、全参加者の力を結集して叩き潰すのである。

 メンバーは以下の通り。

 大規模勢力(参加者5人以上)

 重信房子軍(重信房子、松永太、加藤智大、松村恭造、畠山鈴香、小川博)
角田美代子軍(角田美代子、吉田純子、向井義己、藤井政安、永山則夫)

 中規模勢力(参加者3人以上)

 永田洋子軍(永田洋子、栗田源蔵、小原保、松山純弘)
 コリアントリオ(金嬉老、李珍宇、孫斗八)
闇サイトトリオ(堀慶末、神田司、川岸健治)

 小規模勢力、個人
 
 芸能人コンビ(西川和孝、克美茂)
 川俣軍司
 神作譲
 小野悦男

 以上、26名が、包囲網の参加者である。総数では、バドラ、宅間連合軍を上回る規模であり、これだけの軍勢が一度に攻めかかれば、さすがの麻原でも対抗はできない。

 しかし、いつの時代もそうであるが、こうした複数の勢力が結集した軍というのは統率がとりにくく、えてして数字ほどの強さは発揮できないものだ。それぞれの組織の、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、船頭多くしてなんとやら、という事態に陥りやすいのである。

 今回の包囲網では、最大の人数と資金力を誇り、大物都井睦雄を討ち取った実績もある重信軍が盟主となったが、連合の中で完全に掌握できているのは、永田洋子軍くらいのもので、他の勢力、とくに、コリアン、闇サイトトリオを事実上の傘下とする角田美代子などは、コントロールが難しい。いくらお互いの利害が一致し、手を結んだといえ、当分は腹の探り合いとなることだろう。お互い大きな人数を抱えているが故、出し惜しみし合い、結局、数の強みをまったく活かせないということにもなりかねない。麻原を滅ぼした後のことを考えれば、いかにして我が軍の戦力を温存し、角田軍の戦力を損耗させるか、その方法も考えていかねばならない。

 包囲網の参加人数についてはおおむね計画通りであったが、一つ予想外だったのは、今まで永田洋子と並ぶ同盟者の雄であった、A・Sが、包囲網への参加を拒否したことである。Aにいかなる思惑があるのかはわからないが、参加したくないという者を無理やりさせても仕方がない。話し合いの結果、今後、重信軍とA軍は中立関係ということとなった。軍事的な協力関係はないが、T・Nのスカーフキッスでの勤務はそのままで、経済的な協力は続くという形である。

 携帯電話が鳴動する。神作譲――。かの女子高生コンクリート詰め殺人事件の犯人である。犯罪史上最悪とも言われる残虐事件を引き起こした犯人グループではサブリーダー的立場に名を連ね、十年の刑期を終えて出所したのち、再び監禁暴行事件を起こした、悪の権化ともいうべき男である。

「おう、松永さんか。耳よりな情報を仕入れたぜ。何円で買う?」

「君の言い値は?」

「そうだな。三十万ってとこだ。かなり有力な情報のうえ、緊急性を伴う。急いで支払ったほうがいいぜ」

「・・・山崎組の組員に、現金を直接タクシーで届けさせる。今どこにいる?」

 二十五分後、神作の指定した住所に、現金が届けられた旨の連絡が、折り返し入ってきた。

「おう、金を受け取ったぜ。情報ってのは、明日朝、丸山博文と小泉毅の二人が、バドラの面接を受けるって話だ。あいつらが俺と親しく付き合ってたってのは、前に話したろ?俺も奴らに誘われたんだ。確かな話だぜ」

「・・・どうもありがとう。真偽の確認が取れ次第、プラス20万を上乗せします」

「マジ?うっひょー、感謝するぜ!」

 神作がはしゃぐほど、高い値段だとは思わない。もしその情報が本当で、丸山と小泉の二人を始末することに成功すれば、むざむざとバドラの戦力が増幅されるのを防ぐことができるのだから。

 一発で国一つを滅ぼせる大量破壊兵器が開発された現代において、先進国同士で行われる戦争とは、情報戦争、経済戦争を指す。その意味では、第三次世界大戦はすでに始まっているともいわれている。情報は何より大切なのである。

 蜘蛛の巣のような諜報網に引っかかった、哀れな二人――。彼らには、麻原との対決の、血祭りとなってもらおう。

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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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