凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十九話

「ちょ・・おま・・なんやそれは。それを、どうする気ィや」

 宅間守は、金川真大が持つアーチェリーの弓を指さしながら問うた。

「ああ、これすか。いや、近くの高校の前通りがかったら、アーチェリーの練習場が見えたんで。ちょっと部室に忍び込んで、かっぱらってきちゃいました」

 自分が起こした事件以来、全国の学校機関のセキュリティシステムと危機意識は飛躍的に向上したと聞いたが、よく侵入できたものだ。坊ちゃん坊ちゃんした童顔の持ち主だから、内部の人間に怪しまれなかったのだろうか。

「俺が高校時代、弓道部で全国大会に出場したのは知ってますよね?和弓とアーチェリーの弓とは、多少勝手は違いますが、基本は同じです。この弓を使って、宅間さんの役に立ってみせますよ」

 どうしたものか。この場で殺すべきか、観念して子分にしてやるか、ということである。 

 同じ飛び道具でも、銃の方がまだ勝機はあったかもしれない。銃というのは、使いこなすのには相当な技術を要する武器である。素人の有効射程距離は、欧米の正式軍用銃ベレッタを用いて、せいぜい2メートル。それ以上離れれば、まず当たらない。女や子供、老人が迂闊に使えば、一発で肩が外れてしまう。引き金をちょっと引くだけで、屈強な男を一撃で倒せるような、簡単な武器ではないのだ。

 しかし、金川が持っているのは弓である。空自出身の宅間は、銃を使う相手との戦いなら、ある程度シミュレーションすることができるが、弓を持った相手と喧嘩をした経験はさすがにないから、想像するしかない。

 弓と銃の最大の差は、連射の速度である。おそらく第一射を躱してしまえば、自分の勝利は確実となるだろう。奴との距離は三メートル。あっという間に間合いに入り、コンバットナイフが喉を切り裂く。しかし、躱せるか?という問題である。

 沈思黙考。十秒ほど脳みそを振り絞って、結論を出した。

「勝手にせえ。そん代わり、出会いカフェとホテルの代金は貴様持ちやからな」

 とりあえず子分にしてやる。せいぜい、自分のために働いてもらう。隙を見て殺す。それでいくことに決めた。

「はい、もちろんっす!じゃ、俺いい店知ってるんで、案内しますよ!」

 宅間は金川を従え、繁華街へと向かって歩き始めた。金川のくそ鬱陶しい話に、浪速仕込みのツッコミを入れながら、陸橋を渡っていた際のことだった。

「あ、宅間さん、あれ見てください!あそこ歩いている奴!ほら!ほら!あいつ!橋田忠昭!バトルロイヤルの参加者ですよ!」

 宅間は言われた方向に目を凝らした。といっても、目を凝らしても意味はないのだが。自分はバトルロイヤルが開始されてから、名鑑には一度も目を通していないから、誰と言われても顔と名前が一致しないのである。開始10日目で自分が殺した二人の名前くらいは、委員会から届いたメールを見て、かろうじて知っていたが。

「くらえっ!」

 宅間は凍り付いた。金川が、いきなり人ごみ陸橋下の歩道めがけて矢を放ったからだ。

 信じられなかった。もし見間違いだったら、どうするつもりなのか?無関係の人間を殺した罪悪感は感じなくてもいいが、委員会に知れて処分されたらどうするのか?この男の辞書には、躊躇という言葉がないのか?無鉄砲さにかけては右に出る者がいないと自負していた自分が初めて出会った、自分以上の考えなし。なにか恐怖すら覚えてきた。

 金川の放った矢を受けた男が蹲った。それを見て、金川が陸橋を駆け下り始める。ここで逃げるという選択肢もあったが、なぜか自分は、後を追いかけていた。金川の実力を正確に把握したいという気持ちがあった。

「あっ。この野郎、まだ息がありますよ」

 金川の矢を受けた男・・橋田は、矢の突き立った肩を抑えて呻き声を上げている。息があるどころか、まだ戦闘力もありそうである。

「上等や。ぶっ殺して金を奪いとったろうやないか」

 強敵相手には小動物さながらの警戒心を見せるが、確実に勝てると見た相手には滅法強気となる自分の本領発揮。宅間はコンバットナイフを抜き、切っ先を橋田の眼前に突き付けた。

「ま・・待ってくれや・・。俺に敵意はない・・。有り金は全部あんたらに差し出すから、命だけは助けてくれんか・・」

 怯えた目で哀願する橋田。演技とは思えなかった。

「宅間さん、信じちゃだめっすよ。こいつは、シャブでトチ狂って、自分の女房を殺したばかりか、息子さえ手にかけた外道です!生かしておくべき人間ではないんすよ!」

 金川が、自分こそ、当初は妹を殺そうとしていたことを棚に上げて、橋田を非難した。外道かどうかは、殺すか否かの決定には関係ないが、コントロールが難しい相手であれば、味方にするわけにはいかない。

「あんた・・宅間さんやろ?俺、あんたの話を獄中で聞いて、憧れとったんや・・。あんたが社会に対して放った言葉、あれは全部俺が言いたいことやった・・。俺が言いたいこと、全部あんたが言ってくれたんや・・。反社会的な人間にとって、あんたはヒーローなんや・・・。なあ頼む、俺もあんたの仲間に入れてくれんか?ヒーローと一緒に、戦いたいんや・・」

「なに?お前も、宅間さんに憧れてんのか?」

「そうや・・だから頼む・・」

「うーむ・・。よし!気に入った!有り金を全部差し出すことを条件に、同行を許す!」

 自分を差し置いて、勝手に話を進める金川と橋田。どいつもこいつも・・。自分は人を統べる柄ではないというのに・・。

 橋田の言っていることは、自分が助かりたいための、口から出まかせなのかもしれない。また、仮に本気だったとして、自分はそんなことでは心は揺り動かされない。子分など、邪魔なだけだ。一人の方が気楽でいい。だが、現実には、もうすでに自分は一人、子分を抱えている。そいつは手強く、切ることは当分できなそうである。ならば、一人いても二人いても変わらないという気もしてきた。

 面倒くさい。まったく、面倒くさい。

「ったく、ホンマにどいつもコイツも・・。勝手にせいや!そんかわし、今度、ねるとんパーティに参加するときには、費用をもてよ!」

 宅間は歩き始めた。背後を、二つの足音が追ってきた。
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No title

さすがは宅間戦士。カリスマ性は抜群ですね。
加藤戦士と起した事件のインパクトは五分五分
でも裁判での態度が月とスッポンです。
池田小では今でも毎年あの日に慰霊祭だかを
やっているそうですが、事件が風化しないので
宅間もさぞ喜んでいることでしょう。

No title

さすがは宅間戦士。カリスマ性は抜群ですね。
加藤戦士と起した事件のインパクトは五分五分。
でも裁判での態度が月とスッポンです。
池田小では今でも毎年あの日に慰霊祭だかを
やっているそうですが、事件がなかなか風化
しないので宅間もさぞ喜んでいることでしょう。

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

 宅間守の裁判での態度は神がかってましたね。遺族はいたたまれないでしょうが、僕のような闇に生きる人間からすれば「あっぱれ」と言いたくなります。一般の方ならともかく、作家や評論家を志している人間が、宅間守のあの立ち回りを、善だ悪だという幼稚な二元論を用いて「クズ」の一言で片づけるようなら、そいつはタダの馬鹿だと思います。

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No title

>>4番コメさんコメントありがとうございます!

それらの人物は皆登場予定ですよ!
ちょっと今タイミングを窺っています。
もうちょっと待ってくださいね。

十四~十九話まで読み直しました!

今晩は!度々、失礼します~

今、十四~十九話まで読み直しました!(^^)!
本当に懐かしくて、堪らない気持ちです~☆

この辺で色々な組み合わせが出来てきて、
パズルのような感じですよね。
数年ぶりで余計にワクワクしちゃいました。

続きを細部までハッキリと覚えてない面も多々あるので、
また楽しみに読みに来たいと思います!!!
新作の小説も楽しみに&ゆっくり待っていますね。ではでは♪
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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