凶悪犯罪者バトルロイヤル 第137話

 T・Nの自宅に、グランドマスターが、委員会の戦闘部隊を引き連れてやってきた。

「小林くん、わかっているね」

 小林は、神妙に頷く。

「ああ・・。最後に、Nと話をさせてくれないか」

「うむ。ただし、時間は五分、それだけだ」

 最期の懇願が許可されると、小林は私に向き直った。

「N。お前は、俺を愛してくれていたか?」

「・・・・」

 最後の最後まで身勝手極まりない、小林の問いに対する私の答えは、無言であった。一言たりとも口にしなかったのである。愛していたかといえば、それは紛れもなくNOだが、死にゆく小林に追い打ちをかけることは躊躇われた。そして導き出した答えが、無言、だったのだ。

「なあ、N。答えてくれないか?答えて・・」

「さあ、時間だ」

 必死の形相で私の肩を掴む小林を、委員会の戦闘部隊が引きはがし、強引に連行していった。

「うう・・・」

 これから小林の訪れる、二度目の死。自ら望んだ最初の死と違い、今度の死は、小林に心からの後悔を与えることだろう。

「まさか、こんなことになってしまうとはな」

 小林がいなくなった後、血だまりの床に横たわる男の躯を見ながら、グランドマスターが呟いた。

「この後、どうするつもりなんですか?一般人の方を巻き添えにしてしまって・・」

 私は、グランドマスターに尋ねた。大会の中止、という言葉を期待して。

「死者が出ている以上、世の中に発表しないわけにはいかん。目撃者がいたかもしれないしね。ただ、報道の内容は、こちらの方で操作させてもらうがね」

 そこまでして、こんな殺し合いゲームを継続したいの?私は、実際に会うのはこれが初めてとなるグランドマスターなる男に、強い反発を覚えた。

「さて・・Aくん。君にも来てもらおうか」

 続いてグランドマスターが向いたのは、私と違い、すでに何度もグランドマスターと顔を合わせている、A・Sだった。

「なんでですのん?」

「委員会を甘く見てもらっては困る。君の考えていたことは、すべてお見通しなんだよ」

 グランドマスターが問題視しているのは、Aが松永社長に連絡し、スカーフキッスのミナミに、死亡した男性・・高崎が入所する知的障碍者施設の職員、ツクシを誘惑して呼び出させた、ということだった。

「その結果、施設の警備体制が薄くなった隙をついて、高崎氏は脱走・・・そして、今回の悲劇に繋がった、というわけだ。君は知っていたんだね。彼、高崎氏が、T・Nくんを母親と勘違いし、度々彼女の家の周りをうろついていたことを」

「え!」

 衝撃を受けたのは、初めてその話を聞かされた私である。グランドマスターの話が本当なら、依然、尾形英記に襲われた際、私を助けてくれたのは、彼・・・高崎であった可能性が、極めて高いということが考えられる。

「ええ、確かに電話はしましたで」

 Aはあっさりと、事実を認めた。

「ですが・・。僕がそれを仕組んだとして、こういう結果になることが、確実に予測できますか?僕が松永社長に電話を頼んだところで、松永社長が忙しくて、頼みを聞いてくれないかもしれない。松永社長がお店の女の子に指示を出したとして、女の子が拒否するかもしれない。女の子に誘惑されたとして、施設の職員さんが来るかどうかはわからない。施設の職員さんが職場放棄したとして、この人が脱走するかどうかはわからない。また、この人が脱走したとして、ここまでやってくるかどうかもわからない。これだけ偶然の要素が強いことを、最初から最後まで予想できると思いますか?」

 まったく悪びれたところを見せず、Aは淡々と己の無実を主張する。

「・・・・」

 グランドマスターは、言葉を返すことができない。

「もし予想できたとしたら、僕は神様かなんかやで。これを未必の故意というんは、ちょっと無理がありすぎるんちゃいますの?結論として言えるのは、この人・・・高崎さんは、不幸だった、ということだけやと思いますよ」

「Aくん・・・君ってやつは・・・」

 絶句するグランドマスター。グランドマスターだけでない。Aの残酷さに、その場にいる全員が戦慄している。

 Aの恐ろしさは、高崎なる男性をけしかけて、マンションの中に突入させようと思ったことだけではない。私にとって、もっと恐ろしいのは、Aのあまりに常人離れした状況判断、そして、私に対する本当の感情である。

 私が小林に捕らえられ、ナイフを突きつけられていたあの状況を見たときに考えるのは、普通は、「小林がNを殺そうとしているかもしれない・・だから、強引に踏み込むのはやめておこう」ということだろう。加藤店長やT・Sなどは、そう考えていたはずだ。

 しかし、Aは違った。Aはこう考えていた。「迂闊に突入したなら、小林の反撃に遭うかもしれない・・だから、一般人を犠牲にしよう」。私の身の安全などは、まるで考慮に入れていなかったのである。 

 こんな男について行って、私は本当に大丈夫なのだろうか。行く末が不安で仕方ないが、かといって、私の行動パターンを知り尽くしているこの男からは、逃げることもできない。運命の手綱を、私はこの男に、完全に握られてしまっているのだ。

「Nちゃん。今日は、ホテルの方に・・・」

 私の心情を考慮して、加藤店長が、今晩はビジネスホテルに泊まることを提案してくれた。私は頷き、加藤店長の車でホテルに行き、その夜はビールを飲んですぐに眠った。

 小林とのこと、高崎なる中年男性のこと・・。いずれ、ゆっくりと振り返らなくてはいけないときは来るかもしれない。けれど、今はゆっくりしたい。ただ深々と眠り、心と身体を休めたかった。

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こちらの世界のA君も知的障害者にひどいことをしたのか(汗)
実物のA君は知能指数70らしいが
A君は知障のふりをして知能テストを真面目に受けなかったという説の方が事実なんだろう
こんな野郎が今もシャバにいると思うと怖ろしいな

No title

>>鈴香ファンさん

Aくんの知能指数自体は低かったみたいですが、サヴァン症候群の持ち主だったという話はありますよね。特に画像記憶能力が異常で、数学テストの答えはボロボロだったにも拘わらず、問題の式は完璧に覚えていたということがあったらしいです。

犯罪者の平均IQ自体それほど高くはないそうですが、ああいうところに入れられた人たちは、そもそも知能検査なんて真面目に受けようとしないでしょうから、鵜呑みにはできないでしょうね・・。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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