凶悪犯罪者バトルロイヤル 第135話

 玄関前に立つA・Sの姿を見たT・Nは、玄関のカギを閉め、同居人の小林薫のもとへと走った。

「どしたんNちゃん。お店に出んでええん?」

 Aが笑いながら、ドアノブをガチャガチャと回す。小林も事態を悟ったらしく、その表情に緊張が走る。

「あ~?いつの間にカギ付け替えたん?」

 小林との同棲以来、私は、玄関のカギを交換していた。以前、尾形英紀に襲われた際、私を救ってくれた肥満体の男性と小林が別人であった――私を狙っている人物がもう一人いるかもしれない、というのが主な理由であったが、Aの干渉を防ぐという目的もあった。Aは私に無断で、合鍵を作っていたのである。

「なんで・・何しに来たんですか!」

「何しに来たって、捕らわれのお姫様を救いに来たんよ。ねえ加藤くん」

 加藤店長も、外に・・?重信軍とA軍が、連合軍となって来ているの?ならば戦っても勝ち目はない。外に出るわけにはいかない。

 部屋には潤沢な食糧がある。節約すれば、十日間は持つだろう。でも、その間はもちろん、店に出ることはできない。お金を稼げなくなるし、何より、目前に迫った、ナンバー1キャストの座がふいになってしまう。それは嫌。いったい、どうしたらいいの・・?

「来やがったか・・・」

 小林が歯噛みしている。しばらく前の、生きることに絶望し、死を恐れていなかったころの小林の顔ではない。自分はいつ死んでもいい。だから、何をやってもいいのだと、開き直っていた小林の顔ではない。生きる喜びを見つけ、心の底から生きたがっている人間の顔である。何が何でも生にしがみつきたい。そんな気迫が見て取れる。

 しかし、私は決断していた。こうとなっては、もはや一切の抵抗は無駄である。もともと、惚れた腫れたで小林と暮らしていたわけではない。ここ最近は、確かに親近感めいた感情も湧いていたが、恋愛感情というのとは程遠い。私の仕事の足かせとなるようなら、もはや小林に用はない。

「ちょっと待ってて。私が、あなたを助けるように交渉してくるから」

 私は全ての感情とともに小林に背を向け、玄関へと歩いて行った。

               ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


「おい!小林薫!出てこい、Nを離せ!」

 加藤智大は、コンバットブーツの底で、Nのマンションのドアを蹴りまくっていた。

「まあまあ、加藤くん。女の子の家なんだから、乱暴はいかんよ」

 Aに宥められ、俺はドアを蹴るのをやめた。いけ好かないヤツだが、ここはコイツの言うことが正しい。こんなことをしても、Nを怖がらせるだけだ。どうしても、Nのこととなると、冷静さを欠いてしまっていけない。

 松永社長から、Nの家を攻めるAの援軍に迎えと命じられたのが、50分前。Nが謀反を起こしたのか?仰天して尋ねる俺に松永社長が告げたのは、さらに恐るべき事実だった。

 参加者の小林薫とNが、同棲をしている・・。しかも、強制的に監禁しているのではなく、Nもまた小林を受け入れているようなのだという。

 俺はそれを聞き、複雑な感情に襲われた。Nが男と同棲をしていることがわかったというのに、なぜか嫉妬めいた感情よりも、安心感が先に立ったのである。原因は、小林のルックスのことだ。

 昔、娑婆にいたころは、オシャレなどとは無縁の、もっさい恰好ばかりしていた俺だが、大会が始まり、夜の世界で生きるようになって、多少、いやかなり、身だしなみに気を遣うようになった。昔風のレンズが大きいメガネを今風のスタイリッシュなノンフレームに変え、年々広くなっていた額に人工頭髪を植え込み、服装も雑誌や、最近できたホストの知り合いに聞いたりして研究し、貴金属類を身に着けるようになった。自信とまではいかないが、そこそこ、人に見られる程度にはなったと思う。あの小林に負ける要素は、何もなかった。

 Nが男に求める容姿の水準が低いかもしれない、という希望。自分が確実に容姿が勝っていると思える小林が潜む部屋のドアを、俺は怒鳴り声をあげながら、ざんざと蹴りまくっている。

 自分より優れた者が相手だと途端に戦意を喪失するが、自分より劣った者が相手だと俄然強気になる、この卑しい性根。まったく嫌になるが、直しようがないものなのだから仕方がない。

「そんな無理やりにぶち壊そうとせんでも、もっとスマートなやり方がある。Tくん、あれ出して」

 Aに命じられた、西鉄バスジャック事件のT・Sが、工具箱から、スプレー缶のようなものを取り出し、それに取り付けられたチューブの先端を、鍵穴に差し込んだ。
 
「なんだ、それは?」

「ピッキングに用いる溶解液や。コイツをシリンダーの内部に流し込めば、金属がドロドロに溶けて、鍵の役目を果たさなくなるんよ」

 Aが、あたかも、学校にサバイバルナイフを持ち込んで友達に見せびらかしている少年のような笑みを浮かべて、嬉しそうに説明した。

 なんでこいつは、そんなもんを持っているのか。便利屋の業務で使うという言い訳も、さすがに苦しい。なんというか、根っから、人と違うことをするのが楽しくて仕方ないのだろう。常識に生きてきた俺とは、たとえ無人島で二人きりになっても相容れない存在だった。

「・・頃合いよしや。さあ、ドアを開けるで」

 Aが、今度はピッキングツールを用いて、鍵穴をこねくり回し始めた。カチャカチャと音がし、ものの数十秒ほどで、小気味いい開錠音が聞こえ、ドアが半開きとなった。

「お次は、ドアチェーンやね」

 続いてAが取り出したのは、特大のチェーンカッターである。そのまま凶器としても用いることができるようなそれで、Aはドアチェーンを一刀両断した。

「さあ、突入やで」

 すっかり仕切りやがって。腹は立ったが、とにかく、ここはNの救出が優先だ。いや、救出とは建前で、俺は小林からNを奪い取ろうとしている。なぜだがそれに、性的興奮を覚える。「人生最高の楽しみは、敵を殺し、大事にしている女を奪い取ることだ」とは、世界史上最大の帝国を築き上げたモンゴルの英雄の言葉だが、男には誰しも、そうした本能があるのだろう。

「来るな!それ以上入ってきたら、Nを殺す!」

 玄関に踏み込もうとすると、有名なあの写真より若干印象の変わった小林が、血相を変えながら、Nを拘束し、果物ナイフを突き付けているのが目に入った。

「あの野郎・・」
 
 Nと小林が一つ屋根の下で暮らすに至った経緯はわからないが、松永社長の話によれば、少なくとも小林の方は、Nのことを大事に思っているのだという。それは、部屋の床に、育児に関する雑誌が置かれていることからもわかる。

 愛するNを、小林は人質にしている・・。Nを殺して自分が生き延びることは考えていないだろうが、Nと無理心中を図ることは考えられた。このままの状況では、強引な手段はとりにくい。

「どうすりゃいいんだ・・・」

 T・Sも、困惑顔を浮かべている。

「うーん・・。手段がないことはないのやけど・・。困ったねえ」

 Aは言葉とは裏腹に、口角を吊り上げ、実に楽しそうな顔を浮かべている。修羅場を潜ってきた俺も、ゾッとするような顔だった。

「ま、非常時やしねえ。しょうがないか」

 Aが携帯電話を取り出し、松永社長の番号を呼び出した。嫌な予感しかしなかった。

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Aくんと加藤の相容れないコンビ好きすぎるwお互いの個性がより強調されてて面白いです!Nちゃんどうなっちゃうんでしょう…松永社長のことだから女の子でも容赦ないんでしょうね怖い…((((;゚Д゚))))

No title

>>枇杷さん

同年齢コンビは僕も好きなんやで~。

段々と常識人キャラと畜生キャラとに分かれてきたけど、実際犯罪者が100人集まったらこんなんなると思うんだよね~。働かないアリの法則が本当ならさ。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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