凶悪犯罪者バトルロイヤル 第132話

 破滅を告げるT・Nの言葉が流れる電話機を持つ麻原の手は、禁煙中のニコチン中毒者のように震えていた。

「いや・・そうは言っても、こちらも忙しいのだ。お前もわかっているだろう。西口との戦いが一段落するまで、勘弁してくれぬか」

「そんなこと、私には関係ないわよ。だったら、店に来なくてもいいから、50万円を私とホミカの口座に振り込んでよ」

 「クリスマスプレゼントの前借り」をくれというのに等しい、手前勝手極まりない無茶な理屈を叫ぶ小娘である。やっていることは脅迫そのものであるが、これも自分の捲いた種である。仕方なく麻原は、代替案を提示することにした。

「とにかく、俺はここから動けん。それならそれで、お前とホミカちゃんがこちらに来てくれるようにはできんのか?」

「ふーん、なるほどね。出張サービスはうちの店では行ってないけど、松永社長に頼めば、多分OKしてくれると思うわ。じゃあ、そういうことで行きましょう」

 意外にもNは、麻原の要望をあっさりと承諾した。

 そしてその晩、Nが、ボスであるA・Sの運転する車で、戦場である等々力渓谷公園にまでやってきた。

「お初にお目にかかります、麻原尊師。ご活躍は十七年前、テレビでたっぷり拝見させて頂きましたわ。まあ、それからすぐに、僕も逮捕されてしもうたんやけどね」

 己の言葉に受けて、少年のような無垢な笑顔を浮かべる男・・。これが史上もっとも有名な少年犯、A・Sか。どこにでもいる普通の青年のように見えるのは、少年院から出た後、社会の荒波に揉まれる中で「擬態」を身に着けた結果であろうか。それとも、その「普通さ」「素朴さ」もまた、彼が元々もっていた属性の一つなのであろうか。

「宅間守・・・!!!」

「おう。べっぴんのお姉ちゃんか。ワシはヌキ一筋で、キャバは嗜まんが、今日は麻原のオッサンのオゴリなんでな。タダ酒を断る理由は何もない。ま、楽しませてもらうで」

 「ガンダム像下の戦い」であいまみえた二人が、空気を緊迫させかけたが、それも一瞬のこと。Nはさすがにプロで、すぐに宅間との間のわだかまりに折り合いをつけ、客の一人として平等に接し始めた。

「久しぶりっす。勝田さん、マキ先生とはどうなったんすか?」

「いやぁ、この間デートしたんだけど、最近のアニメの話についていけなくてさ。なんだか最近、気になる男がいるとか言ってたし、ちょっと無理そうな気がしてきたよ。金川くんはどうなの?マサミ先生と、アドレス交換してたみたいだけど・・」

「いやあ、俺もアイツとデートしたんすけど、ゲーセンでゲームやってる間に、気づいたらいなくなっちゃってましたよ。まあ、三時間も放っぽってた俺も俺なんですけど、帰ることはねえだろって話っすよ。やっぱり三次元の女はダメです。ただの肉便器にしかなりませんね」

 ボーイズトークに花を咲かせているのは、以前、合コンの二次会で同席した、勝田清孝と金川真大の二人である。

「さ、さ。宅間の兄さん。もう一杯もう一杯。聞かせてくださいな、前科11犯、修羅に生きた男の武勇伝を」

「ん?おお・・」

「きゃー。私も聞きたーい」
 
「・・・・わしも聞くけえのう」

 宅間守、A、N、造田博が、過去の遺恨を忘れて盛り上がっている。

「おーい、関くん。将棋盤を16枚くっつけて、4人プレイを可能とした、スーパー将棋をやらないか?大道寺さんが考えたんだが、このルールでは、歩が敵の駒を5個取ると覚醒して、スーパーと金になるんだ。スーパーと金は、チェスのクイーンに加え、ナイトの動きもできる、チート駒だぞ!」

「でも・・」

「いいから、さあさあ」

 死んだ尾田信夫と喧嘩をした件で落ち込んでいる関光彦も、信徒の者たちと遊ぶ中で、徐々に元気を取り戻していくようだった。

 盛り上がりを見せるバドラ、宅間連合軍であったが、一人麻原の心は曇っていた。何しろ、秘密基地の攻防戦を開始してからというもの、バドラの出費は、なんやかやで300万円相当にも上っている。そのうち、西口たちが本格的に金銭の要求を開始してから、半分以上の180万である。このペースでいけば、あと半月程度で、バドラの資金は枯渇してしまうのだ。

 金の切れ目は縁の切れ目である。いかに洗脳された信徒といえども、食い扶持がなければ、自分から離れていってしまうのは確実・・。この危機の中で、浮かれた気持ちになど、なれるはずがなかった。

「そんしのおぢちゃん、どうしたの、しょんぼりして」

 一人しょぼくれていた麻原に声をかけてくれたのは、ホミカであった。

「うむ・・。じつはな、ホミカちゃんとおぢちゃんの交換日記が、悪いおじさんに奪われてしまったのだ。あれをみんなに見られたら、おぢちゃんはもうお仕舞いだ。本当に本当に、困っているんだよ」

 ホミカの存在に救われた気持ちになった麻原は、自分の今の悩みを打ち明けた。

「どうして、おぢちゃんが困るの?おぢちゃんの日記、とっても面白かったよ。みんなにも、読んでもらえばいいじゃない」

 麻原の脳内に、神の啓示を受けたかのような衝撃が走った。なるほど、そういう手もあったか。あの日記を逆に世間に広く公開し、流行らせることで、そもそも物質の効果を掻き消してしまう・・。骨と骨をぶつけ合うことしか考えられない凶悪犯罪者どもでは、けして考えられなかったアイデアである。

 戦わずして勝つ。それが文字違いの孫子も言っている、兵道の理想である。

「ホミカちゃん・・感謝するぞ」

 お先真っ暗だった攻城戦の前途に、確かな希望の光が差した。

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感想です

こんばんは。132話読みました!すごいおもしろかったです。ほみかちゃんのこと、好きだなぁ。こんな純粋な女の子には幸せになってほしい。あと麻原、なんか愛矯あるっていうか、憎めないんですよね、この人笑。特に津島さんが書く麻原。好きです(*^_^*)この二人には生きて幸せになってもらいたいな。


津島さんの書いてる小説みたいな実際の人物や事件を元ネタに書いた小説って好きです。犯罪者になった彼らの考えや生い立ちとか、実在の犯罪者同士が出会ったならどんな人間関係が構築されるのかって興味深いですよね。おもしろいです!


あたしが個人的に好き(?)だったり、良くも悪くも気になる犯罪者は「角田美代子」と「松永太」です。NHKの未解決事件であったんですが角田被告は20そこそこの頃は「さみしがりで気の弱い、普通の女の子」だったそうです(元夫談)。虐待育ちで。駅で恋人(元夫)とはぐれただけで「さみしい、一人にしないで、怖い」って泣いてたそう。なんか、心がひりひりしました。気持ちわかる。あたしと同じ年くらいの頃は、あたしみたいな気持があった普通の自信ない女の子だったんだなぁ。最後は偽家族にも裏切られて自殺だし。こういうひと憎みきれない。まあ下手に同情とかしたらあっさり監禁されて殺されちゃいそうですけどね(ー_ー)!!


あと、あたし福岡在住です(^^)北九州の小倉近くなんですよね汗あの事件の生生しさもひとしお。松永みたいにリア充なのに犯罪者って人、わかんないな~謎って気がします。先天的サディストなのか。あたしは緒方純子タイプの人間なんでこの人すごく怖いです。この人の心の闇興味深いけど。宅間被告の精神鑑定みたいな本を松永で出して欲しかったり。松永がどうしてああいう人になったのか知りたい。つくったお話でもいいので笑、津島さんがいつか松永の過去や内面を描いてくれたら楽しく読ませてもらいます~(●^o^●)

No title

>>ふにゃふにゃさん

感想ありがとう~。

角田のオバハンは若いころは美人だったみたいやね。寂しがりやな小動物的なところは、拘置所の中でも見せていたみたいだなぁ。それが自分が生き残るための擬態なのか、本性なのかはわからないね。サイコパスは人に共感できないだけで感情はあって、自分の痛みには敏感な生き物だからね。

北九州にすんどるんや!あそこは地回りのヤクザの力が強くて、結構物騒な土地らしいね。あとは、生活保護の水際作戦で餓死したおじさんの事件とか・・色々印象的な事件が起きとるね。いつか行ってみたい場所です~。

松永さんの生い立ちは詳しく明らかになっとらんけど、女一家で溺愛されて育ったらしいね。生育環境が関係あるのかどうかはわからんけど、あれはまあ、典型的、全能感に取りつかれたサイコパスだから、幼いころになんでも思い通りに育ったのは影響しているかもね。

骨のある感想どうもありがとう~。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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