凶悪犯罪者バトルロイヤル 第130話

 麻原彰晃率いるバドラが、「秘密基地」の包囲を始めて、一週間余りの月日が過ぎた。

 秘密基地に、大量の食糧が運び込まれてしまった・・。これでは、兵糧攻めで城を落とすのは、最低でもあと一か月はかかる。そんなにもずるずると長期戦を続けていれば、世田谷のスーパーバイザーとしての活動が行えなくなる。すなわち、金銭獲得が難しくなってしまう・・。

 バドラでは連日にわたって作戦会議を開き、各々が、膠着した戦況を打開する手だてを模索したが、妙案はいっこうに浮かんでこない。仕方なく、テントに持ち込んだおもちゃで遊ぶしかなかった。

 しかし、陣営を襲う焦燥は、楽しいはずの遊びにおいても、争いの火種を燻らせてしまう。バドラの信徒たちの間で、また喧嘩が勃発してしまったのだ。

「ふざけんなよ!いいじゃねえか!」

「ダメだダメだ!絶対にダメだ!」

 喧嘩をしているのは、またしても、関光彦と尾田信夫の、若い二人である。何事かと聞いてみると、今度の原因は、ボードゲームであった。二人は、将棋盤を用いて、将棋とチェスの異種格闘技戦「将棋VSチェス」を行っていたのだが、そのルールを巡って、意見の相違が生まれたようだった。

 争点となったのは、「成り」をどうするかである。チェスでは、相手陣地二マス以内にまで入らなければならないのに対し、将棋では、相手陣地三マス以内に入ることで、「成り」が判定される。このルールの相違を巡り、チェスでも三マス以内で成れるべきだと主張する関光彦と、チェスはあくまで二マス以内でないとダメだと主張する尾田信夫が、激しく火花を散らし合ったのだ。

「てめえ!いい加減にしろよ!バドラに入ったのは、俺の方が先なんだぞ!」

「たかだが一か月二か月の違いだろうが!それくらいで、偉そうにするなよ!」

 二人は大荒れに荒れ、それは他の信徒たちにも飛び火していった。そして事態は、麻原が恐れていた方向へと動き出していく。

「こんなことになったのも、西口たちのせいだ!あいつらさえ倒せば、全部解決するんだ!」

 ついに、秘密基地を力攻めするという案が、可決されてしまったのである。

 戦国時代においては、城攻めには、守備側の三倍の兵力を要する、というのが常識であった。ミサイルのような大量破壊兵器がない中世から近世においては、攻城戦は守備側が圧倒的に有利な戦いであったのだ。

 銃火器の使用が制限されたバトルロイヤルの戦闘様式は、中世以前のそれに酷似している。怒りに任せて城を力攻めをするのは、非常に危険である――。

 さらに麻原には、「物質(ものぢち)」を取られているという不安がある。もし、城に攻め込もうとするバドラに対し、西口が「しょうこうとほみかのこうかんにっき」を公開するという手段で対抗してきたら・・。その瞬間、麻原の野望は、終焉を迎える。

 しかし、信徒たちの勢いは激しく、統率力に自信のある麻原をもってして、抑えることは困難であった。実際、なぜそこまで頑なに力攻めを反対するのかと問われて、麻原は返答することができないのだから仕方がない。

 そして、包囲から八日目を迎えたこの日、麻原たちは、秘密基地の背後の山から侵入し、施設を攻撃することを試みたのだが・・。

「うわあああああっ!」

「痛ええええええっ!」

「なんだこりゃああっ!」

 麻原たちを襲ったのは、籠城戦の達人、梅川昭美が仕掛けた、ブービートラップの数々であった。

 鳥獣捕獲用の罠、ワイヤーに引っかかると、上空から石や刃物が落ちてくる罠、落とし穴・・。下手したら大怪我を負う罠の数々が、雑木林のいたるところに配置されている。これらをすべて掻い潜り、また除去しながら施設に近づくのは、至難の業であった。

 そしてついに、バドラに、大久保清以来の犠牲者が出てしまう。

 殺されたのは、麻原たちが山から秘密基地を攻めている間、本陣テントの留守番をしていた、尾田信夫だった。完全に隙を突かれる形での、襲撃だった。

 引くと見せて寄せ、寄せると見せて引く・・。籠城戦の妙を、敵は知り尽くしていた。さらにここで新たに、バドラにとっての悲報が舞い込んできてしまう。城方の人員は二名ではなく、三名だったというのだ。おそらくは、T・Nに気を取られている隙に兵糧を運び込んだのは、その男であろう。見張りを任せていた、世田谷界隈の不良たちが描いた似顔絵を見ると、新たな敵の正体はどうやら、大物参加者の一人、伝説の強姦魔、小平義雄のようだった。

 「助平の始まりは小平の義雄」・・名作邦画シリーズ「男はつらいよ」で、渥美清演じる車寅次郎が、露店で叩き売りを行う際の口上にも登場する殺人犯、小平義雄は、戦後の混乱期に、食料や就職の斡旋を餌にして女をおびき寄せて強姦、殺害した罪で逮捕された。有罪となったのは三件のみであるが、発覚していないものも含めれば、被害にあった女性の数は、三桁には確実に上るであろう。

 記録に残る限りでは、小平の狂気性がはじめに明らかになったのは、日中戦争の折りである。戦地として赴いた大陸にて、強姦や、妊婦の腹を裂いて殺すといったことを繰り返していたのだ。

 ただ、これに関しては、小平が特別に残酷であったわけではなく、交戦中の異常な興奮状態にある兵士には、よくあることだ。厳しい規律で統制された現代の軍隊にも、である。

 しかし、小平の場合は、その残酷な本能を抑制する脳内物質の働きが弱いということはいえたようである。「戦争の時はわしよりむごいことをした連中を知っていますが、平和なときにわしだけひどいことをした者はいないと思います。全く人間のすることじゃありません」とは、本人の残した言葉だ。

 ある識者によれば、大量殺人犯と優秀な軍人の脳は、よく似ているという。ともに男性ホルモンの数値が高く、極めて攻撃性が強いが、軍人はそれを抑制する脳内物質が大量に分泌されているが、殺人犯はその分泌量が極めて少ないというのだ。人権保護の観点から、それほど大っぴらには明らかにされていない事実であるが、それなりに説得力はあるといえる。

 宅間守に殺害された大久保清と並ぶ強姦犯が、敵方についた・・。数こそ少ないものの、西口の軍はビッグネーム揃いである。人数の減ったバドラでは、簡単に落とすことはできない。

「うう・・信ちゃん・・ごめんよ・・ごめんよ・・」

 昨晩、尾田信夫と激しく喧嘩をした関光彦が、涙にくれている。彼なりに、責任を感じているのだろう。

「光彦。お前のせいではない。そう泣くでない、信夫もうかばれんぞ」

 そう、関光彦のせいではない。あえて誰のせいというなら、「しょうこうとほみかのこうかんにっき」を公開されるのを恐れ、かたくなに城攻めの継続を訴え続けていた、麻原のせいであった。しかし往生際の悪い麻原には、この後に及んでも、秘密基地の包囲を解く考えはなかった。とにかくあれを取り返さなくては、自分はお仕舞いなのである。

 西口があれを、どういうタイミングで公開しようとしているのか、それはまったくわからない。金銭などの要求もない。いったい、何をすれば、西口は切り札を抜くのか。西口の要求は、いったい何なのか。それがまったくわからない状況では、強引に攻めるわけにもいかないし、西口を増長させすぎでもいけない。何か、あれを取り返すいい案が浮かぶまでは、現在の、この中途半端にプレッシャーをかけ続ける状態を続けるしかなかった。

 しかし、閉塞した状況を打開してくれるかもしれない救世主が、この地に現れた。

「おう・・麻原のオッサン。ちと、メシを恵んでくれぬか」

 バドラと二度にわたる死闘を繰り広げた宿敵・・宅間守の、降臨だった。
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とうとうバドラにも大久保さん以来の犠牲者が(´д⊂)西口梅川連合軍なかなか手強いですね…!わちゃわちゃバドラが戻ってくるのはいつになることやら…そして三度目の尊師と宅間さんの邂逅!!手に汗握って待機しております!!!

No title

>>枇杷さん

大久保清はかなりの大物なのにあそこで殺したのは勿体なかったなあ。でもリアルのスポーツなどでは、大物が大会の序盤で消えるのはよくあることやしね。また語れる機会あったら語りたいね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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