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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第129話

  「環七通りの戦い」から二週間。加藤智大は、新加入の小川博のコーチの下、トレーニングに明け暮れていた。

 都井睦雄に完敗した俺だったが、あれから時が経ち、精神の方は少しずつ前を向き始めていた。大体、よく考えれば、別に俺は、人殺しなんかにプライドを持ってなどいない。従って、負けたところで、屈辱も何も感じなくていいのだ。また、肝心の都井はいなくなったのだから、俺は相対的に強くなったとすらいえる。悲観することはないのだ。

 短期間で急激に付けた体力と技術は、落ちていくのもまた早い。二週間で落ちた分を、今までの三倍の量をこなして取り戻さなければいけない。

「そう根詰めすぎるな。今までと同じペースでいい」

「え?しかし・・」

「人体には、落ちた筋肉を速やかに取り戻すマッスル・メモリーという特性がある。限界値を超える筋肉を付けるのは大変だが、一度付けた最大値を取り戻すのは、それほど難しいことじゃないんだ」

 さすがに元プロ野球選手だけあり、小川さんのトレーニング知識は一級品だ。これから俺のコーチングは、技術指導を重信さん、フィジカルトレーニング指導を小川さんという分担になる、という話だった。

 二時間のトレーニングを終え、今度は技術指導に入る。まずは格闘技の指導である。種目はボクシングだ。

 格闘技の世界においては、「足は腕の三倍の力を持つ」が定説だが、実際に総合格闘技のリングで多くのファイターが用いているのは、非力な手による打撃に特化されたボクシングである。なぜそうなるかといえば、「足は腕の~」には、「使いこなせれば」という前提がつくからだ。

 蹴り技は確かにヒットしたときの威力は大きいが、そもそもヒットさせることが困難である。サッカーのリフティングを安定して10回以上できるような素人は珍しいが、同じ動作を手でやって10回以上できない人はそういないだろう。手と足とでは、脳からの神経伝達の速度が、全然違うのである。

 総合格闘技の選手は、立ち技格闘技の選手に比べ、習得しなければいけない技術の数が桁違いに多く、蹴り技に修練の時間を多く割いてはいられない。同じように、なんでもありの殺し合いルールで戦っている俺たちも、格闘技は必要最低限の技術を身に着けた方が効率がよかろう、というのが、重信さんの判断だった。

「ほう・・いい勘だな」

 スパーリングにおいて、松村くんのパンチをスウェイして躱す俺を、小川さんが褒めた。

「ボクシングにおいて、優秀な選手と弱い選手を分けるのは、結局は防御の技術だ。攻撃の技術は、正しいフォームでサンドバッグを打っていれば誰だって身に着けることができる。試合では体重を揃えるから、威力も大差はなくなる。しかし、防御は別だ。防御は攻撃と違い、思考停止反復練習をいくら繰り返したって身につかない。動体視力と反射神経、そして経験を確実に血潮に変える、頭の良さがないといけない。防御が得意な奴は、本当にセンスがある証拠だ。これが球技になってくると、話はまったく逆になってくるんだが」

 そういうものだろうか。十代半ばでスポーツの世界から足を洗ってしまった俺には、よくわからない。

 学生時代、なにか部活にでも打ち込んでいればよかったか、とも思う。健全な心は健全な肉体に宿る、などという言葉があるが、部屋でシコシコと勉強しているより、外に出て体を動かした方が、精神衛生上ずっといいのは確かである。

 二十代前半のころ、俺は警備員をやっていたのだが、いわゆるドカタと言われる人は、イメージに反し、爽やかで気前のいい人が多かった。メンタルヘルスの患者にも、薬物治療よりも外に出て運動をすることを奨励している人もいる。民度の低さが知られるお隣の国では、体育が必修科目から外されている。やはり、体を動かすことは、メンタルに大きな影響があるのだろう。それも行き過ぎれば、体育会系のカルトな信仰に染まり、精神を害する可能性もあるが・・。

 合計4時間のトレーニングを終え、「スカーフキッス」の営業が始まるまで、自由時間となった。俺は松村くんと一緒に、部屋で「ポケモン」を楽しんだ。

「くっそ、ローブシンの耐久おかしいだろ。ラティオスの眼鏡流星群耐えて反撃してくるとか・・どんだけのバケモンだよ」

「ハハハ、変に交代読みなんかせずに、素直にサイキネ打っときゃよかったんだよ。まあ武神はさすがに、次作で何らかの対策はされるだろうなあ」

 松村くんとのゲームの時間。これが俺の、唯一の安らぎである。

 俺は昔から、友人には恵まれていた方だと思っている。そりゃ、リア充に比べれば交友範囲は狭いのだろうが、2ちゃんねるの「孤男板」にいるような、同窓会に一度も呼ばれたこともなく、卒業後も関係が続く友人が出来たことが一度もないなどという人に比べれば、ずっとマシだった。

 拘置所で書いた手記に記したことは、半分本当で半分ウソだが、俺が友人に対し、一生懸命ネタを考えて楽しませようと、他人が見れば涙ぐましく思えるほどの努力していたのは事実だ。友人でも恋人でも、誰かと繋がっていること、それが俺にとって一番だった。孤独が一番の恐怖だった。


「なんか腹減ったな。ピザでも頼むか」

「高カロリー食は、小川さんから止められてるだろ。寿司とか、同じ高カロリーでも肉とかだったら付き合うよ」

 人と一緒に食べるメシなら、なんでもうまい。今の俺には、友人がいる。今の俺は、恵まれている。恵まれている、恵まれている、恵まれている・・。そう必死に、自分に言い聞かす。言い聞かせることで、コンプレックスから目をそらす。
 
 本当に自信を持てる瞬間は永遠に訪れず、自分を誤魔化し続ける人生が、いつまで続くのだろうか。都井に殺された方が、幸せではなかっただろうか。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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