凶悪犯罪者バトルロイヤル 第128話

 突然現れた角田軍は、敵か?味方か?宅間守の脳内が、ミキサーをかけられたようにかき乱される。精神鑑定において、「問題解決能力は小学三年生レベル」などと診断された自分は、こと人間関係にまつわる分野においては、こうした咄嗟の状況判断ができないのだ。

 こうした場合は、シンプルに考えるしかない。すなわち、「殺るか、殺らぬか」である。時限爆弾の赤を切るか、青を切るかのような二者択一にまで、問題の次元を単純化する。当たるも八卦、当たらぬも八卦。天運と勘に、身を任せるのだ。

「・・殺るで」

 配下二名に対して呟いた宅間は、ジャベリンを構え、角田軍サブリーダー、吉田純子へと突進していった。すると、藤井政安、向井義己、永山紀夫の男性三名が、速やかに進路を塞ぐ。この反応の速さ・・間違いない。こやつらは、初めから自分たちを、陥れるつもりであったのだ。

 激しい打ち合いが始まる。宅間、金川の二名と、角田軍、闇サイトトリオ、コリアントリオの計9名との戦いである。

「鳥の巣頭!何をぼやぼやしておる!」

 宅間は、敵味方中でただ一人、戦に加わろうとしない上部康明に激を飛ばした。上部は、元角田軍の所属である。かつての味方と、現在の主人との間で、板挟みになっているようだ。

「戦に加わらねば、ワシは貴様のことを必ず殺す。何がなんでも殺す。貴様を殺すことに、ワシの余生すべてを賭けてやる」

 宅間の恫喝でようやく胎を決めた上部が、敵軍に向かって切りかかっていった。やはり、キレイごとだけでは人は動かない。アメの甘さとムチの痛みとの、その加減が重要なのである。

 勝負の展開は、まったくの五分であった。我が軍の者を仕留められる者は、敵軍にはいない。単純な地力では、数で劣る我が軍の方が上である。しかし、敵軍はいかんせん数が多い。そのため、一人の相手に集中することができない。バドラとの戦争のときと、まったく同じ構図に陥ってしまったのである。

 そして、敵軍にも、単騎で我が軍に対抗できる強さの持ち主はいた。角田軍に新たに加入した、少年ライフル魔、永山則夫である。

 1949年、極寒の網走に生まれた永山は、両親からのネグレクトを受け、極貧の中、満足な教育も受けられずに育った。15歳時、いわゆる「金の卵」の集団就職で、東京に移住。初め青果店に勤めるが、イジメを原因に、程なくして退職を余儀なくされ、以後は仕事を転々とする。新宿の喫茶店に早番で勤めていた際には、同じ店で、下積み時代のビートたけしが遅番で勤めていた話は有名である。

 そして1968年から69年にかけて、米軍宿舎から盗み出したピストルで連続射殺事件を起こす。少年ながら死刑判決を受け、このときの裁判の記録が、「永山基準」として、後々の裁判において頻繁に持ち出されるようになった。

 逮捕後は獄中で勉学をし、ひらがなの読み書きがやっとの状態から、原稿用紙2000枚を超える大冊の小説を書き上げるまでの教養を身に着ける。支援者の女性と獄中結婚もし、減刑の話も持ち上がるが、結局入れられず、1997年、死刑が執行された。

 犯罪と貧困は切っても切れない関係にある。罪を憎んで人を憎まずという言葉があるが、その通りである。なにも、自分にとって都合のいいことだけキレイごとを肯定しておるわけではないが、「貧困に陥ったものすべてが犯罪を起こすわけではない」などとして、犯罪の理由を個人の病理のみに求めるのは、愚の骨頂である。逆に、病理的な人間がすべて犯罪を起こすのか?答えは否であろう。結局、個人と社会、双方の歩み寄りがなければ、世の中はよくならないのである。

 他人とは思えぬ犯罪者であるが、今現在、自分と永山は、敵同士である。永山を殺すべく、ジャベリンを振るったのだが、この男、なかなかに手強い。以前手を合わせた造田博と同等か、それ以上ではないか。まともに戦えば勝てるだろうが、敵の助太刀を意識しなければならぬ分、こちらがやや不利である。やはり、数は力か。

「宅間さん、これはヤバいっすよ。撤退しましょう」

 内心心待ちにしていた言葉が、金川の口から出た。三十六計逃げるに如かず。負けることは恥ではない。負けたままでいることが恥なのや。99回負けても、100回目で勝てばいい。いずれの勝利のため、ここは逃げるとする。

 宅間軍は、急造チームのため連携が悪い敵軍の隙をついて、戦場を離脱した。電車を乗り継ぎ、本拠地の大田区まで逃げ、一息ついたところで、裏切り者の、角田の婆に電話をかける。

「あの大軍を相手にして、よもや生き延びるとはね。やっぱり、大した男だね」

 婆は、悪びれもせずそう言った。

「クソババア、なぜワシを裏切った!」

「そういきり立つな。恨むなら、麻原彰晃を恨むんだね」

「どういうことや」

「大会開始から四か月経った現在、最大の勢力は、麻原彰晃率いるバドラであるのは、皆が認めるところや。冷静に考えて、あそこと渡り合える勢力は一つもない。そこで、参加者が総がかりで、麻原を潰そうということになった。麻原包囲網の結成やね」

「それとこれとが、どう関係がある!」

「先日、重信房子の軍団と八木茂の軍団との間で、戦が行われた。重信軍はその戦で、参加者屈指の大物、都井睦雄を討ち取っておる。このままいけば、包囲網の中で、重信が盟主の立場になることは確実や。それはアタシとしては面白くない。そこで、都井に負けぬ大物である、あんたを討ち取って、発言力を高めようと思った。一連の抗争は、最初から最後まで、アタシが描いた絵図だ。アタシは最初から、コリアン、闇サイトの両トリオを動かし、あんたらを狙っておったんよ。それが真相や」

「石川恵子が死んだのは?」

「あの女は、永田洋子の軍団と勝手に接触し、アタシらの情報を売っていた。裏切り者を処分しただけだが、いい偽装工作になったようだね。ちなみに、純子ちゃんたちが怪我を負ったのは、完全なウソだよ。気づいたとは思うけどね」

「・・・」

「ま、麻原包囲網のことがなくても、人の恩を三日で忘れるお前を、長い間飼いならしておけるとは思っとらん。手を噛まれないうちに、処分せんといかんかった。そのチャンスが、ここやったというわけやね。しかし、その目論見は失敗した。どうやろ。ここはひとつ、さっきのことは水に流して、また手を結ばんか?お前も金がいるやろ?」

 なんとふてぶてしい婆か。ここまで来ると、呆れるというより、なにか爽快ですらある。

「アホか!!!!」

 さすがに宅間は、電話を切った。これであの婆とは縁切りである。しかし、婆の言うように、金が必要なのは事実。「塾講師」のアルバイトを委員会から禁止されてしまった自分には、自力で金を稼ぐ手段がない。やはり、どこかに依り代を求める必要があるが・・。

「おい、ソープランドに行くで」

 考えるのは後や。今はこの滾る血を、鎮めねばならない。不愉快な心地を、拭い去らねばならない。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

津島さんへ☆

さっそく!読みました~★ごちそう様でした(*´ー`*)♪
素晴らしいです・・・、天才ですか・・・?

私なんて愛だの恋だの変なの鬼なのしか書けないから・・・(苦笑)
尊敬・・・。小説を書くのって、一話分でも結構、ハードですよね・・・;;

お疲れさまです( ^^) _U~~続きは何ヶ月でも何年でも待ってますよ~
大人なのでね・・・。(笑)応募用の原稿も頑張!私も色々と頑張ります!

No title

>>蘭さん

バトルロイヤルは応募用原稿よりずっと早く書けるし、楽に進むんですよ。なんでそうなるか、て考えたら、やっぱり蘭さんみたいに感想を書いてくれたり、閲覧数がカウントされたり、拍手ボタンが押されたりして、読んでくれる方がいるのがわかるからなんですよね。

なので、数字が落ちてきたり、なかなか感想もらえなかったりすると、モチベーションも下がり、書くのが苦痛になってしまうのです・・。
本当は僕も、毎日でも書いていたいんですけどね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR