凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十七話

 宮崎勤は、秋葉原のフィギュアショップで、アニメキャラクターのフィギュアを物色していた。

 僕が都内の漫画喫茶を渡り歩く生活を初めて、一か月が経った。一人も気楽で悪くないのだが、やはり勇者の旅には、ヒロインが傍にいた方が絵になる。今日はそのヒロインを探しに来たのだ。

 候補はすでに絞っている。ナウシカではない。今日買おうと思っているのは、「エヴァ」の綾波レイである。

 今まで、エヴァにはそれほど興味はなかった。TV版放映当時、僕はすでに獄中におり、エヴァが巻き起こした社会現象の空気の中にはいなかったからだ。一応TV版のDVDは、拘置所のおやつタイムで一通り観たが、直撃世代とはいえない僕に、ピンと来るものはなかった。新劇場版は、「序」は観たような観なかったような、という感じだが、「破」が公開された当時には、僕はすでにこの世の人ではなかった。

 が、娑婆に出て、改めて「エヴァ」新劇場版のDVD二作、そして最新作「Q」を映画館で観て、評価がガラリと変わった。

 TV版のシナリオを忠実になぞった「序」は、べた褒めされるような内容ではないが、批判の起きようもない、誠実で無難な作品である。あまりにTV版に忠実すぎるため、退屈といえば退屈ではあるのだが、間違っても途中で席を立ってはいけない。第6の使徒戦BGM、「Angel of Doom」は珠玉の名曲であり、ポジトロンライフルにコアを打ち抜かれた第6の使徒が、怪鳥の断末魔のような声を上げて砕けるシーンは、シリーズ屈指の名シーンである。

 問題は「破」である。あんなものはエヴァではないと思う。リア充に媚びを売ったのか、庵野くんのオナニーなのかは知らないが、あんなものは作ってはいけない。百歩譲って、熱血シンジくんはまだ許せる。彼はTV版でも、環境にさえ恵まれれば少年らしい無邪気な明るさを覗かせることがあったし、TV版でも、ちょうど該当する話数分は明るい雰囲気の話であったから、その点に関しては忠実に作っているともいえる。だが、綾波レイだけはいけない。綾波は無感情だから綾波なのである。感情の萌芽を描くにしても、せいぜい「私はあなたの人形じゃない」程度でなければいけない。間違っても、「ポカポカする」なんて言わせてはいけないのだ。ああいうのは貞本エヴァに任せておけばいいのだ。と、色々文句はあるのだが、BGMだけはわりといいのが多かった。変な童謡にはかなり興を削がれたが。

 その綾波と、退廃的なエヴァの雰囲気が帰って来たのが、「Q」である。前作から14年後、人類のほとんどが死滅した荒廃した世界の中で、おなじみの登場人物たちが二つに分かれてドンパチを繰り広げているという、誰にも予測できなかった熱い展開。正直、前作ではアスカの出番を削りやがってくらいにしか思えなかった新キャラ、マリの予想以上のフィットぶり。そのアスカの声優、宮村優子の、命を削った圧巻の演技。全国のゲイに衝撃を与えたであろう、カヲルくんの弱った男の落とし方講座。鷲巣詩郎氏作による、数えきれないくらいの名曲の数々。「エヴァVSエヴァVS使徒」の三つ巴による、ド迫力の戦闘シーン。全国のエヴァファンが、散々叩いてきた宇多田ヒカルに手の平を返したエンディングテーマ「桜流し」。難を言えば少々説明不足なのは事実で、視聴者置き去りの感は否めないが、逆に言えばテンポよく物語が進んでいるということでもある。何から何までが素晴らしい、邦画史上に残る名作である。

 などと考えながら、僕は目星をつけた「綾波レイ」のプラグスーツバージョンのフィギュアを棚から下ろした。本当は「Q」の黒スーツが欲しかったのだが、まだ発売されていないみたいだから仕方がない。眼帯アスカの方は公開前から発売されていたというのに・・。

「お兄さん、アニメ好きなんですか?」

 レジへ持っていこうとしたとき、急に後ろから女性に声をかけられ、僕はフィギュアの箱を落としてしまった。床を転がったその箱を、女は踏んづけて破壊してしまった。無残にも潰れる綾波レイ。可哀想なことしやがって。

 僕は、綾波レイを殺した女の顔を睨み付けた。丸々と太った体系に、何だか濃すぎる感じの土偶じみた顔。お世辞にも美人とはいえない。第10の使徒、いやTV版のゼルエル並の堂々たる風格である。だが、その表情にはなぜか、自分自身への揺るぎない自信が現れているように見える。

「あーあ、こんな不良品買っちゃだめですよ。今はこんな中古フィギュアショップじゃなくても、家電量販店とかにいくらでも新品が揃ってるんですよ。知らなかった?宮崎さん」

 不良品なのは、お前が僕を驚かせて壊したからだろ。

 ちょっと待て、突っ込んでる場合じゃないぞ。なんでこの女、僕の名前を知っているんだ?まさか・・?

「あ、すいません、名乗ってなかったですね。あたし、木嶋佳苗って言います。宮崎さんと同じ、バトルロイヤルの参加者です。ま、そんなことはどうでもいいとして、ヨドバシにフィギュア見にいきましょ。あそこ、品揃えいいんですよ」

 木嶋佳苗を名乗る女は、そういうと僕の手を引いて、店の外へと歩き始めた。

「あ、ちょっと待って。これ、セーラームーンだ。わー懐かしい。変身セットとか持ってたなー。宮崎さん知ってます?月に替わっておしおきよ!」

 知っている。葛城ミサトの声優、三石琴乃さんの代表作だろう。
 子供の変身セットにも、10Lサイズの特注品なんてあるんだろうか。
 って、そんなことはどうでもいい。なんなんだコイツは。調子が狂うぞ。

「すいません、つい懐かしくって。さ、さ、行きましょ」

 改めて僕の手を取り、転がるように階段を降りていく木嶋佳苗。マイペースな僕は、人に指図されるのが嫌いだ。今まで色んな奴が、僕を従え、型に嵌めようとしてきたが、そのたびに、僕は逃げ出してきた。そいつらは一人残らず、妄想の中で「肉物体」にしてやった。その僕が、今、一人の、とても好みとはいえない、どちらかといえば醜女の部類に入る女にペースを握られている。

だけど僕は、なぜか、嫌な気はしなかった。
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No title

いよいよ横綱・木嶋佳苗の登場ですね。
お得意の色仕掛けで勤君を手玉に取るのでしょうか。
女性の死刑囚は貴重な存在です。
西の横綱と恐れられた上田美由紀の登場に期待します。

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

女性の凶悪犯罪者は数は少ないですが、個性的な人物が多いです。単に目先の小金や暴力衝動のみに動かされて犯罪を犯すことが多い男に対し、女の犯罪には必ずそれなりの動機があります。金銭目的にしろ、多くの男のように場当たり的ではなく、計画的なものがほとんどです。

それだけに興味深く、彼女たちを研究すると、「女性とは」「人間とは」ということを考えさせられます。

この組み合わせはどちらが肉物体にされるのか想像してしまいます

重度精神障害者が練炭されるか
練炭術師が別海産ローストポークになるか

No title

>>3番コメさんコメントありがとうございます!

僕も楽しみですw


正直、自分で出したはいいものの、宮崎勤を早くも持て余しかけていたのですが、木嶋香苗が出てきたことで方向性が見えてきた気がします。キジカナちゃんありがとう。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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