凶悪犯罪者バトルロイヤル 第125話

 あのイタリア料理店でのディナー以来、Nの自宅には、奇怪な郵便物が次々と届けられるようになっていた。

 ――白い液体が満杯まで詰められたフィルムケース。ラベルには 「僕のカタラーニがドビュッシーしてベートーベンが出てきたよ」とある。さらに「このミルクには、エイズウィルスがたっぷり入っているよ」とも。

 ――「から揚げ弁当が好きな小林君へ」として、誰が出したかも知れぬ糞便が詰められた弁当パック。

 ――さらに、これは何の肉だろうか、とうに腐敗しきった肉片が、数匹のゴキブリと一緒に詰め込まれたタッパーウェアなど。

「宮崎の野郎・・」

 小林が激しい怒りをあらわにする。宮崎勤・・。一連のストーカー行為は、すべてがあの男によって行われているのは明らかだった。

 激しい生理的嫌悪感に襲われる。この種の恐怖は耐え難い。厳しく鍛えられた人間はライオンや熊にも向かっていくことができるが、1000匹のゴキブリには太刀打ちできないのである。ある意味、宅間守よりも手強い相手なのかもしれない。

 ストーカーが店に来るお客だったら、どんなによかったかと思う。相手が大会参加者なばかりに、Aや松永社長に相談することができない。小林のことがあるからだ。私は為す術もなく、精神的に追い込まれていった。

 そんな宮崎からの郵便物の中に、「それ」は混じっていた。送り主は、西口彰。「復讐するは我にあり」の、あの男である。

 内容は、それは酷いものだった。

――今日はおぢちゃんは、ほいくえんで、工作をしたんだよ。のりはアラビックのりではなく、でんぷんのりを使ったんだ。とっても、ねちょねちょしてるやつだよ。おぢちゃんのおちんちんから出るのりも、でんぷんと同じくらいねちょねちょしてるんだよ。タンパクしつもいっぱい入ってるしね。くっつきはそんなにないし、くさいけどね。

 脳みそが沸騰していく。こんなに激しい怒りに襲われたのは、「あの時」以来だろうか。

「ちょっと出てくる。お昼は、適当に食べといて」

 私はとるものもとりあえず、家を出ていった。向かう先は、等々力渓谷公園――西口に指定された場所である。

 「あの時」は、私は溢れる怒りのエネルギーを、友達を殺すことに使ってしまった。今度はそれを、友達を守るために使う。そして、私自身がのし上がるために――。

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆  

 麻原彰晃率いるバドラが「秘密基地」の包囲を始めて、3日が過ぎた。あれほど恐れていた西口&梅川のコンビだったが、現在のところ、彼らに目立った動きはない。彼らは「動かない」のではなく「動けない」のではないか?バドラの中に、コンビを侮る空気が生まれ始めた、そのときだった。

「うわあっ、T・Nだあっ!」

「A・S軍のT・Nが来たぞおっ!」

 敵襲――城方の強気の理由は、援軍の当てがあったからであった。現れたのはT・N。自分と同時期に逮捕された大物犯罪者、A・Sのところの小娘である。男9人から構成されるバドラにとっては、相手にもならない――と、ふつうはそう考えるはずなのだが、麻原の場合は、事情が違っていた。

 Nは、ホミカと同じキャバクラに勤めている――。麻原最大の黒歴史、「しょうこうとほみかのこうかんにっき」の内容を知っている可能性がある。もしも、あの内容を、バドラの信徒や世田谷区民に暴露されたなら、自分はもう、おしまいである。

「麻原彰晃!ちょっと出てきなさいよ!」

 なにやら、ご立腹の様子である。やはりあの娘は、麻原のセクハラ的内容が綴られた日記を、読んでいるようだった。

「な・・なにかな?」

 恍けながらテントから顔を出した麻原を、Nは離れた場所に呼んだ。ボディーガードの関光彦が帯同することを申し出たが、麻原自らが拒否した。これから話すことを誰かに聞かれるなど、冗談ではなかった。

 近年、重大犯罪が起こるたび、報道で、犯人が学生時代に書いた卒業文集の内容などが晒されるケースが増えているが、あれはある意味、死刑以上の抑止効果だと思う。「おぢちゃんのおちんちんが、ほみかちゃんにはいるまで」--あんなものを全国ネットで晒されることを考えたら、二度とサリン事件のような大それた犯罪を犯そうとは思えない。市中引き回しにでもなったほうが、まだマシというものだ。

「その顔は、私が来た理由をわかっているようね」

「あ、ああ・・すまなかった・・」

 麻原は、怒るNに頭を下げ、自分がなぜあんなものを書いたのか、理由を切々と語った。

 あれを書いた理由とは、スリルである。もしあの内容が暴露されたなら、自分の地位が失墜するだけではすまない。バドラの信徒に捨てられるとは、すなわち麻原自身が、他の参加者に狙われて死ぬことを意味する。いや、下手したら、委員会から処刑されるかもしれない。

 そのスリルを味わいつつ、性的欲求を満たす――それがたまらなかった。性犯罪とは、単に性的欲求を抑えられないから起こるのではなく、こうした理由からも行われるのである。

「あんたのような最低男の言うことなんて、まったくわからないし、わかる気もないけど・・。私の頼みを聞いてくれたら、許してやらないでもないわ」

「頼み、とは・・?」

「今度からは、店に来たとき、ホミカだけじゃなくて、私も一緒に指名してよ。それから、最高級のロゼを最低二本は空けて。それで勘弁してあげる」

 怒りに任せて殺されるかもしれないと思ったが、そんなことはなかったようだ。Nもキャバクラ嬢の端くれである。打算、取引の生き物なのだ。

「うっ・・くっ・・」

 売れっ子キャストを二人も指名し、ロゼを二本も空けたとなれば、四十万は飛ぶ・・。しかし、これもすべて、身から出た錆である。背に腹は変えられない。従うしかなかった。

 こうしてNは帰った。しかし、巨大勢力を率いる麻原には、息をつく暇もなかった。

「なんてこったっ!!!!」

「秘密基地に食糧を入れられちまったっ!!!」

 西口と梅川の狙いは、これであった。バドラの注意が逸れた間に、まんまと城に兵糧を運び込んでみせたのだ。秘密基地施設の隣に積まれた食糧は、軽く見積もっても、三か月分はありそうだった。

 これではもう、長期戦はとれない。絶望感が陣営を包む――。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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