凶悪犯罪者バトルロイヤル 第124話

 秘密基地のドアを開けた麻原たちの目の前に現れたのは、三菱銀行人質籠城事件の犯人、梅川昭美だった。

 戦後の混乱が続く1948年、父46歳、母42歳という高齢の両親から生を受けた梅川は、8歳のときに父親が病気で働けなくなったことから、極貧の中での幼少時代を送ることを強いられる。育ち盛りの十代に、夕餉の食卓に並ぶのが茶碗一杯の飯にたくあんのおかずだけという生活を送った梅川の心が歪むのに時間はかからず、中学時代から喧嘩や非行を繰り返し、15歳時には、強盗殺人を犯して逮捕された。

 成人後はバーテンなどの仕事をしながら暮らすが、少年期に生まれた富裕層への劣等感と恨みは培養され続け、1979年、ついに三菱銀行人質籠城事件を起こす。

 当初は現金強奪を計画していた梅川だったが、警察が予想以上に早く現場に到着すると、作戦を、行員と居合わせた客を人質に取っての立て籠もりへと切り替えた。

 映画「ソドムの市」を再現すると嘯いた梅川は、人質を男女の別なく裸に剥いて人間バリケードを作り、また些細なことで癇癪を起しては、人質を次々に射殺。殺した人質の耳を削いで口に含んで見せるなどの残虐行為を繰り返したのち、踏み込んだ警官隊によって射殺された。

 この犯罪者を語る上で欠かせないのが、日本最大の指定暴力団の三代目組長の殺害を企てた男、鳴海清との数奇な因縁である。三菱銀行事件よりちょうど一年前に三代目組長を襲撃し、最後には凄惨な私刑を受けた末に果てた鳴海と梅川は、同じ女性を愛した仲だったのだ。二人の犯罪者を結びつけた女性は、生きていれば、現在まだ50代である。

「おうおうおう。そんなところに陣取りおって、長期戦に持ち込むつもりやろうが、見てみい!食いもんはたんまりあるんや!」

 梅川が、秘密基地内を撮影した写真を、紙ヒコーキにして投げてきた。見ると、基地内には缶詰やカップ麺などのインスタント食品が、大量に積まれている。軽く一か月分はありそうだった。

 それを見て、バドラの中で、この際、秘密基地を放棄してはどうかとの意見が出るが、麻原はその声を断固押さえつけ、攻城戦の続行を宣言した。なんといっても、麻原は自らの黒歴史を人質に取られているのである。退くわけにはいかない。

 そして、包囲一日目の晩。麻原たちは、仲良くしている子供たちが作った「はんざいしゃすごろく」を楽しんだ。

「宅ま守が、おばさんをレイプした。気もちよくて、3回いった。5マスすすむ・・か」

 今のは、蒼龍小学校3年2組、高平武文くんが考えたマスである。

「山じ雪男が、ガールズ・バーに忍びこんで、女を5人殺した。楽しかったから、3マスすすむ、だって!やった~」

 黒龍中学校の不良少年、タケシが考えたマスであるが、漢字を思いっきり間違っている。変な当て字ばかりうまくても、どうしようもないということだ。

「そんしのおぢちゃんが、めろんぱんを3こと、じゃむぱんを5こと、そーせーじぱんを7こたべました。おいしかったです。でも、ぱんやさんに、いちおくまんえんはらいました。かなしかったです」

 どらごん保育園さざんどら組のスモモちゃんが考えたマスであるが、まさかこれが、バドラ創設以来初めてとなる、信徒同士の喧嘩に繋がるとは、誰も予想しなかった。

「なんでだよ!尊師はおいしかったんだから、進むだろ!」

「いや!一億万円払って悲しかったのだから、戻るに違いない!」

 そう。スモモが考えたマスには、進むのか、戻るのか、その記述がなかった。この解釈を巡り、関光彦と、尾田信夫の間で、喧嘩になってしまったのだ。

 兵糧攻めの寄せ方にとって厄介なのは、長期の布陣による欲求不満からくる、士気の低下である。今はまだ一日目だが、包囲が長く続き、イライラが募ってくれば、気の短い凶悪犯罪者どもは耐えられないだろう。後々の遺恨とならないように、火種は火種のまま、完全に鎮火しておかなければならない。

「光彦、信夫。落ち着かんか。こういうときは、譲り合いの精神が大事だぞ」

 そう言って宥めてみたのだが、二人とも聞く耳を持たない。そこで、軍師、正田昭から、ある提案がなされた。

「こういうのはどうでしょう。尊師が、実際に、メロンパン3個、ジャムパン5個、ソーセージパン7個を食べてみる。そして、一億万円とは言いませんから、一万円を店員に払ってみる。それで、うれしいか、悲しいかを判定し、その結果によって、進むか戻るかを決めるというのは」

 これにバドラの信徒たちが、それがいいそれがいいと頷く。麻原としてはあまり気が進まなかったが、ここで強硬派の自分が不平不満を述べ、みんながやる気をなくしても困る。仕方なく、スモモが考えた量のパンを、一万円を出して買って食べたのだが、結果は最悪だった。

 いかに大食漢の麻原といえど、15個ものパンをいっぺんに食べるというのは、あまりに過酷すぎた。せめて、全部違う味ならばよかったのだが、同じパンばかりをそんなに食べていては、食傷して当たり前である。結局半分近くを残してしまった。ポケットマネーから一万円もの金は払うわ、腹が膨れてしまったせいで、いつも楽しみにしている9時のおやつは食べられなくなるわで、踏んだり蹴ったりであった。

 そんなこんなで、3日が過ぎたのだが、城の中からは何の音沙汰もなかった。紙ヒコーキも飛んでこない。夜間、明かりがついたり消えたりしているようだから、まだ中にはいるのだろうが、西口と梅川は、何もアクションを起こさないのである。

「なんだ。籠城戦のスペシャリストといっても、大したことないな」

「宅間守と松永太を足して二で割った万能型犯罪者西口も、所詮この程度か」

 信徒たちからそんな声も囁かれ始めたときのことだった。

――セクハラおやじの悪行を、ホミカちゃんを大事にしている怖いお姉さんにチクらなきゃ(使命感)

 久々に飛んできた紙ヒコーキに書かれていたのが、そのメッセージである。いったい、これはなんのことだろうか。麻原には、言っている意味がわからなかった。
 
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個人的に「ソドムの市」に触れられていることが嬉しかったです。YouTubeでしか見たことないけど何度も見たくなる映像。

No title

ソドムの市はまだ未見なんですよね~。
ネットに転がってるかな?

あと、何回か書き込みいただいてますよね?
定期的に書き込み頂く場合、コテハンお願いしてもらっていいですか?読者さんを信用していないわけじゃないですけど、やっぱり、マナーの悪い書き込みされるのは大体名無しの方なんで・・。
それと、コテハンつけていただいたほうが、人とつながっている気がしてうれしいんですよ。

ようつべにありますよ。
しかし、フルだと翻訳無しかな?

探しにくいけど見つかりますよー!

No title

コテハン・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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