凶悪犯罪者バトルロイヤル 第118話


 再び見開かれた加藤智大の目に、鬼の形相で俺に迫ってくる都井と、その後ろから駆け付ける重信さんの姿が映る。

 命を諦めることはない――咄嗟に、そう思った。俺は日本刀の切っ先を、都井に向かって突き出した。

 恐るべき反射神経で、攻撃を躱す都井。しかし、心折れたと思われた相手からの、予想外の反撃は、確実に都井を動揺させたようだ。

 俺は日本刀を垂直に構え、振り下ろした。異常な集中力のおかげで、傷の痛みは感じない。しかし、断裂した筋繊維までが回復するわけではない。左手には力が入らない。剣速は鈍く、ナイフやサーベルにはない日本刀の持ち味、重みを生かしての破壊力も発揮できない。

 剣撃は、都井の匕首に簡単に阻まれた。俺の攻撃はすべて防がれ、逆に、都井の攻撃はことごとく受けてしまう―――。完敗である。ここまで、差があるとは思わなかった。

 だが、俺にトドメを刺そうとした都井は、急に弱気な表情を浮かべ、よろめいて離れてしまった。チラリと見えた背中には、重信さんがよく使う、中東製のナイフが突き立っていた。

 投げナイフ――ゴルフボールによる投擲攻撃は、分厚い筋肉で覆われた背中に当たればほとんど意味をなさないが、刃物なら別である。都井の背筋を深々と切り裂いたナイフは、都井の戦力、それ以上に戦意を、確実に奪った。

 勝負は決した――。遅れて「森」を出てきた川俣軍司、重信さん、松村くん、そして俺の四人に包囲された都井は、それでも重信さんを道連れにしようと切りかかるなど抵抗を見せたが、最後は、松村くんのナイフを首筋に食らって倒れた。都井は、俺には完勝したが、「重信軍」には敗れたのだ。

 大怪我を負った俺は、委員会指定の国立病院に一週間入院することとなった。DNAの情報は誤魔化しがきかないから、ごく一部ではあるが医療機関には、今大会のことは伝えられているのだ。

 一週間もあれば、傷は癒えるだろう。二週間後からは、トレーニングも再開できる。だが、できるだろうか。

 あれだけのトレーニングを積んでも、俺は都井には勝てなかった。手も足も出なかった。戦闘の技術よりも、戦いに臨む気構え、そこに大きな差があった。

 都井は生には執着していない。いつ死んだっていいと思っていた。しかし、勝ちたい、とは思っていた。怒りをぶちまけ、誰かを、世界を、滅茶苦茶にしてから死にたいと思っていた。それが、捨て身の、特攻の強さを生んでいた。

 対して、俺はどうか。生きることに絶望しているくせに、無駄に死を恐れ、生に縋っている。それでいながら、勝利を渇望していない。どうせ俺なんか・・と、最初から負けるつもりで勝負に挑んでいる。もう、大きなことをしようとも思っていない。暴れる気力もないのである。それでも今までは、埋めようのない戦闘力の差で勝ってきたが、本当の強敵相手には、なにもできなかった。弱いやつにはめっぽう強いが、強いやつには、とことん弱い。小悪党の鑑みたいだな、ははは。

 あの男――宅間守が、都井以下の強さということはないだろう。今の俺では勝てない。守りたい人を、守ることはできない。

 それでいいのか――?などと、今、誰かに聞かれても、そいつが期待する返事を返すことはできないだろう。昔から、叱咤激励の類が胸に響いたことなんて、一度もなかったんだ。落ち込んでるときは、優しくされたかった。誰も優しくしてくれなかった。いたのかもしれないが、忘れた。

 どうでもいい――。今はただ、ゆっくりと休みたい。眠っていたい。

☆   ☆    ☆    ☆    ☆   ☆

 松永太は、ビジネスホテル内のラウンジにて、一人簡素な祝杯をあげていた。一応、皆にも声はかけたのだが、仲間の前上博が亡くなったということで、辞退の返事が相次いだのである。得た嬉しさより失った悲しさを優先するのは、松永が理解できない日本人の考え方の一つだ。

 ちなみに、前上の穴は、八木軍が雇った傭兵、小川博が埋めてくれそうだった。金で雇われただけの小川博は、ロクに働きもしないまま、大将が逃亡したと知ると、あっさりと降伏してきたのである。まあ、傭兵にはよくあることだ。我が軍が雇った孫斗八も、都井の強さを目の当たりにし、いち早く逃げ出していた。川俣のように残っていれば、莫大な報奨金を受け取れたというのに、もったいないことである。

 ともあれ、八木軍との抗争に、一応、一区切りがついた。戦争後、松永はAにいち早く連絡をとり、池袋の「IKB48」に向かわせ、敗走した八木を待ち伏せさせたが、さすがに八木は現れなかった。軍資金を押さえさせたが、金庫には現金はほとんど入っていなかった。どうやら大部分は、あらかじめ戦の前に、何処かへ隠していたらしい。

 ゴキブリのようにしぶとい八木がこのまま終わるとは思えないが、まあ、以前ほどの力を取り戻すことはないだろう。武力もないのに金だけは持っている分、他勢力に目をつけられ、早晩、滅びの道を辿るに違いない。

 また、今回の戦で、味方のこともよくわかった。一つは、重信房子に、戦略的な眼力がまるでないこと。

 日本赤軍の女帝などとはいっても、所詮は、美貌を買われて担がれただけの神輿にすぎない。少しでも冷静に全体を見る目があれば、たとえ八木を討ち取っても、軍事面での扇の要たる加藤を失っては痛手の方が大きく、逆に加藤を助けて敵軍のエース都井睦雄を倒してしまえば、八木などは死んだも同然ということがわかるはずなのに、重信は、敵軍総大将を討ち取るという戦果に目が眩んで、そちらを目指してしまった。そして戦が終わってから、自分が加藤を助けろと言ったのを、「部下思い」などと勘違いして、勝手に反省してしまっているのだから、始末に負えない。

 あの女は、一介の武人としては優れていても、単独で人の上に立てる器ではない。あれなら、いずれ対立するときが来たとしても、赤子の手をひねるように潰せることだろう。

 心配なのは、加藤智大である。都井とあそこまで戦力差があるとは予想外であったが、その都井はもういなくなったのだから、素直に喜んでもいい場面なのだが、ネガティブな加藤にそう考えることができるとは思えない。トレーニングに精通した小川博の加入もあり、復帰すればこれまで以上の伸びしろが見込めるのだが、果たしてどうなることか。

 一週間後、永田軍から、再度の同盟申込みの電話が入った。北村ファミリーと、和睦が成立したのだという。両軍とも、我が軍が八木軍を打ち破った報を受け、逃げ延びる八木にトドメを刺し、漁夫の利を狙おうとの魂胆で手打ちをしたのであろう。わかっていたが、快く受けてやった。来るべきバドラとの全面抗争に備え、味方は一人でも多いほうがいい。

 大会開始から、四か月――。三分の一が消化された。この時点で、ともに大戦を勝ち残った2強――戦力のバドラ、資金力の重信軍の構図が、完全に確立された。
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かなり出遅れたけどL.Wさんに便乗して
先日見た報道スクープSPでむつやんについても紹介されたのを機に環七通り編を再読したよ
リアルタイムで読んだ時は結核を患ってたと見て華奢ないでたちを想像してたけど全くの真逆(誤用)の本人の写真にたまげたなぁ
再現VTRの本人役の役者さんの演技がまた秀逸でいっそう都井氏に興味が湧いた
バトルでは殆ど台詞がないまま早くの退場となったのが押井ね…
本当結核が無ければさぞかし強敵だったろう

No title

むくやんさん

 あのふくよかな写真は健康なときの写真ですかね。昔は食料がなかったイメージがありますが、大戦末期はともかく、昭和初期の食糧事情は良かった方で、働かずに食っていけるニートも結構いたみたいですが、妙に生真面目なところがあったのか、戦争にもいけず働けもしない自分に負い目を感じてあんな犯罪に走ってしまったのが都井という男です。

 バトルロイヤルは見返すと麻原の回とかバトル回なんかはまあまあ良く書けてるのかな・・・。都井は無口の方が雰囲気が出ると思って意図的にそうしました。

プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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