凶悪犯罪者バトルロイヤル 第117話

 加藤智大は、銃剣の切っ先を向け突撃してくる都井を迎え撃つべく、日本刀を構え、腰を落とした。

 都井の怖さ――捨て身の怖さ。奴は、自分の命への執着がまったくない。普通、人が感じる、死への恐怖がまったくない。戦中世代のメンタリティは想像を絶するものがあるが、徴兵検査に失格し、戦争に行けなかったことをコンプレックスにしている都井は、もしかしたら、戦地に赴いた兵士よりも、命を鑑みないことへの拘りが強いのかもしれない。

 銃剣が俺の身体に触れる瞬間に、サイドステップ。体勢が崩れた都井の脇腹か太ももに、刺突を浴びせる。そうイメージを持ったのだが、ここで予想外の――いや、予想しておくべきであったのに、気が動転してか、予想できなかった都井の攻撃を食らってしまった。

 顔面を襲う、BB弾の雨あられ。激痛を受け、俺は白兵戦で絶対にやってはならないこと、視界を覆うガードをしてしまった。

 もともと銃剣は、ナポレオン一世の時代、装弾数が少なく、また弾丸の装填に時間がかかるマスケット銃を装備した銃兵隊が、弾を補充している最中に白兵戦を仕掛けられた場合を想定して生み出された武器である。俺は重信さんからそのことを習っていたのだが、そのことばかりが頭にあったため、銃撃と剣撃を「同時に行う」という発想がなかった。都井の銃剣、いや「電動ガン剣」は、単なる飾りではなく、極めて合理的な考えに基づいて装備された武器だったのだ。

 気付いたときには、都井はもう目の前まで迫っていた。回避は間に合わない。俺は突き出される白刃を、左手で受け止めた。

 掌が焼けただれたような熱を発し、血が滴り落ちる。今、俺の目に映っているこれは、なんだろうと思う。手の甲から、鋭く尖った銀色の物体が「生えて」いるのだ。

「加藤くん!」

 後ろから、重信さんが援護に駆け付けてきた。都井がそちらに対応しようとするが、肉に深く食い込んだ剣は、容易には引き抜けない。仕方なく、都井は剣を、俺の手のひらに刺さったまま放置し、新たに匕首――ドスを抜いて、重信さんの方へと向かっていった。

「くっ・・・」

 早く重信さんを助けに行かなければいけない。しかし、銃剣は抜けてくれない。医学的には、深く刺さった刃物は、素人がすぐには抜かない方がいいらしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「うああああああああっ!」

 激痛。信じられない量の血が噴き出すと同時に、剣は手のひらから抜けてくれた。すぐに都井を追いかける。

 都井と重信さんの打ち合いが始まった。都井は女性に情けをかけるような男ではない。むしろ、夜這いを断られたことを犯行の動機とする都井は、女性に深い恨みを持っている。都井の激しい攻撃に、重信さんは防戦一方だった。

 しかし、背後に俺の気配を感じた都井は、重信さんから一時離れる。ここに、松村くんも合流し、重信、松村、俺と都井が、三対一で対峙した。人数的には絶対有利の態勢だが――。

「あっ、八木茂!」

 重信さんが指さした方向を見ると、八木茂が、配下の佐々木哲也に伴われて、戦場を離脱しようとしているのが見えた。ようやく錯覚状態から抜け出し、敵方の大半が「森」の中から消え去ったこの機に乗じて、戦場を離脱しようとしているらしい。

「加藤くん、松村くん!都井は任せましたよ!」

 敵軍総大将の姿を発見した重信さんは、そう命じて、八木を追っていった。その瞬間、都井が俺の方へ襲い掛かってくる。都井が匕首を振り下ろしてくるのを、日本刀の刃で受け止めた。

 が――。左手を負傷している俺は、都井の攻撃を受けきれない。大きく、体勢を崩してしまった。そして・・。

 肋骨の間を、滑るようにして、刃物が侵入してくる。防刃ベストの隙間を突いた都井の刺突を食らってしまった。

 腰が砕けた。失血で薄くなる視界に、松村くんのナイフが腕を掠ったのを気にも留めず反撃に移る都井の姿が映った。都井の匕首は松村くんの防刃ベストに阻まれたが、松村くんは膂力だけで吹っ飛ばされてしまった。

 そして都井は、俺の方へと振り返った。まずは俺の息の根を、完全に止めておこうというらしい。

 命が終わる時が来た。都井睦雄――なんて強さだ。国内最多記録の称号は、伊達ではなかった。俺は、ヤツには勝てない。

 人生、色々なことがあった。あの事件を起こす前―――。9割9分まではクソみたいな思い出ばかりだったが、いいことだって、ないわけじゃなかったんだ。褒めてくれた人だっていた。仲良くしてくれた人だっていた。評価されたことだってあった。ま、人に比べりゃ、ずっと少なかったんだろうが。

 それをうまいこと、自信に変えることができなかった。物事を、悪いほうに悪いほうにとしか、考えられなかった。チャンスを、自ら潰してきた。色々と勿体ない選択をしてきた。

 だけど、仕方なかったんだ。精神の問題とは、色々と複雑であることを理解できない単細胞にはわからないんだろうが、俺には、あれ以上の頑張りはできなかった。今まで辿ってきた以外の人生は考えられない。自己責任の問題ではない。なるべくしてなった人生なんだ。

 目を閉じた。全てを、諦めた。

「重信!なにをしているか!八木などはいいから、加藤を救わんか!」

 松永さんの、今まで聞いたこともないような大声が、耳に飛び込んできた。
 
 

 
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次回も楽しみです

No title

>>隠れファンさん

重信軍VS八木軍編、いよいよ大詰めです~!

続きを早くー!

今回みたいな流れはドキドキする!しかし,そろそろ麻原のマヌケも見たいw

No title

>>うさこさん

麻原のパートはちゃんと考えてあるからまってのー。
最近一つ一つのシリーズが長期化する傾向があるんで、も少しテンポアップを考えていかねばならぬのう。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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