凶悪犯罪者バトルロイヤル 第116話

 もう1時間が経ったようにも感じるが、実際に経過したのは、5分程度だろうか。加藤智大は、装甲車の裏で息をひそめ、辺りの様子を窺っていた。

 約1メートルの間隔で、不規則に車が配置された戦場では、敵の姿も味方の姿も視認できない。出会い頭の勝負。遭遇戦である。

 八木軍は、まだ、逃げるという選択肢がない錯覚に囚われているのだろうか。まあ、仮に目が醒めていたとしても、この戦況では、容易には身動きがとれないだろうが。陣形は完全に崩れ、四方八方、どこから敵が襲ってくるかわからない。車の陰から飛び出した瞬間にお陀仏という可能性が、非常に高いのである。

 とにかく、八木を速やかに探し出すことだ。八木を討ち取ってしまえば、都井たちは戦意を失い、降伏してくるかもしれない。八木が味方から離れ、孤立しているこの状況は、最大のチャンスである。

 車の下を覗いてみようか。足を見れば、どの車の陰に人が隠れているか、わかるかもしれない。だが、敵か味方の判別まではできない。それに、動きにくい体勢をとっている間に、後ろから襲われたらアウトだ。
 
 ならば、上は?装甲車の屋根に登ってみれば、誰がどの車の陰に隠れているかがわかる。しかし、遠くまでは見えない。それに、付近に隠れているのが、全員敵だったら?車の上に身をさらせば、こちらの姿も丸見えとなってしまう。マインスイーパと違って、わかった時点でアウトなのだ。

 携帯は鳴らない。重信さんから、メールで作戦の指示が来るかもしれないと思っていたのだが。位置を把握されたら大変だから、声での指示がないのはわかるが、携帯メールを使うくらいはできるはずだが。まさか、もうやられてしまったのだろうか。

 前上さんが、都井睦雄に殺された――。人の死を頻繁に目の当りにするようになっても、身近な人間の死は、やはり特別に感じるものだ。正直、まだ、動揺している。この上、重信さんや松村くんまで、殺されるようなことがあったら――。

「・・・・!」

 天を切り裂き、降りかかる殺意――。都井睦雄が、装甲車の上から飛び降りてきた。銃剣――電動ガンの銃口に取り付けられたナイフの切っ先は、俺の心臓をしっかりと捉えている。

 アスファルトを横転して躱した。立ち上がると、別の装甲車の陰に身を隠した。都井が追ってくる気配はない。忍び足で、さらに隣のレンタカーの陰へと移った。

 神出鬼没。いったい奴は、どこから現れ――

「!!!」

 背後からの一撃。完全には躱せず、肩に傷を受けた。距離をとってから、振り返った。ナイフを構えているのは、「青春の殺人者」、佐々木哲也だった。

 日本刀を構え、反撃の体勢に移った――すぐに構えを解き、レンタカーのボンネットに飛び乗った。また、背後から、足音と、敵の気配を感じ取ったのである。

レンタカーの向こう側へと飛び降り、そこでようやく、佐々木と一緒に、俺を挟み撃ちにしようとした敵を確認した。

 敵ではなかった。味方の、坂巻脩吉だった。俺は、合流して二人で佐々木を殺す機会を、みすみす棒に振ってしまったということだ。

 しかし、今からでも遅くない。俺が坂巻の援護に駆けつけようとした、そのときだった。

 都井睦雄である。都井が坂巻の背後から、恐ろしいスピードで走ってきて、背中を一突きにした。

「ぐふっ・・・」

 吐血して膝を着く坂巻。しかし、今ならまだ間に合う。俺は、重信さんから、人体の構造についての授業を受けている。傷があの位置ならば、腎臓は逸れている。すぐに援護に駆けつければ、坂巻はまだ助かる。

 が――。足が竦んで、動けない。都井が怖い。しかも、今行けば、佐々木哲也を加えた二名を相手にしなければならない。俺には、荷が重すぎる。

 結局、佐々木と都井の二人に、坂巻は殺されてしまった。その間、俺に出来たのは、別の装甲車の陰に隠れ、少しでも都井から離れることだけである。

 ここで俺の脳裏に、不埒な考えが過ぎる。どうせ都井から逃げるのなら、いっそのこと、このまま戦場を離脱してしまおうか、という考えである。

 軍隊において、一兵卒または下級将校の敵前逃亡は重罪である。最低でも数年の懲役、場合によっては死刑もあり得る。俺は重信軍では、うぬぼれでもなくそれなりに期待されているとの自負があるが、それでも、何らかのペナルティが課せられるのは確実だろう。

 ならば、他の軍に亡命してしまえばいいじゃないか。例えば、正田くんのいる、バドラ麻原軍。あのチャラけた雰囲気に付いていけるかはわからないが、武力はうち以上だ。または、今まさに交戦中の、八木軍に寝返ってしまうという手だってある。それなら、あの化け物、都井睦雄と戦わなくて済む。

 重信さん、松永さんには、確かによくしてもらった。しかし、離合集散は乱世の習いだ。道義的には問題があっても、裏切りは間違った考えではない。俺だけが責められる筋合いじゃない。

 俺は車の「森」を脱出し、歩道まで走った。そこで頭を振った。

 なにをやっているんだ、俺は。自分が散々、人に見捨てられたと悩んでいたくせに、俺自身が、自分を評価してくれた人たちを見捨てるのか?

 どこまでも自分勝手なクズ野郎。永遠に、人と交われない男。嫌だ。そんなレッテルを張られて死ぬのは嫌だ。

 そうだ。元々、俺が生に執着するのが、おかしな話なのだ。人を裏切るなどしてオメオメと生き残るよりも、自分がクズじゃなかった証明をして、ここで死んだ方がいい。死ぬ瞬間くらい、男になりたい。

 いや――そんなカッコいいもんじゃない。俺が証明したいのは、俺を見捨てたヤツらがどれだけクズだったか、ただそれだけだ。俺が事件を起こしたのは、全部アイツらのせいだ。そういうことにしたい。そのためには、自分がアイツらと同じ人種じゃない、ということを証明しなければならない。ただそれだけのために、俺は男になろうとしているだけだ。

 ともあれ、俺はこの場に踏み止まる決意をした。そこに、同じく「森」を抜け出した重信さんが合流してきた。

「戦場全体を視界に入れつつ、開けた場所で打ち合おうというのですね。いい判断です。都井が反対側から出てくるかもしれませんから、私はそちらに回ります。都井が出てきたら、声をあげてください。すぐに援護に向かいます」

 重信さんが指示を飛ばし、反対側へと回っていった。一分一秒を惜しむ状況でも、さりげない褒め言葉を忘れない。あれが、俺を育てた「あの人」だったらば、「敵前逃亡する気か?」などと、人のやる気を挫く決めつけが始まっていたところだった。

 都井は、規制線の東側から出てきた。真っ直ぐにバリケードへと向かおうとしないのは、まだ、錯覚状態から抜け出していない証拠だ。

 都井の死角から襲いかかろうとしたが、すぐに気づかれた。奇襲は失敗。俺は大声をあげ、重信さんを呼んだ。

 都井睦雄。短時間での殺人数、国内最多記録を持つ男との、文字通りの真剣勝負が、始まろうとしていた。
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重信房子軍の現メンバーって誰と誰だっけ?

ちょっとお久しぶりです~☆

>>津島くん

最新の二話分、改めて(二度読み!)
読みふけりましたぁ♪w

ウヘヘ☆やっぱり楽し~~~!!!
あ~~~、ドキドキした・・・w

加藤智大の心理描写も、
良いなぁ・・・
やっぱり重信さん寄りなの?///
んNNN・・・?w

・・・ハッΣ(´□`;)
また脱線事故しそうに(脳内が。笑)

ご馳走さまでしたん(*´ω`*)♪

No title

>>?さん

重信房子、松永太、加藤智大、松村恭造、畠山鈴香

そういえば勢力紹介全然更新してなかったなあ

>>蘭さん

ちょっとここまで、加藤智大をキレイに書きすぎてもうた反省から、ちょっと本音(であろう)ところを出してみました~。

重信と松永、どっちよりなんだろう?うーん・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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