凶悪犯罪者バトルロイヤル 第115話

 グランドマスターが装甲車へと引っ込んだその瞬間、加藤智大は、松村恭造とともに、八木軍へと向かって突っ込んでいった。

 日本刀を水平に構える。走る勢いを利用し、そのまま敵陣を駆け抜け、すれ違いざまに八木の胴体を叩き切る。そういうイメージを持ったのだが、すぐさま修正を余儀なくされる事態となった。

 都井睦雄が、俺たちに向かって、電動ガンを撃ち付けてきたのである。

 6月25日現在、委員会は、参加者に対し、銃火器の使用を禁じているが、火薬を用いない飛び道具の使用は概ね許可されている。もっとも、銃刀法違反で制限されている空気銃などは違法で、許可されているのは、弓矢やボーガン、BB弾を使用したサバイバルゲーム用の電動ガンなど、銃刀法において個人の所持が認められているものだけである。

 ただ電動ガンやエアガンなどでも、改造によって威力を極度に増大すれば、銃刀法違反の対象となる場合がある。今、都井が使用しているのは、法の規定範囲内のものなのか。俺はその道のプロではないので、食らっただけではわからない。

 とにかく、弾幕を張られたことで、俺たちは、それ以上は八木軍に近寄れなくなった。そして戦線が概ね固まった。

 距離にして50メートル。両側二車線の広い道路に、委員会の装甲車が15台、八木軍が乗ってきたレンタカーが10台、計25台が止まっている。歩道側に目立った障害物はなく、ラーメン屋やガソリンスタンドが軒を構えている。これが、今度の戦場の全体像であるが、重信軍は、規制線西側から20メートルの装甲車の裏、八木軍は、規制線東側から15メートルの装甲車の裏にそれぞれ隠れ、10メートルを隔てる形となった。

「加藤くん・・」

 重信さんが、俺の耳元で、あることを囁いた。実戦の場面で、冷静に状況判断ができる人材がいない八木軍ゆえの失策についてである。

 八木の犯したミス。それは無知ゆえとしても、まさに致命的だった。

 複数台の障害物を挟んでの、10メートルの距離。普通なら、容易には縮まらない距離である。密林生い茂る森林戦では、丸一日をかけて進んだのは、わずか2メートルあまりであった、などという例もあるらしい。

 こうした場合は、大抵、先に飛び出した方が負けとなる。ゆえに持久戦となりやすい。持久戦は兵の士気を著しく下げる。元々の士気が低い傭兵などは、カカシ同然となってしまうこともある。

 役に立たないだけならまだいい。それならプラスマイナスゼロだが、使い物にならなくなった兵が怖いのは、軍の力を、本来の人数以下に弱めてしまうことだ。

 腐ったミカンの方程式。あまり好きな言葉ではないが、実際、士気の低下は伝染する。会社ならば、休ませたり、心のケアに当たったりなどして対処することもできるが、生死のかかった戦場でそんなことをしている余裕はない。場合によっては、厳罰で臨まなければならない。

 しかし、今度の戦いでは、そうした事態はすべて避けられそうだった。

 八木は錯覚していた。今度の戦いは、重信軍と八木軍の全面戦争には違いないが、大会全体で見たら、一年間のうち何度も行われる戦いの一つにしか過ぎない。無理に戦わず、逃げたっていいのである。長期戦を望む八木なら、むしろ逃げるべきだ。

 しかし八木は、そうしなかった。この場に踏み止まって戦ってしまった。

 理由はおそらく、委員会の存在だろう。道路を封鎖するバリケードと、ジュラルミンの大盾を構えた委員会の戦闘部隊の存在が、まるでこの戦いを、逃げ場のない完全決着ルールのデスマッチのように、錯覚させてしまったのだ。

 八木が気づいたときには、もう遅かった。重信さんが、あらかじめ規制線東側に配置していた別働隊――川俣、前上、坂巻の三名が、八木軍を背後から急襲したのだ。

 本来なら別働隊は、逃走しようとする八木軍の防波堤となるのが仕事だった。しかし、八木たちがまったく逃げようとしなかったため、重信さんは、別働隊への指示を変更し、奇襲隊として用いる決断をしたのだ。

 八木たちが隠れていた装甲車の裏から、二つの声があがった――聞こえたのは、八木軍配下の庄子幸一の悲鳴と、ヒロポン・ウォリアー、川俣軍司の咆哮である。

「奇襲成功です!八木軍を挟撃しますよ!」

 重信さんの命令を受け、俺は八木軍が隠れていた装甲車の裏を目指して、真っ先に飛び出していった。奇襲を受けて壊乱する八木軍を、挟み撃ちに。我が軍の勝ちは、九分九厘決まったようなものである。

 生への本能がそうさせたのだろうか。八木が装甲車の陰から飛び出してきた。しかし、足はもつれ、明らかに動きが鈍い。やっとのことで、レンタカーの陰に隠れたのはいいものの、そこで転んでしまう音が聞こえた。

 俺は、八木が別働隊の誰かに捕まり、殺される光景を思い浮かべた――が、別働隊は誰も、最初に八木軍が隠れていた装甲車の陰から出てこようとしない。

 おかしい――。何か嫌な予感がしながらも、装甲車の裏までやってきた俺の視界を、恐るべき光景が支配した。

 腕を切り落とされ、腸をアスファルトにぶちまけながら喘いでいる、前上さん―――。
そして、今まさに、都井睦雄の武器、銃剣による刺突を受ける、坂巻脩吉の姿だった。

「わぷっ・・わっわっ」

 凄まじい剣速――。かろうじて躱した坂巻だったが、このまま打ち合っては持たないだろうことは明らかだった。強者は強者を知る。レベルの違いに茫然としているのか、川俣軍司は援護にいけない。一歩も動けない。

「くそっ・・!」

 俺は日本刀を水平に構えながら、都井の背中目がけて突進した。そのまま加速し、すれ違いざまに、都井を横から叩っ切ってやる。

 しかし、イメージ通りには行かなかった。都井は脅威の反射神経で身を捻らせ、俺の斬撃を躱し、別の装甲車の陰へと隠れた。

 どう動けばいいのか、一瞬迷う。こんなとき、野獣、宅間守ならば、その本能で、速やかに判断を下せるのだろうが、俺にそれはできない。頭で考えるしかない。

「加藤くん!八木を追いなさい!」

 重信さんの命令が聞こえた。服従は体に染み込んでいる。俺は八木がいるはずのレンタカーの陰へと走った。

 が。八木の姿は見えない。すでにどこか、別の車の陰――あるいは、戦場の外に逃げ出してしまったのか?

 背後に気配を感じる。振り返った。都井睦雄が、まだあどけなさの残る顔に、鬼のような皺を刻みながら、突撃してきた。

「・・・・!」

 逃げた。俺は、恐れをなして逃げた。こんな恐怖は、歌舞伎町で、宅間守と対峙したあのとき以来である。

 背後で、車に固い何かがぶつかる音が聞こえた。重信さんか松村くんによる、投石の援護が入ったようだ。俺は都井の足が止まった隙に、装甲車の陰へと隠れこんだ。

 急に、辺りが静かになった。人の足音も聞こえない。みんな、戦場から離脱してしまったのか?いや。そうではないようだ。おそらく、敵も味方も、みんなこの場にいる。各々、車の陰に隠れている。

 下手に動いたら、集中攻撃される。その恐怖から、誰もその場を動けない。ジリジリと、緊迫感が高まっていく。

 大都会の中心で、70年代、ベトナムにおける森林戦の地獄絵図が、再現されようとしていた。



 

 


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No title

前上さあああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!なんで死んでしまっただあああああああああああああああ!!!!!!!・・・ハッ、失礼しました(; ゚д゚)前上さんの死が悲しすぎてつい叫んでしまいました(迷惑)
睦くんもついに大活躍ですね!剣を片手に鬼の形相で迫る睦くん・・・さあ俺を斬るんだ!斬ってくれ!!(両手を広げながら)

・・・読み返してみると酷いですねこれ・・・後悔も反省もしていませんが(黙れ)コメ欄荒らし失礼しました!それでは(^_^)/~

No title

>>枇杷さん

前上さん好きだったんやの~。
ええよええよ、思いの丈をぶちまけたってくれ~!
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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