凶悪犯罪者バトルロイヤル 第114話

「え・・松永さんがやらなくていいのか?」

 前上が、意外そうな面持ちで尋ねてくる。どうやら、自分の趣味のことを考え、気を遣ってくれているようだ。

「ええ。ここでやると車が汚れてしまいますし、なにしろ、もう時間がありませんから。さあ、どうぞ」

 玩具を与えられた前上博が、嬉々とした顔で後部座席にやってくる。手に持っているのは、お気に入りの白い靴下である。

 窒息に欲情する前上が持つ、もう一つの困った性癖が、白い靴下への執着である。きっかけは、中学一年生時に教育実習で訪れた大学生が履いていた白い靴下を見たことだったというが、なぜにそのような性癖が芽生えてしまったのか、本人はおろか、精神科医にもまったくわからなかった、という。

 前上は生前、自分の持つ異常性癖に悩み、葛藤していた。女性ホルモンを注射するなど、懸命に己の欲望を抑え込もうと、努力もしていた。殺す対象に、自ら死にたがっている自殺者を選んだのも、もしかすると、単に相手を釣る目的だけでなく、少しでも罪悪感を軽減する目的もあったのかもしれない。

 前上とて、なにも自らが望んでそのような性癖になったわけではない。ある意味では可哀想な殺人者だったのだろう。しかし、こうして再び命を与えられ、好きに己の性癖を満たせる権利まで与えられたからには、もう悩み苦しむ必要はない。一か月前、尾形を殺してからの前上の表情は、将来を嘱望されるスポーツ選手や若手実業家などよりもずっと、生き生きと輝いて見える。

「ヒュウッ、ヒュウッ」

「ハーッハーッ、フホーッ、フホーッ」

 靴下で首を絞められるカウが、細くなった気道から必死に息を吸い込む音と、前上の興奮する息遣いが、えも言われぬハーモニーを奏でる。そして、ブリブリブー、という、括約筋が緩んだことによる放屁の音が聞こえた。

 美しい。なんと美しい音だろうか。屁を、それも音付きのを垂れ流して死ぬなどは、女にとって、これ以上はない屈辱的な死に方であろう。自分が余計なことをせず、前上に殺させてやってよかったと思う。
 
「チッ。くせーな。屁なんかこいてんじゃねーよ、ババア」

 憤死寸前のカウに追い討ちをかけるように、孫斗八が舌打ちをして窓を開けた。この男もまた、どうしようもない畜生である。

「ハアッハアッ・・・ウッウッ」

 前上が、己のそそり立ったものを取り出し、カウの腰に押し付けて摩擦を始めた。

「ちょっと待ってください、前上さん。そんなところで体力を使ってしまったら、戦えなくなってしまうじゃないですか。お楽しみは、後にしてください」

「ええ~っ・・・」

 お預けを食った前上が、眉を八の字に下げ、口をへの字に曲げる。中年男の顔に「愛嬌」を感じる場面など、そうあるものではない。癖になってしまいそうだった。

「・・亡くなられたようですね。臭いますので、捨てちゃいましょう」

 心拍停止。事切れた昭和の「毒婦」を、松永は信号待ちの間に、車外に蹴り飛ばした。

「そろそろ、現場に・・あっ!」

 我関せずの表情でステアリングを操作し、戦に向けて集中力を高めていた加藤智大が、声を上げる。

 環七通り沿いのラーメン屋の前で、グランドマスターから注意を受けている八木たちの姿が、フロントガラスに映し出された。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 グランドマスターは、嚇怒する謀将、八木茂と向かい合っていた。

「だ・か・ら!なぜ俺の行為が違反になると、それを教えてくれと言っている!現時点で何も起きていないのに、なんで俺が裁かれねばならんのだ!」

 先ほどから、いくら未必の故意についての説明をしても、この一点張りである。自分が説教を始めてしばらくの内は、素直に頷き、しおらしい姿を見せていたのが、説教が長引き、重信軍がこちらに向かっているとの情報が届いた途端、コロッと態度を変えて見せた。委員会がいる間は、戦を回避できるとの魂胆だろう。

「いい加減にしたまえ、八木くん。私もいい加減、面倒くさくなってきたよ。これ以上文句を言うようなら、この場で殺してしまってもいいんだよ」

 20を超える委員会の戦闘部隊が、八木に対し、一斉に機銃を向けた。

「ぐっ・・・」

 さしも豪胆な八木も、銃口の威圧感に押され、これ以上は何も言えないようだった。そして・・。

「お久しぶりです、マスター」

 女帝、重信房子が、加藤智大を引き連れての登場である。

「ああ、重信くんか。見ればわかると思うが、今、ちょっと立て込んでいてね。できれば、我々が撤収した後、場所を改めて戦ってもらいたいのだが・・」

「そうだそうだ!マスターは今、俺と話しているんだ。消えろ、消えろ!」

 グランドマスターは閉口した。変わり身が早いというかなんというか、利用できるものはなんでも利用してしまう、この無節操さはどうであろう。しかし、「一貫していない」ことに一貫しているのなら、それもありなのかもしれない。

「マスター。そのことですが、見てください。我が軍の人員が9名、八木さんの軍の人員が5名。これだけの数がぶつかり合えば、気を付けていても、一般人に被害が及ぶかもしれません。しかし、今はこうして、委員会による交通規制が行われ、この場に一般人がいない状況です。これを利用しない手はないのではないでしょうか」

「言っていることはわからなくもないが・・。しかしだね、この規制線は、八木くんの違反を取り締まるために作ったのであって、君たちが戦うために利用されるのは・・」

「それなら結構。我々は退散するだけですから。でも、よろしいのかしら?考えるに、近頃、参加者の数が減るペースが落ちてきているようですけど」

 痛いところを突かれ、グランドマスターは苦笑した。おそらくは、参謀の松永太の入れ知恵だろう。

 その松永は、非戦闘員である畠山鈴香とともに、ワゴンの車内で待機している。自らは危険なところには出ず、高見の見物を決め込むつもりのようだ。これは、八木のように、自らが大将の立場に収まっていたならできなかったことである。部下に死ねと命じておきながら、自らが前線に立たなかったら、全軍の士気に関わる。重信と、軍事、政治を分担し、どうせなら重信のカリスマがさらに高まるように、大将に戴く。文民統制の観点からいえば、若干、問題がないではない人事だが、保身を考えるならこれ以上の人事はない。

 おそらくは、同乗している畠山のことも、単なる弾除け程度にしか考えていないのだろう。どこまでも他人を利用し、道具とすることしか考えていない男。しかしこの男は、あらゆる手を尽くし、それをけして卑劣とは思わせない。

「わかった・・。ただし、交通量が多い道路だからな。なるべく早めに、決着をつけてくれ。八木くんたちが乗ってきたレンタカーと我々の装甲車は、そのまま残しておこう。私が全部買い取っておく。障害物があったほうがいいだろう。」

「感謝します、マスター」

 グランドマスターが許可を出したが、納得しないのは八木茂である。

「お・・おい!なんでそうなるんだ!」

「元はといえば、君が違反を犯したのが原因だろう。余計なことをしなければ、君は有利な条件で戦えたんだ。観念するんだな、八木くん」

 グランドマスターが八木に背を向け、去っていった。当然、これから、装甲車の車内から、一部始終を観戦させてもらうつもりである。

 重信軍VS八木軍。バドラVS宅間軍以来の大一番が、いよいよ火蓋を切った。
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うわあああああああああ

前上さんんんんんんんんんん「ええ~っ・・・」とか・・・「ええ~っ・・・」とか・・・あざとすぎる!!!!悩む前上さんも可哀想で素敵です!小説再開嬉しいです(*^_^*)115話も全力待機してます卍(^q^ 卍)卍

No title

>>枇杷さん

前上さん殺しちゃってごめんやで
みんなが見てくれたら毎日でも書きたいやで~!
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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