凶悪犯罪者バトルロイヤル 第16話

 「ちょーこー、ちょーこー、ちょこちょこちょーこー、あーちゃーはーらーちょーこー♪」

 今日は気晴らしと、サンパワーを得るため、信徒を連れて公園に出かけていた麻原彰晃は、菊池正の指揮に合わせて「麻原彰晃マーチ」を歌う幼稚園児たちを、微笑ましく見つめていた。未来を担う子供たちの育成は、現役世代への布教に増して重要である。今から、その教育ノウハウを信徒たちに学ばせておいて損はない。

「どうだ、清、博、昭。もう、バドラの雰囲気にも慣れたか?」

 麻原は、バトルロイヤル開始からちょうど一か月を迎えたこの日までに、新たに加入した三人の信徒に語りかけた。

「ええ。なかなかの居心地です。仲間も大勢いて、枕を高くして眠れますしね」

 柔和な笑みを浮かべて答えたのは、大久保清。70年代に、8人もの女性を連続して強姦し、死に至らしめた、「第二の小平義男」の異名をとる姦淫犯である。顔立ちは端正であり、たしかにこの男が芸術家を名乗り、白いクーペに颯爽と跨っていたら、頭の軽い女ならホイホイついて行ってしまうかもしれない。が、その本性は、冷酷非情な性獣である。同時期に史上最多の連続殺人を犯した男、勝田清孝との二枚看板で、大いにバドラの戦力となることは間違いない。

「私も気に入っています。みなさん、良い方ばかりですし」

 続いて、正田昭が答える。1953年、「バー・メッカ」で強盗殺人を犯し、三か月の逃亡生活のすえ逮捕された男である。慶応大学卒のインテリで、理知的な雰囲気を醸し出しており、年の割に弁も立つ。オウム時代に自分の右腕だった「ああいえば」のあの男に、少し似ているかもしれない。キリスト教を信奉していたようだが、このほど改宗したようだ。オウム時代にも経験があるが、他宗から改宗した信徒は、今まで偽りの神を信仰していたという罪悪感からか、もともと無神論者だった信徒よりも強い信仰心を持つ場合が多い。この男もそうなってくれれば嬉しい。

 そして最後、自分の問いに答えず、なにやら読経めいた独り言を呟いている男が、造田博。99年、池袋で起きた通り魔事件の犯人である。比較的古い時代の犯罪者が多いバドラの中では珍しい、自分以後に逮捕された参加者だ。性格はやや取っつき辛く、コミュニケーション能力に不安はあるが、戦闘力は折り紙つきである。勤勉でもあるし、多少の欠点に目を瞑っても使う価値はある。ただ、この男、拘置所において「造田博教」なる宗教を主催していたらしく、いまだにそれを信奉している節があるようなのは看過できないところである。その点さえ改められれば、正田昭同様、強い信仰心を持った戦士となることは請け合いだ。

「よし。子供たちと遊ぶのはそれくらいにして、ミーティングを開始するとしようか。まず、今後いかにして、お前たちのワーク先のレジから金をちょろまかすかについてだが・・」

 話を始めようとしたその瞬間、修羅の形相をした三人の男が、各々ナイフ、刺身包丁、マグライトを構えて、自分に向かってくるのが見えた。

「よーし、次は、ガネーシャ体操行ってみよー!お兄さんの振り付けに合わせて踊るんだぞ」

「みんなでたのちくダ・エ・エヴァ、みんなでたのちくダ・エ・エヴァ、おどってうたってがんばってー♪」

 歌のお兄さんこと関光彦が、一週間、自分のボデイーガードとは名ばかりの自宅警備員生活を送りながら練習を積んだ踊りを、張り切って披露し始めた。バカ者め、今、我々を襲う危険な状況に、まったく気が付いていないらしい。

 もっとも早く反応したのは、新参者の大久保清だった。アーミーナイフを構えて、三人の暴漢に臆することなく突撃していく。これは、仲間がすぐに続いてくれることを信じているからできることだ。その期待に応えるように、勝田清孝が、消防員の過酷な訓練で鍛えられた脚力を活かし、一瞬で大久保清に並ぶ。二対三の戦い。だが、二人の戦闘力ならば十分に渡り合える。ここで自分が叫んだ。

「行け、勇敢なるバドラの戦士たちよ!子供たちを悪魔の手から守るのだ!」

 信徒たちに大義名分を与えてやることで奮い立たせ、戦闘力をアップさせると同時に、無垢な子供たちに、バドラを正義の使途と認識させる。一石二鳥の、まさに魔法の呪文だった。

 勝田清孝、大久保清と三人の戦いが始まる。互角の鍔迫り合い。やはり、余った一人を意識してしまうからか、勝田清孝も大久保清も、攻撃に専念できないようである。その均衡を破ったのは、関光彦だった。

「うおぅらっ!」

 飛びながら放った木刀の一撃が、敵の脳天をかち割った。倒れた男に、二度、三度とダメ押しを浴びせる関光彦。頭頂から流れ出る真紅の血液が顔全体を覆い、男の顔面は、粉砕されたスイカの様相を呈していた。

 それぞれの相手に専念できるようになったことで、勝田清孝、大久保清の立ち回りに、俄然キレが出始める。関光彦と、遅れて加わった菊池正の援護も加わり、一人を戦闘不能に至らしめることに成功した。残った一人は形勢不利と見て、退散していく。

「深追いは禁物だ。今は戦果に拘る時期ではない。子供たちを守れただけで、良しとするのだ」

 麻原は、男を追いかけようとする信徒たちを制止した。

 血まみれになって地面に転がる敵の顔を、参加者名鑑を捲りながら確認する。高田和三郎。金銭を目的に友人三人を殺害した男。大濱松三。ピアノの騒音に腹を立て、母娘を殺害した男。バドラに牙を剥かず、入信していれば、手厚い待遇で迎え、面倒を見てやったというのに。愚かな男たちである。

 動かざること山の如しの武田信玄を気取って、泰然自若を装いベンチに腰掛けている自分の隣では、造田博と正田昭が座っている。頭脳労働担当の正田昭はともかく、戦闘しか取り柄のない造田博が、この状況で動かないのは問題だ。時間をかけ、立派な戦士に仕立て上げなくてはならない。

「そんしのおぢちゃん、ありがとう」

「そんしのおぢちゃん、かっこいい」

 子供たちが円らな瞳を輝かせ、自分に感謝の言葉を述べる。自分たちのことを、特撮の戦隊ヒーローのように思っているらしい。

「子供たちよ、無事でなによりだ。お前たちの笑顔を守るため、俺たちは日夜戦う。悪魔に襲われたときは、俺たちの名を呼びなさい。いつでも、どこへでも、駆けつけるぞ。では、さらばだ。夕ご飯のときには、お父さんお母さんに、今日のことをお話してあげなさい。ただ、俺の名前は出さないようにな」

 麻原は子供たちに別れを告げ、公園を後にした。シミの目立たない黒のジャージを履いてきて、本当によかった。麻原の股間は、小便でぐっしょりと濡れていた。

 バトルロイヤル参加者、現在95名。
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麻原チームは居心地が良さそうですね。
松永チームより何だか楽しそうです。
まあいつ殺られるかわからないことには違いませんが…
現在ピアノ殺人犯は麻原同様、拘禁症で廃人同然だそう
ですが、冤罪の可能性がない最古の死刑囚として日々何を
思って生きているのでしょうか?

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

死刑囚をころさずにいつまでも生かしておくのは、早期に執行されるよりも残酷なことですよね。いつ死ぬかわからない恐怖に24時間365日身悶えて、反省どころではないと思います。ストレスのたまらないように、行動には未決囚に比べて自由が与えられ、食べ物なども結構良いものを食べているようですが、何の救いにもならないでしょう。

それだけの犯罪を犯した彼らには、文句を言う資格はないですが・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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