凶悪犯罪者バトルロイヤル 第113話


 車内に、カウの高笑いが響く。人海戦術を取られては、八木軍がビルに入るのを阻止するのは、極めて難しい。カウが勝利を確信するのも当然なのだろうが、なぜか松永は、カウが期待しているであろう、絶望のリアクションを取ってやることができない。

「どうするんです?このまま、現地に向かうんですか?」

 信号待ちの途中、運転手の加藤智大が、不安げな面持ちで後部座席を振り返る。加藤だけでない。軍団の面々は、作戦概要を理解できない畠山鈴香以外、この世の終わりみたいな表情を浮かべている。

 松永には、それが不思議でならなかった。共感性が並外れて低い松永には、葬式で笑ってしまったりなど、いわゆる空気が読めない、不謹慎な行動をとってしまうことが多々あるのだが、それとは違うようである。

 なにか八木は、勝利を焦るあまり、致命的なミスを犯していないか。カウを我が軍に寄越したのもそうだが、それとは別に、なにか頭に引っかかるものがある。

「そのまま、向かってください。ここで撤退する理由は何もありません」

 松永が加藤にそう指示したそのとき、携帯が鳴動した。八木を尾行している、山崎組組員からである。

「あ、あの・・よくわかんないんですけど、八木たちの車が、十五台くらいの装甲車に囲まれて・・。エキストラの連中が全員車を降ろされて、八木がなんか、気取りすました変なオッサンから説教されてるんですけど・・」

 戸惑い深げな組員の報告を聞いて、松永は、謀略戦の勝利を確信した。いや、自分が勝ったというより、八木が勝手に滑り落ちたのだ。

 未必の故意。犯罪の実現を意図していなくとも、明らかに悲惨な結果が予想できるにも関わらず、犯罪に繋がる行為を行った者には、過失以上の罪が認められる。

 今大会においては、バドラの面々が、北村一家から麻原彰晃を助ける際に、世田谷区の子供たちを利用した件が問題となり、麻原は厳重注意を受けたという情報が、委員会からのメールで送られてきた。

 八木の場合も、同じことである。ルールを悪用し、一般人を盾にしようとした八木は、委員会から未必の故意による違反を行おうとしていると判断されたのだ。

 うまくすれば、自分が手を下すまでもなく、八木はそのまま自滅するかもしれない。そうならなくとも、八木は自ら掘った墓穴に嵌まり、戦争において何より大切なもの、「時間」を無駄にした。

 元々の作戦にも、正直、かなり無理はあった。現場のビル前の歩道の幅は、約4メートル。最短距離を走れば、中年の八木でも、二秒もあれば駆け抜けることができる。その間に、我が軍は八木を捕まえなくてはならない。飛び道具の使用は必須であり、確実性は低かった。

 しかし、八木が足止めを食ったことにより、戦場そのものが変わった。八木たちが動けぬ間に、我が軍が、その現場に向かうのだ。

 おそらく現場では、警察機関による交通規制が行われているはずである。一般人を巻き込むこともなく、堂々と、広い車道を舞台に戦うことができるということだ。無論、八木が処罰の対象となり、委員会に処刑されるようなら、それでもいい。拷問する楽しみはなくなってしまうが。

「加藤君、目的地変更です。今から言う場所に向かってください」

 松永は、組員から聞いた環七通りの住所を、加藤に伝えた。それから、事後報告のような形で、仲間たちに、八木の身に起こったことを伝えた。重信房子も松永と同意見で、これで途中で足止めを食った八木軍を襲う作戦が、軍の方針として確定した。

 戦場の条件が一気に我が軍に有利となったことで、車内の士気が俄然高揚した、そのときだった。

 カウが、懐に忍ばせていた小刀を、松永の腹部に突き刺した。

「・・・・!」

 血走った四白の眼が、息がかかるほどの距離から松永の顔を睨み付ける。意気揚々と我が軍の内部に潜り込んできたはいいものの、何もできなかったカウが最後に取った行動は、己の手による、敵軍司令塔の殺人だった。走行中の車内でそんなことをすればどうなるか、カウがわからないはずはない。ここで死ぬつもりなのだ。

「ババア、てめえ!」

 松永と一緒に、カウを挟むようにして座っていた松村恭造が、カウから小刀を奪いとり、後ろから羽交い絞めにした。

「いきなり、なんてことをするんですか」

 抑揚のない、底冷えのするような声で言って、松永はカウを冷眼で見据えた。

 カウの小刀は防刃チョッキに遮られ、松永を貫くには至らなかった。あれほどギラついていたカウの目が、またウサギのように弱弱しくなった。

「ひどいなあ、カウさん。せっかく仲良くなれたと思ったのに」

 松永が声を発するたびに、車内の空気が重くなっていく。なんと素晴らしい。自分の趣味を理解せぬ者たちの顔が引きつっていく、この光景。無上の心地である。

「最後に、何か言い残すことはありませんか」

「何もないさ・・愛する男のために死ねるんだ。本望だよ」

 うっすらとそんな予感がしていたのだが、当たっていたようだった。いくら欲の皮が突っ張ったカウとて、今まさに交戦中の相手の懐に単身乗り込むなどという決断が、簡単にできたとは思えない。

 男女の情愛。八木はどうか知らないが、カウは本気だった。起こした事件を見れば、男を道具としてしか考えていないようなカウだが、過去には夫を殺してまでして若い男を手に入れようとしたこともある。思いの強い女なのだ。

 しかし、戯れに尋ねた言葉が、期待以上の素晴らしい言葉を引き出してくれた。ここが車の中でなければ、飛び上がりたい気分である。

「愛する男のため・・っていいますけど、カウさん、何もできてないじゃないですか。まるっきり犬死にですよ」

 薄ら笑いを浮かべながら、そんなことを言ってやると、カウが心底悔しそうに歯噛みした。いい。素晴らしい。是非、その顔のまま死んでいってもらおう。

「前上さん、出番ですよ」

 突然名前を呼ばれた前上博が、驚いて目を見開いた。
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カウさああああん。゚(゚´Д`゚)゚。

カウさん退場ですか…結構好きな女性死刑囚だったので辛いです(´・ω・`) 「好きな男の為に〜」っていう台詞がかっこよすぎて禿げました!
次回前上さんの出番ということは…首絞めの刑ですか?もっとエグい拷問とかするのかと…ゲス永さんですしおすし←

No title

>>枇杷さん

松永さん、カウさんが愛にすべてを捧げた行為を、たった一言で台無しにしてしまいましたのう・・。

No title

>>蘭さん

梅川さんですか~。
もうちょい待ってください!
ちゃんとタイミングは考えてあるんで!
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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