凶悪犯罪者バトルロイヤル 第112話

「ようこそカウさん。私が松永です」

 松永太は、初対面となる小林カウに笑顔を振りまき、自分の座る後部座席に招き入れた。

「どうもどうも、皆さん方、小林カウと申します。あんたが松永さんか。いやあ、男前だねえ。そっちの運転席に座ってるのが、若い兄ちゃんが、加藤智大さんだ。中央座席の真ん中に座ってるのが、重信房子さんだね。美人さんだねえ。いいねえ。あたしも、若いときの顔で復元してもらいたかったよ」

 のっけからよく喋るカウ。現場到着まで時間もごく僅かであり、悠長に会話をしている時間はない。とにかく、己が一方的に話しやすい雰囲気を作ろうとしているのが伺える。

 間近で見て改めて思うが、よくこの女に、男を殺しに駆り立てるほど魅了させられたと思う。重信のように若き日の容姿で復帰したかったなどというが、仮に二十代の姿で蘇ったとしても、これではたかが知れているというものだろう。

 いや、見下しているわけではなく、感心しているのである。世の中には、容姿が悪いくせに妙な勘違いをして、恥ずかしげもなく婚活プロフィールに年収一千万以上希望だの、タレントの誰々似を希望だの書いて、分不相応な相手を求めようとする気持ち悪い女もいるが、カウは己の魅力を客観的に評価する冷静さを持っている。その上で、モテない男にはむしろ安心感を与えやすい己の容姿、年齢の特性を理解し、それを最大限に発揮して、己でも落とせる、モテない男を選んで取り入っている。

 戦う土俵の選択は重要だ。米球界で、生涯に渡ってメジャーとマイナーを行き来する二流半の選手で終わるのと、日本のプロ野球でタイトルを総なめにし、高額契約を勝ち取る名選手として現役を全うするのと、どちらが幸せか、ということである。

まあ、人の価値観の問題であり、どちらがいいという話でもないが、前者のように、分不相応な幸せに執着していつまでももがき苦しむ人間は大抵心もギスギスしてくるが、自分の力量をよく理解して、それなりの幸せに満足している後者の人間は実にいい顔をしているということは言えるだろう。

「えーと。そいから、こっちの坊やが、松村恭造くんで・・」

「カウさん、一人ひとりを紹介している時間はありませんから。それより、本当のところを聞かせてください。こちらの坂巻くんが、八木軍と通じているのかどうか」

 松永の問いに、坂巻が激昂し、カウがギョッとした顔を見せる。

「あ!?なにいい加減なこと・・こ・・のっ、ババアっ!」

「い、いやいや・・その、それは、その、言葉のあや?いや、その、なんだ・・全部、アタシがついた大嘘だ。許しとくれ・・」

 松永の狙いが成功した。変に考える余裕を与えず、ストレートに本題を突く。これで真相がわかる。仮に坂巻が八木軍の刺客だったとしたら、カウが我が軍に寝返る展開は打ち合わせにはなかったはずだから、二人のリアクションはもっと不自然な感じになったはずだ。

 嘘をつく術を熟知している名人は、同時に、嘘を見破る術にも長けている。松永の「千里眼」の鑑定によれば、坂巻は「シロ」だった。

「ふーん。嘘はいけませんねえ、嘘は」

 松永は、車に乗ってからずっと、ライターで先端をよく熱していたピンセットで、カウの頬を突いた。

「あぢっ・・な、なにするんだい!」

「なにって、罰を与えたんですよ。わが軍ではね、いけないことをした人には、体にお仕置きをするという決まりがあるんです。カウさんにもわが軍の一員となったからには、ちゃあんと従ってもらわなきゃ」

 松永が、人を食ったような口調で言った。理由はなんでもいい。精神的に負い目を作り、恐怖で相手を支配する。我の強い犯罪者相手には通用しないと判断し、今までは封印していたが、本来はこれが自分の真骨頂だ。

 一発で主導権を握る。それを絶対に離さない。カウに付け入る隙を与えず、ただの情報を吐き出す機械にしてやる。

「罰って・・アタシがその嘘をついたのは、あんたの軍に加わる前じゃないか!」

「おや?口ごたえですか?」

 松永は、先ほどピンセットをあてがった箇所に、今度は強めにピンセットを突き刺した。鋭い叫び声が、車内にこだまする。
 
「おい、うるさいぞ、ババア!」

 孫斗八が、目の前で行われているのは、ただの針灸ですとでもいった口ぶりで、カウに怒鳴った。あまり嫌な感じがしないのは、この男は、やられているのが自分の母親であっても、同じように言っただろう、と思えるからだろうか。

 しかし、いい援護射撃ではあった。狭い車内に、味方は誰もいないと思ったカウの表情が、ライオンの群れに放り込まれたウサギのように萎縮していくのが、はっきりとわかった。

「カウさん、今度は嘘はつかないでくださいね。八木軍の構成についてです。見てわかる通り、今回、我が軍では三名の傭兵の方々に助けを頂いています。私は常に、自分が考えるくらいのことは、相手も当然考えている、というスタンスで物事にあたるようにしていましてね。八木軍でも同じように、傭兵を雇っているのでは、と、気になっているのですよ」

「あ、ああ・・確かにうちでも、一人傭兵を雇っている。小川・・小川博だよ」

 恐怖を植え付けられたカウは、あっさりと機密情報を吐いた。

 小川博。元ロッテ所属のプロ野球選手。現役時代は、二ケタ勝利を挙げたこともある先発投手として活躍し、引退後はコーチも務めた。しかし金遣いが荒く、2004年、借金を断られた腹いせに、知人女性を強殺。奇しくもその年は、自身が登板した10.19伝説のダブルヘッダーの相手チーム、近鉄バファローズが消滅した年であった。

 元プロ野球選手であり、身体能力は折り紙付き。また鈍器の扱いは手慣れたものだろう。傭兵ということもあり、どこまで真剣に戦うかはわからないが、厄介な敵であることには間違いない。

「しかしね・・それがわかっていても、あんたらは八木を倒すことはできない」

「どういうことです・・」

 問いかけようとしたところで、松永の携帯が鳴った。池袋の「IKB48」の監視を依頼している、山崎組組員からの連絡である。

「松永さん、大変です!八木が・・八木が10台あまりのレンタカーを手配して、同時に出発していきました。大人数のエキストラと一緒に出てきたため、八木たちがどの車に乗り込んだかもわかりません。車も同じ車種で、どれがどれだか・・。ナンバーも、確認できませんでした」

 影武者作戦、人海戦術。確かにこの状況で取れる手段としては、もっとも有効というか、それ以外に打ちようのない一手である。

これを破るためには、横山組本部ビルのまん前で、我々も車を降りて待機しているしかないが、それでは八木軍を仕留めることはできない。さすがにそこまでやれば、八木にも会合欠席の申し訳が立つからである。

 八木たちがビルの中に入ってしまえば、もうお手上げだ。何しろ、奴らが入るのは組事務所なのである。カチ込むなどもっての他。奴らが出てくるまで、外で待機などという作戦も難しい。八木たちを倒すには、奴らが車を降りてからビルの自動ドアを潜るまでの、4メートルそこそこの距離を歩く間に仕留めなければならない。

「まずいことになりましたね・・。たとえば、こういう戦術も考えられます。八木軍のだれか一人が、囮としてビルに駆け込む。それを殺そうと我々が車を飛び出した瞬間、別々の車に待機していた八木たちは悠々と逃亡する。また、雇った大量のエキストラを人間バリケードにして、ビルの中に入るなどといったことも可能です。そんなことをされたらば、一般人に手出しすることを禁じられた我々には、どうにもできません」

 重信房子が、戦術家の目線から相手の狙いを分析した。ならば、今度は自分が、戦略家の目線で、八木軍の狙いを分析してみる。

 八木軍の狙いは、ずばり戦争の長期化である。長期戦に持ち込まれれば、八木が、我が軍の資金源である「スカーフキッス」に営業妨害を仕掛けてくるのは目に見えている。じわじわと財力を削がれ、気づいたときには、埋められない差が出来てしまう。なんとしてもここで決定的な打撃を与えておかなければならないのだが、しかし・・。

「そういうことだ・・。あんたらは、八木に勝つことは絶対にできないんだよ!絶対になあ」

 カウの目が四白に剥かれ、獰猛な赤い血の色が宿った。
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>>津島くん

!!!車内で突如お仕置きタイム!!!すっごぃ!!!びっくりした・・・素敵すぎる今回w松永「ふーん、嘘はついたらいけませんよ、嘘は」と、「…ちゃあんと従ってもらわなきゃ」が特に、非常にツボでした☆!!!w
車内でずっとライターでピンセットの先を熱してたなんて・・・こわすぎ・・・w
めちゃくちゃ楽しかった~~~///
はう、かなり笑えたぁ・・・最高!w
ごちそぉさまでしたぁ(*≧∀≦*)

No title

>>蘭さん

喜んで頂けて嬉しいです~。
松永さんも昔に戻って気分がよかったと思いますw

いえいえ、

こちらこそ、いつも美味しく堪能させてもらってます。
実際に、松永にピンセット攻めなんてやられそうになったら、ペチンと平手打ちですよ。太ちゃんこそ、ジワジワとお仕置きするべき残念男、女の敵なのです。リアルに太ちゃんお仕置き出来ないんで、これからも想像して楽しみます。ハハハッ♪

作者様へ素朴な質問と雑談

小説の話ね。
八木パパや宅間さんも加藤くんも大好きだから、松永いつヤられてもいいんだけど(笑)緒方純子さんは出ないの?いいとこで太ちゃんを一息にヤってくれないかな、純子さん♪鈴香さんと組んで松永あんさつ計画もいいなぁ…。そして新生、重信軍(女子会状態)に、カウさんに、怖じ気づいて仕方なく従うしかない八木茂。なんてね。予想しただけでムズムズして仕方ないのよ(笑)
コアな読者の期待を裏切って裏切って裏切りまくってください。。ww

ご無沙汰してます

お久しぶりです!最近リアルが忙しくてなかなかコメントが書けなくて(´・ω・`)しばらく見ない間に松永さんのゲス度がかなり増していてびっくりです!!けしからんもっとやれ←
津島さんの書くゲス永さん、私には思いつかないほどエグくて大好きです!

No title

>>蘭さん

うーん・・。ネタバレになってあれですけど、緒方は出さない予定です。メインキャラと関わりが強すぎるキャラを出すと、別の話になっちゃうと思うんですよね。オウムでも麻原以外は出さない予定です。

なんていうか、せっかくコンパにいったのに、毎日会ってる身内とばっかり喋ってたらつまらないじゃないですか。変な例えですけど、そんな感じですw

ただサブキャラでは、北村一家など、複数犯であることが特色のキャラも出していく予定ですよー。

>>枇杷さん

松永さんは段々本性が出てきた感じですねw
リアル忙しいですか~。
たまにでもコメント書いてもらえれば嬉しいです~。

No title

>>津島くん

こんばんわん~わんわんお~♪

不意打ち感想文タイムっちゃ~(北九州弁で対抗!)

今夜は、PCから比較的もちついて来てるだで~(模倣w)

(緒方について)・・・うん、まぁ、そうだよね~。
きっと、そういう風かな~?とも、思ってました。
いや、変な例えでもないない、分かりやすかった~

サブキャラ!そう言えば、梅川照美さんは・・・
いつかきっと><
猟銃片手に登場する日を楽しみにしてる~!

※話し長くなっちゃったので、特にレスなしでも大丈夫す~

No title

>>蘭さん

梅川さんですか~。
もうちょい待ってください!
ちゃんとタイミングは考えてあるんで!

No title

>>津島くん

マジdえskあああwww
めっちゃ楽しみにしてまーす☆
いっつまでも待ているwww

小説ね、過去回も、たま~に読み返してるんだけど・・・
その時、ちょこちょこっと感想文コメしていってもい~い?♪
まぁ、ダメってことは、ないだろうけど(笑)いちおう・・・w

No title

>>蘭さん

いいすよ~。
コメ拾うの時間かかるかもしれんけど、
どんどん書き込んじゃってください!
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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