凶悪犯罪者バトルロイヤル 第110話


 松永太は、作戦会議の進行を妨げぬよう、一端会議室から退出した上で、宿敵の参謀からの電話を受け取った。

「もしもし。松永ですが」

「ああ、松永さんかい。私だよ、私。小林だよ。小林カウだ」

「わかっていますよ。ディスプレイ・・画面に、名前が表示されますから」
 
 昭和の犯罪者カウに、携帯電話の仕組みを説明してやりながら、松永は思考を巡らせる。

 出撃を間近に控えたこの時間にかかってきた電話。おそらく八木軍でも、店舗である「IKB48」から出なくてはならないこの日に、わが軍の襲撃があることを予測して、こちらを攪乱させようとしているのであろう。

 出撃予定時刻まで、あと二十分。わずかな時間で、できる限りの情報を明らかにしなければならない。松永は頭脳のギアを、フルスロットルにもっていった。

「それで、ご用件は?」

「あんたが接触した人物にね、坂巻ってのがいるだろう。あいつにはね、ウチの大将も唾をつけているんだ。それを教えてやろうと思ってね」

「・・そちらの話が、どの程度まで進んでいるかにもよりますね。電話で話をするだけなら、私とあなただって、こうして通じているわけですし」

「私も、すべてを知っているわけではないけどね。なんでも、八木は500万もの大金を積んで、坂巻にあんたの軍を滅茶苦茶にさせようとしているらしいよ」

「滅茶苦茶に、とは?」

「さあ。私も直接話を聞いたわけじゃないから、詳しくはわからないけどね。この先何があるかわからないし、あんたの世話になるかもしれないからさ。一応、忠告しておこうと思ってね」

 保険をかけようというカウの言葉を鵜呑みにはできないが、カウの言動がまったくのウソとも思えない。少なくともカウは、坂巻が我が軍と繋がっていることは、知っているのだ。

 坂巻脩吉が八木軍と昵懇にしているとしたら、厄介なことになる。戦力の中心である坂巻が戦闘中に寝返ったら、関ヶ原の西軍よろしく、有利な態勢であっても敗北は必至である。

 だからといって、坂巻を戦闘に参加させず、帰してしまうとなると、孫と川俣に支払う金を、最低でも3倍は増やさなくてはならなくなる。当たり前の話だが、同じ金を払って、一人だけ何もしないでいいとなれば、残った二人が真面目に働くはずがないからだ。

 坂巻が八木の刺客である決定的な証拠でもあれば話は別だが、それを探すのは難しい。無理やりに携帯電話を取り上げて調べるようなことをすれば、カドが立ってしまう。証拠がない以上、作戦に参加させないというのは難しい。ましてや処分など、もっての他である。

 それに、もしかしたら、刺客は一人ではないのかもしれない。坂巻にマークを絞らせておいて、他の二人が裏切るということだって考えられる。そうなったら、金を払うだけ払って、殺され損ということになってしまう。松永にとって、もっとも我慢ならない結末である。

 カウの狙いを、明らかにはしたい。しかし、下手に口を滑らせれば、こちらの大事な情報を知られてしまうかもしれない。情報とは探り合いによって引き出すものだが、今は駆け引きをしている時間的猶予がない。早急に結論を出さねばならない。

 ・・・と、ここまで考えて、急に、腹の虫がざわめくのを感じた。この自分が、半世紀も昔の化石に、疑心暗鬼にさせられているという事実。不甲斐なさに歯噛みしたくなると同時に、こともあろうに自分を翻弄できるなどと考えるカウの増上慢に、烈しい怒りを覚えていた。

 松永は、怒りが頂点に達すると、頭の中が、ドライアイスをぶちこまれたように凍えるのを感じる。世間では冷血鬼などと呼称され、人ならぬ者と語られる自分だが、この感覚は、人並みのものなのだろうか。

「カウさん、単刀直入に言います。あと40分後、わが軍は、あなたの軍を攻めようとしています。2500万で、わが軍に来ませんか。いますぐ、前金で1000万円を、仲間の一人に届けさせます。残りの1500万は、合流後にお渡しします。今すぐ、こちらの軍に加わっていただけませんか」

 松永はここで方針を転換し、カウを何が何でも自軍に引き入れることを決めた。

 戦前の流言飛語など、よくあること。一笑に付して電話を切ればいいだけなのに、何を言っているのだろうかと思う。しかし、どうしても抑えきれない。猪口才な小利口者を、いたぶってやりたい衝動を抑えきれない。

 あの事件を起こす前から、そうだった。通電などしなくても、自分には陽気な笑顔で社員を惹きつける人間的魅力と、実業家としての才があった。しかし、それだけではだめだった。他人が、恐怖で顔を歪ませる姿を見なければ気が済まなかった。自分に屈服する姿を見なければ気が済まなかった。

 自分は、犯罪の天才などと言われている。確かに、並大抵の人間には殺せない数を殺しはしたが、それを緻密と言われてしまうと、我がことながら違和感がある。冷静に考えれば、それだけの人間を殺して捕まらないと考えること自体は、大ざっぱで無謀、そして愚かなことではないのか。

 だが、自分はそれをやらずにはいられなかった。まっとうな手段で成功する方法はいくらでも知っていたし、その能力もあった。しかし、それでは足りなかった。人を虐げずにはいられなかった。人を屈服させずにはいられなかった。

 そして、虐げ、屈服させる対象の中でもっともそそるのは、八木やカウのような、自分と同じ人種だった。同族というのは、極端に惹かれ合うか、極端に憎しみ合うか、常にそのどちらからしい。

 こともあろうに、自分を騙せるなどと調略を仕掛けてきたカウは、後者のカテゴリに分類された。必ずや、痛めつけてやらねば気が済まない。

 八木軍を切り崩すのは不可能と思っていたが、ここに来て状況が変わった。少しは目端の利くと思っていたカウは、思いのほか身の程知らずであった。今、松永は、見栄っ張りなカウの功名心と、度外れた金銭欲を刺激しようとしている。自分の誘いに対し、思い上がったカウは、こう考えるであろう。「これから私は、重信軍にスパイとして潜り込む。まるでウイルスのように、中から重信軍を崩壊させ、兵数的には絶対不利な状況を覆してやる」と。あわよくば、松永がカウに払うと約束した2500万もの大金も奪った上で、ということだ。

 これから八木軍を襲撃することは明かしてしまったが、このタイミングで攪乱の電話などしてきたくらいだから、そんなのは、向こうとて先刻承知であろう。従って、こちらに失うものはない。

 考えてみれば、坂巻の裏切りがどうの、といったことも、それを言い出したカウをこちらの懐に呼びこめば、すべて明らかになることである。

 最善の策は、いつもシンプルである。シンプルな策は、シンプルであるがゆえに実行されないことも多い。誰もそんなことが可能であるとは思わないからだが、自分は、コロンブスの卵を立たせられなかった男を演じたりはしない。

「それだけの大金・・本当に・・」

「時間がありません。今すぐ、決断してください」

「・・わかった。わかったよ。金が届き次第、すぐ八木の軍を抜けるよ」

 松永は、口角を吊り上げた。小賢しいハエが、罠にかかったようだ。

 策士策に溺れる。小林カウ。そして八木茂。己より一段上の謀略家が存在することを知り、口惜しさに顔を歪めるがいい。屈辱に身を震わせながら地獄の業火に焼かれ、その熱さに悶え苦しむがいい。
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私まで脳内フルスロットル!www
天才策士・・・素敵ですね。。
怒りMAXの松永もいい!!!
通電以前から、
爽やか&怒りんぼ疑惑~~~!♪
最高!wヤバいううう・・・
この回、ほんっと好き!!!うわぁ

No title

松永さん激おこですね~。昭和の毒婦小林カウがをいとも簡単に取り込んでしまうなんて・・・(>_<)八木軍ピンチ!!策士vs策士の頂上決戦、勝利の女神(?)はどちらに微笑むのでしょうか!?


P.S. 坂巻くん裏切り者疑惑にハラハラしてます(´;ω;`)証拠を掴まれたら彼も酷い目に合わされるかもと思うと苦しくて夜しか眠れません!

No title

>>蘭さん

松永パートは頭使うんで時間かかります~。
松永はコンピューターのような印象ですが、
激昂するシーンもあったと思うんですよね。
現実でも。
サイコパスは人と共感する能力が弱いだけで、
感情がないわけではないので。

>>枇杷さん

誰がどのタイミングでどう動くのか、
もう書いている僕もわからないです・・w

津島くん>

うん、喜怒哀楽はあるでしょうね☆
それぞれのイメージがあって、良いと思うんですね。十人十色で…。
私の場合の(想像上)松永太は、表の顔は優男っぽく女好き、いきなり鬼畜に豹変したり、演技派。w
バトルロイヤルの方がずっと渋い策士!ほんと、人によるんだなぁって常々、感じてますね(*^^*)
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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