凶悪犯罪者バトルロイヤル 第109話

 午後八時。営業中のスカーフキッスの待機所は、物々しい雰囲気に包まれていた。

 6月25日。いよいよ、八木軍との決戦の日が来た。集まったのは、重信軍のメンバー6名+傭兵部隊の3名+の、計10名である。A軍には、八木軍の同盟軍である日高夫妻を引き付けておくことを依頼しており、彼らは戦闘には参加しない。
 
 松永太は、戦闘員たちがテーブルを囲んで作戦会議をしているところから少し離れ、一人パイプ椅子に腰かけて、これまでの対八木軍戦略を振り返っていた。

 八木軍と争うにあたり、松永がまず真っ先に考えたのは、八木軍の資金源である「IKB48」の営業を妨害し、経済力を削ぐこと。具体的な方法としては、キャストのスキャンダルを明らかにすることだが、しかしこれは、質より量を標榜し、キャストの首のすげ替えが容易な「IKB48」に対しては効果が薄い。薬物事犯や、未成年を働かせていた、売春防止法など、法的な問題が明らかになれば話は別だが、そうでない以上、下手に動いても時間と手間の無駄である。従って、この方法は取れなかった。

 次に考えたのは、八木軍に所属する参加者の切り崩しである。好待遇をちらつかせ、また戦力を誇示して脅しをかけるなどしたのだが、待遇に関していえば、八木軍の俸給は相当なものらしく、付け入る隙はなかった。脅しにしても、今まで八木軍は連戦連勝の状態だから、己の軍団より上の脅威が存在するとは、リアルには思い描けなかったのであろう。唯一、目端の利く小林カウだけは、多少心を動かされたようだったが、他の面々には、鼻であしらわれただけだった。

 結論・・八木軍の戦力ダウンを狙うよりも、ひたすら我が軍の戦力アップだけに専心したほうがいい。敵は八木軍だけでなく、麻原彰晃のバドラ始め、今後も多くの敵との争いが控えているのだから、総合戦略的にも、そちらに注力した方が効果的である。

 そして松永は、「麻原包囲網」を築き上げるために声をかけていた参加者たちに、わが軍に加わるよう持ちかけたのだが、これは全員に断られた。適応性が極端に低い彼らには、高い給金を貰っても、人に管理される暮らしが耐えられなかったのである。

 松永はすぐさま方針を切り替え、彼らを傭兵として用いることを決めた。暴飲暴食は寿命を縮めるように、誰でも彼でも、軍団に引き入れればいいというものでもない。多少割高でも、必要なときに、必要に応じて人を使うやり方があってもいいはずである。とにかく、接触して交流を深めたことこそが大事なのだ。初期に声をかけたあの宮崎勤にだって、いずれ利用するときが来るかもしれない。

 経済的な面でいえば、スカーフキッスも、キャストの淘汰が進み、厳しい競争を勝ち抜いた精鋭たちの頑張りで、売上は全国のキャバクラで2位となるまで成長していた。八木茂の経営する「IKB48」などと比べても圧倒的に上で、バトルロイヤル参加者の中では、資金力はダントツの№1であることは間違いない。

 そして、ついに八木軍との決戦のときが来た。慎重居士を自認する松永が、まだ時期尚早とも思えるこのタイミングで攻撃を決断したのは、八木軍からの営業妨害を避けるためだった。八木の「IKB48」と反対に、少数精鋭で、キャスト一人当たりの売り上げ単価が大きい、我が「スカーフキッス」に対しては、キャストの不行状を暴かれるのは、効果絶大なのである。

 こちらが考えていることは、八木も当然考えている、くらいに思っておいた方がいい。策士策に溺れるになってはいけない。

 「フォーメーションの確認をします。八木軍が、横山組東京支部前で車を降りてきたら、加藤くん、松村くん、坂巻くん、川俣さんが突撃。相手の陣形を崩し、特に相手の主力、都井睦雄を孤立させます。都井を四人が集中攻撃している間に、私、前上さん、孫さんの後詰部隊が、八木茂を狙います」

 重信房子が熱弁を振るう。大敵との戦闘を目前にして、その顔は活き活きとしているように見える。

「八木軍の構成の最大の弱点は、実戦を指揮できる人材がいないことです。参謀の小林カウは全体戦略を立案するタイプであり、エースの都井睦雄には、生前に集団での戦闘を経験した形跡はありません。この点では、わが軍が圧倒的有利。私と加藤くんの指揮を信頼して、思う存分、その力を発揮してください」

 自分が指摘した八木軍の弱点を、重信の口から言わせる。一応、名目上のリーダーは彼女なのだから、彼女を立ててやらねばならない。彼女のカリスマが上がれば上がるほど、いざというときに被せられる責任の量も大きくなる。ナンバー1に別の人物を置き、自らは影の支配者として力を振るうのは、目立ちたがり屋の八木にはできない統治法である。

 そして、実戦はすべて、重信に任せる。ただ乗っからせておくだけでなく、味方でいる内は、重信の能力を存分に使わせる。

 任せる、という行為は、簡単なようでいて難しい。なまじ能力がある人間は、何でも自分の手でやりたがってしまうため、逆に効率の低下を招きやすいのだ。

 第二次大戦中、ナチスドイツの対ソ連電撃戦が失敗に終わったのは、ヒトラーとドイツ軍首脳の意見の相違による作戦の遅延が原因の一つだった。古代中国の英雄、項羽や曹操は、まさにその自分で何でもやりたがるタイプの英雄だったが、彼らは天下をとれなかった。「指揮官に向いているのは、有能な怠け者である。怠け者であるため、どうすれば自分や部隊が楽に勝利できるかを考えるためである」という軍人の格言が、すべてを表しているといっていい。

 人を操り、自分の手を一切汚さず物事を遂行する能力において、自分に勝る者はいない。松永は、自分を天才とは思わないが、天才が「完璧」であるとも考えない。超人と思えるような人間でも、一部の隙もないなどということは有り得ない。一人の力には限界がある。漢の劉邦しかり、「自分に足りない能力を、他人に補わせる力」に長けた者が、万能の超人に勝った例は、古今東西いくらでもあるのだ。

 出発時間まであと二十分となったとき、携帯が鳴った。ディスプレイには、「小林カウ」の名が表示されていた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

ヤバい///策士松永&重信ねぇさんカッコよすぎりゅうん(*≧∀≦*)悶絶www
太ちゃん椅子に座って作戦考えながら口元だけニヤニヤしてそうでこわいなぁ。。私もたまにやるけど(笑)
また気になるとこでおわた~~~!w
連載はこれだから楽しいのよね・・・うっとり。。
ごちそうさまでしたん(*´ω`*)

No title

ついに全面対決ですね!!八木軍も何か作戦を練っているのでしょうか…カウさんのメールも作戦の一つ?睦くんの初戦闘シーンも楽しみです(*^_^*)

No title

>>蘭さん

いくつかの記事にコメント頂きましたが、全部ここで返させていただきます~。

加藤智大は現代の大詩人ですわ。追い詰められた人間のすべてが、加藤の日記で完結してるんですよ。

重信姉さんと松永は、ともにルックスは芸能人クラスなんですが、起こした犯罪もレジェンドクラスなんですよねえ。特に重信姉さん。あの年代で現代でも通用する美人ってどんだけやねん~。

>>枇杷さん

全面対決待ったなしやで~!!加藤VS都井、決戦間近!

無能な怠け者は伝令じゃなかったかな。
有能な怠け者が司令官で有能な働き者が参謀。そして無能な働き者は銃殺。

無能な働き者として社会から銃殺されて悩んでる奴多いね。
無能な怠け者がいいね。無能で怠けたいから、ペテン効かせて、無駄な仕事をしない努力をする。

みんな無能のくせに一生懸命仕事するから、会社に搾取されるんだ。

No title

まとめレスぉkwww

重信ねぇさん美しすぎて躊躇でしょ・・・w
別にビアンじゃないんだけど(笑)
女性の私から見ても、凛としてて素敵です~♪w
ジェンドクラスwww
太ちゃんは黒髪で目鼻立ちクッキリ&眉濃いせいかな~
昭和の香りが。。※創作キャラとして好きなだけだもんwww








No title

すごい行間あいたけど気にしないで気にしないで><www

追伸です~
松永や重信さんのファンていうと、色々と誤解を招きやすいのですが…、歴史上の人物のファンのような感覚です。
お二人とも、まだ現実に、まだ生きてらっしゃいますけどね…。
加藤くんや金川くん、宅間さん、鈴香さん、少年AにNたん、書ききれないけど、それぞれの人生に、事件について調べ、考察もしてきました。
感情移入しやすく、宅間さんの精神鑑定本を読みながら泣いちゃうような、まぁ人から見たら痛い人なのです。
考えすぎて頭いたくなってきたころに、凶悪犯バトルロイヤルを読み始めて、根が真面目すぎる自分の暗い気持ちが紛れました!
もともと、小説も好きなもので…。
決して殺○鬼を崇拝してるわけじゃありません。
私のコメント、もし気持ち悪かったらごめんなさい。
津島さんには、わざわざ書かなくても伝わってるとおもうんですが、
読者さんがコメントしづらくなってたらイヤなので、一筆させていただきました。<(_ _*)>
学力不足で、なかなか気持ちを簡潔に、上手く表現できないのですが…。大丈夫かな…。
津島さんの小説のファンでもあるので、これからもずっと応援していきたいと思ってます。
読者の皆さまも、どうか私のような変わり者のアホは華麗にスルーして、遠慮なくコメントして下さいね!
もし雰囲気おかしくしてたらごめんなさい。なんだか心配で、書かせてもらいました。m(__)m
これからもよろしくお願いします☆

No title

>>蘭さん

いつもコメントありがとうございます!
蘭さんのコメント見て不愉快に思う人なんかいないですよ~。
なんか言ってくるやついたら、僕が消去しときますんで!
ぞんぶんに、思いのたけをぶつけちゃってください~。

No title

>>けつのすさん

誤字は修正しておきました~。
あの間違いはいかんですねw

無能な働き者は、まあ生活かかって追いつめられているんで 、頑張りすぎるのも仕方ないし可哀想だと思います。でも、僕みたいな怠け者からすれば迷惑でもあるんですよね。

たとえば、最近僕、常駐派遣のバイトでビジネスホテルのベッドメイキングの補助を やったんですけど、最初は、客が使った部屋のゴミを片付けて
簡単な清掃をすればいいって話だったんです。
でも現場に行くと、ベッドメイクまでしなきゃいけないって話になってて。

なんでやねん、と思って聞いてみると、初日(僕が現場入ったのは二日目)に、同僚の一人が「べッドメイクまでやります!やらせてください!」とか言って、勝手に仕事をとってきちゃったらしいんです。完全な付帯業務で、末端の派遣バイトにそんな権限はないんですけど、なあなあになってて。

僕はまあ、どうしようもない不器用なんで、正直ベッドメイクの作業はグダグダになってました。事情が事情ですから、やる気もないですし。そしたら、怠慢ということで、現場変えさせられました。ベッドメイクを問いただした件は、「反抗的だった」ですって。派遣会社も、付帯業務の件には同情してましたし、無能な働き者のオッサンは厳重注意されたらしいですけど、僕はもう現場に嫌われちゃったらしいんで、入れそうもないということでした。ふざけんなと。 こっちにも予算計画があるってのに。

馘首されないため、自分の能力を示したいため必死なのはわかるのですが、自分が目立ちたいあまりに足並みを乱すのはどうかと思うわけです。 一番悪いのは、生活が切羽詰っている人の足元を見る企業側だということはわかっているのですけど。釈然としない一件でした。

え~本当?w
素はかなり毒舌のわりに、
人なつっこいとこあるから、
きをつけながらあそぶね。
(*≧∀≦*)ありがとう☆
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR