凶悪犯罪者バトルロイヤル 第107話


 悪夢の夜は、確実にNの心を蝕んだ。異常に性欲の強い小林は、飽くことなく一日に10回も20回も、私の体を求めてきた。小林の饐えた体臭が、私の全身に隈なく染み込むまで、小林は私を凌辱した。

 そして、当初、私がリミットと区切っていた、3日が経った。性欲がひと段落したのだろうか、小林が私を求めてくる回数は格段に減り、昨晩はついに、私の体に一度も触れずに眠ってくれた。

 さらに驚くべきは、それまでの二日間は、寝る前に必ず私の四肢を拘束し、逃げられないようにしていたのが、三日目の晩はついに、私の自由を保ったまま寝かせてくれたことである。トイレに立ってみたりもしたが、小林は特に何も言わなかった。

 私の作戦はうまくいったということである。チャンスは、いくらでもあった。しかし、なぜか私は、小林から逃げられなかった。

 哀れに思い始めていた。あまりに愛情に恵まれず育った、小林の生い立ちを。

 どうしようもない悪人に見えるような人物でも、よくよくその経歴を辿ってみれば、どこかに心の歪みができるような、客観的原因が垣間見えたりすることがある。小林の場合は、多感な10歳のころに、この時期の少年にとってもっとも大きな存在である母親を失っており、以後成人するまで、父親からは体罰を伴う冷遇を受け続けた。学校生活も充実していたとは言いがたく、イジメなどを受けた経験もあるという。

 小林の場合、とくに幼い女児に欲情するなど、性的な倒錯は確かに見受けられる。しかし、性的嗜好が歪んでいようと、大きな問題を起こさず、立派に社会で生きている人は幾らでもいる。人として真っ当な愛情を注いでくれた人の存在が、歯止めになっているのだ。小林にはそれがなかった。失うものがなかったから、容易に犯罪に走ってしまった。彼が、自分を宮崎勤と宅間守の融合型の犯罪者と自称する通りである。

 小林はけして、根っからの悪人ではなかった。二日間、女を力でねじ伏せる快感を満たした小林は、今度は私に、女としての愛情を求めるようになっていた。

 私に歩み寄りを求めるだけでなく、自分自身を変える努力も見せ始めた。ワカメみたいな髪の毛を切って、ワックスで立つくらいの短髪にした。メガネをコンタクトにした。風呂に毎日入るようになり、歯も磨くようになった。性欲同様に激しい食欲を抑え、ダイエットに取り組むようになった。肉欲の嵐が過ぎ去り、プラトニックな恋愛を求めるようになっていた。 

 そして今、小林は、私に店への出勤までをも許可した。これに関しては、ずっと休んでいた方が、むしろ松永社長たちに怪しまれ、身に危険が及ぶからという見方もできるが、小林は自らも求人情報誌を開き、職を探そうとしている。

 雇用の平等が推進されたことにより、近頃では男が外に出ず家事を担うライフスタイルも普及しつつあるが、小林の世代では、やはり男が外に出て金を稼ぐのが、一般的な男女の関係である。さらに、これはさすがに引いてしまうのだが、どうやら書店で「たまごクラブ」などを買い求め、「イクメン」がどうのという記事を、とくによくチェックしているようだった。

 小林は、かつて交際した女性に、三日目でプロポーズをしたほど、温かい家庭への憧れが強い。殺人鬼に堕ちてなお、その希求は衰えていないようだった。

「じゃあ・・仕事、行ってくるから」

「ああ。いってらっしゃい。気を付けてね」

 あまりにあっさりと外出許可を出したことに、なにか不気味さを覚える。私が自信過剰だったならば、自分の魅力が、彼にたった三日でそれほどの信頼感を与えたのだ、などと思うところだが、おそらくそうではあるまい。

 元々彼は、死刑願望があったことを忘れてはいけない。松永社長たちに引き渡されたら引き渡されたで、それまでである、と、観念しているのだ。

 私は駅まで歩き、山の手線で新宿に向かった。スカーフキッスの門を潜った私を、フロアマネージャーの松村恭造さんが出迎える。

「おはようございます」

「おお、Nか。体調はどうだ?」

 この三日間、私は風邪による体調不良で休んでいたことになっている。

「ええ。もう、すっかり良くなりました。また頑張りますので、よろしくお願いします」

 よほど、小林のことを言ってやろうかと思う。けれど・・私と過ごすことでどんどんいい方向に変わっていく彼のことを考えると、どうしても、殺すとわかっている人たちに、引き渡すことができない。

 人に言ったら、自分がよく思われたいだけの偽善者のように思われるのだろうか。それとも、頭のおかしな女だと笑われるのだろうか。

 頭の中に思い浮かんだのは、あの宅間守と獄中結婚をした女性のことである。

 私は、小林を男性として愛しているわけではない。それは断じてない。しかし、人と人の関係には、他人には踏み入れぬ領域があるのだということを、今度のことで知った。

 店が終わって家に帰ると、小林が食事を作って待っていた。カレーである。小林の指は絆創膏だらけで、シンクには、大量の失敗作たる野菜が転がっている。悪戦苦闘して作ったことが伺えた。

 そして床に就いた。小林は、今日も私の体を求めてくることはなかった。肉体に飽きたというより、憑き物が落ちたという感じである。

 これから先・・私はどうしたらいいのだろう。わからない。未熟な私には、なにも結論を出すことができない。小林との奇妙な共同生活を続けるより他に、何も思いつかない。
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すごい!前回のコメ欄からトップに戻ったら更新されてた!驚愕!!!

後でじっくり読みにくるね(*^-^*)
読書の秋らしく(笑)
…落ち着いたらまた来ますぅ。。

いいゾ~これ
密室で三日三晩Nたんの体を楽しみ尽くし賢者モードに突入と見せかけてイイハナシカナー?的な展開に読者も小林さんを憐れまずにはいられませんでした…。
仕事から帰ってきたら悪戦苦闘してカレー作って待っててくれたとか主夫の鑑じゃないですか!
もし小林さんに息子がいたら案外良いパパになってたと予想w娘だったら危険ですがww
きれいな小林さんの今後の動向が大変気になります。

No title

>>おきば椋さん

小林はどういう方向に振るか悩んだキャラの一人でした~。
異常な性的思考の持ち主なのは確かだけど、彼を止める術がなかったわけではないと思うんだよね。

まあ、小児性愛嗜好は女の子の子供は持たないほうが賢明だね~。どうやら、肉親にも欲情してしまう性質なようなので。

拘束と聞いて飛んで着ますた!!!
んはぁ小林さんんはぁ( 〃▽〃)

けっこう前にバトルロイヤルNたんのイメージ画像探して脳内イメージに近いモデルたん見つけたんでNパートもめっちゃ想像しやすくて萌えまぅた(*ノ▽ノ)にゃはははは

No title

>>蘭さん

Nたんのイメージて誰やろ?w
僕は勝手に、後藤真希のイメージで書いてます~。

19歳のとき、21歳の女性に恋をしていた=その女性が後藤真希に似てた=今、Nちゃんは21歳という関連付けですw

No title

Nイメージ…名前も知らないモデルさん!w

個人で楽しむ分にはいいかなぁと思って、
きゃわゆい画像、そのまま頂いちゃいましたわ。。

Nイメージ画像、見ます?今なら無料で添付しますよ♪w
あぁ・・・ゴマキ・・・うん、似た雰囲気の黒髪色白verって感じ。。



No title

小林ww
同棲生活とか意外な方向へ進むから面白い!

No title

>>?さん

けっこう先まで考えていますが、果たして読者様の予想の範囲内に入っているのか?気になります~。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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