凶悪犯罪者バトルロイヤル 第106話

 加藤智大は、ビジネスホテルの一室にて、最終調整に汗を流していた。

 いよいよ、八木軍との対決の日取りが決まった。今回は、永田軍の援軍は期待できない。傭兵部隊の三人も、どこまで当てになるかはわからない。戦力はほぼ五分と見積もっておいて、間違いはない。ならば、問われるのは、ここから先、どちらにどれだけの上積みがあるか、である。

 投擲訓練。ゴルフボールを、ダーツの的に向かって投げる。ボールは的の中央付近に命中した。

 よく野球においては、肩の強さこそが天性のもので、コントロールは練習次第で幾らでも向上するような言われ方がされているが、とんでもない。指先の感覚が重要なコントロールも、肩の強さと同程度には、天性のものが大きい。ノーコンピッチャーが、ノーコンを克服できないまま消えていった例が、どれほどあることか。よくわからないものを、取りあえず努力不足みたいに考えるのは、日本人の悪癖である。

 50球ほどを投げ終わって、松村恭三くんを相手に、白兵戦の訓練に移る。今回用いる武器は、日本刀である。

 使ってみてよくわかったが、刃物というのは、基本的には「突く」武器である。斬撃は予備動作も大きく、攻撃後の隙も大きい。目標を最速、最短距離で仕留められる刺突こそが、刃物の最も有効な使い方だ。

 ならばフェンシングのように、突きに特化した武器で、突きに特化した動きだけを学んでいればいいかといえば、そうでもない。直線の攻撃しかないとわかれば回避も容易だし、斬撃には斬撃の利点もある。突きでは、急所を確実に貫かない限りは、一撃で相手を戦闘不能に至らしめることはできないが、斬撃ならば、多少急所を外れても、その重みと破壊力をもって相手に致命傷を与えることができる、ということだ。「点」と「面」の攻撃には、それぞれのメリット、デメリットが考えられる。状況に応じて使い分けでいくのが重要だ。

「ぐふっ・・か、加藤くん、加減してくれよ・・」

 腹部に竹刀を打ち込まれた松村くんが、蹲ってえづく。無意識のうちに、力が入りすぎていたようだ。

「しかし・・強くなったよなあ。今の加藤くんなら、誰が相手でも怖くないだろ」

 確かに、同時期に訓練を始めたはずの松村くんとは、随分差がついてしまった。しかし、誰が相手でも怖くないなんてとんでもない。実戦はなにがあるのかわからないのだ。たとえ女性や老人の参加者が相手であっても、油断などは有り得ない。

 ましてや、次の相手は、あの津山30人殺しの都井睦雄。単純な殺害数では、参加者中ダントツトップの記録を持つ男である。舐めてかかったりなどしたら、全軍の壊滅は必至だ。

「加藤くん、松村くん。食事の準備ができたよ」

 軍団員の畠山鈴香さんが、重信房子さんがメニューを厳選した食事をもって現れた。

 彼女を見ていると、いつも、痛まれない気持ちになる。確かに幼い子供を殺した罪は、到底許されるものではないが、ならば彼女がすべて悪かったのか。根っからの悪人だったといえるのか。彼女だけを責めて終わらせていいのか。

 ニュースで報道された、卒業アルバムの寄せ書き・・。あんなものを見てしまったら、もうまともな人間ではいられないのではないか。盗癖があったなどという話もあり、確かに彼女自身に不適応の要素がなかったわけでもないだろうが、だからといって、悪いやつには何をしてもいいというのか。いついかなる場合でも、イジメられる側が悪いの論理は適用してはいけない。そんな考えは、社会をギスギスしたものに変えるだけだ。

 と・・。俺がそんな偉そうなことを言っても、白々しい自己正当化に聞こえるだけが、畠山さんには、生きていてほしいと思う。彼女の死をもって、区切りをつけてはいけない。生き続けて、あんな文書を残した連中に、戒めを与え続けなくてはならない。彼女を守れるのは、俺だけだ。

「加藤くん、大変です。これを」

 食事中、血相を変えて俺たちの部屋に飛び込んできた重信さんが、八木軍の監視を依頼している山崎組組員から届いたメールを見せてきた。

 文面によれば、池袋の繁華街にて、八木軍が、参加者の朝倉幸治郎を殺害したのだという。経営する店舗に籠りっきりで守りを固めている八木軍だが、自らテリトリーに足を踏み入れてきた獲物を襲うには、躊躇はなかった。これまで、都井睦雄による中山進の殺害が報告されていたが、わが軍との大一番を前に、より濃密な実戦経験が必要と考えたのであろう。チームワークを駆使した、鮮やかな戦闘だったという。その中心にいたのは間違いなく、都井睦雄・・。最多殺人の日本記録保持者に違いなかった。

 間違いなく、これまでで最大の強敵。俺はあの男に、勝てるのだろうか。

 同じ能力を持つ両者がかち合った場合、勝敗を分けるのはモチベーションだが、正直、自分自身が都井に勝ちたいかと思っているかと聞かれて、そうだと答える自信がない。守りたい人はいる。畠山さん、N。しかし、それ以外の人はどうか。出会って以来、松永さん、重信さんにはよくしてもらった。友人として、松村くんのことは好きである。しかし、彼らが娑婆で起こした犯罪の性質を考えると、どうしても、命をかけて守るべき人とは思えないのも事実だ。

 何より・・俺自身が最も、この世に生きてはならない存在としか思えない。死にきれないから、ただ生きている。仕事もトレーニングも、人一倍やっているとみんなは評価してくれているが、実際には、それは人として一番大切な何かから逃げるための行為に過ぎないのだ。

 こんな気持ちで、勝利を拾えるのだろうか。迷いを吹っ切るためには、身体を動かすしかない。食事を終えると、俺はまた一心不乱に、トレーニングに打ち込んだ。
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No title

加藤さんにとってはみんなが守りたい存在ではないのですね・・・(´・ω・`) 松永教に完璧に入りきっていない所が安心でありそれでいて少し心配です。松永さんは彼をどう見ているのでしょう、やっぱり利用価値が無いと判断されると彼も消されてしまうのでしょうか・・・睦くんvs加藤さんはどちらも死んでほしくないなあって思っちゃいます。

No title

>>枇杷さん

加藤智大のように、「自己愛は強いが自分が嫌い」タイプの人間は、もっとも洗脳にかかり憎いんですよね。承認欲求が強いので、それを満たしてくれる松永についていってはいますが、心酔するということはないでしょう。松永のほうは、無償の愛という言葉からもっともかけ離れた人種ですからね。彼が加藤を買っているのは、従順さと戦闘能力だけで、人の好き嫌いといったことではないでしょうね。

この世界の鈴香は松永教の信者になっているのだろうか?
他に行く所がないからいる気がする
高校卒業後県外就職しいじめ同級生やDV家族から逃げたはずが
結局DV親父に連れ戻されてしまったように
心と頭の弱さや能力の低さのせいで常に居場所がない
しかしこの世界の彼女が救われても
現実世界の彼女はムショで苦しんでいるわけなので
まあこの世界の彼女が残念なことになっても
現実世界の彼女を守ってやれずネットで同情的な発言をするだけの私は
文句は言えないが
ただこれだけは言っておきたい
鈴香がメンヘル化したのはいじめ同級生のせいだけでなく
DV家族のせいだ
むしろそちらの比重が大きい
秋田に連れ戻されなかったら事件は起きなかった

No title

>>鈴香ファンさん

まあ、一筋縄じゃいかない犯罪者ですよね。
正直ネタにし辛いほど哀れではあります。
あのレベルになると僕も触れるのを躊躇ってしまうんですけど、
それだけに色々メッセージを放てると思うんで、登場させました。
文量の関係で、表現が足りない部分があったらすみません。
これからもよろしくお願いします。

こんにちわん。加藤くん男前…、でも純粋すぎて危なっかしいね(*ノ▽ノ)ほんと続きどうなるんだろう…!予想3パターンくらい浮かんでるけど、ここに書いちゃったらつまんないから黙秘します!w
続き、わくわくしながら待ってる~♪

No title

>>蘭さん

予想、どんなのやろ??
気になるな~。
加藤智大は、まあ、事件当時は多分、ここまで潔癖だったわけではないと思うんですけどね。
あれだけのことをした後だと、滅茶苦茶反省しちゃってると思うんです。

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No title

>>鈴香ファンさん

話の内容に関しては、僕の好きなようにやっていこうと思うので・・。

まあ、いろんな事情があるにせよ、彼らはああいうことを犯した人たちですからね。一度登場させたからには、創作の中で描くことについて、僕もなんの迷いも感じません。

これが面白半分でやってるならともかく、僕も人生がかかっているので。それだけの気持ちで書いてますから。

短時間でのレスありがとう
犯罪者でもいじめられっこタイプには同情してしまう自分だが
とりあえず現実世界のいじめられっこ達の心配だけすることにするわ

ついでに言うと加藤は裁判に登場した
家に泊めてもらった女性とのエピソードからして潔癖な男だと思う
そういう意味では加藤のキャラはよくできていると思う

予想のひとつとしてわ(*´-`)
加藤くん頭では色々と冷静に考えてたけど、いざ戦闘になったら・・・松村が都井に呆気なくヤられて、
八木軍みんなで大笑い!!!
加藤くんがプッチーン!!!
覚醒!!!ワオオオーン!!!・・・って感じです。

加藤くんは反省しまくりそう、もう後悔の念が渦巻いて・・・事件前はメイド喫茶で遊んでたなんてかわゆい(*ノ▽ノ)(*ノ▽ノ)(*ノ▽ノ)

たしかに(^^)/加藤くんは反省しまくりそぉ・・・事件前はメイド喫茶で遊んでたなんてかわゆい(*ノ▽ノ)(*ノ▽ノ)(*ノ▽ノ)

↑重複すまぬ( ノД`)どっちか消しちくらさい・・・

No title

>>鈴香ファンさん

いや~、熱心に読んでくださってありがとうございます。

加藤智大はねえ。まあ、先輩にフーゾクを奢ってもらったのに「最悪。二度と行かない」なんて感想が出てきちゃうくらいですからね。

「空気を読む」のが第一の世の中では、愛されたい気持ちが強い人間ほど愛されないという現象が多発します。「なあなあ」で済ませられない潔癖な人間には生きづらい世の中ですね。

>>蘭さん

なにそのドラゴンボールw
まあ楽しみにしててください~。

金川も、最初の犯行を起こして逃走中に秋葉のメイド喫茶に
行ったらしいですね~。金川は加藤について「人ごろしとはいえマネしてもらえるとは嬉しいね」なんてコメントを残してますけど、加藤は金川をどう思ってたんだろう。

No title

うひひひひひwww
ドラゴンボールだけは尋常じゃないオタクだったのでついwww

あとエヴァ、リアルタイムで見てたから~♪そこそこ詳しいよ☆
それ以外くわしくない・・。アニメよりは・ゲーム寄りなのたす。。

金川くんwwwひとりメイドきっさ突撃!www
私得ネタすぎてつらいwwwwww

うーん、おかしな発言も、かなりキャラ作ってるような・・・???
実際お坊ちゃまで、大量のゲームで遊び放題だったんでしょ・・・、
性格ツンツンしてそうな気がする~(天邪鬼とか極端な人見知り)
弓道もゲームも腕があったのにね、
なにもゲーム没頭だけが問題じゃなく、理解者がいなかったのか、
他に何か深く傷つく原因があったとしか思えないのです・・・。

加藤には「加藤はおかしい、周りのせいにばかりしている」って発言もあったから、金川自身は、自分のせいにしすぎた?自殺したくなるくらいの出来事が?・・・なんて推理もしましたん。
実際どうなったのか分からないけど、ちょっと彼と似た環境と生い立ちと、色々とあって、何となく思いふけっちゃうわけです・・・w

加藤くんはどう思ってたんだろう~ 模倣したくらいだから、
好意的だったのかな?アキバ系の仲間、戦友みたいに見てたとしたら、圧倒的に片思いですよね・・・。w(あくまでも個人的な見解です。)



プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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