凶悪犯罪者バトルロイヤル 第105話

 酸っぱい臭いのする汗にまみれた小林薫の体は私に密着している。背に触れる悍ましい感触。人の胸の鼓動を、これほど醜悪に捉えたことはなかった。

「殺す前に・・楽しまないとな」

 荒い息遣い。ぬめった手は私の下半身に伸び、恥毛をかき分け襞に押し入る。計り知れない苦痛。時を刻む時計の針の音が、恨めしいほどに遅く感じる。小林は、引き抜いた手をぴちゃぴちゃと音を立てながら舐め、息をいっそう荒げた。

 なに・・これは。宅間守との死闘を生き抜いた私が、声一つ発することができない。猛烈な生理的嫌悪感。人間が感じる恐怖にも色々あるが、これはもっとも耐え難い種類ではないかと思う。ライオンや熊に立ち向かおうとする人間はそれなりにいるが、人と同じ大きさをしたゴキブリがいたとして、それに立ち向かおうとする人間はそういないのではないか。

 小林薫・・奈良県女児殺害事件の犯人。小児性愛者にして死刑願望者であったこの男は、獣欲を満たすため女児を殺害した後、遺体の画像を家族に送り付けるなど、日本の犯罪史上類を見ない悪質な挑発行為をしてのけた。

 小林は、女児殺害以前にも幼児わいせつの前科を持ち、自宅に大量の児童ポルノを所有し、精神鑑定においては、生まれつき幼い女の子にしか興味を示さないペドフェリアの診断を受けている。だが、宮崎勤然り、100%小児にしか興味を示さない男というのはそうはいないもので、大人の女性と付き合った経験もちゃんとある。運命の悪戯で蘇った獣の牙は、どうやら私に向けられたようだった。

「ふう、ふう、ふう」

 異様に粘っこい涎を私の髪に垂らしながら、小林はズボンを脱ぎ、屹立した陰茎を露出させた。室内に、鼻がもげそうな悪臭が漂った。

 男性のシンボル。生命を宿すもの。男性の誇りの象徴。尊いものが放つ温度を、なぜこれほど悍ましく感じるのだろう。

「どうして・・私を、助けてくれたじゃない」

 必死で細く頼りない声を出し、小林の良心を引き出そうと足掻いた。

 しばらく前、裏切者の尾形英紀に殺されそうになった私を助けてくれた、肥満体の男性・・。一回り小さい気もするが、あれは小林だったのではないか。いつからかはわからないが、おそらく、生き残りのための戦略とかではなく、ただ性の対象として、常日頃私を監視していたのだろう。背筋が寒くなるような事実であるが、私に興味があるのだとしたら、その気持ちを利用しない手はない。

「助けた・・・?なんのことだ・・?」

 違ったの?じゃあ、もう・・これで終わりなの?

「俺があんたを見たのは、今日が初めてだ。日高とかいうおっさんに、金で殺害を依頼されてな。だが、間近で見てみると、いい女だな。殺してしまうのが、惜しくなってきたよ」

 どうやら、私に興味があるのは間違いないようだ。ならばまだ望みはある。私の、唯一にして最大の武器――魅力を使って、桎梏の状況を乗り切る。

「なら、殺さないでよ。私、あなたの女になってあげるから」

 小林が私を掴む力が、ふっと弱くなった。チャンス。一気に畳みかける。

「正直、いきなりこんなことをしてくる人を男性として好きにはなれないわ。でも、心はともかく、体はあなたにあげる。あなたのこれからの心がけ次第では、本当に好きになっちゃうかもしれないし」

 振り返って、小林の目を見つめて言った。小林は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「そんな話・・信じられるか」

「これでも?」

 私は、小林の唇に、己の唇を重ねた。一瞬強張った小林の体が、みるみる弛緩していく。私はそのまま膝を折り、天を向く小林の陰茎を、口に含んだ。どれほどの快感を味わっているのかは、女の私には知る由もないが、足が震え立っていられなくなり、床に腰砕けになってしまったのを見ると、私も経験は少ないながら、それなりにやれてはいるようである。

「あなたの気が済むまで、この部屋から一歩も出ずに、二人で一緒にいてあげる。もちろん、この体は好きにしていい。私を生かすか殺すか、その後で判断すればいい。どうかしら?」

 三日間。それだけあれば、逃走するチャンスは生まれる。少なくとも、小林を翻意させることはできる。その自信はあった。

「いや・・しかし」
 
 決断を渋る小林が、射精寸前に至ったのを見計らって、ペニスから口を離した。そして再度問う。

「どうするの?」

「う・・わかった。わかったから・・頼む」

「契約成立ね」

 私は小林のペニスを再び口に含み、最後の一押しをしてやった。法悦の吐息を漏らして、私の口の中で果てる小林。放出された熱い液体は、もちろん残さず飲んでやった。

 契約成立といっても、約束の観念もない凶悪犯罪者のことである。出すものを出した途端に襲い掛かってくることも考えられたが、小林は黙って私をベッドにまで運び、本番行為を所望してきた。先のことはわからないが、ひとまず、すぐに命を奪われる事態は避けられたらしい。

 おそらく大半の女が、死ぬよりも苦痛と感じるであろう行為を、私はやってのけた。私は、一つ山を登ったのだろうか。

 抵抗は当然あるが、我を失ったりはしない。想定の範囲内。あれだけの罪を犯した私が幸せになるには、人の何千倍もの艱難辛苦を乗り越えなくてはならないことくらい、わかっている。
 
 私は負けない。どんなことをしてでも、生き延びてやる。生きててくれてありがとうって、誰かが言ってくれるまでは。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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