凶悪犯罪者バトルロイヤル 第104話

 一週間ぶりに浴びる歌舞伎町の熱気をかき分けて、Nはスカーフキッスの門を潜った。

「おはようございます・・?」

 店長室には、松永社長、加藤店長以下、軍団の面々が勢ぞろいしている。

「あ・・すいません。ミーティング中でしたか?」

「いえ。三日前から我々は、昼間だろうと夜だろうと、一日中、行動を共にしているのです。ヤクザでいうところの、完全待機という状態ですね」

 リーダーの重信房子さんが説明した。

 集団対集団の戦いで最も有効な戦術は、各個撃破である。一人が、もしくは一つの部隊が軍から離れた隙をついて、総力を結集して攻めかかる。どんな大軍でも、これを繰り返されれば一たまりもない。10対100がまともにぶつかれば10人の方に勝ち目はないが、10対5を20回繰り返せば戦局は逆転する、というわけだ。

 それを防ぐためには、何をするときも常に、全員で一緒に行動しているしかない。これまでは、ストレスを溜め込みすぎないために、睡眠時間以外は別々に行動していた松永社長たちだったが、いよいよ、八木軍との戦いが本格化してきたということか。

 社長、店長への挨拶を済ませ、私はキャストの控室へと向かった。ドアを開けるなり、ホミカが抱きついてきた。

「Nちゃん、待ってたよ。待ってたよ」

「うん・・うん。ホミカ、また一緒に頑張ろうね」

 私がいない間に、色々辛い思いもしたのだろうが、それ以上に、確かな自信が漲っているのが伺える。ホミカの成長は目覚ましい。「戦友」に負けないよう、私も頑張らねば。

 そして、月定例のランキング発表が行われた。ホミカが、堂々のナンバー入りの5位。途中まで、絶対女王リノに迫る勢いだった私は、結局3位に終わった。しかし、一週間の欠勤がなければ、どうなっていたか。売上推移を調べる気もないが、お歴々の歯噛みする顔を見たら、大体察しはついた。

 フロアーに出ると、私はさらに、成長したホミカの姿に瞠目させられることとなった。

 客の心を掴むためホミカが始めた新しい接客が「交換日記」だった。いまどきはメールで済ませるようなことを、ノートに書いてやり取りするのである。

 ホミカは携帯が使えないわけではない。メールも、簡単なあいさつ程度の文章なら、問題なく打てる。しかし、あえて電子ツールを使用せず、肉筆でやり取りするところに意味がある。ワードが半ば必須知識となったビジネス社会でも、いまだに反省文の類などは手書きで行うことからもわかるように、肉筆による文書には、確かに人の心が滲み出るものなのだ。

 大人の女がやれば、人によっては「イタイ」と思われかねない行為も、ホミカなら、ごく自然にできる。自分の個性を活かしたアイデアである。

 負けてはいられない。一週間の間に鈍った勘を取り戻すべく、私は必死に立ちまわった。

 驚いたのは、開店から二時間ほどが過ぎたころ。なんと、あの麻原彰晃が、供の者を連れて入店してきたのである。

「嘘でしょ・・?」

 私は、急ぎ店長室に走った。

「松永社長!加藤店長!」

「どうしたんだ?血相を変えて」

 私が状況を説明したのだが、意外にも二人は、驚いた顔を見せない。

「ああ。私が店に遊びに来てくださいと言ったんですよ」

「え?それって・・バドラと手を結んだというわけですか?」

「まさか。近い将来、鉾を交えなくてはならない相手です。妥協はありえませんよ」

「だったら・・」

「同盟ではなく、不戦協定です。彼らが遊びに来てくれれば、バドラの情報収集もできるし、八木軍からのボディーガードにもなってくれる。こちらは軽い冗談のつもりで誘ったのですが、本当に来てくれるとは。せっかくですから、大いに利用して差し上げましょう。Nくん、やってくれますね」

 松永社長の指示で、私はホミカと一緒に、麻原彰晃のテーブルに着くことになった。

「麻原尊師、こんばんは。T・Nです」

「お・・き、きみが・・そうか・・」

 細い瞼の奥の目を泳がせ、あからさまにビビっていた麻原だったが、酒が入ってくると、段々打ち解けてきた。

「ぐっふっふー。Nちゃんとホミカちゃんのパンツを脱がせて、どっちがどっちのだかを当てる、パンツ神経衰弱をやりたいものだな」

「もー。尊師、そんなのしたことあるんですか?」

 いったいどうしたらそんな発想が出てくるのか、脳をこじ開けて研究した方がいいのではと思うような下劣極まりない麻原のトークをやり過ごしつつ、バドラの情報を探る。私にしかできない任務。八木茂・・。私の存在価値を貶めたあの男に、私は私の道で一矢報いてみせる。

 麻原たちも帰り、店が終わると、私は加藤店長の運転する車で、アパートへと帰っていったのだが、玄関まで来たとき、なにか嫌な気配を感じとった。誰かに見られているような。周囲に視線を巡らせるが、人影は見当たらない。しばらくすると、嫌な気配は消え去った。気のせいだったのだろうか。

「どうした?」

「いえ・・何でもないです」
 
 加藤店長に見送られ、私は部屋の中に入っていった。ドアを閉めた瞬間、一度は消えた嫌な空気が、さっきとは比べものにならない濃さで復活した。直感でわかった。これはいけない。失礼な話だが、松永社長やAが発するものに似た空気。この世に存在してはならない者が発する空気だった。

「声を出すな」

 ドアを開け、外に飛び出そうとした私の口を、男の手が掴んだ。

「あなたは・・?」

「小林薫。あんたの命を狙ってる者だよ」

 生温かくて臭い息とともに、じっとりと湿り気を帯びた声音が、私の体に纏わりついてきた。


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No title

こんばんは(´∀`)ノ まさか尊師が出てくるとはwwwパンツ神経衰弱とかゲス極まりないですね!他のバドラメンバーの反応が気になります!ホミカちゃんが天使すぎてつらいです(^///^)

No title

>> 枇杷さん

こんばんはー!
メインキャラクター同士もこれからどんどん絡ませていきたいですね!
ホミカちゃんみたいな娘って実際いるのかなあ・・。いたら胸打ち抜かれちゃいますねえw

元気もらってます

はじめまして。
いつも楽しく読ませて頂いてます。
これからも楽しみにしてます。

No title

>>なおきさん

コメントありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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