凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十五話

 宅間守は辟易していた。昨日から自分に、金魚のフンみたいにくっついてくる男にである。

「宅間さんマジパねえっす!宅間さんが最強っすよ!」

 金川真大。まっこと鬱陶しい、クソガキである。

「宅間さん。俺、最近まで、宅間さんに反感を持っていました。俺の方がよっぽどワルなのに、殺した人数が多いってだけで宅間さんの方が神格化されてるって・・。嫉妬してたんです。だけど、実際に会って、考えが変わりました。自分の思い上がりに気付いたんです。俺は全てにおいて宅間さんには及ばない。やっぱり宅間さんは唯一神だ!宅間さん、ずっと付いていきます!」

 メガネの奥のくりくりとした目を輝かせ、熱っぽい口調で語る金川。反対に、自分の心は白けていた。

「あんなぁ、お前・・。同じ言葉を、ワシは昨日から三十ぺんは聞いとるぞ。あんまりひつっこく繰り返されると、逆にアホにしてるように聞こえてくるわ」

「へへっ。すんませんっ」

 舌をペロリと出して、頭をかく金川。若い娘がやれば可愛らしい仕草も、この男がやると、サーカスのエテ公にしか見えない。本当に、どうにかならんものか。こいつのツラを見ていると性欲も失せ、風俗に行く気もなくなる。

 ひと思いに殺してしまいたかったが、この男が自分と同じ無差別大量殺人者だということが、それを躊躇わせていた。

同属意識から、親近感を抱いているというわけではない。自分に近い戦闘力を持つ相手と戦えば、勝てたとしても損害は大きい。今はまだリスクを犯す時期ではないことは、先々を考えるのが苦手な自分にもわかる。

この男は自分を慕っている。子分にすれば、それなりの戦力になるだろう。だが、自分は人を従える柄ではない。自分と一年も良好な関係を続けられた人間は、一人としていないのだ。今までは警察に訴えられるくらいで済んでいたが、この男に反感を抱かれたなら、命の危険に繋がる。ならば最初からお断りである。

 どうしたものか。宅間は一計を案じた。

「おい、あっち見ろや。あそこにお前の好きな、FF10のユウナちゃんのコスプレしとる女がおるぞ!」

 ゲームや漫画に登場する女に情欲を催すということはまるで理解できない自分だが、出会ってから二日で五十回も六十回も名前を出されていれば、嫌でも覚える。

「えっ。えっ、どこすか?どこすか?」

「ほれ、あっちや。ほれ見てみい!」

 宅間は、金川が「ユウナ」探しに夢中になっている隙に、その場から退散した。ようやく、これで気ままな一人に戻れた。やれやれである。

 金川と一緒にいた時、今、娑婆には、「出会いカフェ」なる施設があると聞いた。マジックミラーで女を物色し、気に行った女がいれば自由に交渉して連れだせるという、援交を合法化したような店だ。料金は、入場料+連れ出し料で、しめて五千円。自分はプレイ料金を払うつもりはないから、ホテル料と合わせれば九千円程度で女とヤレる。女の財布から金をかっぱらえば、逆に所持金を増やすこともできる。こんなおいしい施設を、利用しない手はなかった。

 だが、一つの問題があった。自分には、今、先立つものがない。入場料1500円すら払うことができないのだ。どうにかして、手っ取り早く金を稼がなくてはならない。

 宅間は、路地裏にあった自動販売機に目を付けた。周囲に人がいないことを確認し、渾身の力を込めた回し蹴りを、なんども叩きこむ。取り出し口から、大量の飲み物が溢れ出てきた。

「やっくに立たん自販機やなあ。金を吐き出せや金を。飲みもんばっか出てきたってしゃあないやろが」

 とはいえ、これ以上やっていたら、いくら人通りが少ない路地裏とはいえ、さすがに通報されてしまう。宅間はやむなく一時撤退し、付近にいたホームレスからリヤカーを強奪し、自販機から出てきた飲み物を積んで、大通りに出た。そして通行人を品定めし、気が弱そうな営業回りのサラリーマンに声をかける。

「よう兄ちゃん。今日は暑いな」

「え?真冬なみの寒波が吹き荒れてますけど・・」

「細かいことはええんや。それより、喉渇いてるやろ。飲み物いっぱいあるで。買うやろ?」

「いや、いらな」

「買うやろ?なあ、買うやろ?」

 形相を歪め、語気を荒げて言うと、サラリーマンは頷いた。

「ほうかほうか。じゃあほれ、全部で100本あるから、持っていきや。このジュースは一本500円やから、全部で5万円や」

「いや、一本で・・」

「出血大サービスや。買うやろ?なあ、買うやろ?」

 胸倉を掴んで揺さぶる。

「は・・はい・・」

「よしよし」

 宅間は、半べそ顔のサラリーマンから、5万円を受け取った。
 
 はしゃいでいたら、自分の喉が渇いてきた。宅間はコーラの缶を空け、一息に半分ほどを飲み干した。

「あとはやるわ。ほれ、飲め」

 サラリーマンが、宅間が差し出した気の抜けたコーラ、己の涙混じりのコーラを飲む。

「はっはっは。よっぽど喉渇いてたんやのう。んじゃ兄ちゃん、毎度!ほなな!」

 宅間は呵々大笑し、揚々と腕を振って街中を歩く。目指すは、出会いカフェである。

 いきなり、後ろから肩を叩かれた。おまわりが追ってきたのだろうか。それにしては、敵意を感じない。背後を取られたとはいえ、自分がこれほど相手に距離を詰められるなどは、考えられないことである。

 肩に乗せられた手を振り払い、飛びのいた。三メートルほど距離をとり、襲撃者の正体を確認した。

「宅間さん、酷いじゃないですかー、逃げるなんて。ユウナなんてどこにもいなかったし」

 金川真大が、アーチェリーの弓を手に持ちながら立っていた。
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宅間vs金川…まさかこの二人がこんな形で対峙するとは。
二人には死刑になりたくて罪を犯したという共通点がありますね。
もし死刑執行が苦痛を伴わない薬物注射式になったら彼等のような者が大量発生するんでしょうね。

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No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

「自さつするより、死刑になった方がええんや。死刑になれば手記も書ける」

宅間守が残した言葉です。
悲しいですが、この発言は一部の人間にとっては正論です。

ただ自殺をしたところで、その人間の言葉には誰も耳を傾けませんし、
場合によっては「迷惑」とすら罵られます。

どうせ同じ迷惑なら、人をぶっころして憂さを晴らしてやった方がいい。
どうせ死ぬなら、意味のある死に方をしたい。
そう考える人間は、少なくない数いるのです。

死刑制度の抑止効果は崩壊しつつあります。
現行の死刑制度というより、人命軽視の風潮をなんとかしなければ、どうにもならないと思います。

No title

>>2番コメさんコメントありがとうございます!

非常に興味深いテーマですね。
是非拝見したいです。
企画のお知らせ、楽しみに待っております!

そういえばやおいも、十年ほど前までは奇異の目で見られていました。それが今では立派な市民権を得て、メジャー商業誌にまで進出するほどの強力コンテンツとなっています。
「アレはアレだからダメ」なんてことは、創作の世界には無いのです。
どんなジャンルにも確実に需要はあります。
メジャーになる可能性もあります。
それが創作のいいところですね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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