凶悪犯罪者バトルロイヤル 第100話

 深夜2時半、仕事が明けた加藤智大は、店の後片付けを松村恭三に任せて早々に退勤し、個室居酒屋で酒を飲んでいた。酒にでも溺れていなければ、やってられない。ここ五日間は、ずっとそんな感じだった。

 信じられなかった。あのアカギが、あんな事件を起こすなんて。

 彼と俺が関わったのは、わずか三週間でしかなかった。短い付き合い。だが、気づいてやらねばならなかった。気づけるのは、俺しかいなかった。どうして、彼の心に吹き荒れる暴風に気付いてやれなかった。後悔と自責の念が、胸を締め付ける。

 飯を食う気もなく、酒ばかりを飲んでいたため、酔いが早く回る。1時間ほどで店を出たときには、もう、足元が覚束なくなっていた。

 「不夜城」歌舞伎町も、この時間になれば、さすがに賑わいは終息する。しかし、あれだけの事件があった後である。アカギの勤務先であったウチの店には、大挙して報道陣が押しかけてきてもおかしくはないはずだが、事件から五日が経った今日になっても、そういう状態にはなっていない。おそらくはグランドマスターが、マスコミに手をまわしたのだろう。

 どいつもこいつも。こんなクソみたいな俺たちに、こんなクソみたいな生き残り合戦をやらせるのに、こんなクソみたいな努力をしやがって。

「うおっしゃあっ、次行くぞ次いっ!」

「あんな汚えビデオを見た後には、ちゃんと口直ししないとなっ」

 ソープランドや店舗型ヘルスが軒を連ねる一角で、バカみたいに騒いでいるのは、麻原彰晃のバドラの連中だった。ふざけんな、自分たちの立場がわかっているのか。顔を見るのもいやで、早足でその場を立ち去り、バッティングセンター近くのミニストップへと入っていくと、誰かに肩を叩かれた。元わが軍に所属し、現在はバドラに潜り込んでスパイ活動を行っている、正田昭くんだった。

「加藤くん、久しぶり。元気だったかい?」

「ああ、正田くん。いや・・あんまり、元気ではないね」

「そっか。まあ、あんな事件があった後だしな」

 正田くんには、店の従業員が事件を起こしたことを伝えている。

「ところで、八木茂との争いはどうなの?」

「ああ。まだ、本格的な戦にはなっていない。今は情報集めがメインかな」

 日高夫妻の配下、間中博巳が、宅間守に殺されたようだが。現場に居合わせたAは何も言っていなかったが、まさか宅間守が、アカギの事件に一枚噛んでいたのだろうか。

「そっか。いやあ、こっちでも、西口彰との抗争が始まっちゃってね。今日はヤツに毒を盛られて、その口直しに、みんなで歌舞伎町に遊びに来たんだよ」

 こっち、という表現が気にかかる。やはり正田くんの心は、もうバドラにあるようだ。スパイの報酬が50万から100万に上がったそうだが、その効力もいつまで持つことか。気にはなるが、下手に問い詰めると逆にヘソを曲げられてしまいそうで躊躇われる。

「遊ぶのはいいけど、歌舞伎町は俺たちの本拠なんだから、できれば遠慮してもらいたいな。正田くんの方からそれとなく・・あ!」

 ガラス壁の向こうの光景を見て、俺はミニストップを飛び出していった。

「ぐっふっふー。君はホミカちゃんというのか。いやあ、可愛いねえ。いや、おじさんの友達はね、今みんな二軒目のソープに行っちゃってるんだけど、おじさんは齢だからさ。一発抜いたら、もうおちんちんの元気なくなっちゃうんだよ。でも、可愛いホミカちゃんを見たら、おじさん、またエッチな気分になっちゃうなあ。飲んでみるかい?おじさんのジャンボフランクフルトから溢れ出す、濃厚なカルピス牛乳を」

「おい!お前、なにやってんだ!」

 いつから居たのか、ミニストップ前の駐車場で座り込んでいたスカーフキッスのホミカに、鳥肌が三日は消えなくなるようなセクハラトークを浴びせていた、ひげ面、肥満体の中年男・・麻原彰晃に、俺は怒鳴りかかっていった。

「な・・か・・かかかかか、加藤智大・・な、なななな、なぜここに・・」

「うるさい!お前、ぶっ殺すぞ!」

 俺がシザーバッグからダガーナイフを抜き、麻原に迫ると、正田くんが俺たちの間に割り込んできた。

「加藤くん!頼む、お願いだ!尊師を・・尊師を殺さないで。君を買収できないことはわかっている。だから、こうして頼む。誠心誠意頼む。お願いだ。いつかは争うことになるかもしれないけど、今、この場では・・見逃してくれっ!頼む」
 
 あのクールでプライドが高そうだった正田くんが、地に額をこすり付け、自らではなく麻原の命乞いをしている。麻原に、わが軍と繋がっている事実を知られるのも、承知の上でだ。これで正田くんの心が、すでにバドラにあることは、疑いようもなくなった。

「んなこと言ったって・・」

 わが軍では、私闘は禁じられている。街中で参加者を見かけても、自分の判断で殺してはいけないと決められている。情報収集には余念がないが、それでも誰が誰と、どこで繋がっているかはわからない。思わぬ相手を殺したのがきっかけで、大勢力を敵に回してしまうかもしれない。また、罠に嵌ってしまうかもしれない。迂闊な行動は身を滅ぼす。

 しかし、今、目の前にいる男は例外ではないかと思う。この男一人を殺すだけで、参加者全体の勢力図が変わる、大物中の大物なのだ。多少のリスクを背負ってでも、この場で殺すべき相手。というか、今、この男を殺さなかったら、チャンスは永遠に巡ってこないのではないか。

 振り返ってみれば、俺はいつも、誰かの支持を受けてしか行動できなかった。よくいわれているように、幼いころの徹底的な管理教育が原因なのかは知らないが、自主性というものに欠けていた気がする。普段から自分で判断するのに慣れていない人間が、たまに自分の判断で行動すると、大抵ロクなことにはならない。俺はそれを、取り返しのつかない結果で証明してしまった。

「どうしました。何をやっているんです?」

 判断に困っている俺の後ろから現れたのは、松永さんと重信さんの2トップだった。
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非公開コメント

はじめまして!

はじめまして。枇杷と申します。100話記念に初めてコメントさせていただきました。毎日更新楽しみにしてます(∩´∀`∩)菊池くんを中心にバドラにいつも和ませていただいております!正田さんはどうなってしまうのでしょう…((((;゜Д゜))))続きを全力で待機してます(`・ω・´)

書いた小説を電子書籍とかコミケとかで売ることは考えてないの?

No title

>>枇杷さん

はじめまして!ありがとうございます。皆様から感想をいただけるのが何よりの励みになります!頑張りますね。

>>?さん

コミケはわかるけど、電子書籍で売るって??どうやるの??

100話到達おめでとうございます!
バトラの面々のほのぼのっぷりと宅間守の鬼畜っぷりが好きです。

No title

>>エスさん

ありがとうございます!
頑張りますよ~。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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