凶悪犯罪者バトルロイヤル 第96話


 麻原彰晃率いる麻原彰晃探検隊は、世田谷区の「馬事公苑」を訪れていた。この地はJRAが運営する馬事普及の拠点であり、定期的に馬術の大会が開かれている。世田谷区最大面積の公園でもある。

「隊長。この公園の自然林に、呪文の記された書が隠されているようです」

「そうか。だが、自然林は立ち入り禁止区域となっている。もし入ったとして、委員会に処罰されないかどうか・・」

 麻原が心配げに首を傾げる。

「でも、西口彰も、そこに入ったんでしょ?なら俺たちが言っても大丈夫じゃないの」

「それもそうだな。よし、行くぞ、お前たち」

 関光彦の意見により、探検隊は自然林へと入っていった。クヌギやコナラなどの常緑樹に覆われた自然林。緑の色は、およそすべての色の中で最もヒーリングの効果が高いというが、荒んだ犯罪者たちの表情も、自然と弛緩していくようである。

「あ!見ろ、あそこに、光化学スモッグによる突然変異で生まれた、頭はサルで体は馬の怪物がいるぞ!」

「ええっ!?」

 麻原が突然茂みを指さすと、探検隊のメンバーが、一斉にそちらを向いた。「口裂け女」や「人面犬」だのの都市伝説が流行った世代が多い探検隊の連中には、この手のウソは覿面である。麻原は彼らの注意が他に流れた隙に、ポケットに手を伸ばし、「ぷっちょ」をパクついた。

 麻原彰晃探検隊では、万が一の遭難に備え、チョコレート菓子を大量に購入していた。それらの食糧は麻原が管理するところとなり、もちろん、非常時のとき以外は一切口にしてはいけなかったのだが、チョコレート菓子は麻原の好物であり、つまみ食いを我慢できなかったのだ。

「なんだよ、いないじゃないか」

「また、隊長の見間違いかよ」

「さっきは、身長3メートルの巨大生物、ヒバゴンのいとこ、カバゴンがいるとか言って見てみたら、上野のゲテモノ系ウリセンで一番人気のくま男、源氏名テディさんがいただけだったし・・」

 探検隊のメンバーから、不満の声が漏れる。麻原の作戦が、限界に近づいてきた証拠だった。次はいかなる方法で隊員を騙し、ぷっちょを食べるか。麻原は目的そっちのけで、そんな不埒なことばかりを考えていた。

「な、なんだこれは!」

「これは・・どうしたらいいんだっ!」

 地図を頼りに麻原たちが辿り着いたのは、大きな桜の木だった。季節は6月、梅雨時である。この時期の桜の木といえば・・。

「くっ・・毛虫がうじゃうじゃいるじゃないかっ!」

 そういうわけなのである。この桜の木の上にある木箱に、どうやら呪文の書があるようなのだが、誰も近づけない。野生児菊池正も、野生児ゆえに危険を強く感じてしまうのか、まるで手出しができない状況である。

「誰か!誰か、この木に登る勇者はいないのか!名乗り出た者には、一週間、お風呂掃除と、夕食準備の当番を免除するぞ!」

 麻原が餌を投げかけたが、食いつく者は誰もいなかった。このまま、一枚の書も入手することなく、探検が終わってしまうのか。そう思われた、そのときだった。

「隊長。あなたが行ってください」

 麻原を逆に指名したのは、小田島鐡男だった。

「隊長。あなたさっきから、非常食のぷっちょを、こっそりと食べていましたね。私はずっと見ていたんですよ」

 迂闊だった。90年代に逮捕された者が大半を占める麻原彰晃探検隊の中にあって、ただ一人、00年代に入ってから逮捕されたこの男に、都市伝説の類は通用しなかった。皆が自分の嘘に翻弄される中、この男だけは、冷めた目で自分を見ていたのだ。

 そして、ブーイングの嵐が吹き荒れる。ここは、行くしかない。ここで腹を括らなければ、麻原の人望が地に堕ちるのは必至だった。

 肥満体の麻原を木に登らせるため、脚立が用意された。麻原は右手に殺虫スプレーを、左手に火かき棒を持って、毛虫を駆除しつつ、なんとか木箱にまで辿り着いたのだが、ここでまたしても、大きな問題が発生した。なんと、木箱の中には、黄色のカナリアがいたのである。

「うっ・・・くうっ・・・」

 カナリア・・それは麻原にとって、不幸を運ぶ忌まわしき鳥である。オウム時代、上九一色村のサティアンに踏み込んだ警官隊が、毒素に敏感で、古くから炭鉱労働などでも重用されるカナリアを携行していたのは、有名な話である。

 西口彰・・奴はこの自分のことを、調べつくしている。やはり、タダ者ではない。ちなみに、西口は拘置所の房の中で小鳥を飼っていたそうだが、それにも関係しているのだろうか。

「隊長!どうしたんですか!」

「早く持って降りてくださいよ!」

「なにしてんの、隊長!」

 隊員たちが、木箱の前で戸惑う麻原に声をかける。しかし、カナリアは本当に怖いのだ。あの日、隠し部屋の中で震える自分の前で、無邪気に囀っていたあいつら・・。人間にとって、気分が落ちているときに一番キツイのは、プレッシャーではなく、他人が放つ幸せのオーラなのだ。

「持ってこないと、プロ野球スピリッツのデータを消してしまいますよ!」

 シャレにならない脅迫に、麻原の身体がビクリと震える。プロ野球スピリッツとは、麻原が現在プレイしている野球ゲームである。麻原がシーズンモードで選択した球団は、当然、栄光の巨人軍。現在118試合を消化し、71勝42敗5引き分けで、堂々の首位につけていた。個人成績でも、エディット選手の麻原照光(漢字候補に彰晃がなかった)が、395.48.143の成績を残している。王さんの記録は畏れ多くて抜かせないが、三冠王はほぼ確実な情勢だ。

 そのデータが、消されてしまう・・?冗談じゃなかった。そんなことをされるくらいなら、今ポケットの中にあるぷっちょを、全部ぶちまけた方がマシだった。

「うおおおおおおおおーーーーーーっ!」

 麻原は雄叫びをあげ、木箱を抱えて樹から降りた。木箱の中には、金庫の16桁のダイヤルナンバーのうち、4桁が記されたメモ帳の切れ端が入っていた。まだ、西口の罠という可能性は捨てきれないが、少なくとも、旅を続けること自体がまったく無意味ということにはならなそうだ。

 ちなみに木箱の中に入っていたカナリアは、カナちゃんと名付けられ、バドラの公式マスコットに任命されて飼育されることとなった。麻原は猛反対したのだが、プロ野球スピリッツのデータを人質にされてはどうしようもなかった。

 ここで尾田信夫、大道寺将司が、カナちゃんを本部に運ぶため離脱した。7人となった探検隊は、引き続き旅を続けていく――。
 
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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